蒼海のRequiem   作:ファルクラム

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第85話「破滅の足音」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライトが齎す灯りの中で、彰人は書類を読み進めていた。

 

 本土に帰って以来、彰人は寝る間も惜しんで情報収集と解析に当たっている。

 

 とにかく、時間が無い。

 

 マリアナを取られた以上、敵は必ず、今度は本土を狙ってくるはずだった。

 

 それまでに、何としてもこちらの体勢を整えておく必要があった。

 

 損傷艦の修理に兵士の錬成。航空部隊の編成と、やる事は山積している。

 

 しかも、今回の問題は、それだけではない。

 

 彰人は、自分達の持つ深刻な事情に思い至り、深く嘆息する。

 

 ハワイに潜り込ませているスパイから、B29と思われる超大型爆撃機が合衆国本土に集結していると言う情報が齎されたのだ。

 

 既に合衆国軍による帝国本土爆撃は、秒読みの段階に入っていると言って良いだろう。

 

 事は一刻を争う。

 

 正直、今度はかなり厳しい戦いになる事だけは予測できた。

 

 それにしても、

 

 彰人は自分が、ある種の奇妙なジレンマに捕らわれている事に気付いていた。

 

 1944年に起こった主要な戦いにおいて、帝国海軍は常に勝利してきた。

 

 トラックで勝ち、マリアナで勝ち、そしてレイテで勝った。

 

 常勝無敗、という訳ではないのだが、それでも常に合衆国軍を圧倒して来たのは間違いない。

 

 にも拘らず、帝国は追い詰められつつある。

 

 戦えば戦う程に、

 

 勝てば勝つ程に、

 

 追い詰められていくこの状況は、正に奇妙としか言いようが無かった。

 

「結局、物量の差なんだよな・・・・・・・・・・・・」

 

 彰人は嘆息交じりに呟く。

 

 合衆国軍は豊富な財源と無尽蔵な物資をふんだんに使い、次々と兵力を送り込んでくることができる。艦が沈もうが、飛行機が落ちようが、すぐに補充する事ができる。破壊された艦も、驚くほどの早さで復帰させる事ができる。

 

 翻って帝国軍は、艦が沈めば碌な補充もままならない。修理にも時間がかかる。兵士の大量錬成システムも、敵に遠く及ばない。

 

 これでは端から勝負にならないのも当たり前だった。

 

 それは、太平洋戦線に事実上、2個軍団を配備して独立運用していた点からも伺える。

 

 帝国でも海軍と陸軍の指揮系統は異なっており、それぞれ独自の行動をしてはいるが、兵力展開状況と言う点で、合衆国軍に遠く及ばないのは言うまでも無い事だろう。

 

 事実、前回のレイテ沖海戦においても、マッカーサーがフィリピンに攻め込む一方、同時進行でニミッツがマリアナに攻め込んでいる。

 

 対して帝国軍はフィリピンを守るのに精いっぱいで、マリアナまでは手が回らなかった。

 

 彰人達がマリアナの事を知ったのはレイテでの戦いを終え、ブルネイに戻った後の事だったが、当然の事ながら、戦いに傷つき多くの仲間を失った連合艦隊には、もはやマリアナを救援するだけの力は残されていなかった。

 

 だが、本来であるなら、マリアナとフィリピンはどちらを優先すれば良いと言うレベルの存在ではない。

 

 マリアナを失えば本土が直接攻撃に晒されるし、フィリピンを失えば南方航路が遮断され、物資を本土に運ぶ事が出来なくなる。

 

 マリアナとフィリピンは、両方守らなくては意味が無かったのだ。

 

 だが、こうなった以上、状況を嘆いていても仕方がない。

 

 マリアナ再奪回は、何としても成し遂げなくてはならないのだ。

 

 彰人は次に、敵将ニミッツについての資料を手に取ってみた。

 

 開戦前は人事局の局長をしていたニミッツは、人の使い方について実によく理解している。それはハルゼーやスプルーアンスと言った経験豊富で信頼できる将帥に前線指揮を任せ、自らは後方で全体指揮に当たる、と言うスタイルを貫いていた事からも伺える。

 

 帝国海軍も古河や豊田はそのスタイルで指揮を取っていたし、そのおかげで昨年は常に有利な戦局を築く事が出来たのも事実である。しかし時すでに遅く、戦力比が完全に逆転した状況では、局所的に勝てても、全体的にはジリジリと押し切られるだけだった。

 

「レスター・ニミッツ、か・・・・・・・・・・・・」

 

 声に出して呟く。

 

 彰人は以前、ニミッツの正確に考察した時、「究極の合理主義者」であると判断した。

 

 要するに勝つ為に必要な事は何でもする一方、不要な事は一切しない。

 

 それは、今回の戦いでも見る事が出来た事だった。

 

 ニミッツはマッカーサー掩護の為、主力艦隊をレイテに派遣する一方、自らは別働隊を率いてマリアナを陥落させている。

 

 これはすなわち、マリアナは合衆国軍にとって是が非でも取らなくてはならない重要拠点である一方、帝国軍にはマリアナとレイテ、双方を守るだけの力は残されていないと見抜いたうえでの行動だと判断できる。

 

 だとしたら、

 

「恐ろしい相手だ・・・・・・・・・・・・」

 

 マリアナで戦死したスプルーアンスも冷静な合理主義者だったが、彼はまだ理想主義者(ロマンチスト)的な部分が残っており、付け入る隙もあった。

 

 だが、ニミッツにはそれが無い。

 

 真に恐るべきは、合衆国海軍では無く、レスター・ニミッツ個人であるように、彰人には思えるのだった。

 

 だが恐らく、そのニミッツにとって最大の誤算だったのが、レイテでの敗北だっただろう。

 

 あれだけの大兵力を有し、更にはハルゼー、キンケード両提督率いる大艦隊の援護を受けたマッカーサーが、まさか敗れるとは思っていなかったはずだ。加えて、ハルゼー、キンケードまで戦死する事も予想外だっただろう。

 

 これで、ニミッツが使える手持ちのカードは、だいぶ減ったはずだった。

 

 恐らくそこが今回、帝国海軍にとって唯一の勝機となるだろう。

 

「次は、彼自身が出て来ざるを得ないはず」

 

 これまで只管、後方での指揮に専念してきたニミッツを最前線に引きずり出す事が出来たのだ。これで彼を討ち取る事ができれば、合衆国軍の攻勢をかなり抑え込めるはずだった。

 

 だが、ニミッツの目標は、果たしてどこになるか?

 

 フィリピンの線は、まず無いだろう。フィリピン奪還に固執していたのはマッカーサー個人であり、彼が死んだ今、ニミッツがフィリピンにこだわる理由は無い。取り戻すにしても、戦争に勝った後、講和条約に「フィリピン返還」の一文を加えれば事は足りるはずだ。

 

 同様の理由で、台湾も根拠が薄い。台湾から帝国本土まではまだ距離がある。ニミッツの立場から考えると、仮に台湾を取ったとして、その次に進もうとした時、沖縄や九州の兵力が立ちはだかる事になる。

 

 台湾を攻めるには、ニミッツからすればフィリピンと同様に非効率的に思える筈だった。

 

 となると残る選択肢は、

 

「沖縄か・・・・・・・・・・・・小笠原か・・・・・・・・・・・・」

 

 呟いてから、彰人は苦い顔をする。

 

 どちらも、完全に本土である。城に例えるなら本丸に等しい。そこを取られたら、もはやこの戦争は負けたも同然である。

 

 問題は、ニミッツがどちらを狙ってくるか、である。

 

 沖縄は平坦な地が多く、飛行場を作れる土地が広い。ここを占領され爆撃機に進出されたら、帝国が受ける損害はマリアナの比ではないだろう。加えて泊地に使える湾が多数存在している。艦隊の拠点としても最適だった。

 

 翻って小笠原は良質な湾が少なく艦隊の拠点としては不向きだが、何と言っても帝都東京に近い。小笠原を取られたら、帝国は首都機能を完全に破壊されるだろう。

 

 どちらに転んでも、帝国の死命を制されるのは間違いなかった。

 

「ニミッツは、どちらに来るんだろう・・・・・・・・・・・・」

 

 彰人の中では、ある考えが形作られようとしている。

 

 上手くすれば、ニミッツの動きをある程度まで抑え込む事ができるかもしれない。マッカーサーが健在だったころには使えなかった手だが、今なら、可能かもしれなかった。

 

 だが、現状、帝国軍と合衆国軍の戦力差を考えれば、相当なリスクを伴うかもしれない。

 

 と、

 

「・・・・・・・・・・・・アハ」

 

 少し考えてから、自嘲気味に笑う。

 

 事この段になった以上、多少のリスクが何だと言うのか。命を捨てて掛からなければ、もはやこの難局を乗り切る事は不可能だった。

 

 彰人はペンを手に取ると、紙に向かって走らせようとした。

 

 と、

 

「・・・・・・・・・・・・彰人?」

 

 静かな声が背後から駆けられ、彰人は手を止めて振り返る。

 

 見れば、ベッドで寝ていた筈の姫神が起き出し、彰人に眠そうな目を向けて来ていた。

 

 その姿に、彰人は苦笑する。

 

「ごめん、起こしちゃった?」

「いえ・・・・・・・・・・・・」

 

 彰人は立ち上がると、眠そうな目を擦る姫神に歩み寄る。

 

 と、ベッドに腰掛けたところで、姫神は彰人の首に腕を回し抱き寄せて来た。

 

 何をするのかは既に心得ている彰人は、そのまま受け入れるようにして姫神に身を寄せる。

 

 互いの唇が引き寄せられ、やがてほのかな甘みを持って触れ合う。

 

「んッ・・・・・・・・・」

 

 くぐもった声を発する姫神。

 

 互いに、唇の齎す感触を感じ合う、彰人と姫神。

 

 ややあって、2人は互いに離れた。

 

「・・・・・・最近、キス癖が付いてない?」

 

 呆れ気味に姫神を見ながら、彰人は言う。

 

 最近、2人っきりの時はよくキスをせがまれる事が多いと感じていたのだ。

 

 対して、

 

「彰人のせいです」

 

 シレッとした調子で答える姫神。

 

 そんな姫神の言葉に、苦笑する彰人。まあ、確かに姫神の言葉は偽りではないだろう。

 

「じゃあ、責任、取らなくちゃね」

「あ・・・・・・・・・・・・」

 

 声を上げる姫神。

 

 彰人の手が、少女の着ているYシャツの裾から入り込み、太ももの内側を優しく撫で、更にその上へと撫で上がってくる。

 

 ゾクゾクと込み上げてくる快感に目を潤ませながら、そのくすぐったく、心地良い感触に身を委ねる姫神。

 

 彰人は姫神の「欲求」を満たすため、もう一度彼女にキスをする。

 

 そして、少女の小さな体を、ベッドへと寝かせ、自らも覆いかぶさった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運命の1945年は、激流と共に幕を開けた。

 

 この頃、既に欧州戦線の結末は、半ばまで決しようとしていた。

 

 ドイツ第3帝国は、連日のように連合軍の爆撃を受け、兵站を支える大工業地帯はほぼ壊滅に近い損害を被っていた。

 

 それに加えて、東からは主力軍を撃破したソ連軍。西からはパリを解放した連合軍に攻め込まれていた。

 

 ドイツ軍は尚も、残った戦力をかき集めて抵抗の構えを見せている。

 

 爆撃に対しても、世界初となるジェット戦闘機を戦線投入して必死に防戦に当たってはいるが、もはや戦線の維持すらままならない有様だと言う。

 

 ドイツは、もはや助からない。

 

 そして、

 

 滅びの足音は、帝国の下にも迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 飛行場に出たレスター・ニミッツは、一見すると落ち着き払っているようにも見える。

 

 しかし、内心では軽い興奮を感じている事は自覚していた。

 

 間もなくこのハワイに、待ち望んでいた兵器がやってくる。それを考えれば、年甲斐も無くはしゃぐのも無理からぬことだった。

 

 やがて、

 

 それの彼方から、唸るような音が聞こえてきた。

 

 生憎、頭上には厚い雲があり、視界の中には何も映っていない。重なり合うように聞こえてくるエンジン音。その響く音から、かなり大型の機体が頭上にいるのが判る。

 

 上空に、何かいる。

 

 それも1機や2機ではない。音を聞くだけでも、かなりの数の機体がいる事が判る。

 

 やがて、

 

「来ましたッ!!」

 

 幕僚の1人が、興奮気味に叫んで空の一角を指差す。

 

 見れば、確かにそこに、

 

 徐々に高度を下げて来る、航空機の姿があった。

 

「・・・・・・・・・・・・でかいな」

 

 感嘆と共に呟くニミッツ。

 

 彼の言う通り、その機体はまだ距離があるにもかかわらず、シルエットがくっきりと見える。

 

 それは即ち、その機体がかなりの巨体である事を物語っていた。

 

 やがて、機体は滑走路へのアプローチに入ると、より精細にシルエットが見えるようになってきた。

 

 のっぺりとした丸い機首に、金属バットを思わせる太く長い胴体、左右に大きく広げた翼には4基の巨大なエンジンが取り付けてある。

 

「あれが、B29か・・・・・・・・・・・・」

 

 ニミッツが呆然と呟く。

 

 ボーイングB29スーパーフォートレス

 

 合衆国軍が開発した超巨大爆撃機がついに、太平洋戦線に姿を現したのだ。

 

 B29はその巨体からは想像もつかない滑らかな動きで、次々と滑走路に着陸していく。

 

 その様子をニミッツたちが眺めていると、1人の陸軍将官が歩み寄ってくるのが見えた。

 

 下膨れした、眼つきの鋭い男。

 

 陸軍戦略爆撃機隊指揮官のカースト・ルメイ少将だ。

 

 ルメイはニミッツの元まで歩いて来ると、彼に対して敬礼をする。

 

 それに対して答礼を返すニミッツ。

 

「B29、300機無事に到着しました。この後、最終的な補給を行った後、マリアナ諸島へと飛び立つ事になります」

「うむ、ご苦労」

 

 頷きを返すニミッツに対し、ルメイは顔を上げて真っ直ぐに見返す。

 

「マリアナの件、ありがとうございました。これで我々も心置きなく任務に就く事ができます」

 

 淡々とした口調で話すルメイ。

 

 相変わらず、どこか感情が抜け落ちたような印象のある男である。

 

 対して、ニミッツは僅かに鼻を鳴らして口を開いた。

 

「我々の役目は果たした。次は、君達が仕事をする番だぞ」

「心得ています」

 

 そう言うと、ルメイは口元に薄笑いを浮かべる。

 

「我がB29爆撃機隊でもって、ジャップ共の都市と言う都市を全て灰燼に帰してご覧に入れましょう」

 

 そう告げるルメイの目は、どこまでも冷たい色を湛えているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハワイにB29の大編隊が到着。

 

 そのニュースは、すぐに海軍省を通じて連合艦隊にも齎された。

 

 その報告に、誰もが緊張を走らせる。

 

 ついに、来るべき物が来た、と言うところである。

 

「敵の動きが早すぎる」

 

 軍令部総長に就任した豊田玄武は、頭を抱えながら唸るように言った。

 

 無理も無い。

 

 レイテ沖海戦から未だに2か月。

 

 損傷の軽かった艦は既に復帰を果たしているが、それでもいまだに多くの艦がドックに入ったままである。

 

 加えて、帝国軍は現在、陸海軍の総力を挙げて大規模な防空システム構築を行っている。

 

 具体的には帝国全土を各エリアに分け、大都市を中心に精鋭航空部隊と電探を併用した早期警戒システムを網羅。敵機が接近して来た際にはいち早く上空に迎撃を上げて迎え撃つと言う物だ。

 

 特に東京には強力な防空部隊が配備される予定であり、マリアナから飛び立ったB29迎撃に期待が寄せられている。

 

 一応、最重要防衛エリアと言う事で、東京近郊と最前になると予想されている九州の防空システムは急ピッチで構築されている。

 

 しかし、他のエリアまでは手が回っていないのが現状だった。

 

 そんな中、豊田軍令部総長を中心としたメンバーが集まり、今後の方針について話し合っている所だった。

 

 ともかく、このままでは本土空襲は避けられない。

 

 3年前にも一度、帝都を空襲されているが、情報ではハワイに集結しているB29は、少なく見積もっても200機以上。更に合衆国本土には後続部隊も控えていると言う。

 

 もし空襲を受ければ、被害は3年前の比ではない。

 

 だが、マリアナを奪還するにしても攻撃するにしても、ともかく兵力が足りないのが現状だった。

 

 敵もバカではない。帝国海軍がマリアナ奪還の為に兵を出す事は、とっくに予想している筈。恐らくマリアナには強力な航空部隊が進出し、更にマリアナの南にあるカロリン諸島は、合衆国軍の艦隊泊地となっており、大規模な艦隊の駐留が確認されている。

 

 中途半端な兵力でマリアナに攻め込めば、返り討ちに遭うのは目に見えていた。

 

「長官ッ」

 

 立ち上がったのは、神徳人大佐である。

 

 豊田司令部において作戦参謀を務めた神は、小沢新司令部にあっても作戦参謀に留任し、作戦立案に当たっていた。

 

 その彼が何を言い出すのか、と皆が注目していると神は甲高い声で言い放った。

 

「どうか私に戦艦を含む1個艦隊をお預けいただきたい。私自ら率いてマリアナに出撃、最後は海岸に乗り上げて艦砲射撃を仕掛け、敵兵力を粉砕してご覧に淹れますッ」

「無茶を言うな。そんな成功率の低い作戦に兵は出せん」

 

 対して、小沢は言下に否定する。

 

 神の敢闘精神は貴重な物であると思うが、整わない兵力を敵の正面からぶつけるのは愚の骨頂である。

 

 無為に兵力を失い、結果的に防衛力の低下を招く訳にはいかなかった。

 

「しかしこのままでは、帝都の爆撃は避けられませんッ そうなる前にどうかッ」

 

 時間が無いのに、何を悠長な事を!!

 

 神の内なる声は、そう言っているように思えた。

 

 切羽詰っているのは神だけでなく、この場にいる全員の共通した思いである。

 

 とにかく時間が無い。

 

 マリアナの敵が本格的に稼働を始める前に、何としてもこれを叩かなくてはならなかった。

 

 時間。

 

 そう時間だ。

 

 そこにこそ、帝国の命運を分ける要素がある。

 

 だからこそ、彰人が動く余地もあると言う物だった。

 

 挙手する彰人。

 

 小沢の指名と共に、立ち上がる彰人。

 

 一同の視線が集まる中、彰人は落ち着き払った口調で行った。

 

「確かに、B29のマリアナ進出は脅威です。そして、現状の僕達に、マリアナを奪還するだけの力は無い。これも事実です」

 

 彰人の言葉に、皆が憮然とする。

 

 事実ではあるが、そうハッキリ言われると腹立たしい物があった。

 

 そんな彼等に構わず、彰人は続けた。

 

「しかし、そんな僕達にも、まだ戦う術はあります」

「それは、どういう事でしょう?」

 

 神が身を乗り出すようにして尋ねてくる。彰人がどんな事を言うのか、興味を持った様子だ。

 

 そんな彼を見ながら、彰人は続ける。

 

「B29は確かに脅威です。飛び立てってしまえば、迎撃は困難でしょう。ですが、どんな強力な航空機でも、飛び立つ前は無力です」

「つまり、マリアナへ艦砲射撃を仕掛けようと言うのか? エスピリトゥサントでお前等がやったみたいに」

 

 尋ねたのは宇垣である。

 

 だが、その表情は懐疑的だ。

 

 仮に夜間に艦砲射撃を仕掛けるにしても、敵勢力の真っただ中に踏み込まなくてはならない事に変わりは無い。あまりにもリスクが高すぎた。

 

 だが、

 

「それも考えてありますが、今回はもう一つの案で行きたいと思っています。」

 

 彰人は首を横に振る。彼の狙いは、もっと別の所にあった。

 

 それは、彰人にとっての専門分野。

 

 この戦法なら、帝国海軍随一であると言うプライドがある。

 

「ようは、マリアナに来たB29を飛び立たせないようにすればいいんです」

「どういう事かね?」

 

 意味が分からない、と言った感じに豊田が尋ねてくる。

 

「つまり、こういう事です。いくらB29が常識外の大型機でも、それを動かすのに必要な燃料や、攻撃に使う爆弾を、わざわざ本国から『積んで』くるとは思えません。それら消耗品の大量輸送には、必ず輸送船を使う筈です。恐らく、近いうちに大規模な輸送船団がマリアナに向かう事でしょう」

 

 幾人かの者達は、尚も首をかしげている。彰人が何を言わんとしているのか、理解しかねると言った感じだ。

 

 だが、流石に付き合いの古い者は、今の説明で察しがついた様子だ。

 

「水上、つまりお前は・・・・・・」

「はい」

 

 問いかける宇垣に対し、彰人は頷いて応じた。

 

「僕が第7艦隊を率いて出撃し、マリアナに向かう輸送船団を捕捉、これを撃滅したいと考えています」

 

 それは、彰人にとって帝都防衛を掛けた、一世一代の賭けだった。

 

 

 

 

 

第85話「破滅の足音」      終わり

 

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