蒼海のRequiem   作:ファルクラム

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第95話「相剋の砲撃戦」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛来した砲弾が次々と甲板へ突き刺さり、その度に凄まじい威力が衝撃となって突き抜ける。

 

 踊る爆炎がそこにある物すべて、手当たり次第に飲み込んで行った。

 

 「大和」の艦上は既に、爆炎と衝撃が躍る地獄と化そうとしていた。

 

 艦内では兵士達が必死に消火と復旧作業に努めている。

 

 しかし、同じ46センチ砲を持つ戦艦2隻に集中砲火を浴びた時の衝撃は、想像を絶していた。

 

 命中した砲弾の被害は「大和」の艦内にまでおよび、復旧作業中の兵士もろともに吹き飛ばしていく。

 

 勿論、「大和」も負けじと撃ち返す。

 

 放たれた砲撃は1番艦の位置にいる「メイン」を捉え、自身と同等のダメージを与えている。

 

 しかし、次の瞬間には、倍以上の火力を叩き付けられる。

 

 帝国海軍の兵士達は、こんな冗談をよく口にしている。

 

 曰く「大和型戦艦の主砲で、大和型戦艦の装甲を撃てばどちらが勝るか?」

 

 「矛盾」の現代的解釈と言えるが、まさかそれを実地で体験する日が来るとは、誰が予想し得たであろう?

 

 吹き荒れる46センチ砲弾の嵐は、これまで人類が経験した事の無い程の破壊力を、まざまざと見せつけていた。

 

「まさか、これ程とはな・・・・・・」

 

 「大和」の艦橋に立ちながら、宇垣は臍を噛む思いで敵戦艦を睨みつけていた。

 

 大和型戦艦は世界最強の戦艦。「大和」「武蔵」「信濃」の3隻を持ってすれば、倒せない敵は無い筈。

 

 そう信じていた。

 

 この戦いが始まるまでは。

 

 モンタナ級戦艦は確かに、1斉射あたりの砲撃力は大和型戦艦に劣っている。何より、長重量級の2式弾の威力は今なお絶大であり、現に直撃を受けた「メイン」は激しい火災に覆われつつある。

 

 しかし、残る「モンタナ」からの砲撃で「大和」は激しく傷ついている。

 

 既に艦上の装備は大半が破壊されている。非装甲部分は貫通され、内部も滅茶苦茶にされていた。一部では浸水も発生しているくらいである。

 

 大和自身は未だに気丈に立ち続けているが、かなり無理をしているであろう事ははた目からも判っていた。

 

 その時、

 

 「大和」が放った砲弾の内、1発が「メイン」の後部甲板に命中。何かが激しく破壊される光景が遠望で来た。

 

「敵戦艦に命中弾ッ 後部砲塔を破壊した模様!!」

 

 見張り員の歓喜に満ちた声に導かれるように、宇垣と大和は「メイン」へと視線を向ける。

 

 見れば確かに、「メイン」の後部甲板は大規模な煙に覆われて見えなくなっている。先程の「大和」の砲撃が大ダメージを与えた事は間違いなかった。

 

「よくやった。このまま押し込むぞ」

「はい」

 

 宇垣の言葉に、ようやく笑顔を浮かべる。

 

 積み重なるダメージによって既に大破に近い損害を被っている「大和」。

 

 しかしそれでも尚、この苦しい状況で敵戦艦に大ダメージを与えられたのは大きかった。

 

 「メイン」は「大和」の一撃で第3砲塔を破壊され、更に衝撃で第4砲塔の方も何らかの不具合が生じたらしく、発砲が止まっている。

 

 ようやく出てきた勝機。

 

 このままなら勝てる。

 

 誰もが希望を見出し始めている。

 

 しかし、それは儚い幻想でしかなかった。

 

 報復はすぐさま行われた。

 

 2番艦の位置にいる旗艦「モンタナ」の8門全力射撃。そしてダメージを負った「メイン」も、残る4門の主砲で「大和」へ反撃する。

 

 直撃する砲弾は2発。

 

 その衝撃が、再び艦全体を襲う。

 

 そして、

 

「艦中央に直撃弾ッ 中部甲板に火災発生!!」

 

 その報告に宇垣は、そして大和は愕然とした。

 

 艦中央は当然、重要防御区画(ヴァイタル・パート)内部であり、船体の中では最も厚い装甲が張り巡らされている。その内部には弾薬庫や機械室、缶室と言った重要施設がある。

 

 その艦中央の装甲が、ついに破られたのだ。

 

「まだだッ」

 

 宇垣が皆を勇気付けるように叫ぶ。

 

「まだ、勝負はこれからだ!!」

「はいッ」

 

 宇垣の言葉に、頷きを返す大和。

 

 その言葉通り、砲撃はますます激しくなっていった。

 

 

 

 

 

 「大和」が苦戦を続けている頃、「信濃」もまた、激しい砲撃に晒されていた。

 

 彼女に砲撃を加えてきているのは、「オハイオ」「ニューハンプシャー」の2隻。

 

 合計16門の46センチ砲を叩き付けられ、「信濃」は「大和」同様に、ダメージを蓄積しつつあった。

 

 既に甲板上に並べられた対空火器の大半は破壊され、炎を噴き上げている。

 

 「信濃」も果敢に反撃するが、倍近い火力を集中された状況では苦戦は免れなかった。

 

「クッ」

 

 命中弾の激痛に、歯をくいしばって耐える信濃。

 

 今のところ、艦内への砲弾突入は無い。「大和」よりも最適化された防御方式が、彼女をより堅牢な艦として完成させていた。

 

 しかし、

 

「こんな事、してる場合じゃないのにッ このままじゃ、・・・・・・お姉ちゃんがッ」

 

 悔しそうに前方に目を向ける信濃。

 

 その視界の先では、炎上を続けながらも合衆国軍の戦艦2隻に必死の抵抗を続ける旗艦「大和」の姿があった。

 

 姉を守って戦う。

 

 そう誓ったはずなのに、それを果たせずにいる自分が悔しかった。

 

 再び落下する砲弾が、甲板を激しく叩く。

 

 お返しとばかりに放った「信濃」の砲撃も「オハイオ」を捉えるが、目に見えるようなダメージを与えるには至らない。せいぜい、舷側に並んだ対空砲のいくつかを吹き飛ばした程度である。

 

 内蔵された焼夷弾子のおかげで火災は発生している様子だが、それでもまだ致命的な事態にまでは追い込んでいない。

 

 逆に「信濃」は、度重なる命中弾によって装甲が悲鳴を上げ始めている状態である。

 

 戦闘力と言う意味では「信濃」の方がメイン級戦艦を上回っているが、しかしやはり1対2と言う状況は厳しかった。

 

 

 

 

 

 その一方で、意外な善戦を見せている艦もあった。

 

 「金剛」と「比叡」である。

 

 この2隻を指揮する第3戦隊司令官は、相手が金剛型を遥かに上回る最新鋭戦艦である事を悟ると、正面からぶつかると言う選択肢を初めから排除し、戦闘力を奪う方針に切り替えた。

 

 2隻合計14門の主砲から、一斉に放たれる砲撃。

 

 その砲弾が、目標としている「ルイジアナ」の上空で次々と炸裂する。

 

 3式弾改である。

 

 「金剛」と「比叡」の主砲では、仮に2式徹甲焼夷弾を使用してもメイン級戦艦の装甲は打ち抜けない。

 

 だから2隻は、3式弾を使用して敵艦に目つぶしを喰らわせる事にしたのだ。

 

 これは第2次ソロモン海戦の折、彰人率いる第11戦隊が戦艦「サウスダコタ」相手に使用し、見事に同戦艦の撃沈につなげた戦法である。

 

 戦艦は確かに強力な大砲を装備しているが、その大砲を活かすには正確無比な照準器が必要不可欠である。

 

 その照準器を潰し、発砲自体を不可能にしてしまおうと言うのが狙いである。

 

 レーダーにしろ測距儀にしろ、照準装置と言うのは得てして脆い構造をしている。三式弾改のベアリング弾を使用して、これらを潰す作戦に出ているのだ。

 

 しかし、

 

「なかなか効果が表れませんネー」

 

 金剛は自身の艦橋で、「ルイジアナ」の様子をを眺めながら呟きを漏らす。

 

 合衆国軍の最新鋭戦艦は目に見えた損傷を負っているようには感じられない。

 

 勿論、先程から「金剛」と「比叡」の砲撃がかなりの至近で炸裂している事を考えれば、艦上構造物にはかなりの損害を与えている事は間違いない。

 

 しかし、未だに弱っている様子は見えなかった。

 

 その時、「金剛」の右舷側に巨大な水柱が立ち上り、視界が暫しの間塞がれてしまう。

 

 「ルイジアナ」が放った砲撃が海面に着弾し、炸裂した瞬間である。

 

 しかし、

 

「敵は相当、ノットグッドな腕前ですネー」

「確かにな」

 

 金剛の嘆息交じりの呟きに、3戦隊司令官は同意の頷きを返す。

 

 先程から砲撃を繰り返しているにも拘らず、「ルイジアナ」の砲撃は、一向に近付いてくる気配が無い。もしかしたら、最新鋭戦艦故に乗組員が艦の扱いに習熟していないのかもしれなかった。

 

「このまま押し切れればいいんですけど、そうもいかないでしょうネー」

「まったくだな」

 

 そう言って、金剛と3戦隊司令は揃ってため息をつく。

 

 今は善戦している第3戦隊だが、自分達の砲撃が敵に対して致命傷となりえないのは、他ならぬ彼女たち自身がよく判っている。

 

 だからこそ、こちらが時間を稼いでいる内に状況が逆転してくれるのを祈るしかない。

 

 それが金剛たちにとっては、歯がゆい事態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 速力に勝る「姫神」は「ワシントン」の前方に飛び出しながら、6門の40センチ砲で砲撃を行っている。

 

 ちょうど丁字に近い形を取っている事になる訳だ。

 

 一斉射あたりの砲撃力では「ワシントン」の方が勝っている為、これが最善手であると言える。

 

 もっとも、「ワシントン」を指揮するアンリにしても、その事は充分に認識している為、どうにか丁字を崩そうと艦を機動させている。

 

 互いに海上を駆けまわりながら砲撃を繰り返す、「姫神」と「ワシントン」。

 

 その様は、巨大な海獣が互いに牙をむいているようにも見える。

 

 もっとも、彼女達の本質が可憐な乙女である事を考えれば、その表現は相応しくないのかもしれないが。

 

 連続して放たれた「姫神」の砲撃が、同航戦の形態を取って並走する「ワシントン」へと一気に殺到する。

 

 そのうちの1発が、「ワシントン」の左舷中央付近に落下、巨大な爆炎を上げた。

 

 たちまち、湧き上がる爆炎に包まれる「ワシントン」。

 

 辛うじて装甲貫通は免れたようだが、しかし2式徹甲焼夷弾に内蔵された焼夷弾子が、甲板上に強烈な火災を引き起こす。

 

 お返しとばかりに放つ「ワシントン」の砲撃もまた「姫神」を捉える。

 

 1発が第1砲塔の天蓋に命中。異音と共に弾かれて、反対舷の海面に落下した。

 

「今のは危なかったね」

「そ、そうですね」

 

 僅かに声を震わせながら、姫神は彰人の言葉に答える。

 

 装甲に弾かれてダメージが無かったとはいえ、直撃弾によって生じる痛みまでは消せないのである。

 

 しかし、事VS「ワシントン」戦に限って言えば、彰人達は戦いを有利に進めている。

 

 「姫神」が被った命中弾は今の1発を含めても、ここまで2発のみ。被害は高角砲1基が破壊されたのみである。

 

 対して「姫神」は「ワシントン」に6発の命中弾を与え、既に火災を起こさせている。火災は長引けば艦内温度の上昇につながり、やがて高温に耐えられなくなった兵士達は次々と倒れていくことになる。

 

 負けじと「ワシントン」も撃ち返してくるが、やはり照準は芳しいとは言えない。

 

 ここでも「姫神」の機動性が物を言っている。「ワシントン」の照準装置では、「姫神」の速度に追随できないでいるのだ。

 

 加えて彰人は「姫神」の速度を間断に変化させ、緩急をつけた運動を心がけている。変幻自在な機動が「ワシントン」の照準を狂わせていた。

 

 しかし、状況は尚も油断できない。

 

 第7艦隊は既に「鈴谷」「熊野」「矢矧」を戦列から失っている。

 

 今はデモイン級、ウースター級と言う強力な巡洋艦5隻を相手に「黒姫」1隻で立ち向かっている状況だった。

 

 いかに「黒姫」と言えど、恐るべき速射能力を持つ巡洋艦相手に1対5では、予断の許される状況ではなかった。

 

「『黒姫』の状況は!?」

「依然、敵巡洋艦部隊と交戦中の模様!!」

 

 彰人の問いかけに、見張り員が答える。

 

 今は双方ともに戦闘中である。状況の把握は困難だった。

 

「クロ・・・・・・・・・・・・」

 

 姫神が艦橋の縁に手を掛け、「黒姫」が戦っている方角へと目を向ける。

 

 その方角では、爆炎と共に巨大な水柱が立ち上る様子が見て取れた。

 

 

 

 

 

 突撃と同時に連続斉射へと移行。

 

 巨砲を一斉に放つ事で、敵艦隊への威嚇とする。

 

 「黒姫」艦長 成瀬京介大佐は、数に勝る敵巡洋艦部隊に対し、積極的な攻勢を選択していた。

 

 敵は帝国海軍が誇る精鋭巡洋艦3隻を瞬く間に戦闘不能に追いやる程、強大な戦闘力を誇っている。

 

 以下に巡洋戦艦とは言え、油断すればやられる。

 

 故に成瀬は、初めから全力投入で敵を倒す選択をした。

 

「目標、敵1番艦っ 撃てェ!!」

 

 成瀬の号令に従い、「黒姫」が持つ6門の50口径40センチ砲は、先頭を進んでくる「デモイン」目がけて撃ち放たれる。

 

 既に数度の斉射によって弾着修正は終えている。「黒姫」の照準は、かなり正確になっている筈だった。

 

 その予測通り、「黒姫」が放った砲撃は、「デモイン」を挟み込むように落下、狭叉する事に成功していた。

 

「ようッし!!」

 

 ガッツポーズを作る黒姫。

 

 鈴谷たちを屠った敵を相手に一矢報いる事が出来たのが嬉しいらしい。

 

 対する「デモイン」の方は、狭叉に慌てたらしく慌てて舵を切って逃げようとしているのが見える。

 

 しかし、

 

「今さら逃がすかよ!!」

「その通り!!」

 

 成瀬と黒姫の言葉を受けて連続斉射に移行する「黒姫」。

 

 約10秒に1斉射の割合で放たれる40センチ砲弾が、次々と「デモイン」に殺到する。

 

 デモイン級重巡洋艦は、既存の巡洋艦を遥かに上回る防御力を有してはいるが、それでも巡洋戦艦とまともに激突するのは無謀と言う物だった。

 

 「黒姫」の砲撃はたちまち「デモイン」を捉え、その艦体を破壊していく。

 

 艦首を砕き、砲塔を叩き潰し、甲板に大穴を穿つ。

 

 「デモイン」の方でも必死の反撃を試みるが、その砲弾が「黒姫」を捉える事は無かった。

 

 やがて、「デモイン」は火災を起こして海上に停止。「セイラム」以下、後続の艦艇が燃え盛る巡洋艦を追い越す形で前に出てくる。

 

「よっしゃ、目標変更だ!!」

「了ッ解!!」

 

 意気を上げる成瀬と黒姫。

 

 それに合わせて、「黒姫」の艦内の士気も、最高潮に達しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃が「大和」を襲う。

 

 同時に発生する、耳障りな異音。

 

 その音を聞きながら宇垣は、何か取り返しのつかない部分が破壊された事を悟る。

 

 その予感が杞憂でなかった事は、間も無くあげられてきた報告によって判明する。

 

「第3砲塔被弾ッ 砲塔全損!!」

 

 報告を聞いて、宇垣は舌打ちする。

 

 「大和」が敵戦艦に対抗し得る唯一の武器である主砲の内、3分の1がもぎ取られた事になる。

 

「まだですッ」

 

 気丈な声が響く。

 

 振り返ると、大和が痛みを堪えながらも敵戦艦を睨み据えていた。

 

「主砲はまだ、2基ありますッ まだ、負けていません!!」

「・・・・・・その通りだ」

 

 気勢を上げる大和に、頷きを返す宇垣。

 

 こちらが苦しい時は、敵もまた苦しいのだ。より先に音を上げた方が敗北となる。

 

 それを考えれば、ここで弱音を吐く事は許されなかった。

 

 

 

 

 

 一方、合衆国艦隊旗艦「メイン」の艦上において、レスター・ニミッツは炎を上げる「大和」の様子を、冷静に遠望していた。

 

 既に彼等にも、「大和」の第3砲塔が射撃を停止している様子は見てとれていた。

 

 自分達の砲撃が、「大和」に対し無視し得ない損害を与えた事は、間違いないらしかった。

 

「勝利が見えて来たな」

 

 ニミッツはそう呟き傍らの少女、モンタナに笑い掛けた。

 

 この戦いに際し、ニミッツは「メイン」に一番艦を任せ、自身が座乗する「モンタナ」は2番艦の位置に着いていた。

 

 これはニミッツ流の合理的な判断に基づく決定である。

 

 海戦における指揮官先頭は各国海軍の伝統であるが、同時に敵も先頭艦が旗艦である事が判っている為、砲火を集中してくる可能性が高い。

 

 旗艦が真っ先に脱落してしまっては、その後の指揮系統の混乱にもつながり、最悪の場合、敗北も考えられる。

 

 その為、ニミッツは「メイン」に先頭艦を任せ、「モンタナ」を後続させたのだ。

 

 この策が功を奏し、戦闘開始から時間が経過しているにも拘らず、合衆国軍は指揮系統を完璧に近い形で維持できていた。

 

 「大和」は既に大破に近い損害を被っている。後続する「信濃」も同様だ。度重なる命中弾によって火災が生じているのが見える。

 

 無論、合衆国軍も無傷ではない。

 

 「大和」の砲撃を数度にわたって受けた「メイン」は同様に大破しているし、「信濃」の砲撃を受けた「オハイオ」も激しく損傷している。

 

 更に「ルイジアナ」。

 

 「ルイジアナ」は、本来なら遥かに格下の筈のコンゴウタイプ2隻を相手に、苦戦を強いられていた。

 

 この完成したばかりの最新鋭戦艦を連れて来た事について、ニミッツは少し後悔していた。

 

 「ルイジアナ」は竣工から3カ月しか経っておらず、乗組員も艦に習熟しているとは言い難い。

 

 それでも艦隊行動に追随し、火力不足を補うための措置として連れて来たのだが、その措置が裏目に出てしまっている。

 

 「ルイジアナ」の砲撃は敵を捉えることは無く、逆に「金剛」「比叡」の砲撃は「ルイジアナ」に着実なダメージを与えていた。

 

 帝国海軍の方でも、コンゴウタイプの主砲でモンタナ級戦艦の相手をする事はできないことは判っているのだろう。対地・対空用に用いる巨大な散弾を使用して艦上構造物の破壊を狙って来ていた。

 

 しかし、全体的に見て合衆国海軍の優勢は動かない。

 

 既にヤマトタイプ2隻は大破。残るコンゴウタイプ、そしてヒメカミタイプは物の数ではない。

 

「勝ったな」

 

 ニミッツが確信を込めて呟く。

 

 だが、

 

 しかし、

 

 戦いに幕を下ろすには、

 

 まだ早かった。

 

 

 

 

 

 「金剛」と「比叡」の砲撃を受けながらも、健気な反撃を行っていた戦艦「ルイジアナ」。

 

 技量未熟な乗組員たちが、それでも必死になって艦を操り、ようやく「金剛」に弾着を近づけるまでに至った矢先の事だった。

 

 突如、「ルイジアナ」の舷側付近に、巨大な水柱が立と昇るのが見えた。

 

「ホワッツ!? いったい何事ですカー!?」

 

 艦橋でその様子を眺めていた金剛が驚いて声を上げる中、更に沸き起こった水柱が「ルイジアナ」を包囲する。

 

 皆が唖然として見守る中、

 

「後方より接近する味方戦艦有りッ!!」

 

 見張り員の絶叫が、歓喜と共に響き渡った。

 

「『武蔵』です!!」

 

 

 

 

 

 先日の防空戦で傷つき、速力の衰えた「武蔵」。

 

 艦体から脱落しつつも進撃を続行してきた彼女だったが、ついに追いついてきたのだ。

 

「私の愛しき姉と妹、そして大切な仲間はやらせんッ 絶対に、だ!!」

 

 放たれる砲撃。

 

 吹き上がる水柱の中に、爆炎が躍るのが見える。

 

 炸裂した2式徹甲弾は、金剛型2隻の砲撃に苦戦を強いられていた「ルイジアナ」を襲った。

 

 艦上で炸裂した砲弾は甲板上の両用砲や機銃を吹き飛ばし、合衆国軍が誇る新鋭戦艦に火災を発生させる。

 

 燃え盛る「ルイジアナ」。

 

 だが、「武蔵」はそこで手を緩めない。

 

 昨日の空襲で傷ついた身。それ程機敏には動けない。

 

 それでも回頭する事で後部第3砲塔の射角も確保すると、9門の46センチ砲を一斉に撃ち放った。

 

 飛翔する重量1・9トンの砲弾。

 

 それらが次々と「ルイジアナ」の周辺に落下する。

 

 それと同時に、命中弾を現す閃光が、艦上で炸裂した。

 

 「ルイジアナ」に命中した「武蔵」の砲弾は3発。

 

 1発は艦首を打ち砕き、2発目は第2砲塔に命中しこれを粉砕。3発目は2本ある煙突の内、1本を根こそぎもぎ取った。

 

 破壊された艦上に、炎と爆炎を躍らせる「ルイジアナ」。

 

 その頃になってようやく「ルイジアナ」も、目の前の金剛型2隻よりも、新たに現れた「武蔵」の方が脅威であると認識したらしい。

 

 甲板上にある残る3基の連装砲塔が旋回し、6門の46センチ砲を「武蔵」に対して指向しようとしている。

 

 しかし、

 

「遅い!!」

 

 吠える武蔵。

 

 同時に、9門の主砲が一斉に火を噴く。

 

 昨日の空襲でのダメージを全く感じさせない、強烈な砲撃。

 

 「ルイジアナ」には、再び3発が命中。火災がさらに大きくなる。

 

 心なしか、先程までと比べて、動きが鈍った気もする。

 

 凱歌を上げる「武蔵」。

 

 このまま一気に押し返せる。

 

 誰もがそう思った。

 

 しかし、

 

 報復はすぐになされた。

 

 「信濃」と交戦中だった「オハイオ」「ニューハンプシャー」が、味方の危機に航戦を中断し目標を「武蔵」に変更して来たのだ。

 

 たちまち、2隻の戦艦から砲火が集中される「武蔵」。

 

 艦上に炸裂する砲弾。

 

 その衝撃が、「武蔵」の艦体を次々に破壊していく。

 

 しかし、

 

 己を破壊する鉄と炎の嵐の中、

 

 武蔵は凄絶な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

第95話「相剋の砲撃戦」      終わり

 

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