扉の向こうには階段が続いていた。明かりも無く続いているため、どこまで伸びているのか分からない。
「階段ですか……これは面白そうな事が起きそうな感じですね」
「幻魔さん。本当に進んで行って大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。たぶん。きっとご主人も知ってる筈ですしね。さぁ、行きましょうか」
カードを一枚取り出し光に変えるとそれを掴み階段を下りて行く。その後ろを怖々とついて行く少女。
* * *
数分下り続けると、扉が見えた。しかもご丁寧にここにも封印が施されていた。まぁもちろん容赦なく砕いたのだが。
その扉の向こうにあったのは広い部屋。そこには家具が置かれており、奥にあるテーブルとセットになっている椅子に腰掛ける男が一人いた。
彼は金色の髪色をしており、黒色のオーバーコートを着ていた。
「……後ろに下がってなさい」
男を視認すると同時に幻魔は少女を自身の背後に隠すように移動させる。
男はゆっくりとした動きで立ち上がるとこちらを向く。その瞳は緋色に輝いており、有無を言わさず人をその場に縛りつける威圧感があった。
「なんだ、クレアじゃないのか。何の用だ?」
心の底まで響く美しい声。幻魔は若干少女をつれて来た事を後悔しつつ、
「どちら様でしょうか」
「あぁ、なんだ。プレジールから聞いたわけではないのか。全く。兄の事くらい教えておいても良いだろうに」
ため息を吐きながらそう言う彼。
「兄?ご主人のお兄様なのですか?」
「そうだ。私はプレジール・スカーレットの兄、イーラ・スカーレットだ」
彼が名乗ると同時に空気が若干変わる。ピリッと張りつめたようだ。
「まぁ私の名前などは良い。それにしても、あいつが新たに雇った執事か。どれほどの力があるか、少し気になるな。どうだ?遊んでいく気は無いか?」
笑みを浮かべ彼は問う。幻魔は現在持っている武具を感覚だけで確かめ、後ろに隠れている少女をチラリと見てから、
「えぇ、少しなら問題ありません。もう仕事はほとんど残っていませんので」
そう言って笑顔を返しながら彼はカードを取り出す。
「ククク…いやすまない。私を前にして笑顔を返す奴なんて滅多に居ないからな。さて、始めるか」
瞬間イーラは幻魔の眼前まで迫る。
幻魔は咄嗟に少女に手を当て図書室に飛ばしカードを光に変化させ目を潰し自分は彼の背後にテレポートする。
手に持つのはいつも使っているカードやナイフ。では無い。
色とりどりの八つのカラーボール。
幻魔はそれをイーラに向かって投げつける。
イーラは瞬時にそれに気付くと左に方向を転換させ回避し、そのボールは地面に当たると同時に様々な方向へと跳ねる。
その動きは誰もが見たことがあるかもしれない。そう、スーパーボールだ。
壁に当たり床に当たり家具などに当たり跳ね返り続けるソレは、なぜか速度を落とす事無く、むしろ加速して部屋の中を縦横無尽に奔り回る。
そして、視認出来ないほどの速さになると再度イーラに向かって全てのボールは集まり――――
――――ズガガガガガガガガッ!!!
凄まじい音を立てながらイーラにぶつかったスーパーボールは、しかし、
その全てを受け止められていた。
「ふん。この程度なのか?」
つまらなそうに言うイーラ。だがそれに対し幻魔はにやりと笑い、
「『ブレイク』」
瞬間、全てのスーパーボールは爆ぜ、火炎になったと思ったら瞬く間に渦を巻き天井まで届く竜巻となった。
だが幻魔は油断しない。素早くテレポートして距離を取ると身構える。
直後、獄炎の渦の中から黒い影が飛び出した。
「いやはや、まさか炎に変わるとは思わなかった。だが、私には効かないな」
イーラは服に着いた埃を軽く叩いて落とすと幻魔の方を見る。それを確認すると、幻魔は一言、
「私などを気にしている暇は無いかと」
その声でイーラは自分の姿を見つめ直すと、無数の糸が引っかかるように絡みついている。そして周りからは数十枚のカード。
「さぁ、踊り狂い下さいませ」
イーラは素早くカードを回避するが、カードの内の一枚が真空空間を作りだしイーラを引きずり込む。
次に迫ってきたカードはイーラの眼前で閃光に姿を変え彼の目をつぶす。直後突き刺さったカードは雷光となって体を焼き、追撃の一撃は水流の刃となって彼の四肢を引き裂く。
だが休む暇も無く更にカードは突き刺さる。千切れた手足に突き刺さったカードはソレを焼きつくし灰へと変え、胴体に刺さったカードは光の杭となって腹部に突き刺さり壁に埋める。
「カハッ!」
壁に突き刺さるまでの間に更に何本か糸を切ったため、増えるカードの数。
しかし、彼が顔を上げると光の杭は崩れ去る。
だが無意味。直後風の刃が更に体を裂き、ゆっくりと落ち始める事も許さず深く突き刺すために数本の光の杭が彼の胴体を貫く。
「………………」
沈黙し、幻魔は未だに滞空しているカードを手元に戻す。
「…いや、まだ倒せてないな」
幻魔が気付くと同時に、光の杭はバキンッ!と音を立てて砕け散り、どこからか現れた無数の蝙蝠が集まってイーラの身体を修繕していく。
「ク、ククク。アハハハハハ!あぁ、久しぶりだ。ここまでボロボロにされたのは…ククク。いいだろう。楽しませてくれた礼だ。本気で戦ってやろう」
ゾワリッ!と背筋が凍るような威圧感がイーラを中心に放たれる。
「さぁ、第二回戦と行こうじゃないか」