クレアと共に部屋を出てから数十分後。二人はちょうど仕事の説明が終わり、キッチンにいた。
「――――どう?取りあえず仕事は全部今教えたけど、大丈夫?」
「はい。このくらいなら簡単にできそうです」
「え、簡単に?」
「えぇ、簡単に、です。ここに来る前にやっていたのに比べれば随分と楽な事ばかりなんで」
「そ、そう……なら良いわ。これからよろしくね」
「よろしくお願いします。クレアさん」
「じゃあまずいまからやってもらいたい仕事なんだけど――――」
クレアが仕事の内容を言いかけた時、ドガーンッッ!!と、屋敷の外壁の門から大きな音が響く。
「――――あ~……侵入者、かな……なんでこんな面倒な時に来るのか……」
「あ、それでしたら、私が対処しましょうか?」
「……えっと、幻魔だっけ?って、戦えたの?」
「それなりには。私のここに来る前の仲間内だけで考えた場合4番以内には入る実力ですから」
「それ、信じても大丈夫なの?」
「そんなに心配なら一緒について来てくださっても良いですよ?」
「じゃあ、見せてもらうわ。その実力を」
「はい。では参りましょうか」
幻魔はそう言うと、指をパチンッと鳴らす。すると、先ほどまでキッチンにいたはずなのに、いつの間にか正門の前にいた。しかし、閉じられていたはずの正門は外側から強引に破壊され、そこには6人ほどの屈強な男達がそれぞれ武器を持って立っていた。
「ようこそ紅魔城へ。しかし、あなた方の訪問は主人より聞き及んでおりません。なので、もし主人に御用があるのでしたら、後日しっかりと日時を指定してまたおいでください」
幻魔はその屈強な男達を物ともせず、そう言い切る。すると、男の中の一人が、
「ふざけるな!貴様らのせいでどれほどの人間が苦しめられていると思っているんだ!!」
と叫ぶ。幻魔はそれを聞きながら、
「(ふむ。やはりプレジールさんはそっち側の人間……いや、あの気配的に言うとたぶん人外。それもかなり上位の種族かな……でも、やっぱり助けられたんだからそれのお礼位はしよう。幸い、能力は健在のようだし)」
そう考え、
「そうですか。それでは、あなた方はこの先へ無理をしてでも行きたい。そういう事でよろしいですね?」
「あぁそうだ!だからそこを早くどけ!!」
「それは無理な相談です。もしもこの先へと行きたいのでしたら――――」
幻魔はそこで区切ると、懐から一枚のカードを取り出し、先ほどから話している男に向かって投げ、
「――――私を倒してから通りなさい」
ヒュッ!と風を切るような音を立てながら男の頬を浅く切り、ツゥ…と男の頬から血が流れ出す。
「て、てめぇ!!やりやがったなぁ!!」
自分の血を見た男は怒りだし、幻魔に向かって一直線に向かい、それに続くように後ろの5人も突撃してくる。
「(……対象は6人。全員男。その全てが屈強な体つきをしているが、メンタルは強くないな。正直敵じゃない。こりゃカードで十分かな)」
幻魔は冷静にそう考え、拍子抜けをしたように心の中でため息を漏らす。最初に突撃して来た男は手に持っていた鉄の棒を振りかぶってくる。幻魔はそれに対して懐から取り出したカードを二枚投げつける。
そのカードは一枚は鉄の棒へ。もう一枚は男の首筋へ。ヒュッ!と先ほどの様な音と共にカードが当たった鉄の棒は両断され、首筋は切り裂かれて鮮血が舞う。
「……さて。まだやりますか?今すぐ手当をすればその方はまだ助かりますが……どうします?続行して無意味な全滅か、それとも勇気ある撤退か。私は撤退するのが賢明だと思いますけどねぇ?」
薄ら笑いを浮かべながら幻魔がそう言うと、男の仲間の一人が、
「ひ、ひぃぃ!ば、化け物がぁぁぁ!!」
と叫びつつ、彼らはしっかり男を回収して逃げて行くのだった。
「……まぁ、こんなものですかね。とりあえず撃退はしましたが、もしかして息の根を止めた方が良かったですか?」
幻魔は彼らが去って行くのを見送り、後ろで見ていたクレアに聞く。
「え、あ、あぁ。いや、大丈夫。今のところ食糧には困ってないからね。というか、それを聞くって事は、幻魔は人を殺しても大丈夫なの?君は人間みたいだけど」
「えぇ。そのくらい普通にできますよ。だって、それが出来ないと生きていけないような生活を一時はしてましたから」
幻魔はまるでなんでもないかのようにそう言う。クレアはそれを聞いて、なぜか寒気を感じた。
「(……この子……一体どんな暮らしをしてきたっていうの?人が人を殺すだなんて、そうそう無いでしょうに……戦争と考えてもあれほどの技は習得するのにかなり時間がかかる。見た目から見るにそんなに生きてはいないはずだから、かなり幼いころからそんな生活を送って来たっていうの?)」
そうクレアは考えるが、いくら考えた所で答えが出るわけもなく、聞くのもどうかと思ったので、クレアはその疑問を自分の心の中にしまっておくことにした。
「さて。君の実力は若干だけど分かったから、今度は中の仕事をやってもらうわ」
「分かりました。よろしくお願いします、クレア先生」
「幻魔君?そこはメイド長と呼びなさい」
「あ、はい。クレアメイド長」
「よろしい。じゃあ行くわよ」
そう言い、二人はまた赤い城の中へと入って行くのだった。