東方変幻録   作:大神 龍

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第三話

 幻魔が紅魔城に来てから1週間ほど経った日の昼間の事。

 

 

 

 幻魔はプレジールの種族について、おそらく吸血鬼なのであろう事が分かった。理由を上げるとすれば、日中は屋内で過ごしている事と、クレアが料理に血を入れていたりするからだ(ちなみに、血と分かった理由は手伝っている時にこっそり舐めたからだったりする。よくそんな事出来るな。と突っ込んではいけない)。一つ不思議な事と言えば、先ほど上げた中にある日中は屋内で過ごしているという事。なぜ昼間に眠っていないのかという事くらいだろう。と考えつつ城の中を掃除していると、プレジールが通りかかる。

 

「あ、ご主人。おはようございます」

 

「おはよう。あぁそうだ。幻魔。君に少し頼みたいことがあるんだが、いいか?」

 

 プレジールがそういうと幻魔は特に迷うこともなく、

 

「はい。何でしょうか?」

 

と答える。

 

「そろそろ門の所に妖怪が一体だけ来る。その妖怪の対応をしてくれ」

 

「はぁ……分かりました。ですが、具体的にどういう対応をした方がよろしいのでしょうか?」

 

「ふむ、そうだな……いや、それも君が考えてくれ。君がどういう対応をするのか少し興味がわいた。じゃあ頼んだぞ」

 

「分かりました。とりあえずその妖怪の対応はしておきます。では失礼させていただきますね」

 

 幻魔はそう言うとパチンッ!と指を鳴らし、門の前へと移動する。

 

「お客さん、って事で良いのかな?まぁ会ってみれば分かるかな」

 

 幻魔がそう呟いたところで、ドガァァンッ!!という盛大な音と共に扉が破壊される。

 

「……あぁ、門の外側に飛ぶべきだったなぁ……」

 

 後悔先に立たず。すでに破壊されたものは仕方ない。半ば諦めつつ幻魔は扉を破壊した張本人を見つめる。

 

 その人物は赤い腰まであるストレートヘアーに、側頭部の髪を三つ編み上にして、リボンで結んでいた。目の色は青がかった灰色。緑色の、『龍』と書かれた星が真ん中にある帽子をかぶっており、服はチャイナドレスの女性だった。しかし、その女性からは威圧感が漂っており、ただの人ではないことが分かる。

 

「……何のご用でしょうか?」

 

 幻魔は心を入れ替え、そう問う。すると、その女性は幻魔の目をしっかりと見据え、

 

「この城に強い者がいると聞いてきました。どうか一度手合せを願いたいのですが」

 

 …………。

 

「道場破り的な感じですか?」

 

「まぁ、そう捉えて貰って構いません。で、よろしいでしょうか?」

 

「ふむ。そうですね……」

 

 幻魔は少し考える。

 

「(プレジールさん……もしやこの状況になると知っていた?それでいて私に任せた?なんで?いや、理由はもう言われてたか。この状況をどうやって打破するか。この場合このままプレジールさんの所に連れて行くのは確実にダメだ。なら私自身で相手をして倒し切るしかないか。はぁ、面倒な仕事を任されたなぁ)」

 

 そんな事を3秒ほど考え、相手を改めて見つめ、

 

「良いでしょう。ただし、お相手をするのは私です。もし貴女が私を倒す事ができたのなら我が主と会わせましょう。逆に、貴方が負けた場合……いえ、これは言うまでもないでしょう。さぁ、どうします?今ならまだ引き返せますよ?」

 

 幻魔はそう言って服のポケットに手を入れる。女性は特に迷う様子もなく、

 

「えぇ、もちろんそれで構いません。そのくらいの覚悟はありましたから。手合せ、よろしくお願いします」

 

「そうですか。じゃあ始めましょう。どこからでもかかって来なさい」

 

「では遠慮なく……っ!」

 

 女性はそう言うと同時に向かって来る。

 

 最初は右拳による正拳突き。幻魔は体を右側に逸らす。そして、正拳突きが外れ幻魔のすぐ左に行く直前。素早く腕を引いて左足で蹴り上げてくる。幻魔は一瞬驚くが、即座に右足を上げて女性の足を止める。

 

「っ!?」

 

「へぇ…?意外と力あるんですね。まぁ、これくらいなら怖くないんですが……まさかこの程度で終わる訳無いですよね?」

 

 幻魔の挑発的な発言に、女性は左足を降ろして右足で蹴り上げることで答える。もちろん幻魔はその攻撃をくらうことなく、二、三歩後ろの下がる。

 

「じゃあ、次はこちらの番ですかね」

 

 幻魔はそう言うと、今までポケットの中に入れていた手を出す。その手には何の変哲も無いカードが左右4枚ずつ。

 

 幻魔はそのカードを女性に向かって一枚投げつける。女性は一瞬何がしたいのだろうと考えるが、カードがすぐ近くの所に来て、慌てて回避する。しかし、回避が遅れたせいで、完全に避け切る事は出来ず髪の数本がそのカードに当たる。すると、ヒュッ!という風切り音と共に当たった髪がきれいに切断される。そして、カードは減速することなく、さらにその先へ先へと進んで行ってしまう。

 

「あれあれ?気付きましたか?気付かれる要素はほとんどなかったはずなんですけどねぇ?、まぁ良いでしょう。さぁ、どんどん行きますよ?」

 

 幻魔は薄ら笑いを浮かべながら残った7枚のカードを構える。女性はぞわりっ!という感覚が走る。

 

 まずは一枚目。当たり前の様に正面から飛ばされる。狙われたのは心臓部分。女性は左側へと大きく移動し回避。

 

 続く二枚目はカーブを描きながら左側から上半身と下半身を切断するかのように迫りくる。女性はすぐさましゃがんで回避しようとする。が、しゃがむと同時に気付く。三枚目が自分の頭に向かって一直線に飛んで来てる事に。速度を考えるとほぼ同時に来る。女性はしゃがんだまま右に転がり回避。二枚のカードは頭上と左側スレスレを通って行く。

 

 そして、三枚目のカードが地面に当たると同時、ズダァンッ!という凄まじい音を発した。驚いた女性が振り返ると、そこには少し(えぐ)れ、黒く焼け焦げた地面があった。それは爆発したというより、雷が落ちたような跡に近い。

 

「な……っ!!なんて一撃……」

 

「まさか、怖いなんて思ってませんよねぇ?ほら、まだ半分ですよ?さぁさぁ!立ち向かって来なさい!恐怖を押し殺し、無謀なまでの執念で!私を倒す。ただそれだけの為に持ちうる力を全て振るい、限界まで知恵を絞り、私の隙を()いて命を奪うつもりで!さぁさぁさぁ!!その勇気を見せつけてみろぉ!!」

 

 狂気的な笑みを浮かべ彼は四枚目、五枚目のカードを左右対称に、女性のいる所でちょうどぶつかり合うように二枚目の様な軌道を描くように投げる。女性はその二枚のカードにどこか違和感を覚え、すぐさま前へと走る。その数瞬後、二枚のカードはぶつかり合い――――

 

 

 

――――大爆発が起こる。

 

 

 

 女性は爆発自体からはギリギリ逃れる事ができたが、その爆発で発生した突風で飛ばされ、更に吹き飛ばされた無数の細かい石などが当たる。しかし、女性はすぐさま受け身を取って着地し、幻魔へと向かう。

 

 後二メートルもない。幻魔はすぐさま六枚目のカードを投げ――――

 

 

 

――――女性の正面に来ると同時に爆散し、真空の刃が女性の身体を切り刻む。

 

「グッ…!まだ、まだぁ!」

 

 女性はそう言うと同時に右足を思いっきり上げ、幻魔に踵落としをしようとする。幻魔は後ろや左右に移動して避けると思いきや、若干屈んだ状態で逆に女性の方へと近づく。

 

 女性は近づかれた事で足を振り下ろしにくい状況になった。が、すぐさま踵落としから切り替えて幻魔の左腕に足を絡め、軸にしていた左足も上げ、体を強引に反転する。

 

 足を絡めたことで幻魔の身体は女性が動くとそちらの方向へと移動しかける。そして、幻魔が絡んでいる足から腕を抜き取ろうと気を取られていると、幻魔から見て右側から女性の左回し蹴りが飛んでくる。

 

 ドガッ!!という鈍い音を立てながら幻魔は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女性の足を右手で受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 思わず女性が幻魔を見てそう言った瞬間、ドッ!!という鈍い音と共に背中に何かが刺さり、同時に全身が痺れる。

 

「ッ!?そ、んな……あなたは、最後の、カードを、投げてないのに…!?」

 

「えぇ、最後のカードは投げてませんよ。ただ、返って来ただけですからね。さて。これで貴女は動けないと思いますが……それでもまだ続けるというなら良いですよ?」

 

 幻魔は意地悪くそう聞く。女性は悔しそうに顔を歪めるが、すぐに諦め、

 

「私の負けです。煮るなり焼くなりお好きなように」

 

と、降参する。幻魔はそれを聞くと、女性にお姫様抱っこをする。

 

「え?ちょ、なにするんです?」

 

「いや、何をするって言われましても、煮るにしても焼くにしても、ここじゃできませんって。まぁ、煮も焼きもしませんけどね」

 

 幻魔はそう言いつつ最後のカードを女性に押し付ける。すると、女性の傷が、まるで嘘のように消えていく。が、体の痺れだけは消えない。

 

「……何、したんです?」

 

「さっきからそればっかりですね。自分で考えてみたらどうです?まぁ、考えて分からないから聞くんでしょうけどね」

 

「分かってるなら教えてくれても良いじゃないですか!」

 

「面倒だし主人にすら言ってないことを言うわけないでしょう?とりあえず、先にクレアさんの所に寄るかな」

 

 幻魔はそう言うと右足のつま先で軽く地面を叩く。すると、場所は一瞬にしてキッチンへ。そこには一人で料理を作ってるクレアがいた。

 

「クレアさ――――メイド長。少し良いですか?」

 

「ん?あ、幻魔か――――って、どうしたの?その人。怪我とかはしてないようだけど……」

 

「あぁ、侵入者です。ただし、もうすでに動けませんけどね。主人に対応を任されたので一応捕獲という事にしておきました。なので、主人の場所を知りたいのですが…」

 

「あぁ、それなら食堂にいるはずよ。見ての通り料理を作るように言われたからね。ほら。さっさと行ってきなさい」

 

「はい。終わったら戻って手伝いますね」

 

 幻魔はそう言い残し、またつま先で地面を叩いて食堂へと移動する。そこには広い食堂に一人ポツンとプレジールがいた。

 

「ご主人。ただ今戻りました」

 

「ん、幻魔か。君の行動は見させてもらってたよ。そうか。君は分からなければ生け捕りにする側の人物か。まぁ良い。それで、その侵入者の処遇だったか。ふむ。そうだな……彼女には門を破壊されたしな。だが、その程度ならどうにかなるか。じゃあ、幻魔の褒美という事にするか」

 

「……へ?」

 

 プレジールから放たれた突拍子もない一言に幻魔は数瞬固まる。

 

「あぁ、それが良いな。よし。それで行こう」

 

「いやいやいや!ちょ、ちょっと待って下さいご主人。どうして私の褒美になってるんです?」

 

「なんだ?ダメか?」

 

「ダメです。ダメダメです。私がもらってもどうしようもないですから。私がもらう位ならここで雇って下さい。それが一番いいですって」

 

「ふむ。そこまで意見されたらさすがに考え直した方が良いか……」

 

「はぁ、そうですよ。もう一度考え直して――――」

 

「だが断る」

 

 プレジールはキリッ!とした表情ではっきりとそう言い、幻魔は思わずその発言を聞いて数秒フリーズする。そして、

 

「ひ、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 震える声で幻魔は聞く。プレジールはドヤ顔に表情を変えつつ、

 

「なんだ?」

 

と聞く。幻魔は思っているそれを言うべきかどうか悩み、そして、最終的には、

 

「どうして断るんです?」

 

 そう質問され、プレジールは

 

「ふむ。それは…だな。最近君の働きが良いから、ではダメか?」

 

「そ、そうですか?これでもここに来る前の半分くらいしか働いてないんですが」

 

「……そ、そうか…まぁ、それは置いておくとして、本当に君は良いのか?」

 

「えぇ、大丈夫です。それに、いたとしても特に何もさせませんし。渡すだけ無駄だと思います。まぁ、それでも渡したいというなら、先ほども言った様に雇って下さい」

 

「ふむ。そうか。まぁ、そこまで言われたなら――――」

 

「だが断るは許しませんからね」

 

「分かった分かった。雇うから。じゃあ、その、なんだ。君も明日から頑張ってくれ。仕事を教えるのは幻魔。君に任せたぞ」

 

「えぇ、分かりました。ほら、貴女も挨拶位はしなさい」

 

「うぇ?あ、そうですね。明日からよろしくお願いします。ご主人様?」

 

 女性は若干状況の変化について行けなかったが、とりあえず雇われる事になったようなので、幻魔に促されるまま挨拶をするのだった。

 

「……そういえば幻魔。よくよく考えると私は自己紹介をしてないのだが?」

 

「……あ。そういえば私もこの人の名前を聞いてませんでした」

 

「確かに一度も名乗ってませんでしたね。これは失礼しました」

 

 プレジールの言葉に誰一人として名前を知らなかったのだという事に気付く。

 

「あ~、まずは私からしよう。私の名前はプレジール・スカーレットだ。よろしく頼む」

 

「では次は私ですかね。私の名前は黒焔幻魔です。よろしくお願いします」

 

「えっと、私は(ほん) 美鈴(めいりん)です。これからよろしくお願いいたします」

 

 そんな感じで、自己紹介は終わった。

 

 

 

 

 ちなみに余談だが、幻魔は門の前で美鈴を抱き上げてからたったの一度も地面へ降ろしておらず、つまり終始お姫様抱っこ状態だった。誰か突っ込んでくれる者はいなかったのか。どう考えても失礼だろうと。「まぁ、プレジールさんが気にしてないんだから良いんじゃないの?」…クレアさん、そう言う問題ではないと思う。

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