東方変幻録   作:大神 龍

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第三十二話

 先に動いたのは幻魔。

 

 瞬時に勇儀の眼前へと転移すると、両手のナイフで斬りかかる。

 

 だが、勇儀は避けようともせずに力の籠った右拳を振るう。

 

「ッ!!」

 

 さすがに避けようともしないのは予想外だった幻魔は、しかし、咄嗟にカードをばら撒き、そこに勇儀の拳が入ると同時に爆発が起こる。

 

 耳が痛くなるほどの爆音に勇儀はもちろん、見守っていた全員が顔をしかめる。

 

 爆発と共に現れた黒煙を勇儀が腕を一振りすると払われる。が、その先にはすでにナイフを振り下ろしている幻魔。

 

「ッハァ!!」

 

 瞬時に勇儀は払った腕とは逆の腕で幻魔に殴り掛かる。

 

 ドゴォ!!と轟音を響かせ、勇儀の拳と幻魔のナイフが衝突する。

 

 数瞬動きが止まるが、二人はすぐさま次の攻撃を放つ。

 

 勇儀は空気を押し飛ばしながら砲弾の様な凶悪は一撃が放たれる。

 

 幻魔は勇儀が足を動かした事に気付いた瞬間に体を捻り一回転しながらその回転力を利用した一撃を加える。

 

 だが、ナイフは当たる寸前に肘を落とされてナイフが落ちる。

 

「チィッ!!」

 

 しかし、幻魔は止まる事無くそのまま回転し、回し蹴りを放つ。

 

 それは見事に背中に当たるが、瞬時に反転した勇儀に足を掴まれ、地面に叩きつけられる。

 

「ッァ!!」

 

 肺の中にあった空気が全て外へと逃げ、幻魔は呼吸が出来なくなる。

 

「まだまだぁ!!」

 

 笑いながら勇儀は幻魔を持ち上げ、渾身の拳が叩き込まれる。

 

「グゥァ…!!!」

 

 避ける事すら出来ず、幻魔はその拳を腹部に重く叩き込まれる。

 

 何度も地面をバウンドし、最後には木に当たって止まる。

 

「……『現想』解放。今はこれで十分。まだ他のは使うべきじゃない…」

 

 幻魔はゆらりと立ち上がり、両手にナイフを持つと――――

 

 

 

 

 

――――消える。

 

 

 

 

 

 全身を震わす恐怖。それを感じたのは勇儀だけではない。周りを囲んでいた鬼も同じで、その中の力の弱い鬼はその恐怖に耐えられずに倒れて行く。

 

「どこに――――」

 

「――――後ろだ」

 

 シャリンッ!!と金属同士が擦れる音がし、それと共に勇儀は体中に無数の傷を作る。

 

「ッ!?」

 

 挙動音は無かった。足音も、気配も、匂いも、何もかも。勇儀は振り返るが、()()()()()

 

 再び前を向くが、やはり誰も居ない。だが、今度は気配があった。

 

 じわり、じわりとこちらへと近づいてくる。

 

 音が聞こえる。ザザザ…ザザザザ…と、ノイズの様な音。ペタリ…ペタリ…と、水気を含んだ足音まで聞こえ始める。

 

 精神も強靭なはずの鬼。だが、その鋼の如き心をまるで溶かすかのような恐怖。じわりじわりと近づいてくるその気配は、その類の訓練をしていない限り、耐える事は難しい。

 

「…ケ……テ……」

 

 掠れた様な声。何かを求めているかのような寂しげな声。

 

「…?なん…だ?」

 

 勇儀はその声を聞き、体を震わせながら()()()()周囲を見渡す。

 

「タ……ケ……タス………テ…………」

 

 ぽつん。と、突然黒い何かが現れる。

 

「誰だ……そこにいるのは、誰なんだ……来るな……来るなぁ!!」

 

 黒いソレは次第に大きくなり――――

 

「ク…クケケ……クケハハハハハハハ!!!!!!」

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

 ズドッ!と響く鈍い音。それは精神的に追い詰められた人物を気絶させるには十分。

 

 よって、彼女は意識を手放すのだった。

 

 

 * * *

 

 

 幻魔は虚空から出現し、軽い足取りで着地し、いつの間にか持っていたシルクハットをかぶる。

 

「これにて『劇』は仕舞い。ご清聴をありがとう」

 

 そう言って幻魔が地面にナイフを投げつけ、刺さると同時に世界が砕け散る。

 

 

 * * *

 

 

 砕け散った世界は幻術。だが、幻術だったのは勇儀の視界からあらゆる生物を消し去り、偽の気配とノイズ音。足音に黒い何かだけで、残りは現実。ただ、最後の音は勇儀を傷つけた音ではなく、幻魔が自分の腕を刺した時のモノ。

 

「さて、これで勇儀は終了。後は鳳花。お前か?」

 

「……そうだね。私の番さ。全力で相手し――――

 

 

 

 

 

 

 

 ズドンッ!!と爆風と轟音を携えて何かが落ちてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「鳳花?何面白そうなことやってるのかしら?」

 

 金色の髪。その髪についているのは赤いリボン。

 

「ありゃりゃ…ばれちまったか。ちょっと不味いな…」

 

 黒い袖なしの服の下に白のブラウスを着ており、黒のスカート。赤いネクタイも付けていた。

 

「それで――――この人間は?」

 

 深紅の瞳で幻魔を見る少女。

 

「……黒焔……幻魔」

 

「……ルーミア。よく『宵闇の女王』なんて呼ばれるわね」

 

「……何の用だ?」

 

「何って、面白そうだから来ただけよ?問題ないでしょ?というか、貴方達の方が何をしていたのよ」

 

「そりゃルーミア。あんた達が二人でこの山に来た時と同じ事さ」

 

「鳳花?その場合の『二人』は禁止ワードよ?死にかけたいのかしら?」

 

「あ、いや、その…すまん。っていうか、それ以外に簡潔に説明出来るモノがないんだが?」

 

「それもそうね。じゃあ許すわ。で、この子が迅真の代わりって事ね」

 

「……待て。迅真?それって、薙浪迅真か?」

 

「……だとしたら?」

 

 一瞬にして周囲の温度が下がる。

 

「居場所を…知っているのか?」

 

「……人間。それ以上は殺すわよ」

 

「…なら、あいつは……『生命の掌握者』って、呼ばれていたのか?」

 

「……鳳花。ちょっとこの人間借りるわ」

 

「え、あぁ、分かった」

 

 鳳花は驚きながらも了承する。すると、ルーミアは地面から突如吹き出した闇に手を突っ込み、中から札を四枚取り出し、右手の親指の腹を噛み切ると、出て来た血で結界を濡らし、上空へと投げる。

 

「……なんでその結界を持っている」

 

「それは貴方が考えている通りではないかしら?それと、これ以上の事を私から語らせたいのなら、本気で来なさい。封印を解くほどの相手なら教えてあげても良いわよ」

 

「……なら、やらせてもらう」

 

 幻魔は瞬時に回復すると、右手だけにナイフを持って突撃する。

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