それは、夏の昼ごろの事だった。
「そろそろ出て行くぞ」
「は?」
唐突だった。
幻魔は骸鬼にそう言い、立ち上がる。
「ふぅん…じゃあ、見送りしないとね」
なぜか毎日来ていたルーミア。
ちなみに、すでに数十年と経過している。
その間、特に何かあった訳でも無く、ただぼんやりと過ごしていただけだ。
「いつ行くの?」
「もう行こうかと考えてたんだが…今の時間帯は向こうは深夜。別に行っても良いんだが、そろそろ寝る頃だからな。どうせなら向こうが夕暮れ時くらいが良いかと思って」
「なるほどね。それで、結局いつなのよ」
「深夜12時~1時だな。まだ時間はある。それで、何かしようと考えてたんだ」
「なぁ、それさ。お前の寝る時間がすごい事になりそうだぞ?」
「問題ない。そこらへんは能力でどうにかなる」
「そう言う問題じゃないって。貴方の精神がそれで良くても、貴方の身体はどうなのよ」
「そんな事を言われても、どうにかするしかないだろ。それに、これ以上世話になるのも悪いしな」
「そうか。じゃあ、とりあえず今は休んでおけよ。昼寝でもしてりゃあ夜に出て行っても元気でいられるだろうよ」
「それも、そうか。なら俺は寝かせてもらうよ」
そう言って、幻魔は外へ出て行く。
「…ルーミアさん?最近良く飯を食べに来てますが、鳳花姐さん困ってません?」
「ん~…羨ましがってはいたわね。『なんでお前だけ行くんだよ!』って。だったら一社に来たらいいのに。って言ったら『それは恥ずかしくて無理だ!!』って文句言うからいつも置いて来てるわ」
「えぇ~…姐さん、何やってるんですか…」
「萃香も勇儀も同じだと思うけどね」
「いや、なんであの二人も?」
「…三人とも、骸鬼が相手とか、骨が折れるわねぇ」
「え!?なんで!?なんで俺呆れたような目で見られてるの!?」
「分からないなら諦めなさい」
「や、やめてくれ!そんな目を向けないでッ!?」
とても意味深な笑みを浮かべるルーミアに、悲鳴を上げる骸鬼なのだった。
* * *
「おや。何をしているんだい?」
「あぁ、鳳花達か。別に、散歩をしてるだけさ」
「そうかい。じゃ、私は骸鬼の家にでも行って来ようかね」
「心が折れないように頑張れよ。あの鈍感に気付かせるには強引なくらいがちょうどいい」
「「「え?」」」
鳳花、萃香、勇儀は同時に振り返り、去って行く幻魔の後姿を見つめるのだった。
* * *
「幻魔さん?何をしているのです?」
「ん?あぁ、文か」
「あれ?私、名乗りましたっけ?」
「……知ってるって事は、たぶん名乗ったんだよ。そういう事にしておけ」
「はあ…?まぁ良いです。幻魔さんがそう言うのならそうなんでしょう。憶えてない私に反論は出来ません」
「あぁ、それでいい。で。私が何をしているのか。だったな」
「えぇ。そうですそうです。珍しくこんな所まで足を運んでいるのが気になって」
文が言うこんな所というのは、滝のそばにある岩場、という事だ。
「前に来た時に気に入ってな。ここだと景色がかなり良いんだ。文もここに来てみれば分かる」
言われるままに文は降りてくる。
「ん~…確かに景色は良いですが、少し肌寒くないですか?」
「そりゃ、これだけ大きな清涼剤があればな」
幻魔が指差すのは真横にある玄武の沢の大滝。
「むむむ…でも、まだ本格的な夏には入ってませんからね。ここはもう少し経ってから来るようにしましょう。私にはちょっと無理です」
「そうか。じゃあまたな」
「えぇ。また会いましょう」
文はそれだけ言って飛んで行ってしまう。
「慌ただしいな。さて。じゃあ寝るかな」
幻魔はそう呟き、壁に寄り掛かって昼寝を始める。
* * *
「……~ぃ…………~い……お~い、起きろ盟友」
「んあ?」
頬を叩かれて目が覚めると、すでに周りは暗く、そばの滝の音が心地よい音を出しており、夜空には星々が美しく輝いていた。
「まだ寝ぼけているのか盟友」
「あ~……にとりか?」
にとり。そう呼ばれた少女は幻魔から離れると、ため息を吐く。
「盟友。何をしてるんだい?もう夜遅くだよ」
「あぁ、そりゃすまない。昼寝をしてたらすっかり熟睡してたみたいだ。起こしてくれてありがとう」
「礼には及ばないよ。盟友には良く助けてもらうしね」
「何かした覚えはないんだが…まぁ良いか。それで、用があったのか?」
「いいや?何もないよ。ただ、盟友がここにいるのを見かけて見に来ただけ。ダメだったかい?」
「いや、大丈夫だ。むしろ助かったよ。寝過ごしたら意味ないからな」
「どこかに行く予定だったの?」
「ここに来る前の場所へ。あくまでも旅行だからな。むしろもっと早く戻った方が良かったんだろうさ。さて、にとり。これからしばらく会えないだろうが、お前がいつかとんでもない発明をするのを待ってるぞ」
「言われなくても、もちろんやるさ」
二人は拳を出しあい、軽く小突くと、
「じゃあな。また会おう」
「うん。またね」
幻魔はそう言って転移するのだった。
* * *
「ただいま」
「お帰り」
返事をしたのは一人。骸鬼だけだ。
「行くのか?」
「行くよ。一応挨拶はした。もし誰かに俺の居場所を聞かれたら、適当に答えておいてくれ」
「あぁ、分かったよ。じゃあな幻魔。またいつか」
「またいつか」
それだけ言い残し、彼は消え去った。
にとりと何時出会ったんだって?……それはまた別の機会で…