東方変幻録   作:大神 龍

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第四十六話

「我が主。ただ今帰還しました」

 

「良い。そんな堅苦しくせんでも良いだろう」

 

 プレジールの執務室で幻魔が跪きながら言うと、椅子に座るプレジールは嫌そうに言う。

 

「では、そのように」

 

 幻魔は立ち上がる。

 

「はぁ…なんというか、変わらんな。幻魔は」

 

「ご主人は、少し老けました?」

 

「なぜそこだけ失礼なんだ。他に言葉は無かったのか」

 

「ありませんね。ただ、老けたというより、成長した、という方が似合う感じですね」

 

「……どういう意味だ?」

 

「心境に何か変化があったのでは?」

 

「…見抜かれるとはな」

 

 プレジールは驚きを超えて呆れながらため息を吐く。

 

「それで、何があったのです?」

 

「まぁ、屋敷の中を散策すれば分かるさ。誰が何所に居るかくらいわかるだろう?」

 

「それはそうですが…まぁ、ご主人がそう言うならそうしましょう。では、これで」

 

 幻魔はそう言うと、一瞬にして姿を消す。

 

「……そんなに分かりやすかったか…?」

 

 プレジールは少し考え、まぁ、幻魔だから仕方ないな。と結論付けた。

 

 

 * * *

 

 

「お久しぶりです。クレアさん」

 

「あら幻魔。帰って来たの?」

 

 キッチンで食材を置きながらクレアは返事をする。

 

「あっさりとしてますね。まぁ、それくらいで良いんですが」

 

「帰って来るなら連絡くらい欲しかったんだけどね」

 

「それは…そうですね。配慮が足りませんでした」

 

「全く。今日たまたま買い物に行ってたからどうにかなるけど、本当に連絡はしなさいよ。雪花がずっと『幻魔さん大丈夫かな?』って言い続けてたんだから。見に行ってみなさい。かなり変わってて、一瞬誰?ってなるわよ」

 

 クレアは楽しそうにそう言い、作業に戻る。

 

「手伝いましょうか?」

 

「挨拶が終わったらね」

 

「そうですか。では、美鈴の見舞いに行ってから雪花の元へと行きます」

 

「焦らすねぇ」

 

「それが私ですよ」

 

 幻魔はそう言うと、消える。

 

「全く。見た目が全然変わらないんだから。ま、私も人の事言えないか」

 

 クレアはため息を吐くと、料理を作り始める。

 

 

 * * *

 

 

「それで私の所なんですね」

 

「まぁ、そういう事だ」

 

 怪我などでへとへとな美鈴は、ベットで横になっていた。

 

「そこは嘘でもお前が心配だったって言ってくれた方が嬉しいんですけどね」

 

「もちろん心配だったぞ。それで働けなくなったのならどうやって門を守るんだ」

 

「門番としての腕は買われてるんですね」

 

「あれだけ成長してたらな。美鈴が良いのなら手合せをしても良いぞ?」

 

「そうですか?なら、今度お願いしますね。今はさすがに疲れ果ててるので」

 

「そうだな。傷くらいは治しておこう」

 

 幻魔はそう言うとカードを美鈴に押し当て、

 

「ほら、治ったぞ」

 

「久しぶりに見ましたね。そのカード」

 

「懐かしいか?」

 

「えぇ、最後に見たのは幻魔さんがいなくなる直前ですからね」

 

「そうか。それなら確かに久しぶりだな」

 

 幻魔は下がると、

 

「さてと。元気そうだし、そろそろ行くかな。しっかり休んで明日も頑張れよ」

 

「えぇ、しっかり治しますよ」

 

 幻魔はそれを聞くと、消える。

 

「はぁ、変なところで心配性ですよね」

 

 美鈴はそう呟き、だが、そんなところが良いと思っている自分に苦笑した。

 

 

 * * *

 

 

 日は沈み、夜空が星々で美しく彩られる。そんな空を椅子に座って見上げる女性は、外から吹いてくる風で揺らめく蝋燭の火を煩わしく思う。

 

 だが、その蝋燭の光でもう一つの人影が生まれると同時、勢いよく振り返る。

 

「幻魔さん…?」

 

「あぁ、私だよ。雪花」

 

 懐かしい恩人。何十年も帰りを待って、やっと帰って来た。昔と何も変わらずに。

 

「随分と変わったな」

 

「色々…ありましたから」

 

 最後に会った時の様な少女の様な無邪気さは見当たらず、落ち着いた大人びた雰囲気が漂う女性へと成長を遂げていた。

 

 そこで、幻魔は雪花の腕の中の二人の子供に気付く。

 

「その子供は…」

 

「私の子…というか、私達の子、ですね」

 

「……そうか。子供までいるのか。それはさすがに予想してなかったな」

 

「人間やめちゃいましたしね」

 

「…それで、目が紅いのか」

 

 深紅に輝くその双眸は、吸血鬼と同じ気配を漂わせていた。

 

「つまりは、その子供たちも吸血鬼なのか」

 

「えぇ、そうです」

 

 青髪の子と、金髪の子。雪花と同じ青髪の少女の方が歳が上なのだろう。明らかに大きい。

 

「能力はあるのか?」

 

「えぇ。イーラ様が教えてくれました。青髪のこの子――――レミリアが、『運命を操る能力』。金髪のこの子――――フランが、『ありとあらゆるものを破壊する能力』だそうです」

 

「なるほど…二人の能力を中途半端に分解した感じなのか」

 

「えぇ。って、私、プレジール様が夫だと言った覚えはないんですが?」

 

「話の流れからしてそうだろう?それとも違うか?」

 

「いえ、その通りですが……何か納得いきません」

 

「そんな事言われても困る。私は単に予想しただけだ」

 

「むぅ…まぁ、言う手間が省けたので良いですが。それで、見回りだけですか?」

 

「あぁ、挨拶回りだけだ。終わったらクレアさんを手伝うつもりだよ」

 

「そうですか…では、プレジール様に言われて動けない私の代わりに頑張ってください」

 

「あぁ、任せておけ」

 

 幻魔は笑顔でそう言い、蝋燭の火が一瞬大きく揺れると同時にそこからいなくなる。

 

「……はぁ、最初に会った時からほとんど変わってなかったな…幻魔さん。別に後悔は無いんだけどね」

 

 言ってから、自分は何を言っているのだろう。と思う雪花。

 

 だが、幻魔が帰って来た事でまた何か始まるのではないか。そんな事を考えるのだった。

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