時間は進み翌日。昨日のようにプレジールに言われ、幻魔は夕暮れ時に大広間にいた。
「えっと、今日の相手は予想通りクレアさんなんですね」
幻魔の前にはいつものメイド服姿のクレアだった。そして、少し離れた所からプレジールが二人の事を見ていた。
「まぁ、プレジール様に言われちゃったからねぇ。それに、私とプレジール様以外に戦える人は居ないしね」
「…今更ですけど、クレアさんはもう少し堅苦しい人だと思ってました」
「本当に今更だね……とりあえず、早く終わらせちゃおう?そうすれば夜までは休んでて良いらしいし」
「え?そんな事言われてたんですか?私聞いてないですよ?」
幻魔の言葉でクレアの表情が固まり、ギギギッ……といった音が聞こえそうなくらいぎこちなくクレアは顔を背け、
「ヤバい、言っちゃった」
ぼそりとそう呟く。それが聞こえた幻魔は、
「あ、あぁ、なるほど。そういう事ですね。まぁ良いです。どの道私もそうするつもりではいましたから」
おそらく自分が代わりに扱き使われるんだろうなぁ……と思いつつそう言う。
「へ?そうするつもりって?」
「察してください。とにかく、始めますよ?」
「あ、了解。いつでも良いよ~」
そう言うと同時、いつの間にかクレアの手には包丁があった。だが、幻魔は特に驚くことも無く虚空からいつもの箒を取り出す。
「そう言えばその箒、どこにあったの?私はそんな箒見た覚えは無いんだけど……」
「あぁ、自前です。ここに来る時に無くなってなかったみたいなんで」
「なるほどね。それで、来ないの?」
「そうですね。じゃあ行きますよ」
直後、幻魔の姿が霞み、気付いたらクレアの懐に潜り込み、箒を振り上げる。それに対しクレアは、
「えいっ」
包丁を軽く振り下ろし箒を止める。
「ん~……まだまだって所かな?まぁ、これが本気だったらの話だけどね」
「あはは……本気ならこの時点で三連鎖はさせてますよ」
「そうだよね。やっぱりそれくらいじゃないと張り合いないものね」
そう言うとクレアは幻魔を蹴り上げる。
だが幻魔はすぐに右側に移動し回避。直後いつの間には取り出していたトランプを二枚投げ、全力で後ろに下がる。
瞬間。トランプ同士がぶつかり炎の竜巻が生まれ、クレアが巻き込まれる。
「あっ!やり過ぎ――――」
幻魔が思わずそう呟き行動が止まったと同時に背中に衝撃が走る。
「今の攻撃でやられちゃうようなやわな体はしてないわよ」
声が聞こえた瞬間箒を背後へと振るうが当たった感触は無く、すでにクレアは離れていた。
「想像以上の回避力ですね……これはいつも通りに戦わないとダメかな?」
「それ、バカにし過ぎじゃない?まぁ、普通の人間にはまず回避できないだろうけど」
それを遠くから見ているプレジールは若干涙目になっているが、二人はその事に気付いていない。
「むぅ、やっぱり私には自分と力量差を図るのは苦手ですね……」
「まぁまぁ。とにかくもう少し楽しもうよ」
「そう……ですね。この先暇なら派手に暴れちゃいましょう。片付けは私がしますしね。じゃあ行きますよ」
幻魔はすかさずカードを一枚投げる。クレアはそれ読んでいたようにひらりと左へ避け、右手に持っていた包丁を幻魔に投げる。
その包丁を幻魔が箒で払う。しかし、それは同時に箒が視界を埋め尽くし――――次の瞬間には両手に包丁を持って懐にクレアは潜り込んでおり、直後振るわれた二本の刃は不可避。
ただし、それは常人の話だ。
幻魔は刃が当たる直前まるで幻覚だったかのようにふわりと消え、それと同時に背中に一枚、二枚と刺さる。同時、クレアの事を鎖が縛り、全身に電流が走る。
それによりクレアは一瞬行動が止まるが、すぐさま鎖を破壊し、背後に回っていた幻魔に向かって左手の包丁を投げると同時に足払いをすると幻魔の体勢が崩れ、包丁が幻魔に向かい――――
背後から来たカードに弾かれる。
「ん~……普通に素手攻撃も入れた方が良いかな?」
幻魔はそう呟くと、すかさずクレアを蹴り上げる。クレアはそれを残っている右手の包丁で防御するが、蹴りが当たると同時に包丁に電流が流れ、腕が痺れる。
しかし、腕が痺れたにも拘らず蹴りを逸らし、その勢いを使って回転しながら幻魔に切りかかる。幻魔はそれに対しクレアの右腕を掴んで止め、左拳をクレアの鳩尾に放つ。
ドッ!という鈍い音がした瞬間、ボンッ!という爆発音がし、クレアは吹き飛ぶ。その腹の部分から煙が上がっており、鳩尾部分は焼き焦げている。
「手加減はしたけど……やっぱり服が燃えるのは仕方ない……のかな?」
すると、クレアが普通に起き上がり、とぼとぼとこちらに歩いてくる。
「いやぁ……意外に強いんだね。まぁ、それくらい出来ないと初日辺りで倒れてただろうけども」
「あはは……っと、とりあえず、これで終わりで良いんですか?」
「ん~……良いんじゃない?少し疲れたし」
「そうですか。あ。その、クレアさん。すいません。服を燃やしてしまって」
「え?あぁ、これね。大丈夫だよ。後で直しとくから」
「あぁ、いえ、今直しますので少し動かないでいただけますか?」
そう言うと幻魔はクレアに近づくと、カードを一枚取り出し、クレアの腹部に当てる。すると、カードが伸びたと思ったら焦げている部分を覆い、一瞬のうちに服と同化する。
「おぉっ!綺麗に直せるものだね……これも能力なの?」
「えぇ、一応。意外とこの能力、使い勝手が良いんですよね」
「ん~……そろそろ能力を教えてくれても良いんじゃないの?」
「……そう、ですね。別に隠すつもりは無かったんですが、なんだかんだ言ってませんでしたからね」
「ほう?幻魔の能力がやっと分かるのか。それは気になるな」
ふと隣から声をかけられる。そちらを見ると、プレジールがいた。
「ご主人。降りてきてたんですか?」
「あぁ、気になったものでな」
「そうですか。じゃあ能力名についてお答えしましょう。私の能力は――――」
幻魔は一拍置き、
「――――あらゆるモノを変幻自在に操る能力です」