「最近、やる事がありませんね…」
「掃除すれば?」
二百年ほど経ったある日、ボソリと呟いた幻魔の言葉にクレアが突っ込む。
「すでに掃除は終わってるので、暇なんですよ…」
「リブラちゃんは?」
「図書館の机で寝てます。昨日無茶をして賢者の石を大量生産して魔力が枯渇してるのが原因なので、起こせないんですよ…」
「それじゃ仕方ない。で、そのせいで幻魔は暇なのね?」
「そういう事です」
なるほどねー。と納得しながら、クレアは試作していたクッキーを一口食べる。
「ん~…もうちょっと焼いてみても良かったかな?」
「後10秒くらい焼いておけばちょうどいい感じでしたね」
「思ってたなら言ってくれていいのに」
「言おうとした時にはすでに開けてたじゃないですか」
「おぉ、それもそうね。まぁ良いけど」
「何度か作れば片手間でも作れるようになりますよ」
「まぁ、そこまで余裕ができるくらいに繰り返せばね」
幻魔はオーブンからクッキーを取り出し、机の上に置く。
「その本はリブラちゃんの新作?」
「えぇ。今回は魔法使いを主人公にして世界を冒険する話だそうです」
「ふぅん?ねぇ、この前の奴は?ほら、あの謎解く奴」
「あぁ、あれですね。アレはこの前完結して、今は図書館の東階段を上がった所の目の前の本棚から右に三つ行った本棚の下から8段目だった気がします」
「良く覚えてるよね…私には無理かな」
「そうですね…リブラは完全に把握しているらしいですが、私には今も増えてるあの本を把握するのは無理です」
「リブラちゃんすごいよねぇ…」
完成した幻魔のクッキーを一つ口の中に放り込み、サクサクとした食感と共に広がる甘い味に満足しつつ、先ほどの幻魔の助言をメモしていく。
「それで、我がままお嬢様達はどうしたの?」
「レミリアお嬢様もフランお嬢様もご就寝中ですよ。分かっているでしょう?」
「そうなんだけどね~。でも、フランお嬢様だけは幻魔しか相手出来ないじゃない?久々に顔を見たいんだけどね~…」
「仕方ないですよ。未だに能力を制御できませんし」
「イーラ様と一緒の部屋だったら会いに行けるんだけどね~」
「プレジール様の命令ですからね…逆らえませんよ」
「だとしても強引にもう一つ部屋を作ってイーラ様以上に強固な封印をかけるのはやり過ぎだと思うんだけどね~」
「イーラ様を防衛壁としてるから大丈夫だと思いますけどね…面白がって外に出そうとしない限り」
「あ~…やりそう」
一番不安な人だ…と思いつつも、何も出来ないのが現状である。
「それにしても…本当に暇だよね~…買うモノもないし」
「全くです。やる事なんて、こうしてお菓子を作るくらいですよ」
「バリエーションが豊富で良いわ。一体どれだけレシピを知ってるのよ」
「何となく憶えているくらいですからね…試行錯誤しながらですよ」
「それでちゃんと美味しいから問題ないわ。まぁ、遊び半分で作ってるからここだけの秘密状態だけど」
「それで十分ですよ。むしろこれ以上広まったら困ります。まぁ、リブラも知ってますが、ご主人達に知らせる様なものじゃないです。気に入られても困りますし」
「幻魔って本当に面倒な事を全力で回避するよね…潔くて素直に感心するわ」
「褒め言葉として受け取っておきますね」
「そう言う受け取り方をするところも嫌いじゃないわ」
呆れを含んだため息を吐き、クレアは立ち上がる。
「そろそろコレも良い感じじゃないの?」
「そうですね…たぶん大丈夫です」
「ふっふっふ…じゃあ完成って事で大丈夫ね!」
「えぇ、良いと思いますよ」
「やっほーぅ!ついに完成!!」
鉄の型に入ったそれを皿の上でひっくり返し、そこの部分を何度か軽く叩く。
何かが滑り落ちた感覚があった後、型を外し――――
プルンッ!と黄色の身体に、茶色い液体がかかり、美味しそうに彩る。それは正にプリンだった。
「いやぁ…まさかコレを作らされる羽目になるとは思わなかったです」
「むしろこのためだけのお菓子作りよ!」
ドヤ顔でクレアは言うが、それに付き合わされた幻魔の事は考えていたのだろうか。
「それで、これで終わりですか?」
「まぁね~。一応私の目的は終わったわよ。これからちょっと散歩でもしようかと思うけど、どうする?」
「そうですね……私もそうしましょうか」
取りあえず、片づけをしないといけないので、作り終わったばかりのプリンを食べ、食器や道具を洗っていく。
「そう言えば、なんで突然にお菓子作りを?」
「ん~?甘いものが食べたかっただけだよ?どうせなら幻魔にも作って貰おうと思ったから巻き込んだだけ」
「かなり雑な理由で私は捕まってしまったんですね…」
「まぁまぁ。別にいいじゃない。良くある事でしょ?」
「その言葉をとても否定したいですが、その通りなんですよね…」
この前はプレジールに甘いものが食べたいと言われ、渋々ケーキを作ったのは良く覚えている。
「はぁ…よし。片付けも終わりましたし、行きましょうか」
「おー!」
そうして、二人は館の外へと向かうのだった。