感染 番外編   作:宇宙人と呼んで

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逮捕

 ある光景を見て、前にも見たことがあると錯覚する経験をしたことはないか?記憶の中にある昔の映像と、見ている映像が脳で一致しているのだが、その昔の記憶の詳細を思い出せない場合に生ずる違和感、いわゆるデジャヴという現象だ。

 だが、それよりも厄介なのが、夢で見たことが現実に起きることだ。夢には不思議な力がある。

 こんな事件があった。孤児院で育てられていた少女の夢に、知らない女が現れ、毎夜、私はどこどこで殺されたと訴えかけてくる。その孤児院の経営者にとっても眉唾物の話しだ。しかし、あまりにも少女が困っていたのを見かねて警察に相談し、現場に赴くと、そこで何が行われていたのか、聴かなくても理解できる惨状が広がっていた。

 実際にあった凄惨な事件だ。

 昔から不思議だった。どうしてこんなことが実際に起きているのか。世の中にいる学者が揃って首を捻るような事態が、なぜあるのか。

 加えて、こんな事件もあった。

 オスカー・スレイター事件を知っているか?

 スコットランドで発生した殺人事件だ。裕福な老婦人が撲殺され、オスカー・スレイターが国外逃亡犯としてアメリカで逮捕された。スレイターは一貫して無実を主張したが、裁判では多数の目撃証言を決め手として有罪とされ、死刑判決を下された。

 しかし、裁判に対する疑問から集まった助命嘆願によりスレイターは終身刑に減刑され、作家コナン・ドイルを始めとした多くの著名人も事件の冤罪を訴えてスレイターを支援した。

 捜査に加わっていた現職警官も真犯人の存在を指摘する内部告発を行い、政府による事件の再調査も行われ、スレイターに対する有罪判決は覆らなかったものの、その後重要な目撃証人たちが相次いで証言を撤回し、冤罪を訴える声が高まったことにより政府は事件に対する控訴を認める特別法を定めた。そして、事件発生からおよそ20年が経過し、スレイターは控訴審で無罪判決を受け、事件は冤罪と認められた。

 不思議に思わないか?そう、俺は、これを集団デジャヴの一種だと考えた。要するに、脳ってやつは騙されやすいんだ。誰かが見たから、自分もその場にいたように思う。思い込みってやつだ。

 誰かが言い始めたことに、偶然、その時間に外を見た奴が、俺も私もと口を揃えて手をあげる。

 滑稽だよな?馬鹿馬鹿しいと一笑してやりたい。

 俺は、腹がむず痒くなり、低い声で笑みを漏らした。拘束具に縛られた身体は、口以外に動かすことができない。そんな不自由な状態にも関わらず、愉快で堪らなかった。

座り心地の悪いシートに揺られるのも案外悪くない。余計なことばかり考えられる。

 

「東、少し黙れ」

 

 隣に座る警官が俺を見ずに鋭く簡潔に、そう口にした。

 

「おいおい、そりゃねえだろ?こっちは指先すら動かせないんだぜ?アンタが俺の話し相手になってくれんのか?」

 

 わざとニヤニヤと唇を歪ませてみせた。若い男だ。どこまでも実直に職務を全うしようとする姿勢がある。

 そういう奴に限って言う言葉は決まっている。

 

「ふん……そういう話は、自分と同じような奴に……」

 

「話してろ。どうせ俺には理解できない。理解したくもない、か?」

 

 若い警官は、俺に化け物でも見るような目を向けてきた。その間抜け面が俺の笑いを誘う。

 

「ひゃっはははははは!良いねえ!良い表情じゃねえか!泣くの?泣いちゃうの?ねえ!」

 

 男は、短い悲鳴をあげて上半身をそらした。心理的に観察すれば、これは恐怖だ。少しでも距離をおきたい、この場から離れたい、その一心が窺え、俺は晴れやかに破顔して耳元でこう言ってやった。

 

「お前の表情、この前、俺が殺した奴と同じだぜ?」




番外編はじめます
不定期更新の可能性が……
これだけ書くのに何時間費やしたよ俺……w
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