安部が初めてここにきた日から、早一週間が過ぎた。
その間、国の偉い奴、警察の上層部、と様々な奴等が俺に会いに来ては、変わらない事を口にして帰っていく。その繰り返しは、俺に退屈ってやつをゴミのように積み重ねていった。全く、ここは地獄か何かか?
いや、まてよ。一人だけ面白い奴がいたな。自身を精神科医と名乗った男だった。なにやら、世界に名を馳せているらしく、最近、海外のスラムで流行している麻薬が引き起こしている食人行為についての話しをしたいから会ってくれと連絡があったそう だ。
そのとき、俺は、床に転がったまま、鼻を鳴らして言った。
「俺が行ってどうすれば気が済むんだ?ここに来てから、もうすぐ二週間……そろそろ、そっちも余裕がなくなる頃じゃねえの?退屈を凌げるでもねえ……それにな、そんな奴なら以前に会ってる」
伝えにきた若い警官に背中を向けて、目を閉じた。俺に会いに来た奴等は、大抵、同じことしか言わない。
一つは、俺が犯してきた犯罪についての判断に時間を喰われている、もう一つは、俺に強い興味を抱いている、ただのそれだけだ。
今回も、その手の類だろうと無視を決め込んでいたが、責任感の強い警官がどうにも放れようとせず、ごちゃごちゃと喋り続けやがった。募らせた苛立ちを発散する術を考えている内、誰かが近付く音がし、俺の背中に声を掛けた。
「やあ、君が東さんかい?」
随分と通る若い声に、俺は首だけを上げて目線を寄越した。歳にして、三十代半ばといったところだろう。これには正直、驚いた。世界に名前を知られているというには若すぎる。天才と呼ばれるタイプの人間なのか。俺は、軽く欠伸をして、上半身を起こす。
「随分な礼儀知らずだなぁ?誰だ、テメエはよぉ」
何もかもにおいて、失敗を知らねえといった自信に満ちた表情が癪に触る男だった。着ている服はブランドのスーツ、腕から覗く時計も高級ブランドに名を連ねるメーカー品だ。どうにも胡散臭い笑顔を携えた男を制止するように、若い警官が声を荒げる。
「どうしてここにいるんですか!ここは、関係者意外の立ち入りは……」
「許可は貰っています。どうぞ、確認を」
A4用紙ほどの大きさがある書類を鞄から出し手渡す。若い警官の視線が紙面に落とされ、左から右へ流れていき、男に対し一つ敬礼を挟み、男の背後に回り頷いた。
「ありがとう」
そして、俺に向き直るや否や口を開く。
「初めまして。俺は、長浜という者で、一応、精神科医をしている」
「精神科医?ああ、さっき後ろの警官が言ってたのは、アンタのことかよ」
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