要するに、こいつは人間の根本は善であると言いたいらしい。それも、精神を話しの軸に置いて、理想を詰めていき、そうして、自身の安全を確保する為に俺を選んだと、つまりはそういう意味だ。
まるで禅問答、いや、それ以下のやり取りになりそうだと、俺は辟易した。
「良いか?テメエの中にゃあ、ある程度の答えが出てる前提で話しをしてやるよ」
暇潰し程度にしか相手をしてやるつもりもないにも関わらず、男は期待を膨らませているのか、両目を輝かせて俺を見る。
「まず、見解が真逆だ。究極の展開として例をあげた事件を参考にすると、カニバニズムっては、ほんの一列に過ぎねえ……それに、テメエはこう言ったな?食が人を食べる、食人行為だってよぉ」
「……ああ、認める」
嵐の前兆を感じている雲のように、男の表情が流れていき影を作っていく。緊張からか、喉が唾を通っていた。
「その視点が間違いだ。食人行為、なんて言葉の枠から外れようとしねえのは、人間を信じているからか?笑わせるじゃねえか」
「どういう事だ?」
房の檻を右手を掛け、ぐん、と顔を近づけてやれば、男の左足と上半身が下がった。
「分かりやすく言ってやろうか?食人行為なんて、御行儀の良い言葉を使わず、共食いって考えてみろよ。麻薬からくる精神疾患、麻薬による精神汚染なんざ言えなくなるぜ?」
ひきつった笑顔を急拵えで繕った男は、その面白え顔のまま言った。
「だけど……人は本来、そういった欲求を抑えこんでいるものだろう?」
「テメエは馬鹿か?何故、食欲が人間の三大欲求に数えられているか、アンタならわかんだろ?」
「ああ、本来、人は……」
男の言葉を遮るつもりもなかったのだが、我慢できず、大声で笑ってしまう。訳が分からない、とでも言いたげに狼狽する男の姿は、どうしてこうも滑稽なんだろうな。
「やっぱり、テメエは阿呆だなぁ!今、何を言おうとしたよ!今、何を口にしようとしていたよ!この期に及んで体裁を保とうとしてやがる!人間なんてもんはなぁ、どこまでも単純にできてんだよ!ひゃはははははははは!」
そこで、プライドを刺激した俺に、男が凄まじい剣幕で言った。
「人間は単純になど出来ていない!」
その一言が俺を更に掻き立てた。ぴたり、と笑いを収め、息を一つ吐いてから返す。
「何故、そう言い切れる?単純に出来てねえというのなら、何故、欲求なんてものが人間に存在するんだ?いや、この三大欲求ってのも、非常に曖昧なもんだ。そこに含有するものにこそ、人間の本質が潜んでいるんだからよぉ……」
「極端な持論は必要ない」
「極端だぁ?持論だぁ?いかにも、頭の固い奴等が口にしそうな言葉だな、おい」