男は必死の形相で俺から距離をとろうとしている。その姿が面白くて堪らない。ああ、こいつは良いや。いい暇潰しが出来た。なんせ動けない俺にこの怯えようだ。多分、普段は仲間を大切にする振りをして、いざとなったら呆気なく 見捨てる、それか、捕まった相手に媚びを売って助かりたがる。そんなタイプだろう。
B級映画で見せしめに殺される役だ。
「おいおい、どうしたよ?なにビビっちゃってんの?仮にも警官だろうがよ!俺を殴るぐらいしてみろよ!」
その時、拘束具越しに肩を掴まれ、強引に引かれた俺の右頬に鈍痛が走る。
唇の端から流れ出した懐かしい味は、同時に血を頭に登らせた。
奥歯を食い縛り、唯一残った武器、歯で相手に噛みつこうとしたが、口には布が詰め込まれた。
俺の額を抑えこんだ男は、よく身体の要点を分かっているようだ。起き上がる事が出来ず、俺は白髪の男を睨目付ける。
「東、あまり調子にのるなよ?」
口を塞ぐ布を吹き出す。それなりにベテランなのだろう。俺とまっすぐに目を合わせられる奴は久しぶりだ。
「ひゃははは!そう怒んなよ、おっさんよお......ちょっとした冗談じゃねえかよ!あ、カルシウム不足?牛乳でも飲んだら?」
「......お前はもう喋るな。おい、あれ持ってこい」
白髪の男が、さっきまで俺の暇潰し相手になっていた男が、厚手の袋を渡した。その使い道はすぐに察することが出来た。
「てめえみてえに因業な奴は、そういないぜ?あーーあ、冗談が通じない奴は本当につまんねえなあ!」
視界が覆われた。また、真っ暗な中に戻されてしまう。
まあ、良い。俺にとっちゃ光りがあろうと暗闇だろうと関係はない。どちらの世界にも俺を理解する人間も、理解しようとする人間もいないからだ。
俺にとっての、街や人や虫や空も全て色のないものだった。色がないからこそ、心を知りたいとも思わない。
「真っ黒な中を一人で歩いたことはあるか?」
誰からの返事もなく、車の排気音だけが聞こえてくる。
俺は声を押し殺しながら笑った。こいつらは、一緒だ。彩りに囲まれて、なんとなく世の中を渡り歩いているだけの一般人だ。
一日を大切にとか考えながら、生きているだけの人間だ。今日は一度きりだとのたまうのならば無駄が無ければ意味が無い。誰にも俺の世界は盗ませないし、分からせない。
時間は贅沢に使わなければ意味が無いというのにな。カメラのフラッシュ音が聞こえ始める。どうやら、小倉北警察署に到着したようだ。
写真に撮られるのは好きではないが、俺は窓があるであろう方向へ、ピースサインを送る。もちろん、皮肉だ。
一人称本当に難しいいいいいいいいいいい!よし、橘田さんが出てる番組見て癒されようw