感染 番外編   作:saijya

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第11話

「ブルシアン・ブルー……日本では紺青だったか?それを投与すりゃ糞と一緒に出てくだろうよ。分からなけりゃ、より強い鉄分を摂らせてみろ。それで回復していくはずだ。さすがに、使ったこたぁねえけどな……まあ、試してみろや」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

弾かれたように、席を立った安部の背中に俺は声を掛けた。

 

「安部、もしも、これで上手くいけば俺もアンタの話しに一枚噛ませてくれや。所詮は叶いもしねえ与太話だが退屈はなくなりそうだからよぉ」

 

ピタリ、と足を止めた安部は、振り返らず言った。

 

「東さん……世の中や歴史に存在する偉人は、そういったことを覆したから、英雄足り得るのですよ」

 

「言うじゃねえか!なら、俺もアンタの言う審判のときってやつを俺が死ぬまでは待っててやんよ!それが訪れれば、アンタの右腕にさせてくれや!ひゃはははは!」

 

「……その言葉、お忘れなく」

 

音をたて閉ざされた扉のノブが上がりきる。

よく肥えた沃野を歩く人間は、大半がそれまでの過程を無視して享受している。一つの畑を作り上げるのに、どれだけの時間を使ってきたか。原人から現在に至るまで、あらゆる試行錯誤を繰り返し、今がある。言うなれば、それは思考の視野を進化により狭めているのと同義だ。それすらもない子供が、新たな世界を産み出す。

随分とひねくれてやがるもんだよなぁ……

そんな世界は、それこそ、人類が一度、滅びでもしなけりゃあ有り得ねえってのによ。

 

「もしも、そんな世界に一歩でも近付けたなら……」

 

そう口にしてみてたものの、俺は一笑して仰け反った勢いで背中から椅子ごと倒れてしまう。笑いが止まらねぇよ。数々の夢物語を聞かされてきたが、奴ほど狂ったのは初めてだ。しかも、去り際の台詞めいた決め言葉のオマケ付きだ。笑わねえ奴がどうかしてやがる。

俺に下される判決は、誰がどう解釈しようと、死刑しか残されていない。弁護士なんざ求めることもない。ガチガチの拘束具以外は、衣食住も事足りる上、こうした暇潰し、いや、最上の話し相手にも巡り合えた。東京で追ってきた記者みてえな偽善の塊もいない九州地方で、こんな出会いがあるなんざ、思ってもみなかった。それも俺自身とは真逆な道を歩んできたであろう男がだ。

糞のように下らねえ、路傍の石のように誰も気にしねえ、幼稚な思考と無駄な自信……アンタの子供染みた理想をどこまで突き詰められるのか……期待してるぜ、安部さんよぉ……




次回より4部に入ります

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