アンタなら理解してるだろ、とニュアンスを含ませれば、安部は首を縦に振った。
「人間の本質は、刺激、そうですね?」
「ああ、そうだ。さすが、よく分かってんな。人間っやつは因業なことに、自らが本来、求めているものが受け入れられないなければ遠ざけちまう。その最たるもんが刺激ってやつだよ」
首だけを回して、後ろに立っている二人の男を目で示せば、安部の視線が自然と動く。
「フランス革命なんか、特に現代から近い分、わかりやすいんじゃねえか?人がなにかを無そうと立ち上がる時、大層な大義名分を掲げちゃいるが、底を見りゃ、なんてことはねえよ。新たな変革を求めるという刺激を見出だし、その先に訪れる娯楽に胸を踊らせてんだ。当時のフランスは、処刑の見学が一番の娯楽だった。ロベスピエールだって、腹に何かを抱えてやがったに決まってる。処刑に反対していたくせに、歯向かうものをギロチンに送り続け、恐怖政治で人生の幕を下ろしたのが良い例だ。そういった娯楽は人間しか求めねえ……テレビや映画、小説、ゲーム、酒……娯楽ってやつをひっくり返せば、全てが刺激へと集約されちまう。日常では味わえない快楽を理性で抑え込まなくなったとき、人は本物の好奇心を抱け、その姿こそが本当の人間だ」
「……貴方の瞳には、私も同じように映っているのでしょうね」
「あ?んな訳ねえだろ。アンタはその殻を、手段はともかく破ろうとしてる。前にも言ったはずだぜ?それだけで良いってよ」
退屈ってのはどうにもいけない。それを埋める最適な方法は刺激を求めることだ。歴史を大きな十字路に例えると、必ず中央で交わる。どの位置から進みだそうともな。しかし、濁流が通った道なぞ必要とないとばかりに、人は整った道を歩きたがる。一度、洗い流さなければならない。例えそれが、濁流滾々の荒れた場所でなろうともな。
「ゆっくりと進む人でも、常に真っ直ぐな道を辿るなら、走りながらも道を逸れてしまう人よりも、はるかに前進することができるって、どっかの国の哲学者が言っていた。アンタは、進むべきなんだよ、俺のように急がずな。卑屈になる必要はねえよ」
安部は破顔すると、肩を揺らす。
「東さんは、急いでしまったのですか?」
「ああ、急いだ。その結果、ここにいる」
何故だか分からない。けれど、久しぶりに、自然と笑いが洩れた。それは次第に大きくなっていく。そして、安部も同じように笑った。
この腹のむず痒さ、懐かしい感覚だった。息を吸う度に腹部が痙攣する。