そこまで言った男は、屈託そうに腕を組んだ俺を見て、僅かに唇を吊った。こいつは、見透かしているつもりなのだろう。先の考察も、こう返事があるはずだと、たかをくくっていたに違いない。
俺は、ギリ、と奥歯を強く噛み締んだ。
「では、次は羅生門についての解釈を尋ねたい。君は、あの下人に対してどう思ったのかな?」
「羅生門?あんなもんは、感想すらねえよ。人の振り見て我が振りなおせって教訓だろ」
「人間のエゴを見事に描いた作品だと思うのだけれど......」
「違うな。あの下人と老婆に思考が偏っちまってるよ。羅生門の周囲の様子を語るなか、ちらほらと動物がでてくるだろ?あれは、人間との対比を出す為に入れてるんだ」
男は俯くように視線を下げた。どうにも、得心を得ていない表情をそのままに、再び、顔をあげる。
「つまりは、動物には人間のような真似はできないと?」
わざと鼻を鳴らしてやれば、男は不愉快そうに眉間を狭めた。
「話を戻すようで悪いが、エゴを描いた作品を読みたいのなら、乱歩の蟲を読んでみると良い。身の丈以上の努力をせず、身の丈に合わない成果を期待する。まさに、人の心そのものだ」
神妙な声で、男はこう尋ねた。
「......どういう意味だい?」
呆れから、深い吐息をつく。いよいよもって、隠忍が崩れ始めているようだ。俺は喜色を込めて続ける。
「テメエは阿呆か?人は努力をした分の見返りがあると信じて行動を起こすが、奮励以上の成果を期待しちまう。浅ましい奴ほどそうだろ」
「......君は違うのか?」
その言葉を待っていた。一笑して、室内に響く大声で、こう言ってやる。
「おいおい!俺だって人間だぞ?そりゃ期待は大きくなりもするもんだ!例えばだ、数年前に暗闇に閉じ込めてやった奴なんざ、僅か半日で狂っちまった!俺は、期待したんだぜ?いつか、あの部屋から這い出してくるんじゃねえかってな!いやぁ、失敗だったよ!もっと骨のある奴を選ぶべきだったよなぁ!そうすりゃ、俺の罪も少しは軽くなってたってのによぉ!ひゃははははは!」
背後に屹立していた警官が、途端にざわつき始め、俺を硝子越しに眺めていた男は、青ざめた顔付きのまま、部屋を飛び出していく。去り際に、俺は叫んだ。
「おい!こっからが面白れえとこだろうが!俺を理解してえんだろ!戻って来いよ!もっと互いを知り合おうぜ!なあ!」
扉の奥から聴こえてきたのは、狂ってる、だの、イカれてる、とか、そんな聞き慣れた単語ばかりだった。分かってねえんだよな。人間ってのは、意識の内側では正しいことをして、意識の外で間違えてしまう。極端に言えば、自分しか見えていないんだ。だからこそ、メディアに踊らされてしまう。
こんな穿った読み方は、はっきり言って間違ってると自覚してますw
だから、引かないでくださいw