愛用の剣を両手持ちにして振り下ろす。
地面に触れる直前で剣を止め、持ち上げてもう一度同じように振り下ろす。
金属の塊は、学校の授業で少しだけ振った竹刀より重くて、すぐに腕が疲れてくる。
だが、この程度で止めていたらこれよりも大きな剣を振り回すのは難しい。
そう自分に言い聞かせて、気合いを入れ直す。
しばらく無言でブンブンと素振りを繰り返すと、教えられた振り方を保つのが厳しくなってきた。
窓から外を見ると、町は夕日の色に染まり、通りを歩く人々の影が伸びているのが見える。
剣を壁に立て掛け、机の上に置いておいた桶に水と一緒に入れっぱなしの濡れた布(タオルと言えるほど柔らかくはない)で身体を拭き、シャツを着る。
キーを手にドアを開け、廊下に出て、ガチャリと鍵を掛けた。
ギシギシとうるさい階段を少しだけ不満に思いながら、誰も居ないカウンターを尻目に1階にしか無いロビーを抜けて食堂へ。
「こんばんわ、ライレストさん。晩御飯ですか?」
茶色いショートカットの髪に青いバンダナを巻き付けたウェイトレスに声を掛けられる。
適当に入り口から少し離れたテーブルに座って、返事をする。
「ああ、今日のメニューは何だ? まさか3日連続で朝昼晩全部猪の肉料理とか言わないよな」
「そんなわけ無いじゃないですか。この前の『ブラックビックピッグ』・・・結構言いにくいですよねー。の、お肉は昼に食べ終えちゃいましたよ。今日は野菜のシチューです」
「おー、食べ終えたのかあれ。結構大きかった筈だけど。というかシチューか。結構好きなんだよなぁ。あ、水ちょうだい」
「はいはーい。あ、シチューはあと10分ぐらいで出来上がりますよ」
そう言うとウェイトレスのニークスはとことこと台所へと消えていった。
他にも客はいるはずだが、何故俺の相手ばかりするのやら。可愛い女の子と話すのは悪いものじゃないが、たまに男性客が睨んできて困る。
そんな割合どうでもいい事を考えながら、台所から出てきたニークスから水を受け取り、礼を言う。
丁度10分後ニークスが運んできた暖かいシチューに舌鼓を打ち、そのまた15分後にシチューを食べ終えて二階で借りてる部屋に入った。
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「魔導書、魔導書っと・・・」
今日の夜は師匠から教えて貰った魔術の復習をすると決めていたので、桶と布をニークスに渡した後に荷物を入れたバッグを漁る。まぁ、バッグといっても口が一つしかない単純なショルダーバッグである。
しかし、もしこのバッグに見知らぬ人間が手を突っ込んだら直後にバッグから手が抜けなくなり、更に赤く染まるという対スリ用の細工がしてある一品だ。
そんなどうでもいい事をまた考えながら、中から本を一冊引っ張り出す。
バッグを閉じて本を机の上に広げると、日本語でも英語でも、ましてや地球の言語ですらなく、この世界では共用語の『レーラスヴェルディ語』の文章と図形でページがまるごとびっしりと埋められている。
「ホントなんであの人は言語とちょっとの知識だけ叩き込んで・・・」
溜め息混じりに師匠への不満を口にする。感謝は、しているけども。
パラパラと捲り、以前読んだ場所まで戻る。
「あーっと・・・『魔力を物体に込める際の性質としては、一定以上の魔力を込めようとすると、回りの物体に散ろうとし...』・・・」
壁に取っ手を掛けられたままの魔力を動力とするランタンに手を着け、魔力を流し込むと机の上を明るく照らした。
目立たないくせにいい宿だよなぁここ、とまたもやどうでもいい事を考えながら、魔術と本の世界へと没頭していった。
日本人「