「で、何の用ですか、鉄先輩。さっきお姫様から電話があって、事情は色々聞きましたけど、それ以外に何か?」
母に呼ばれて店先に降りてきたなごみは、商売の邪魔にならないように、乙女とレオを自分の部屋へ招き入れた。
なごみの言葉に頷きながら、
「そうか、姫はきちんと説明してくれたか。流石は姫。仕事が早いな」
有言実行の姫の行動力の早さに口元を綻ばせた。
レオは、なごみの部屋を珍しそうに一通り眺めた後、今度はなごみの顔をじーっと見上げている。
その視線に気づいたなごみがレオを見ると、レオはぱっと顔を輝かせ、抱っこしてとなごみに向かって手を伸ばした。
それを見たなごみはかすかに口元を綻ばせ、思わずレオに向かって手を伸ばし、それからはっとしたように乙女を見た。
「えーと。抱っこ、してみるか?」
言いながらレオを差し出すと、なごみは少しばつが悪そうな顔で、でも素直にレオを受け取った。
その頬が少しだけ赤い。
「・・・・・・どうも」
軽く頭を下げ、レオの体を抱き寄せ安定させると、なごみはまじまじとレオの顔を見つめる。
「ちっちゃくても、ちゃんとセンパイの顔をしてるんですね。なんだか不思議な感じです」
じーっと見つめながら、そんな感想を呟く。
ついでに片手を伸ばして人差し指で、柔らかいほっぺたをつついてみた。
柔らかくて、なんだかくせになりそうな感触。
ついつい夢中になって、2度3度とつついてしまう。
レオが、あうあう言いながら頭を揺らすのが何だか可愛いな、と思いながら。
乙女はそんななごみの様子を微笑ましそうに見つめていた。
ついでに、レオのほっぺは気持ちよさそうだから、私も後でつついてみようと考えながら。
そんな乙女の暖かい眼差しに気づいてなごみははっとする。
気まずそうに乙女に目線を戻し、こほんと咳払いを一つ。
「で、なんの用件なんですか?」
と、最初の質問に戻った。
そう聞かれて、そうだった!とばかりにぽんと手を打つ乙女。
「ああ。実は、椰子に聞きたいことがあってな」
「・・・・・・なんですか?」
「うむ。恥をさらすようで気まずいが、実は私はおにぎり以外の料理が苦手だ!」
「・・・・・・」
そんな事しってますよ・・・・・・と内心つっこみを入れるなごみだが、武士の情けで声に出すのは何とかこらえた。
賢くも沈黙で答え、眼差しで乙女の言葉を促す。
「そこで、だ。いつもであれば、レオも喜んでおにぎりを食べるのだが、果たして3歳の幼児におにぎりと言うのはどうなのかと思ってな」
「・・・・・・別に、食べると思いますけど」
「まあ、食べるとは思うが、もっと幼児に向いた食事があるのではと思ってだな。しかし、なんといっても3歳児の生態は分からないことが多いから、そう言う事を知ってそうな椰子を頼ろうかと」
「まあ、食べ物についてならそこそこ知識はあると思いますけど、3歳児の生態については私もちょっと・・・・・・」
「そ、そうだな。お互い子育てとはまだ縁がないしなぁ」
そんな事をつらつら2人で話していると、
「なごみ、ちゃ~ん。お茶、持ってきたわよ~」
そんな声と共に、のどかがお盆を持って部屋に入ってきた。
2人ははっとその人物を見る。
彼女なら見事に経産婦だし、なごみを産み育てた経験がある。今回の乙女の質問に答えるのに最適な人物と言えた。
「母さん、良いところに」
「え、え~?」
なごみはこれ幸いとばかりに母親を部屋に引き入れ、座らせてしまう。
娘とその先輩の真剣な表情に気圧され、のどかはきょとんと首を傾げた。
「え~っと、なに、かしらぁ~?」
そんな彼女になごみはそっとレオを差し出す。
のどかは戸惑うことなく受け取って、嬉しそうに小さな体を抱きしめた。
「う~ん、可愛い、わぁ~。なごみちゃんが小さい頃ぶり・・・・・・」
嬉しそうにそう呟きながら、膝の上でレオを危なげなく遊ばせている。
これぞ、母親の貫禄!!と言ったところかと、感心しながら乙女は2人の様子を見つめた。
そんな風に、乙女となごみが見つめる前で、レオは自分の親指をしゃぶりながら、もう片方の手をのどかの見事に大きな乳房にのばす。
「こ、こらっ、レオ」
不埒な事をさせては大変と身を乗り出した乙女を、のどかがやんわりと制止する。
彼女はレオの頭を撫でてやりながら、レオの好きなようにさせていた。
「お腹、空いちゃったのかな~?まだ、お母さんの、おっぱいが恋しい年頃なのねぇ~」
「ま、まだ授乳が必要なのですか!?」
「いいえ~。もう普通に食べられるはずだけど、このくらいの年だと、おっぱいを恋しがる子も多いのよ~?」
「そ、そうですか」
答えながらほっと胸をなで下ろす。
授乳が必要となると、自分ではどう考えても無理だからだ。
「母さん、レオくらいの年の子は、どんなものを食べさせてあげればいいのかな?」
「おっ、おにぎりは、だめでしょうか!?」
2人の質問に、のどかは少し考えてから、
「そう、ねえ~。おにぎりは、ダメじゃないけど、レオ君が食べやすい小さな大きさにしてあげないと、ダメよ~。後、それだけじゃ、なくて、おかずも用意して、あげないと~。おかずも、もちろん、レオ君の口で食べやすい大きさにしてあげた方が、いいと思うわ~」
そう答えた。
「お、おかず・・・・・・」
その答えに、乙女が絶望的な声を上げる。
なにしろ、乙女の料理はおにぎり以外壊滅的だ。おかずなど、用意できようはずがない。
「まあ、おかずは最悪総菜屋で買ってくるとして、鉄先輩、小さいおにぎり、作れます?」
なごみの理性的な質問に、再び乙女は肩を落とした。
「む、無理だ。以前小さなおにぎりにチャレンジしたことがあるが、どう言うわけかものすごい密度で、大きなレオでもかじれないくらいの固さでな・・・・・・」
乙女はふっと、遠い目をした。
そんな乙女を呆れたように見ながら、なごみは仕方ないとばかりに大きく息をついた。
「母さん。夕食の準備はしてあるから、今日は一人で食べてもらってもいい?」
なごみのそんな言葉に、のどかは微笑みを深めた。娘が何を考えているかがよく分かっていたから。
「ええ~。もちろんよ~。レオ君達にも、おいしいご飯、食べさせて、あげてね~?」
「・・・・・・うん。私も向こうで食べてくる。そんなに遅くならないで帰るから」
母親に見透かされて、少し照れくさかったのだろう。
なごみは少し頬を赤らめた。
そんな理解し合っている親子を、乙女だけがはてなマークを盛大に飛ばして見ていた。
なごみはクールに乙女を見つめ、
「鉄先輩、帰りますよ」
言葉少なに伝える。乙女は更に混乱したように、
「え?帰る??椰子もか???」
再びはてなマークを大量生産する。
「私も一緒に行って、夕飯の準備、しますんで」
最低限、乙女が理解できるように説明して、母の腕の中のレオへ手を伸ばす。
「さ、行くよ。レオ」
のどかの胸にへばりついていたレオは、なごみが手を伸ばすと嬉しそうににこーっとして、大人しく彼女の腕に抱き上げられる。
彼女はレオを胸に抱いて、ついでにそっと柔らかな頬に頬をすり寄せて、子供特有の甘いミルクのような匂いを吸い込んだ。
「椰子。手間をかけるな。だが、助かった」
立ち直った乙女がきりりと礼を言い、
「色々と教えていただいて助かりました。ありがとうございます。椰子をお借りしていきます」
とのどかに頭を下げて暇乞いをする。
「いいえ~。また、レオ君を連れて、遊びに来て、下さいねぇ~」
そんな2人のやりとりを聞きながら、なごみはさっさと自分の部屋を出ていく。
「じゃあ、母さん。行ってきます」
「は~い。いって、らっしゃ~い」
「では、失礼します。あっ、椰子。レオ、私が抱いていくぞ?」
「いえ、結構です。軽いんで」
「いや、でもな?」
「いいですから」
レオを受け取ろうとする乙女の腕をクールにかわして、なごみは可愛いレオを堪能しながら歩くのだった。
次回は3人で仲良くお食事です。