ベイビー・パニック   作:高嶺 蒼

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 3歳児の食糧問題(笑)


ベイビー・パニック 11

 「で、何の用ですか、鉄先輩。さっきお姫様から電話があって、事情は色々聞きましたけど、それ以外に何か?」

 

 母に呼ばれて店先に降りてきたなごみは、商売の邪魔にならないように、乙女とレオを自分の部屋へ招き入れた。

 なごみの言葉に頷きながら、

 

 「そうか、姫はきちんと説明してくれたか。流石は姫。仕事が早いな」

 

 有言実行の姫の行動力の早さに口元を綻ばせた。

 レオは、なごみの部屋を珍しそうに一通り眺めた後、今度はなごみの顔をじーっと見上げている。

 その視線に気づいたなごみがレオを見ると、レオはぱっと顔を輝かせ、抱っこしてとなごみに向かって手を伸ばした。

 それを見たなごみはかすかに口元を綻ばせ、思わずレオに向かって手を伸ばし、それからはっとしたように乙女を見た。

 

 「えーと。抱っこ、してみるか?」

 

 言いながらレオを差し出すと、なごみは少しばつが悪そうな顔で、でも素直にレオを受け取った。

 その頬が少しだけ赤い。

 

 「・・・・・・どうも」

 

 軽く頭を下げ、レオの体を抱き寄せ安定させると、なごみはまじまじとレオの顔を見つめる。

 

 「ちっちゃくても、ちゃんとセンパイの顔をしてるんですね。なんだか不思議な感じです」

 

 じーっと見つめながら、そんな感想を呟く。

 ついでに片手を伸ばして人差し指で、柔らかいほっぺたをつついてみた。

 柔らかくて、なんだかくせになりそうな感触。

 ついつい夢中になって、2度3度とつついてしまう。

 レオが、あうあう言いながら頭を揺らすのが何だか可愛いな、と思いながら。

 

 乙女はそんななごみの様子を微笑ましそうに見つめていた。

 ついでに、レオのほっぺは気持ちよさそうだから、私も後でつついてみようと考えながら。

 そんな乙女の暖かい眼差しに気づいてなごみははっとする。

 気まずそうに乙女に目線を戻し、こほんと咳払いを一つ。

 

 「で、なんの用件なんですか?」

 

 と、最初の質問に戻った。

 そう聞かれて、そうだった!とばかりにぽんと手を打つ乙女。

 

 

 「ああ。実は、椰子に聞きたいことがあってな」

 

 「・・・・・・なんですか?」

 

 「うむ。恥をさらすようで気まずいが、実は私はおにぎり以外の料理が苦手だ!」

 

 「・・・・・・」

 

 

 そんな事しってますよ・・・・・・と内心つっこみを入れるなごみだが、武士の情けで声に出すのは何とかこらえた。

 賢くも沈黙で答え、眼差しで乙女の言葉を促す。

 

 「そこで、だ。いつもであれば、レオも喜んでおにぎりを食べるのだが、果たして3歳の幼児におにぎりと言うのはどうなのかと思ってな」

 

 「・・・・・・別に、食べると思いますけど」

 

 「まあ、食べるとは思うが、もっと幼児に向いた食事があるのではと思ってだな。しかし、なんといっても3歳児の生態は分からないことが多いから、そう言う事を知ってそうな椰子を頼ろうかと」

 

 「まあ、食べ物についてならそこそこ知識はあると思いますけど、3歳児の生態については私もちょっと・・・・・・」

 

 「そ、そうだな。お互い子育てとはまだ縁がないしなぁ」

 

 

 そんな事をつらつら2人で話していると、

 

 「なごみ、ちゃ~ん。お茶、持ってきたわよ~」

 

 そんな声と共に、のどかがお盆を持って部屋に入ってきた。

 2人ははっとその人物を見る。

 彼女なら見事に経産婦だし、なごみを産み育てた経験がある。今回の乙女の質問に答えるのに最適な人物と言えた。

 

 

 「母さん、良いところに」

 

 「え、え~?」

 

 

 なごみはこれ幸いとばかりに母親を部屋に引き入れ、座らせてしまう。

 娘とその先輩の真剣な表情に気圧され、のどかはきょとんと首を傾げた。

 

 「え~っと、なに、かしらぁ~?」

 

 そんな彼女になごみはそっとレオを差し出す。

 のどかは戸惑うことなく受け取って、嬉しそうに小さな体を抱きしめた。

 

 「う~ん、可愛い、わぁ~。なごみちゃんが小さい頃ぶり・・・・・・」

 

 嬉しそうにそう呟きながら、膝の上でレオを危なげなく遊ばせている。

 これぞ、母親の貫禄!!と言ったところかと、感心しながら乙女は2人の様子を見つめた。

 そんな風に、乙女となごみが見つめる前で、レオは自分の親指をしゃぶりながら、もう片方の手をのどかの見事に大きな乳房にのばす。

 

 「こ、こらっ、レオ」

 

 不埒な事をさせては大変と身を乗り出した乙女を、のどかがやんわりと制止する。

 彼女はレオの頭を撫でてやりながら、レオの好きなようにさせていた。

 

 

 「お腹、空いちゃったのかな~?まだ、お母さんの、おっぱいが恋しい年頃なのねぇ~」

 

 「ま、まだ授乳が必要なのですか!?」

 

 「いいえ~。もう普通に食べられるはずだけど、このくらいの年だと、おっぱいを恋しがる子も多いのよ~?」

 

 「そ、そうですか」

 

 

 答えながらほっと胸をなで下ろす。

 授乳が必要となると、自分ではどう考えても無理だからだ。

 

 

 「母さん、レオくらいの年の子は、どんなものを食べさせてあげればいいのかな?」

 

 「おっ、おにぎりは、だめでしょうか!?」

 

 

 2人の質問に、のどかは少し考えてから、

 

 「そう、ねえ~。おにぎりは、ダメじゃないけど、レオ君が食べやすい小さな大きさにしてあげないと、ダメよ~。後、それだけじゃ、なくて、おかずも用意して、あげないと~。おかずも、もちろん、レオ君の口で食べやすい大きさにしてあげた方が、いいと思うわ~」

 

 そう答えた。

 

 「お、おかず・・・・・・」

 

 その答えに、乙女が絶望的な声を上げる。

 なにしろ、乙女の料理はおにぎり以外壊滅的だ。おかずなど、用意できようはずがない。

 

 「まあ、おかずは最悪総菜屋で買ってくるとして、鉄先輩、小さいおにぎり、作れます?」

 

 なごみの理性的な質問に、再び乙女は肩を落とした。

 

 「む、無理だ。以前小さなおにぎりにチャレンジしたことがあるが、どう言うわけかものすごい密度で、大きなレオでもかじれないくらいの固さでな・・・・・・」

 

 乙女はふっと、遠い目をした。

 そんな乙女を呆れたように見ながら、なごみは仕方ないとばかりに大きく息をついた。

 

 「母さん。夕食の準備はしてあるから、今日は一人で食べてもらってもいい?」

 

 なごみのそんな言葉に、のどかは微笑みを深めた。娘が何を考えているかがよく分かっていたから。

 

 

 「ええ~。もちろんよ~。レオ君達にも、おいしいご飯、食べさせて、あげてね~?」

 

 「・・・・・・うん。私も向こうで食べてくる。そんなに遅くならないで帰るから」

 

 

 母親に見透かされて、少し照れくさかったのだろう。

 なごみは少し頬を赤らめた。

 そんな理解し合っている親子を、乙女だけがはてなマークを盛大に飛ばして見ていた。

 なごみはクールに乙女を見つめ、

 

 「鉄先輩、帰りますよ」

 

 言葉少なに伝える。乙女は更に混乱したように、

 

 「え?帰る??椰子もか???」

 

 再びはてなマークを大量生産する。

 

 「私も一緒に行って、夕飯の準備、しますんで」

 

 最低限、乙女が理解できるように説明して、母の腕の中のレオへ手を伸ばす。

 

 「さ、行くよ。レオ」

 

 のどかの胸にへばりついていたレオは、なごみが手を伸ばすと嬉しそうににこーっとして、大人しく彼女の腕に抱き上げられる。

 彼女はレオを胸に抱いて、ついでにそっと柔らかな頬に頬をすり寄せて、子供特有の甘いミルクのような匂いを吸い込んだ。

 

 「椰子。手間をかけるな。だが、助かった」

 

 立ち直った乙女がきりりと礼を言い、

 

 「色々と教えていただいて助かりました。ありがとうございます。椰子をお借りしていきます」

 

 とのどかに頭を下げて暇乞いをする。

 

 「いいえ~。また、レオ君を連れて、遊びに来て、下さいねぇ~」

 

 そんな2人のやりとりを聞きながら、なごみはさっさと自分の部屋を出ていく。

 

 

 「じゃあ、母さん。行ってきます」

 

 「は~い。いって、らっしゃ~い」

 

 「では、失礼します。あっ、椰子。レオ、私が抱いていくぞ?」

 

 「いえ、結構です。軽いんで」

 

 「いや、でもな?」

 

 「いいですから」

 

 

 レオを受け取ろうとする乙女の腕をクールにかわして、なごみは可愛いレオを堪能しながら歩くのだった。

 

 

 

 

 




次回は3人で仲良くお食事です。
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