ベイビー・パニック   作:高嶺 蒼

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ベイビー・パニック 2

 「あかり先生、いるかー!!」

 

 「え、鉄さん!?ひゃっ、な、なんですの?どこ、触って・・・いやー、さーらーわーれーるー!!!」

 

 

 職員室に駆け込んできた乙女に半ば拉致されるように連れ出されたあかりは次の瞬間、自分の巣穴ともいえる見慣れた科学室の中にいた。

 まるで瞬間移動した様である。が、実際はレオを心配しすぎた乙女の移動速度が音速を軽く越えてしまっただけのことだ。

 

 「あかり先生、レオを、レオを助けてくれ!!」

 

 取り乱す乙女を前に、あかり先生は状況が分からず、きょとんとしている。

 

 

 「対馬さん?対馬さんがどうかしたんですか」

 

 「レオが、レオが苦しんでるんだ。ほら、そこで・・・・・・」

 

 

 しかし、そう言って乙女が指し示した先に、レオの姿は無かった。

 何故か、男子の学生服が散らばっているだけ。

 

 

 「学生服しか、ありませんけど?」

 

 「なぬー!!」

 

 

 乙女は這い蹲るようにして、学生服のを調べ始める。それは、確かに先程までレオが着ていたものだった。

 乙女が大好きなレオの匂いが染み着いているし、何よりまだ暖かい。

 

 「レオっ、レオー!!!」

 

 半狂乱になってレオを探す乙女。だが、それらの服の下からレオが見つかる訳もなく、乙女は服を抱きしめ涙を落とす。

 

 

 「すまない、レオ・・・・・・私が不甲斐ないばかりに」

 

 「えーっと、鉄さん?よく事情が飲み込めないんですけど。その制服、対馬さんの何ですか?し、下着まであるようですけど、中身はどこに行っちゃったんです?」

 

 困ったように問いかけるあかりに、乙女は涙ながらに事情を説明した。

 空手の練習で遅くなり、見回りをしていたレオとここで落ち合ったこと。

 机の上に栄養剤を見つけ、レオのものだと思って飲ませてやったこと。

 レオが急に苦しみだし、あかり先生を呼ぶよう言ったこと。

 

 話が進むに連れて、あかりの表情が青くなり、終いには紙のように真っ白に燃え尽きてしまった事に、乙女は気がつかない。

 あかりには、心当たりがあった。

 原因は、机の上にあったドリンクである。

 あれは栄養剤などではない。あれは・・・・・・

 

 がさっ

 

 嘆く乙女と、罪を打ち明けるべきか闇に葬るべきか悩むあかりの耳に、そんな小さな音が聞こえた。

 音の源は窓にかかったカーテン。

 

 「レオ!無事だったのか!!」

 

 狂喜乱舞した乙女が勢いよくカーテンを開けた先にいたのは、レオでは無かった。

 正確には、いつもの見慣れたレオではなかった。

 そこにいたのはレオの面影を多分に残す、小さな男の子。3歳、くらいだろうか。

 大きな目を見開いて、乙女を見上げている。

 乙女は、目の前の現実を処理しきれずに、見事なまでに固まっていた。

 

 「おねーちゃ、だれ?」

 

 その生き物は、何とも可愛らしく首を傾げてそう問いかけてきた。

 乙女が悶絶する。

 が、不屈の闘志で何とか体制を立て直し、

 

 「わ、私は乙女だ」

 

 そう返答した。頬が熱い。目の前の生き物が可愛すぎて、今にもだらしなく頬が緩んでしまいそうだった。

 

 

 「乙女、ちゃん?」

 

 「む、そうだ。お前の、名前は?年は?教えてくれるか?」

 

 

 聞くまでもなく、答えは分かっている気がした。だが、何事も確認は大切だ。

 乙女が見守る前で、レオっぽく見える幼い少年は、質問の内容を受け止め咀嚼し、

 

 「ボク、対馬レオ。えーっと、えーっと、3つです」

 

 そう名乗って、指を3本立てた手を付きだし、にこっと天使のように笑った。

 

 「そうか、レオというのか、偉いな」

 

 乙女は手を伸ばし、誉めて誉めてと顔を輝かせている幼子の頭を優しく撫でてやる。

 そんな二人の後ろで。

 あかりはどうにか乙女を誤魔化して、逃げようとしていた。

 

 「えーっと、対馬さんも見つかったようですし、良かったですね~・・・・・・と、言うわけで、私は帰りますね~」

 

 そう言ってそそくさと逃げ帰ろうとするあかり。

 しかし、乙女がそれを許すわけもなく。

 

 「・・・・・・先生、全て吐いてもらおうか」

 

 レオを怖がらせないように笑い顔で猫なで声のまま、しかしすごい殺気と迫力の乙女に、襟首を捕まれ確保されるのだった。

 

 

 

 

 

 「・・・・・・というわけなんですぅ」

 

 「レオが飲んだのは、貴方が作った若返り薬の試薬で、効果がいつ切れるかは分からない、という事なんですね」

 

 「はいぃぃ。マウスの実験では、1~2週間で元に戻ってましたけど」

 

 「そうですか・・・・・・」

 

 

 乙女はため息をつく。今のところは、解毒薬もなく、打つ手はないようだった。

 

 

 「ごめんなさい~。急いで、中和剤を作りますから!!」

 

 「お願いします。先生だけが頼りですから。それと、館長には、報告せざるをえません」

 

 「くすん。覚悟、してますぅ」

 

 「では、今日の所はこれで。進展があったらすぐに私に連絡下さい。いいですね」

 

 「はいぃ」

 

 「もし、逃亡したら・・・・・・」

 

 

 ギラリと乙女の目が物騒な輝きを宿し、あかりは震え上がる。

 

 

 「しません、しません!!一生懸命、研究します!!!」

 

 「いい心がけです。では」

 

 

 そう言って、乙女はレオの服と何とかYシャツを羽織らせた小さなレオを抱え上げた。

 

 

 「乙女ちゃん?」

 

 「移動しよう、レオ。ここは落ち着かないからな」

 

 

 幼いレオを脅かさないように優しく微笑みかけ、科学室を後にした。

 

 

 

 




 レオの幼児化した際の年齢に悩みましたが、結局3歳にしました。
 3歳児ってこんなくらいには成長してるもんですかね?
 周りに3歳児が居ないので、どうも判断しかねます。
 場合によっては後で年齢の変更はあるかもしれません。
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