ベイビー・パニック   作:高嶺 蒼

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随分久しぶりの更新になっちゃいました。
乙女とレオの1限目、お楽しみください。


ベイビー・パニック 20

 朝の勤めを終え、レオを連れて教室へ入り、クラスメイト達からの一通りの質問に答え終えたタイミングで、担任が教室にやってきた。

 学園長から話は通されているのだろう。

 朝の挨拶をした担任は、ついさっき乙女が友人達にした説明をもう一度繰り返し、鉄を手伝ってやるようにと付け加え、教室を出ていった。

 

 さて、いよいよ授業が始まる。

 乙女は1限目の授業の準備をしながら、膝の上に乗せたレオに話しかける。

 

 

 「レオ、これから勉強の時間だからな。静かにしてるんだぞ?」

 

 「う?」

 

 

 乙女と向かい合わせになるようにして座っていたレオは可愛らしく首を傾げた。

 その様子を見て、ちょっと言い方が難しかったかと、乙女は自分の唇に人差し指を押し当てて、

 

 

 「しーだぞ。しー。いい子にな?」

 

 

 言いながらレオの目をのぞき込んだ。

 レオはなんとも可愛らしく神妙な顔をして、乙女のまねをして唇に指を押し当てた。

 

 

 「しー?レオ、いい子?」

 

 

 その様子が余りに可愛くて、乙女は思わずとろっとろの笑みを浮かべ、

 

 

 「ん。そうだ。いい子にしてたら後で姫や椰子達のところに連れてってやるからな」

 

 「お姫しゃまと、えっと、やし?」

 

 

 椰子という呼び方となごみがつながらなかったレオが再び首を傾げ、乙女は苦笑混じりに、

 

 

 「おっと、なごみちゃんだ。レオはなごみちゃん、好きだろう?」

 

 

 そう言い直した。

 そうすると、レオは即座に理解し、 

 

 

 「うん!お姫しゃまとなごみちゃんのとこ、いきたい。レオ、いい子出来る!」

 

 

 ぱああっと顔を輝かせたレオの頭をヨシヨシと撫でながら、乙女はふといたずら心がわくのを感じた。

 今のレオはすごく素直で、言葉の通りなごみや姫のことが大好きなのは間違いないだろう。

 だが、もし誰が一番好きかと問いかけたら、レオは誰と答えるのだろうか。

 

 

 「なあ、レオ」

 

 「なぁに?」

 

 「レオは、姫となごみちゃんと私の誰が一番好きなんだ?」

 

 「え~?一番?」

 

 「そう、一番だ」

 

 「ん~」

 

 

 レオは少し考え込むようにしたが、すぐに乙女の顔をくりっとした瞳で見上げて、

 

 

 「えっとね~、乙女ちゃん!」

 

 「私か?」

 

 

 少しびっくりして問い返す。

 自分で問うておいてなんだが、何となくなごみ辺りが選ばれるような気がしていたのだ。

 

 レオのことは可愛いし、可愛いがってるつもりだが、自分には繊細さが足りない。

 昨日なごみと過ごして分かったが、なごみは実に繊細にレオに接していたように思う。

 レオもとてもなごみになついていたから、恐らく、と思っていたのだが、その予想はいい意味で裏切られたようだ。

 乙女は微笑み、レオの顔をのぞき込む。

 

 

 「そうか。私が一番か」

 

 「うん!レオ、乙女ちゃん、好き~。乙女ちゃんは?」

 

 

 無邪気に問い返され、乙女は一瞬照れたように口をつぐむ。

 だが、すぐに表情を柔らかくゆるませて、

 

 

 「私も、レオが大好きだぞ」

 

 

 レオの丸っこいおでこにこつんと自分のおでこをくっつけて、間近からレオの瞳を見つめた。

 そんな2人の、何とも甘々な空気を、ごほんという咳払いが邪魔をする。

 乙女がはっとして顔を上げると、1限目の教師がもう教壇についていて、苦笑混じりの表情で乙女の方を見ていた。

 

 

 「鉄、可愛くて仕方ないのは分かるが、もう授業の時間だぞ」

 

 「す、すみません!!」

 

 

 乙女は慌てて机の上に用意してあった教科書を開く。

 その顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。

 クラスメイト達は、そんな普段は見ることの出来ない乙女の様子を、微笑ましくも珍しそうに見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 授業は滞りなく進んでいた。

 レオも、ちゃんとおとなしくしている。

 だが、授業が中盤をすぎた頃、乙女の膝の上でレオがもじもじと動き始めた。

 それに気づいた乙女は、

 

 

 「レオ、どうした?」

 

 

 教師に気づかれないように小声で問いかける。

 レオは涙目で乙女を見上げ、

 

 

 「乙女ちゃ・・・・・・レオ、おしっこ」

 

 

 プルプル小動物のように震えながらそう告げた。

 その様子に限界が近いと悟った乙女は、学生の見本のような見事なフォームで美しく挙手をした。

 

 

 「先生っ!!」

 

 「んおっ、どうした?鉄??」

 

 

 乙女の大きな声に板書を中断され、先生が振り向いたときには、乙女はレオを抱え上げて立ち上がっていた。

 

 

 「おしっこです!」

 

 「はあっ?」

 

 

 破天荒ではあるが並外れて美しく、品行方正な生徒の口から出たとは思えない単語を聞いて、教師は思わず目をむいた。

 

 

 「お、おしっこ!?」

 

 「はい、おしっこが限界なので、トイレに行ってきても良いでしょうか?」

 

 

 礼儀正しく許可を求められ、教師は目を白黒させながらも頷く。

 

 

 「ありがとうございます。では、いってきます」

 

 

 乙女は爽やかに笑い、それからすごい勢いで教室を飛び出していく。

 

 

 「もうすぐトイレだからな!もうちょっと我慢だぞ、レオぉぉっ!」

 

 

 そんな叫び声を置きみやげに。

 それを聞いた教師は何となくほっとする。なんだ、おしっこは鉄じゃなかったのか、と。

 それから、緊張感が途切れてしまってざわざわする生徒達に背を向けて再び板書を再開するのだった。 

 

 

 

 

 一方乙女は、おしっこダムが決壊寸前のレオを抱っこしたまま、トイレの前で悩んでいた。

 ここは学校である。しかも共学。

 と言うことは、だ。

 トイレは男女にばっちり分かれているということなのだ。

 

 本来、レオは男の子であるのだから男子トイレに入るべきだろう。

 しかし、それを手伝う乙女は女だ。男子トイレに入るべき存在ではない。

 まあ、今は授業中だから使用している者はいないだろうが、万が一いたらものすごく気まずい。

 

 

 (やはり、ここは女子トイレにするべきか)

 

 

 心の中で自問し、頷く。

 今のレオは小さいのだ。女子トイレに連れ込んだところで文句をいう者もいないだろう。

 それに、女子トイレは全て個室だから余計なものを見てしまう心配もない。

 

 

 (よし、女子トイレに入ろう!)

 

 

 乙女は何とか決断を下し、何とか漏らすまいとプルプルするレオをなるべく揺らさないように気をつけながら、女子トイレへと連れ込んだ。

 一番奥の、ちょっぴり広い個室に入って施錠。

 おしっこをさせるにはちょっと不便なつなぎを大急ぎではぎ取って、パンツも脱がせて便座に座らせた。

 

 もちろん、レオから手は離さない。

 手を離すと大変な事になるという事は昨日経験済みだ。

 昨日は便器の中に落ちそうになったレオに泣かれて大変だったとその時の事を思い出しながら、レオのほっとした表情を眺めるとはなしに眺めた。

 勢いの良かった水音が徐々に小さくなり、やがて止まる。

 

 

 「ん。終わったか?」

 

 「うん、終わった~」

 

 「よし、じゃあ拭いとくか」

 

 

 昨日の姫の選択と同様、乙女もレオのおしっこの後はきちんと拭いてあげる事にしていた。

 ちょっと照れくさいが仕方ない。

 乙女は片手でトイレットペーパーを巻き取り、レオの可愛い余計なモノの先端をちょんちょんとつついた。

 

 それからついついまじまじと見つめてしまう。

 昨日から何度も見ているから流石に慣れてきたが、まだちょっと照れくさい。

 弟が小さい頃も見ているはずだが、その時はこんな照れくささは無かった。

 

 なんでだろうと理由を考えて、もしかしてレオのだから照れくさいのかもという結論に至って、乙女は少し頬を染めた。

 そしてその考えを振り払うようにぶんぶんと首を振って、再びレオに服をきちんと着せてやった。

 トイレを流し、再びレオを抱き上げる。

 

 

 「よく我慢できたな。えらかったぞ」

 

 「えらい?レオ、いい子?」

 

 「ん。いい子だったぞ。後でご褒美だな」

 

 

 乙女は微笑み、そんな言葉をレオに告げた。

 乙女としては、授業前に話してたように姫のところやなごみのところへ連れて行く事を示して言ったのだが、レオはそうはとらなかった。

 小さな小悪魔は可愛らしく首を傾げ、

 

 

 「ご褒美?ちゅー??」

 

 

 ととんでも無いことを言ってきらきらした目で乙女を見上げた。

 昨日、姫にキスを貰った事を、レオはしっかり覚えていたのだ。

 

 

 「ちゅ、ちゅーだと!?いや、そうじゃなくてだな」

 

 「乙女ちゃん、レオと、ちゅー、しない?」

 

 

 慌てて否定しようとすると、レオが目に見えてしょぼんとした。

 その様子を見て、乙女はさらに慌てる。

 そして思い出した。

 

 そういえば、昨日椰子もレオとちゅーのような事をしていたな、と。

 ハレンチだと騒いだ乙女に、椰子は言ったのだ。そんな風に騒ぐ方がハレンチなのだ、と。

 

 もしかしたら、乙女が知らないうちに世の中の常識は変わって来ているのかもしれない。

 ご褒美にちゅーは、ハレンチなようでハレンチでは無いのかも。

 もちろんそんなことあるわけないのだが、今の乙女は混乱していたし、昨日からのカルチャーショックも大きかった。

 

 冷静な判断力を欠いた乙女は決意する。

 レオに、ちゅーをしようと。

 レオはもちろん、唇へのキスを要求したわけではない。

 可愛らしくほっぺやおでこへのちゅーのつもりでちゅーをせがんだのだ。

 だが、そんなことを乙女が知る由もない。

 

 

 「よ、よし。ちゅーをするぞ」

 

 

 乙女は決死の思いで宣言し、レオの可愛らしい小さな唇を見つめた。

 

 

 「目をつむれ、レオ」

 

 「目?」

 

 「ちゅーとはそういうものだ。大丈夫だ、私に任せろ!」

 

 「ん~?うん」

 

 

 レオは素直に目を閉じた。

 乙女の顔を見上げたまま心持ち上を向いて目を閉じている様子は、キスをせがんでいるようで微笑ましくも可愛らしい。

 まあ、実際にキスをせがまれているわけなのだが。

 

 乙女は心臓がばっくばっくと音を立てるのを感じながら、ゆっくりレオの唇に自分の唇を寄せる。

 ふれあう寸前、目を閉じた。

 その直後、唇に感じる柔らかな感触。

 レオの唇の感触だった。

 そうしてしばらく触れあわせ、ゆっくりと顔を離して目を開ける。

 するとレオももう目を開けていて、乙女と目が合うとにこーっと可愛いらしく笑って、

 

 

 「えへへ~。レオね~、乙女ちゃんとちゅー、好き~」

 

 

 そんな爆弾発言。

 その言葉を聞いて、もうすでに真っ赤になっていた乙女の顔は、さらにぼんっと赤みを増すのだった。

 その後、顔の赤みが治まるのを待った乙女は、結局1限目の終了まで教室に戻れなかった。

 

 

 




読んで頂いてありがとうございました。
なるべく早く次話更新できるように頑張ります!!
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