吼ゆる狼の見る世界   作:烏兎

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第二話『軍師』

「あー・・・・大将、斥候役から伝令」

 

蒼真が微妙な表情をして現れたのは、魏延殿とそろそろ合流するかしないかといった頃だった。対外的には飄々として余裕を持った態度をしている蒼真だが、俺ら身内相手だとそうではない。割と表情と言葉に考えや心境が出る、そして蒼真がこういう表情をしている時は・・・・

 

「魏延将軍の隊が賊に包囲されて立ち往生してます、どうやら標的の賊がヤられる前にヤッちまえって事で他の賊と手を結んだみたいですね」

 

あんまり宜しくない報告がある時、と相場が決まっている。しかし包囲されているとは珍しい、益州軍の魏延と言えば爆発力と突破力が近隣諸侯に知れ渡っている猛将だ。それが簡単に包囲されるとは・・・・賊を取りまとめている奴がいる、もしくは・・・・

 

「賊の動きが思ったより良いみたいで、あと逆に将軍の隊の動きがあんまりにも悪いんでもしかしたら新兵が中心なんじゃないですかね?」

 

そう来たか。

 

たかだか賊の討伐、大したこと無い連中なのだから自らの武威を示すと共に新兵の調練をしてしまえ・・・・と。まぁ成程、厳顔将軍が心配になって俺らに救援要請を出すわけだ。

 

「仕方ない、ここからは仕事の時間だ。俺が百を連れて囮になる、蒼真は五十で機を見計らって奇襲を仕掛けろ。楓と椿は残りを連れて包囲が緩み次第魏延殿と合流、隊を立て直し包囲を内側から喰い破れ」

「うーっす」

「はい」

「ん」

 

三人がそれぞれ返事をして、持ち場へと散っていく。それを見送ってから、俺と共に囮役になる百人へと向き直る。

 

「さて、理解しているとは思うが俺たちが最も危険な役目だ」

 

千近くにまで膨れ上がった賊を引き付けなければならないのだ、引きつけすぎても引きつけなさすぎてもダメだ。適度に引きつけ、打ち倒し戦力を削ぎ落とし、蒼真が奇襲を仕掛け楓と椿が魏延殿と合流するだけの隙を作らなければならない。

 

「だがまぁ・・・・ここにいる連中は飛雷でも古株の強者ばかり、そうだろう?」

 

そう、俺が選んだのは飛雷の結成当時からいた百人だ。元馬賊、元山賊、元河賊、元益州兵、元ゴロツキの中でも俺が自ら足を運び勧誘し長く戦場を共にした者たち。蒼真や楓、椿のように隊を動かす才は無かった。それでもそれを補って余りある武勇があった、俺と志を同じくし俺の指示に従い殉じ戦う覚悟を持っていた。だからこそ俺はコイツらをはじめとした飛雷の面々を活かし生かす戦いをするのだ。

 

「さぁ戦だ!」

『オォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

―――――――――

あれから一刻、既に戦況は決しつつある。俺が率いる囮部隊に釣られて動いたのが二百程、その二百の抜けた穴を突いて楓と椿の隊が魏延殿の隊に合流。内側から包囲を食い破り始め、浮き足立ち腰の引けたところを蒼真が狙い奇襲を成功させた。それで全てが決するはずだった・・・・のに、未だに抵抗を続けている敵が僅かながらいる。現在はその僅かに残った五十弱の兵士を包囲している状態だ。

 

「・・・・戦況は動かず、か・・・・蒼真、こっちの被害は?」

 

五十が立て篭るように陣を敷いているのは崖際の高台。表からは攻めづらく、崖であるが故に背後を突く事も難しい。魏延殿とてバカでは無い、それを簡単に包囲してしまうとは妙に戦が上手い賊だと思ったが・・・・成程、その中心にいたのがこの五十人の頭目と言うわけだ。

 

「不幸中の幸いで死者は無し、ですがけが人は三分の一を越えましたね。ったく・・・・のらりくらりと追撃もしてこないもんで、こっちは決め手を欠いてますね」

「・・・・指揮官は割り出せたか?」

「まぁおおよそ、中心で声ぇ張り上げて指示出ししてた娘っ子がいましたから多分ソイツですね」

「成程・・・・欲しいな」

 

人材が多いに越したことはない。近頃では隊を割る事も多い、俺、楓と椿、蒼真と大体が三つになる。蒼真は器用に指揮と将としての働きをこなすし、楓が指揮で椿が将と役割分担がしっかりしている。だが実は俺はそうでも無い、指揮をすれば前には出られず、将として働けば指揮にまで手が回らない。個々の能力ならばそこらへんの奴らにはヒケは取らないと自負しているが、なんとも同時にこなそうとすると上手く回らなくなってしまうのだ。

故に普段は戦闘前に全体に大まかな指示を出し、後は他の判断に任せて戦っている。だがそんな戦い方で通用するのは賊相手ぐらいまでだ、これから先に来るであろう時代に立ち向かうには誰か一人、全体を俯瞰し戦と言う図面を描く軍師の役割を持つ者が必要だ。

 

「しゃあない、着いてこい蒼真・・・・説得してみようや」

「うっす」

 

―――――――――

 

「で?説得つってもどうやるんです?大将」

「それはお前、こうやって・・・・」

 

工程その一、先ずはめいっぱい大きく息を吸い込みます。

 

「おー嬢ちゃんー!!あーそびーましょー!!」

 

工程その二、誘いをかける・・・・ほら、かんぺ・・・・

 

「アンタぁアホかぁあああああああっ!!!」

「ぶべらっ!!?」

 

痛ぇっ!殴ったな!?

 

「どこのガキだアンタは!っつか今時のガキでもあんな誘い方しねぇよ!!」

「おいおい、こっちは説得に来てるんだぜ?先ずは誘いをかける事が重要で・・・・」

「だからってあの誘い方はねぇだろうがよぉ!」

 

くそぅ、コイツもとうとう反抗期か?よろしい!ならば戦争だ、徹底的に・・・・

 

「あの」

 

聞こえてきた声に、俺と蒼真が同時に視線を向ける。そこには帽子をかぶり緑色を基調とした衣装を身にまとった少女、蒼真が「ウソだろ・・・・」ってつぶやいてるって事はこの少女が指揮者と言う事か。

 

「貴方ですか、さっきのお誘いは」

「ああ、そうだ」

 

未だにやや放心状態の蒼真を放置し、俺は改めて少女へと向き直り居住まいを正す。

 

「傭兵部隊『飛雷』の長、李厳だ・・・・キミの名前を聞かせてくれないか?」

「・・・・徐庶、元直」

 

少し躊躇いがちではあるが、それでも名前を聞く事ができた。

 

「まぁ小難しい話をするのもなんだから単刀直入に言おう・・・・俺のところに来ないか?徐庶」

「普通・・・・益州軍に降れ、と言うべきなのでは?」

 

徐庶の意見が本来、最もである。個人的な戦いならともかく今回は益州軍の将、厳顔将軍からの依頼なのだ。普通は一度厳顔将軍に引渡し、然るべき交渉をもってして身請けするべきである。だがまぁ・・・・

 

「そこは色々とあるんでね、なんなら今回の報酬にキミを要求する事すら考えている」

「何故、そこまで私に入れ込まれるのです?私は取るに足らない賊の頭目、この場で討ち取ってしかるべきでしょう?それに先程までの攻め、意図して手を抜いていましたね?」

「さっき言った通りさ、俺は人材としてキミが欲しい。例え新兵中心の編成であったとは言え益州屈指の猛将魏延を封じ込め、また手を抜いたとは言え俺の隊の攻めを敵味方ともに無しで抑えるその軍略がな」

 

そこまでを一息に言い切れば、俺はさらに言葉を続ける。

 

「それに、キミは賊の頭目なのだから討ってしまえと言ったが・・・・そんな偏見で才人を殺す程俺は暗愚では無いつもりだ、何より俺たち『飛雷』はキミの言う取るに足らない賊の頭目だった奴らが多くてね」

「え?」

「皆同じなんだ、昔は大きな志を持っていたのに。世間の厳しさに曝され、腐った現実を知り、志をたたみかけてやさぐれて賊なんぞに身を窶して。それでも諦めきれなくて、俺の馬鹿げた妄言に動かされて、折れかけた志を立て直し共に戦ってくれてる」

 

ホント、俺だって馬鹿げた事を言っていた自覚はあるさ。皆農民か貧民出身でロクに学も無くて、独学で付け焼刃な知識を武器に戦おうとしてたのだ。そんな俺らが掲げた志は、良くて笑われるか、最悪国家反逆で斬られてもおかしく無いぐらい馬鹿げた志。

 

「馬鹿げた妄言、とは?」

 

そしてその馬鹿げた志を共にするバカたちの仲間に、徐庶が欲しいと思った。だから俺は徐庶の問いかけに、笑いながら応えるのだ。

 

「中華を完全な形で統一し、泰平の世を創る・・・・それが俺が騙り始め、バカたちがノってくれた妄言さ」

 

俺の言葉を聞いた徐庶が、俯き少しばかり考え込む素振りを見せる。

 

「・・・・ホント、馬鹿な妄言です。ですが・・・・」

 

上げたその顔には、不敵な笑み。

 

「そんな妄言を『楽しそうだ』と思ってしまった私も、バカなのかも知れません」

「バカで結構、そんなバカの集まりなんだからさ」

「ええ、そうですね・・・・改めまして、徐庶です。以後宜しくお願いします」

「んじゃあ改めて李厳だ、宜しくな」

 

俺が手を差し出せば、徐庶がその小さな手で握り返してくる。

 

「んじゃまぁお仲間になった、って事で・・・・俺は張翼ってんだ。宜しくな」

「奇襲してきた部隊を指揮していた方ですね?」

「お、よく見てるもんだね」

「私の武器は知識と見る事ですので」

 

と、二人がそれなりに良好な初交流を行う中・・・・俺は・・・・

 

「さてさて・・・・厳顔将軍と魏延殿、どうやって説得しようか」

 

上手く事後承諾を得る方法を、模索するのだ。




第二話でした。感想で李厳に姜維、黄権ってスゴいメンバーじゃ?とありましたが・・・・それに輪をかけるように徐庶参入、ゲームだったら最高のバランス力です。
やっと次回から原作キャラたちの登場ですね。
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