吼ゆる狼の見る世界   作:烏兎

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第三話『潮時』

―益州・巴郡―

草木も眠る丑三つ時、机を挟んで俺の前には三人の女性が座っている。徐庶とその配下の助命嘆願と、引き入れの許可をもらいに来たのだ。

 

「んー、吼狼君らしいと言えばらしいのだけれども・・・・」

 

巴の副将その一、黄忠、真名を紫苑。弓の名手で落ち着いた戦運びをする益州で三指に入る戦巧者。暴走しがちである他二将の抑え、もしくは補佐を行うのが主な仕事。『飛雷』結成当時に世話になったうちの片割れで、椿を弟子に取る事を勧めて来たのもこの人だ。また、俺の弓術の師でもある。一児の母。

 

「私は今回は吼狼に助けられた、その吼狼がそうだと言うならば否応は無い」

 

巴の副将その二、魏延、真名を焔耶。益州屈指の猛将で、バカでは無いが直情的なためか考えるよりも先に身体が動いてしまう。『飛雷』結成時にひと悶着あったが、その結果で認めてもらった。意外と面倒見が良く、新兵たちからも好かれやすい姐御肌。蒼真とは武で切磋琢磨しあう、好敵手のような関係でもあった。

 

「ふむ、それは構わぬ・・・・構わぬが・・・・」

 

そして巴の主将、厳顔、真名を桔梗。轟天砲と呼ばれる杭を射出する絡繰兵器を駆使し戦場を駆ける宿将。頭も良い、腕っ節もある、が・・・・一時の勢いに身を任せるがために紫苑さんの頭を悩ませている。『飛雷』結成に際し最も尽力してくれた恩人で、この人がいなければ『飛雷』は無かったとも言える。

 

「お主とてバカでは無いのだから分かるじゃろう?」

「戦力が過剰、ですか?」

「・・・・・・・・うむ」

 

蒼真や椿は戦場での槍働きが際立ってるし、元々益州軍所属だった楓を引き抜いたもんだから昔からいる爺らが面白く無いんだろう。兵にしたって元賊が多い、今回徐庶を引き入れた件でさらに拍車がかかるだろう。

 

「いくら若がお主を庇おうとも限度がある、それは分かるじゃろう?」

 

若とは益州刺史劉焉の息子、劉璋の事だ。何度か戦場で彼を助けているうちに妙に親しく接してきて、気が付けば真名を交換していた。彼自身の才は凡庸だが政治を重んじ、また温厚な人柄故か、文官勢からの指示は絶大。だが逆に脆弱な後継である、と大多数の武官からは非常に嫌われている。そんな立場であるにも関わらず、俺との親交を重んじ元々険悪だった武官勢と対立しているのだ・・・・負担をかけてしまい心苦しいと思う事が多々ある。

 

「・・・・そろそろ潮時、って事ですかね?」

「端的に言えば、じゃな。ワシや紫苑、張任、呉懿はお主らの実力を認め、また益州の将来のためには必要だと思っておる。じゃが龐羲をはじめとした古株の爺どもが劉焉殿に色々と吹き込んでおる、劉焉殿は暗愚では無い。そのへんの分別はある、じゃが如何せん気が弱い部分もある・・・・押し切られればお主らを反逆者とし軍勢を差し向ける可能性すらある」

「・・・・結構馴染みの店とかできて、愛着もあったんですけどね・・・・」

 

そして、その影響は恐らく桔梗さんや紫苑さん、焔耶や他にも俺を贔屓にしてくれてる将軍方にも及ぶだろう。それは俺が望むところではないし、ぶっちゃけそこまでして居座る理由も無い。

 

「まぁ、あれです。これまで世話ぁなりました、って事で」

「これまで数え切れぬほどに益州に貢献してくれたお主らを追い出すような真似、正直心苦しくもあるが」

「仕方無いでしょ、それは」

 

桔梗さんらが悪いわけじゃない、正規軍でも無い上に賊上がりと俺たちを蔑み、自分たちの無能さを棚に上げて妬んでくるような奴らが悪いんだ。

 

「椿ちゃんがいなくなると璃々も寂しがるわ」

「璃々ちゃんは紫苑さんに似て聡い子ですから、理解してくれると信じてますよ」

 

紫苑さんの一人娘、璃々ちゃんは椿に非常に懐いていた。仕事が無い時は椿が「私がお姉ちゃん」と言って、面倒を見て遊んであげていたから余分にだろう。

 

「あ、そうそう・・・・お前はもう少し落ち着いて考えろよ?今度からはこの間みたいな事になっても俺は助けにこれんぞ?」

「ああ、分かっている・・・・もう少し、考える戦をしてみようと思う」

 

焔耶の唯一の欠点は安易な考えで動いてしまう事、そこさえ改善されれば大陸屈指の名将と言うのも手が届くのだ。そこら辺は桔梗さんと紫苑さんに期待しておこう。

 

「吼狼、これを持って行け」

 

桔梗さんが差し出して来たのは益州の関門を抜けるための手形だ、確かにこれがあれば奴さんらが難癖つけて追いかけて来ても逃げ切れるだろうが・・・・

 

「ソイツは受け取れませんや、それこそ迷惑をかけてしまう」

 

関門を何事もなく抜けてしまえば、今度は誰が手形を渡した、と騒ぐだろう。恐らくは俺たちに反逆の罪でも着せて追いかけて来るだろうから同罪だ、とか何とかで桔梗さんらが失脚してしまうかも知れない。

 

「恐らく追いかけてくるっつっても龐羲の派閥の奴でしょ?だったら逃げ果せてみせます・・・・それとも、俺たちがそんなに頼りないですかね?」

「・・・・ふっ・・・・はははははははははっ!!そうじゃな、お主らはそう言う連中の集まりじゃった!失念しておったわ」

 

爆笑しながらそう言う桔梗さんを、紫苑さんも焔耶もキョトンとした表情で見ている。

 

「ならば良し!自ら言うたのじゃ、手加減は無用!見事に逃げ果せて見せい!!」

 

部下に命令を下すように、バッと手を掲げそう語る桔梗さん。それに対し、俺はのるように拱手し返答を返した。

 

「承知、愉快、痛快、通行料に相応しい置き土産を置いていく事にしましょう」

 

―『飛雷』野営地―

 

「ってわけだ、九割方来るだろう追撃部隊を面白おかしくからかったあげく滅多打ちにして荊州に抜けるぞー」

 

兵士たちが、口をあんぐりと開けている中で蒼真が苦笑しながら言葉を発する。

 

「やっぱこうなりましたか、まぁいつか来るとは思ってたんだ。どうせなら派手にやっちまいましょうや」

 

こういう時、一番ノリ気なのは付き合いの最も長い蒼真だ。

 

「永安を抜ける事になるのでしょうか?ならば追撃部隊を蹴散らしたら直ぐに長江沿いを浸走るべきでしょう」

 

そして俺と蒼真を呆れた目で見ながらも、先の事を考えてくれるのが楓だ。

 

「頑張る、全部ぶっ飛ばせば良い?」

 

そこに何も考えず、大槍をブンブンと振り回しながら準備をするのが椿。

 

「参入して直ぐにコレですか、まぁ・・・・面白そうなので良いでしょう」

 

最後に不敵な笑みを浮かべ、楓と共に策を練り始めるのが徐庶だ。

 

「益州での最後の戦だ、派手に、愉快に、痛快に、やっちまおうぜ!」

『オォオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

さぁ、戦いの始まりだ!




本日二話目の投稿になります。
三話目にして益州から脱出するとか・・・・自分でも話の展開が少し早い気がしましたが、殆どノリだけで書いてますので読者の皆様ご容赦下さい!
そう言えばお気に入り登録数が早くも10に到達、ホント感謝してます。
さて次回は長阪的なノリで『飛雷』の益州脱出です、どんな感じになるのか、乞うご期待。
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