「龐羲を騙す演技では無かっただと!?」
そんな陽の絶叫が永安城内で響き渡った。
『龐羲をはじめとした謀反の火種は刈り取った、これで大手を振って共に戦えるな!吼狼!』
『あ、悪ぃ。俺らこのまま益州出るから』
その絶叫の前にあったやり取りがこんなんである、どうやら俺らが益州を離れると言うのが龐羲らを動かすための演技だと思い込んでいたらしい。
「潮時だと思ってたのはホントさ、龐羲の事が無かったとしてもな」
「何故だ、私はキミらを信頼している。長が父から私へと入れ替わり、不安定な状況になるからこそキミらの力を借りたいとも思っている」
「ソイツぁダメだ、俺らみたいな正規軍でもねぇ部外者がのさばってちゃあ元々いる御歴々の顔を潰すし新人連中が力を発揮する場を奪う事になっちまう」
そう、確かに陽と親しくはしているがあくまで俺らは傭兵。あくまで部外者、なれば大きな顔をしてはいけないのだ。本来、一所に留まるべきですら無かったのにとどまってしまったのは俺が未練がましかったせいもあるのだろうが。
「俺がいなくとも呉懿将軍がいる、張任将軍もいれば厳顔将軍、黄忠将軍もいる。若い連中だって魏延や法正、孟達、呉蘭、雷同と才覚を発揮しつつある者も多い。文官だってお前が中心となり若手を育てて行けば良い」
「・・・・だが、私は・・・・」
それでもと言い淀む陽、正直言って嬉しいのだ。そこまで評価してくれている事が、そこまで信頼してくれている事が。だがそれでもなお、いやだからこそ俺は陽を突き放す。
「お前なら出来るさ、それとも・・・・俺のダチは俺がいなけりゃ何もできない赤ん坊なのか?」
「っ・・・・狡いぞ吼狼、そう言えば私が断れないと知ってて言ってるだろう」
そう、陽は俺がこう言うとなぜか断れないのだ。狡いとはわかっているが、それでも今回は使わせてもらおう。
「分かった、ならば目にもの見せてやろう!キミが私の誘いを断った事を後悔するぐらい、この益州を栄えさせて見せる!」
「おう、その意気だダチ公」
お互いに笑みを浮かべ、お互いの右拳をぶつけ合うのだ。
―――――――――
そうとなれば送迎会だ、との陽の言葉で荊州から戻って来る徐庶を待って大宴会が開催された。桔梗さんや紫苑さん、焔耶、呉懿将軍に張任将軍、法正、高沛、楊壊らまで集まっての大騒ぎとなっている。
「お姉ちゃん行っちゃうのヤダー!」
「えぅ・・・・璃々・・・・(オロオロ)」
「あらあら・・・・」
紫苑さんの娘、璃々ちゃんに泣きつかれてオロオロしてる椿・・・・を見て笑う紫苑さん。
「ガハハハハッ!!蒼真に焔耶よ、飲め!もっと飲め!さらに飲め!倒れるまで飲めぇい!!」
「ちょい待ち旦那っ!それいじょガババババババ」
「刈様!飲めません!それいじょガババババババ」
呉懿将軍・・・・刈さんに無理やり口から酒を突っ込まれる蒼真と焔耶。
「ですからこの場合は騎馬を迂回させてですね」
「ですがそれでは本営が先に落とされるでしょう?だからここは・・・・」
法正と兵法議論を交わす楓。
そして・・・・俺の差し向かいには張任将軍・・・・仁さんが座っている。
「今後は、どうするつもりだ吼狼」
最初に口を開いたのは張任将軍・・・・仁さんだった。
「中原で色々やってみようと思ってる、兵数もぼちぼち増員してーし・・・・そろそろな」
「・・・・夢に向かって、か」
「はい」
桔梗さんが恩人ならば、仁さんは俺にとって父親のような存在である。アイツと死に別れ、生きる気力を失いかけていた俺を拾ってくれたのは仁さんだった。
『死なせてくれよ・・・・俺は、もう・・・・』
『お前に何があったのかは聞かん、だが・・・・頭を冷やして考える事だ、本当に死にたいのか?死んで・・・・どうする?』
『・・・・』
『全てを失ったような顔をしているが・・・・失ったものばかり数えるな、残ったものを省みてもいいのでは無いか?』
『・・・・俺は、俺には・・・・ああ、そうだ。約束がある、アイツとの約束が・・・・』
仁さんのおかげで約束を思い出す余裕が生まれた、仁さんがいたから今の俺がある。武術も馬術も兵法も、ありとあらゆる事を俺に教えてくれたのは仁さんだ。孤児だったがゆえに、両親の顔は知らない。だがもし父がいたならば、こういう人だったら良いなと思うのだ。
「もう十年早ければ、もし益州と言うしがらみさえ無ければ・・・・私もお前と共に行ったかも知れん」
「仁さん・・・・」
「そう思えるほどに、お前らの掲げる理想は眩い。だからこそ誇れ、そしてその理想を共に目指せる主君を見つけろ。そうだな、甘っちょろくてお人好しで心優しい・・・・そう言う主君がお似合いかも知れんな」
「甘っちょろくてお人好しで優しいって・・・・どんだけ聖人君子な、と思うが・・・・心に留めておきましょ」
仁さんの目は確かだ、俺にそう言う主君が似合いだと言うなら本当なのだろう。探すだけ探してみるのも良いだろう。
「おぉ、ここにおったかお主ら」
「探しましたよ、李厳様」
桔梗さんと徐庶とは、物珍しい組み合わせだな。
「ワシは徐庶をここに連れて来ただけじゃ、徐庶が吼狼に用事があると言うのでな」
ポン、と桔梗さんが徐庶の背中を押し出す。仁さんが立ち上がり場所を譲ると、徐庶がそこへと座る。
「私を仲間へと誘った時、言ってましたね。泰平の世を創る、それが志であると」
「ああ、言った」
「・・・・李厳様が長となり一つの勢力を作り上げる、そう言う方法もあると思うのですが・・・・」
「あー無理」
同じ事は蒼真にも、楓にも、椿・・・・は言わなかったが元頭目を張っていたような連中には皆聞かれた。楓には説得もされた、それでも俺の考えは変わらない。
「俺はダメだ」
「なぜ?」
「天下を統べる者にはいくつかの条件がある、と思っている」
そう言って俺は、指を三本ピッと立てる。
「その中で最も重要なのは・・・・『人を惹き付ける魅力』『万人を従わせる覇気』『従う全てを魅せる大志』の三つだ」
魅力、覇気、大志。その三つを兼ね備えた者を世は覇者と呼ぶ。秦の始皇帝も、その始皇帝を打ち倒し漢を築いた劉邦も、その三つを兼ね備えていた。俺には足りないものばかりだ、魅力も、覇気も、大志も明らかに足りない。
「だからこそ、その三つを兼ね備える。もしくは将来的にその資質を持つであろう者を主として仰ぎ、その者の進む覇道でも、王道でも、俺らの理想と寄り添える大志を持つならば俺はその道を全力で支える」
手酌で盃へと酒を注ぎ、一息にそれを飲み干す。
「それが俺の、天下を取るやり方だ・・・・不満か?」
「私は・・・・」
「お前が必要だ、俺は勧誘した時確かにそう言ったがな。気に食わなけりゃ別に良いんだぜ?無理をしたって良い事なんざ一つも無ぇんだからよ」
無理強いさせて手元に置いたとして、そのものが本当の実力を発揮してくれるとは限らない。それでは本末転倒なのだ、良き人材ほど望む場にて全身全霊でその才を振るわせるべきなのだ。
「友里」
「え?」
「私の真名です、李厳様へと預けさせて頂きます」
「・・・・吼狼、それが俺の真名だ・・・・」
いつの間にか、他の『飛雷』のメンツが集まってきていた。蒼真、楓、椿が一歩前で俺たち二人を囲み、他の面々はその外を円を描いて囲い込んでいる。そしてその外で、陽、仁さん、桔梗さん、紫苑さん、璃々ちゃん、刈さん、焔耶、法正、楊壊、高沛が興味深そうに覗き込み、永安兵たちも一緒に見学している。
「先ずはこれを受け取れ」
懐から俺が取り出し差し出したのは、飛雷の旗の下地にも使われている黒い布、それに『飛』の一文字を刺繍したものだ。友里が、それを受け取って手に取り、興味深そうにしげしげと見つめている。
「それは『飛雷』に正式に所属した証だ、頭や腕に巻くなり愛用の武器に巻くなり好きにしろ」
友里は受け取ったそれを、腰帯へと括りつけた。因みに蒼真は頭に、楓は首に、椿は大槍の石突にそれぞれ巻きつけている。俺は外套と腰布に大きく『飛』の一文字を縫っている。
「そして『飛雷』にはたった一つの掟がある、それを・・・・心に刻むんだ」
視線で合図を送れば、『飛雷』の皆が頷き俺と共に口を開く。
『みっともなくても良い!地を這いずり回り!泥と恥辱に塗れてなお!生きる事を最優先とせよ!』
正規の軍隊よりも雄々しく、気高く、高らかに叫ぶ『飛雷』の勇士たち。
「改めて・・・・よろしくな、友里」
「はい、宜しくお願いします・・・・ご主人様」
友里が正式に参入する事になったこの後の宴の続きで、この友里のご主人様呼びにより幼女趣味疑惑をかけられた俺は・・・・陽に桔梗さんや紫苑さんからさんざんからかわれる事になった。
第五話でした。お気に入り登録数がはやくも五十件を超えまして、ちょっとテンションが上がっております。次話から益州を離れ大陸各地を巡る吼狼と飛雷の話に入って行きます。