機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼 作:K-15
遂に始まるロゴス殲滅作戦。
連合のヘブンズベースに逃げ込んだメンバーを捕まえる為に、ザフトは大規模部隊をジブラルタル基地から送り込む。
けれどもそこにロード・ジブリールの姿はない。
数時間にも及ぶ激闘の末にヘブンズベースは陥落。
ロゴスのメンバーも多数捕まるが、本命であるジブリールが居なくては意味がなかった。
捕まえたモノ達の証言から、ジブリールはオーブに逃げた事がわかる。
この事はザフト全軍に伝えられ、ヘブンズベース攻略後に行き着く間もなくオーブ本島へとザフトは向かう。
オーブ連合首長国代表首長のカガリ・ユラ・アスハは、自国に亡命して来たジブリールと謁見する事となる。
スーツを身に纏い会議室に向かうカガリ。
大きな木製の扉を開けた先には、長机と幾つもの椅子を挟んだ向こう側に彼が居た。
カーキ色のスーツ、唇には紫の口紅。
気を引き締めるカガリは大きく口を開け声を張る。
「ロード・ジブリール氏、お待たせした。オーブ連合首長国代表首長のカガリ・ユラ・アスハだ」
「代表自ら来て下さるとは」
「今の世界の状況をおわかりか? 世界中がアナタを狙ってる」
「それで? 指示は届いてる筈ですよ。太平洋連合と協力しザフトを退けろ、と。オーブはもう連合と同盟を結んだ。オーブだけ独自に動くなどしたらそれなりのペナルティはある。最悪の場合、同盟を解き連合とザフトに板挟みにされる。それでも良いのですか?」
「それは……」
カガリの心情では、このままジブリールを野放しにして置く事など出来ない。
だか彼の言う通り現在オーブは連合と同盟を結んでおり、たった1人の私情で相手国の通達を無視など出来る筈がなかった。
苦虫を噛み潰した表情になるカガリだが、ジブリールの言葉に逆らえない。
「代表、アナタは自分の責務を真っ当して下さい。私はマスドライバーで宇宙に上がる。それまでザフトの相手は任せます。心配せずとも大丈夫、私が宇宙に上がればレクイエムが流れる」
「レクイエム?」
「えぇ、そうすればザフトなど恐るるに足りません。勝てるのです、この戦争に。その時こちら側に居たければ、何をすべきかはおわかりですね?」
ヘブンズベースが陥落した事で連合軍の増援は期待出来ない。
これから数時間後には来るであろうザフトを前に、オーブは自国の戦力のみでジブリールを逃がす為に戦わなくてはならなかった。
オーブの戦力だけでザフトに勝てる可能性は低く、ジブリールは自分が逃げる為だけの捨て駒程度にしか思ってない。
その事が余計に悔しく、爪が食い込む程に両手を握り締め震えるが、ジブリールは見透かしたように鼻で笑うだけ。
「では、私は失礼するよ。悠長にしてられる程の時間はないのでね。アナタも急いだ方が良い。でないと、オーブは再び戦火に飲まれる事になる。もうすぐザフトが来る」
言うとジブリールは1人この場から去ってしまう。
残されたカガリもこのままここに居る訳にはいかず、市民の誘導や現場を把握する為に作戦司令部に向かおうと振り返る。
扉を開け会議室を出ると、そこに居たのはユウナの姿。
「ユウナ……」
「悔しいかい? 1番の悪が逃げてくなんて」
「デュランダル議長の言う事が正しいのなら、アイツがこの戦争を引き起こした。利益の為だけに大勢の人間を巻き込んで。その上まだ自分だけは逃げようとして。許せるもんか」
「でも彼の言う通りオーブは同盟を結んでる。通達も来た。数時間後には来るザフトを何としても退けろ、とね。僕だって別にアイツの肩を持つつもりはないけれど、そう言う風なシステムになってしまってる」
「このままアイツの思い通りに事を進めるしかないのか? 私は……」
「いいや、やりようはあるさ。幸いにも連合はヘブンズベースをやられたせいで戦力は乏しい。本土の防衛はこちらの軍だけでやらなくてはならない」
「それが何だと言うんだ? どちらにしても戦闘は避けられない。連合に加担しても、裏切っても、その先にあるモノは……」
悔しさを滲ませるカガリの肩にユウナはそっと手を乗せた。
「状況を良く考えるんだ、カガリ。連合を裏で牛耳って居たロゴスが失くなれば、向こうは存続の維持に立たされる程の危機だ。何と言っても連合だってロゴスの商業システムにハマってるんだ。彼らが居なくなれば資金源も失くなる。そして戦う意味も意義も失ってしまう。そうなれば解体だって視野に出る」
「連合が……解体……」
「そうさ。連合は設立されてまだ日が浅い。各国の首脳も、そこまで思い入れがあるものか。まずは自国を優先させる。僕達だってそうだよ。ロゴスなんて後回しさ」
「でも……そうすればオーブは連合から報復されるぞ?」
「オーブが同盟を結んだのは連合とだ。それなりの形にはするさ。その為には、軍の配置を少し変える必要がある。手伝ってくれるね?」
提案するユウナの言葉にカガリは力強く頷く。
さっきまでの弱気は奥底に押し込み、2人は基地司令部へと急いだ。
数時間後、オーブ海域にはザフトの艦隊が押し寄せて来る。
デュランダルはジブラルタル基地から、むかわせた艦艇と通して現場の状況を見て居た。
「この配置……どう思う、艦長?」
「どう、と言われましても。基地を守る気がないとしか……」
基地司令部で、デュランダルの隣に立つ白服の男は言う。
レーダーに反応するのはオーブ本島に建設された基地。
ところが防衛部隊は1機たりとも居らず、殆どの機体が線を引いたように民間居住区を守る為に横並びで立って居る。
そして残る機体はマスドライバーをグルリと囲んで居た。
「地下シェルターに残りの戦力を隠して居るとも考えにくい。やはり気になるのはマスドライバーだな。艦長、念の為に私からオーブに最終勧告を行う。繋げてくれ」
「はい、わかりました」
デュランダルは少し歩き通信士の座る通信機にまで足を運び、使ってたインカムを受け取るとマイクに向かって声を出す。
「私はプラント最高評議会議長のギルバード・デュランダル。オーブ連合首長国代表のカガリ・ユラ・アスハと話がしたい。応答願う」
デュランダルの言葉から数秒後、重苦しい空気が漂う中でモニターの映像が切り替わる。
そこに映るのは代表であるカガリと補佐を務めるユウナの姿。
デスクに座る彼女の視線はモニター越しでも鋭い。
『私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハだ。議長自らとは、如何な事情か?』
「通達は行いました。そちらのオーブに我々が求める人物が逃げ込んで居る。付きましては無条件でこちらに引き渡して貰いたい』
息を呑む音。
覚悟を決めるカガリはデュランダルに対して答えを言う。
『現在、オーブは連合と同盟関係にある。その連合から、彼を宇宙に逃がすようにと指示があった。同盟国であるオーブは、その指示に従う必要がある』
「では私の言葉は聞き入れるつもりはないと?」
『オーブは彼を宇宙に逃がす。ザフトがそれの邪魔をすると言うのなら、戦闘行為も止む終えない』
「そうですか。わかりました」
言うとデュランダルはインカムを通信士に返し、通信が途切れると同時にモニターに映る彼女の姿も消えた。
顎に手を添えて考える彼は、数カ月前のカガリを思い出す。
(あの時と比べれば、少しは成長したと言う事か。被害は最小限に、表面上はこちらの要求を跳ね除け、同盟を結んだ連合の指示に従う。ロゴスが居なくなれば連合の存続も危うい。問題はそれまでの間、自国の戦力だけで持ち堪える事が出来るかどうか。そこは彼女の力次第か)
デュランダルはカガリが言った、ジブリールが宇宙に逃げると言う言葉を信用した。
レーダーに映るオーブ軍の配置を再度確認し、前線部隊に指示を出す。
「ジブリールはマスドライバーで宇宙に逃げるつもりだ。全軍、シャトルの発射前に奴を叩け!!」
デュランダルの宣言に従い、前線部隊は行動を開始する。
領海内にまで侵攻するザフトに対し、オーブ軍は一切の攻撃をしなかった。
その行為はシャトルで脱出を図るジブリールにも伝わり、彼は心底怒り狂う。
「何を考えてる!! これではここに居る事が丸わかりではないか!! あの小娘、私を売ったな!!」
叫ぶジブリール、それでも状況が変わる事はない。
迫り来るザフト軍にオーブ軍は抵抗らしい抵抗をしなかった。
ビームや砲撃をしても威嚇や牽制のみで本気で当てるつもりはない。
近づいて来ればすぐに後退し、完全なる出来レースが行われて居た。
カガリはユウナと共に基地司令部で事の成り行きを見守りながら、これからに付いて考える。
「いよいよ始まったのか。これで被害を抑えられれば良いのだが」
「こちらの意図は相手にも伝わってる筈です。現にザフトの殆どの部隊がマスドライバーに向かって居る。問題はシャトルの準備は全て向こう側が進めてると言う事。急いでくれないと間に合わないかも」
「だが、もしも逃げられたら……」
「その時はまた別の行動を取るまでだ。カガリ、相手の動きを見てから動いて居たのでは遅すぎる。その為の準備、2手3手先を読んで作戦を考える必要がある。市民の避難準備も進めて居る。それに思惑通りに行こうが行くまいが、連合とザフトとは会合する必要がある。キミはそこまで考えて動かなくてはダメだ」
今のカガリには目先の現実に対処するのが精一杯で、この後の事まで考えられる余裕はない。
そう言われても、目の前に起こるザフトの侵攻とジブリールの脱出が気になって、他の事を考えてる場合ではなかった。
侵攻から暫く時間が経過すると、マスドライバーに動きが見える。
1隻のシャトルがマスドライバーのレールの上に乗った。
「もう準備が出来たのか? 早すぎる」
カガリの声にユウナは目を細める。
映像に映るのはオーブで用意したシャトルではあるが、何か違和感を感じた。
けれども答えを導き出すよりも早くに、ブースターを装着したシャトルはレールから動き出す。
ザフト軍も当然シャトルを見つけ出し攻撃に移る。
ブースターから点火したシャトルは速度を上げて空を飛ぼうとするが、推進剤の量が少なく本来よりも遅く、レールから飛び立つ前に撃破された。
「アレはジブリールが乗ったシャトルだったのか?」
「わからない。でも何か変だ。彼がこんな無謀な事をして死ぬような人間には思えない。何か他に……」
シャトル撃墜によりザフト軍の侵攻も緩やかとなる。
ジブリールは既にマスドライバーから移動して居た。
カガリの思惑を知ったジブリールはこのままでの脱出は困難と判断し、セイラン家が独自に所持する地下施設へ向かう。
そこにあるのはいつでも宇宙に上がれるように準備された別のシャトル。
「あるではないか。これで逃げられる。すぐに準備しろ、遅くなればここで死ぬだけだ!!」
言われてジブリールの護衛に当たる複数の連合兵はシャトルのコクピットに乗り込んだ。
今の基地は被害を最小限に留める為にもぬけの殻にして居た。
その事が仇となり、ジブリールにシャトルの存在を知られてしまう。
「ふふふ!! 私さえ生きて居れば状況は立て直せる。そしてレクイエム!! オーブ……カガリ・ユラ・アスハ!! まずは貴様に生け贄になって貰うぞ!! この怒り、2度と忘れん!!」
ジブリールを乗せたシャトルは動き出す。
外では戦闘の音は鳴り止んでおり、波の音が聞こえるくらいに静まり返る。
発進したモビルスーツも武器を収め周囲の索敵に務めており、あまりに呆気無い結末にザフトも警戒して居た。
オーブのカガリも正確な状況が把握出来ず、軍に指示を出す事が出来ない。
「残骸を回収するしかないな。マスドライバーもシャトルもオーブのモノだ。ザフトも干渉して来ないだろう」
「現状ではそれしか出来ないけれど……」
疑問を浮かべるユウナだが、出来る事は限られて居る。
カガリの言うように破壊したシャトルの残骸を確かめるしかないと考えて居ると、突如として地下シェルターが開放された。
そこにはセイラン家が独自に用意したシャトルが配備されており、ジブリールはそこに居る。
だが気が付いた時にはブースターに点火しており、加速するシャトルは重力から解き放たれた。
高々と上がる白い雲、もはや止める術はない。
///
宇宙へと上がったミネルバ。
もしもの時の為と準備して居たが、その状況が本当に起こってしまう。
ブリッジでは宇宙に上がる1隻のシャトルをレーダーで確認し、逃すまいとタリアは進路を取る。
「ミネルバ面舵50、オーブのシャトルを追います」
「艦長、あの方角は月に向かってるのでは?」
「わかってます。月には連合のダイダロス基地もある。防衛部隊が展開されれば我々だけでは太刀打ち出来ない。その前に追い付けなければ、また取り逃がす事になる。だから急いで!!」
「了解です!!」
返事を返すアーサーはレーダーにもう1度視線を移す。
ダイダロスの防衛圏内にシャトルが到達するまでに間に合うかどうかはギリギリの所だった。
ミネルバが作戦を開始する中で、ルナマリアは自室でアスランが脱走した事に心痛めて居る。
仲間として、上官として信用して居た彼が理由もわからずに居なくなり、彼女の精神状態は酷く不安定だ。
ジブラルタル基地からミネルバに戻ってからはずっと自室に引き篭って居る。
「アスラン、私どうしたら……」
電気も付けずベットのシーツに包まる。
メイリンは自分の業務がありまだ部屋に戻れない。
何もやる気が起こらず、このまま寝てしまおうと思って居ると、突然部屋のブザーが鳴った。
「今はそんな気分じゃないの……」
居留守を使おうとするがブザーは鳴り止まない。
いつまでも鳴り続けるブザーに耳が痛くなり、我慢出来なくなったルナマリアがベットから出る。
「わかったわよ、うるさいわね」
ゆっくりと歩きながら部屋のドアを開けると、そこには意外な人物が立って居た。
「ヒイロ!?」
「メイリン・ホークは居るか?」
「今は部屋には居ない。ブリッジじゃない?」
「そうか、ならコレを頼む」
そう言ってヒイロは手に持った物を渡す。
それはラクス・クラインの映像ディスクのパッケージ。
ルナマリアは手渡されたソレを見て、妹の行為に呆れてしまう。
「この前メイリン・ホークが部屋に来たときに置いていった」
「そう……ありがと。後で渡しておくから」
「話はそれだけだ」
ヒイロは用が済むとルナマリアの部屋から出て行こうとする。
背を向けるヒイロにルナマリアは大声で呼び止めると感情をぶつけた。
「待って!! ヒイロはアスランの事どう思ってるの?」
「またモビルスーツに乗って戦場に来れば、アイツは俺の敵だ。許される行為ではない」
「そう……そうよね」
「アスランはまた戦場に来る。そうなったらお前は戦う事が出来るのか?」
ルナマリアはその質問に答える事が出来ず下唇を噛む。
アスランの脱走はあまりに突然の事で気持ちの整理がまだ付いてない。
「あと少しで戦闘が始まる。気持ちに迷いがあると死ぬぞ」
言い捨てるヒイロはルナマリアの部屋を立ち去る。
ヒイロの言葉をルナマリアはただ呆然と聞くしか出来なかった。
ジブリールが宇宙に逃げた事で、ジブラルタル基地のデュランダルとラクスもシャトルで上がる準備を進める。
ザフトの機動要塞メサイアに戻り、地球連合軍、ロゴスと最後の戦闘を行う。
メサイアに指示を送るデュランダル。
そしてラクスは宇宙に集結しつつあるザフト軍に通信越しにエールを送った。
「ラクス・クラインです。長きに渡るロゴスとの戦いも終わろうとして居ます。ロゴスがこの世から無くなる事で、世界は平和への第1歩を踏み出す事が出来る事でしょう。平和を望むプラントの人々の為にも、ロード・ジブリールなる人物を許しておく訳には参りません。ザフト軍の兵士の皆様、勇気と誇りを胸に最後まで戦い抜いて下さい。今の私に出来る事はコレぐらいしかありません。ですが、平和を望む気持ちは皆様と同じです。せめてもの祈りを捧げます」
目をつむり両手を握り締めるラクス、その姿を見て兵の士気が高まる。
数秒後には画面が切り替わり、今度はデュランダル議長が映し出された。
「諸君、通達した通りロゴスのロード・ジブリールは宇宙へ逃げた。今はミネルバ隊が彼を追ってるが、もしも間に合わなければ月のダイダロス基地との戦闘になるかもしれん。だが、どんなに辛く厳しい戦いであろうとも、彼を撃つ事が出来ればこの戦争は終わる。もうこれ以上ロゴスの暗躍は許しておく事は出来ない。よって次が最後の戦場となる!! 地球とプラント。ナチュラルとコーディネーター。ロゴスが居る限りは、この両者がわかりあう事もない。諸君らの力を今一度貸して欲しい。そして私は、プラント最高評議会議長として、今の世界をより良い世界に変えると約束しよう!!」
各地で上がる歓声。
シンはステラの眠る病室で議長の宣言を見て居た。
彼女の隣でモニターを鋭く見つめるシン。
「戦争が終わる。今度こそ本当に……」
デュランダルが宣言したより良い世界、シンはこの言葉の意味を考えて居た。
(戦争が終わったら、世界はどう変わるんだ? そして戦争が終わっても、俺は軍に居るのか?)
ポケットのマユの携帯電話を握り締める。
震える怒りと悲しみは今の戦争が終わっただけでは収まらない。
家族を殺した青い翼を持つモビルスーツ、フリーダムだけは許す訳には行かなかった。
「けれど戦争が終わっても、アイツだけは!!」
「シン……顔怖い……」
「えっ!?」
驚きながらも視線を向けると、ベッドに眠るステラが目を覚ました。
まだ血色は悪く、まぶたを開けるのも弱々しい。
震えるステラを見て、シンは瞳に涙を溜めて彼女を強く抱き締めた。
「ゴメン、ステラ。もう大丈夫だから、安心して」
「シン?」
(そうだ、ステラを守る為にも俺は戦わなくてはならない。今度こそ倒す、絶対に!!)
ステラはこれ以上は何も言わず、ゆっくりシンの背中に両腕を回すとそのまま眠ってしまった。
モビルスーツ戦がなくてスミマセン。次回はある予定ですので。
オーブの在り方はアニメとは変更しました。
後はジブリールとアークエンジェル隊の動きはどうでるのか?
ご意見、ご感想お待ちしております。