機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼   作:K-15

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最終話 勝利の果てに

6機のドムトルーパーの襲撃に会うミネルバ。

残されて居るのはルナマリアのインパルスのみで、単機で相手をするには厳しい戦いだ。

ブリッジからはインパルスを援護するようにとタリアが檄を飛ばす。

 

「タンホイザーのチャージを急いで。トリスタンで迎撃、敵を寄せ付けるな!!」

 

「了解!! トリスタン、撃てぇぇ!!」

 

「ルナマリア、本艦は現領域から撤退します。司令部からもメサイア放棄の指示が出た。防衛に専念して!!」

 

「わかってますけど、敵に言って下さいよ!! 敵に!!」

 

ルナマリアはペダルを踏み込み、撤退するミネルバの防衛に当たる。

ビームライフルの銃口を向けトリガーを引くが、スクリーミングニンバスを展開する相手は回避行動すら取らずに突き進んで来た。

 

「またソレなの!? こうなったら!!」

 

左腕のシールドを投げ飛ばす。

ビームの直撃すら防ぎきる相手にシールドをぶつけた所にダメージにはならない。

敵は容易に投げられたシールドを回避すると、装備したビームバズーカを構え照準をインパルスに向ける。

 

「落ちなさいよ!!」

 

ルナマリアは投げ飛ばしたシールドに目掛けてトリガーを引いた。

発射されたビームはシールドに対して斜めに当たり、アンチビームコーティングがコレを反射する。

その先に居るのは、ビームバズーカを構えるドムトルーパー。

ビームはスクリーミングニンバスが展開されてない背部のバックパックに直撃し、爆発する機体と推進剤は大きく姿勢を崩させる。

 

『そんな馬鹿な!?』

 

「まずは1機!!」

 

満足に態勢も立て直せない相手の背部へ更にもう1発ビームを撃ち込む。

ビームは機体を貫通し、ドムトルーパーは爆発の炎に包み込まれる。

それでも、まだ楽観視は出来ない。

小手先の技で撃破しただけで、数と性能を押し付けられれば負ける。

宙に漂うシールドをもう1度回収する時間もなく、残る5機のドムトルーパーが眼前に迫って居た。

 

「残り5機……どうする!!」

 

ビームライフルを腰部にマウントさせ、バックパックからビームサーベルを引き抜く。

すると、目の前を大出力のビームが通り過ぎた。

太いビームは2機のドムトルーパーを飲み込み、ネジ1本としてこの世に残さない。

 

「このビーム……ヒイロなの!?」

 

振り向く先、そこに居るのは背部の大型バーニアを展開してこちらに向かって来るウイングゼロの姿。

合流するとマニピュレーターを肩に触れさせ、接触回線で通信を繋げる。

 

「機体にダメージはないな?」」

 

「やっぱりヒイロ!? 居なくなったと思ったらいつ戻って来たの?」

 

「その事は後だ。機体にダメージはないな?」

 

「それは大丈夫だけど」

 

「残りの敵機は俺が仕留める。お前はミネルバに行け」

 

「わかった。後はお願い」

 

後退するインパルスを見るヒイロ。

そして操縦桿を押し倒し、バーニアから青白い炎を噴射してドムトルーパーと対峙する。

左手に握るバスターライフルを向けトリガーを引き、高出力ビームはド敵機を襲う。

それでも、量産機としては破格の性能を誇るドムトルーパーはコレを回避し、ビームバズーカの照準をウイングゼロが握るバスターライフルに合わせた。

発射されるビームはバスターライフルを撃ち抜く。

だが、直撃を受けても破壊される事はなく、マニピュレーターから離れて宇宙の闇へ流される。

 

『ビーム砲がなければ!!』

 

「甘いな」

 

右肩のアーマーを展開、ビームサーベルを引き抜きウイングゼロは加速する。

一直線に突き進み、抜くと同時に袈裟斬り。

スクリーミングニンバスのアンチビームフィールドを物ともせず、ビームの刃はドムトルーパーを両断した。

 

「敵機撃破を確認。残り2機、速やかに破壊する」

 

爆発を背後にしながら、ウイングゼロの攻撃が始まる。

どれだけ性能が良くても、量産機であるドムトルーパーでは到底太刀打ち出来ない。

機動力も攻撃力も桁違いのウイングゼロ。

優位だった筈が一転、振られるビームサーベルに機体は一瞬の内に破壊された。

レーダーに映って居た6機のドムトルーパーは全て破壊し、インパルスもミネルバへ合流する。

 

「ターゲット、全機撃破。次の行動に移る」

 

大型バーニアを展開するウイングゼロはメサイアを目指した。

 

///

 

「生きてる……ここは……」

 

ボロボロになったフリーダム、そのコクピットの中でキラは目を覚ます。

バスターライフルのトリガーが引かれた瞬間、両腕のビームシールドを全開にしてコクピットを守った。

奇跡的にも機体は破壊されず、生還したキラ。

それでも頭部は半分に溶け両腕も無い。

背中の機動兵装ウイングも見る影もなく、脚部も左足が残っているだけ。

核エンジンも出力が不安定になり、特徴的な金色のフレームも輝きを失い灰色へと変わって居た。

まだ意識がもうろうとする中で、操縦桿に手を伸ばし力を振り絞るがまともに機体は動かない。

 

「これも……ダメか。バーニアは……」

 

何とか動かそうとペダルを踏み込みコンソールパネルを操作して居ると、ミーティアのラクスから通信が入る。

コクピットのモニターもヒビが入っており、音声しか聞くことは出来ない。

ザーザーと通信に雑音が混じる。

 

『キラ、ご無事なのですか?』

 

「ラクス、戦況はどうなってるの?」

 

『ザフトは部隊を引いています。ですが、アスランがまだメサイアで戦闘してます』

 

「まだアスランが? 行かないと」

 

それを聞いてフリーダムのバーニアを吹かしメサイアに行こうとするが、大破寸前の機体では出力は殆ど出ず、バーニアは途切れ途切れ。

そのたびにコクピットに振動が伝わるが、操縦桿は決して手放さずメサイアを目指した。

すると、辛うじて生きて居るレーダーに反応が出る。

一緒に居た筈のレジェンドの姿はどこにも見当たらず、だがその前にはウイングゼロが立ち塞がった。

しかし、相手は攻撃して来ない。

 

『メサイアに行くつもりか?』

 

通信越しに聞こえて来る声。

それは目の前の機体のパイロットであり、オーブの慰霊碑で出会った少年でもあった。

 

「そのモビルスーツのパイロットはキミだったのか」

 

『メサイアにはまだデュランダルが居る筈だ』

 

「どうしてそんな事を? 僕は敵じゃないのかい?」

 

『この戦争が終結すればそんな事は関係なくなる。その為にお前達は来た筈だ』

 

「そう……僕はデュランダル議長を止める。その為にここに来たんだ」

 

『なら急いだほうが良い。着いて来い』

 

通信は切断され、ウイングゼロはボロボロになったフリーダムを誘導してメサイアに進む。

アークエンジェル隊の攻撃によりザフト軍はメサイアから既に撤退しており、2人が内部へ侵入するのは容易だ。

モビルスーツを降り、薄暗く物静かな通路を進んだ先に彼は居た。

 

「ようやく来たか。でも、キミがここに来るなんて思わなかったよ。ヒイロ・ユイ君」

 

デュランダルは広い司令部でただ人、シートに座りながら目的の人物が来るのを待って居た。

もぬけの殻となったこの場所でただ1人。

言葉を掛けられたヒイロはそのままゆっくりと彼の元にまで近づいて行く。

広い空間にはヒイロの足音だけが響き渡る。

デュランダルから数歩の距離にまで来たヒイロ。

鋭い視線を向けながら、ようやく口を開き返事を返した。

 

「いいや、俺だけじゃない」

 

そう言われてデュランダルが視線を向けた先。

そこにはケガをして遅れて来たキラの姿があった。

 

「ほぅ、キミもかい。キラ・ヤマト君」

 

怪我をして顔からは脂汗を流すキラ。

負傷するキラを見ても、デュランダルはいつもと表情を変えない。

ゆっくりこ近づいて来るキラの様子を見ながら、目の前のヒイロに向かって話を続ける。

 

「で、私をどうする気だい?」

 

「ギルバート・デュランダル、お前を殺す」

 

それを聞いたデュランダルが小さく笑い、再びヒイロに問い掛けた。

「面白い事を言うね。それで私を殺してどうする気だい? このままだとまた、世界は混迷の1歩を辿る事になる。そうさせない為には、私が提示したデスティニープランを実行するしかない」

 

「ギルバート、世界は自らの意思で平和への道を歩き出して居る。お前の存在は必要無い」

 

「だが人は同じ過ちを繰り返す。人類が居る限り破壊と戦争は終わらない」

 

それを聞くキラは痛みに耐えながらも前に出た。

 

「だけど、アナタのプランを実行させる訳にはいきません。どんなに苦しくても、変わらない明日はイヤだから」

 

「傲慢だね。さすがは最高のコーディネーターだ」

 

「僕は1人の人間だ、みんなと変わらない」

 

「だがキミ達の言う世界と私の望む世界。民衆が求めるのはどちらかな?」

 

キラに語りかけるデュランダルはいつまでも余裕の笑みを浮かべる。

緊迫する指令室の中、キラは銃を取り出し照準をデュランダルの額へ向けた。

ゆっくりと掛けられるトリガー。

静まり返る空間で、1発の銃声が響き渡った。

 

「ギル!! 早く逃げて!!」

 

「レイ……」

 

振り向いた先、そこに居るのは銃を構えるレイ。

その銃をキラの方向に向けながら、デュランダルを守る為の盾になろうと彼の前にまで移動する。

 

「あなたは世界に必要な人です。こんな所で死んではダメです」

 

すると司令室がまた一段と大きく揺れる。

陽電子リフレクターの展開出来ない今のメサイアは、巨大な的になってる状態。

状況を判断するヒイロは、キラを置いてデュランダルの元から立ち去った。

 

「行くぞ」

 

「え……」

 

「みんな変わらないんだろう。だったらこの2人もそうだ」

 

そう言われてキラは2人を見た。

目に映るのは、デュランダルを守ろうと必死に銃を構えるレイの姿だけ。

 

「早くしろ。ここから脱出する」

 

ヒイロに言われて銃を下ろすキラ。

2人の姿を目に焼き付けて、踵を返すと司令室から出て行こうとする。

 

「もう良い……レイ……」

 

「ギル?」

 

キラを追い掛けようと考えて居たレイに、デュランダルはゆっくりと静かに声を出した。

そんな事を言うデュランダルに、目を見開き驚く。

 

「レイ、キミも早くするんだ。ここも安全と呼べる場所ではない」

 

「ギル……何で……」

 

「ミーア君が言っていたよ。何があっても戦う意思を無くしてはダメだと。私ももう1度、この運命と戦ってみようと思ってね」

 

「例え勝てないと分かっていても?」

 

「そうさ、そしてソレを糧に人は前に進める。時代を決めるのは勝者ではないのかもしれないな」

 

「ギル……」

 

司令部を後にしてヒイロとキラは、ウイングゼロとフリーダムがメサイアから脱出する。

レイはそれを残り少ないモニターで見るとパネルを操作した。

メサイアに搭載された最終兵器。

巨大な砲門の先には半壊したフリーダムがフラフラと飛んで居る。

 

「レイ!!」

 

「ギルの言う事でもコレだけは譲れない。アイツは、アイツだけは!! キラ・ヤマトは世界に存在してはならない!!」

 

最後の安全ロックを解除し、モニターにネオジェネシスが起動したことが表示された。

1度押された発射指令は解除する事が出来ず、フリーダムを破壊するためエネルギーチャージが開始される。

デュランダルはそれを承知の上で解除を試みるが、ネオジェネシスの発射が止まる事はなかった。

 

「何て事を……えぇい!!」

 

苛立ちに拳でパネルを叩き付ける。

 

「レイ、自分が何をしているのか分かっているのか!!」

「わかっています。フリーダムの先には月のコペルニクスがある」

///

撤退を始めるミネルバにメサイアから通信が入る。

艦長シートに座るタリアは疑問を浮かべながらも、メイリンに通信を繋げるように指示を出す。

 

「音声のみになります」

 

メイリンがそう言うとモニターに『SOUND ONLY』と表示され、聞こえて来るのは忘れもしないあの男の声。

 

『タリア、これが私からの最後の頼みになる』

 

「ギルバート……」

 

『今、メサイアのネオジェネシスが発射体勢に入って居る。発射まで時間がない。このままではコペルニクスに直撃する。なんとして――』

 

「通信途切れました!! 艦長!?」

「今メサイアに一番近いMSは?」

 

「シンとヒイロです。でもヒイロとは以前から通信が途絶えてます」

 

「ならシンに伝えて!! 急いでメサイアの動力部を破壊してちょうだい。時間がない!!」

 

「はい!!」

 

すぐにメイリンがメサイアの近くにまだ残って居るシンのデスティニーインパルスに通信を繋げた。

 

「シン、聞こえる? メサイアの動力部に向かって!!」

 

「メサイアだって!?」

 

「早く!! 今から構造図も送るから、ナビ通りに行けば辿り着ける」

 

「動力部を破壊すれば良いんだな? 了解!!」

 

メイリンからの通信とメサイアのデータを受け取るシンは、機体のバーニアを噴かせメサイアに向かう。

今までの戦闘ですでにボロボロになっているメサイア。

周囲には壊れてパイロットの居なくなったモビルスーツが漂う。

あれだけ固めて居た防衛網も今や形無しであった。

 

「ココから入るのか。良し!!」

 

データを頼りに動力部に1番近い通路から進入しようとする。

歪んだシェルターをパルマフィオキーナで吹き飛ばし通路を突き進む。

中に入ると壁が壊れてデブリが漂い、進むたびに装甲に何かが当たる。

いくつもの角を曲がり、チェーンガンで邪魔な瓦礫を排除しながら進んだ先で、一際大きなシェルターにぶち当たった。

 

「この先だな。パルマフィオキーナの出力を最大にすれば!!」

 

分厚いシェルターに両手を密着させ、コンソールパネルで出力を上げてパルマフィオキーナを放つ。

 

「吹っ飛べェェェッ!!」

 

眩い光は視界を遮り、突き進むデスティニーインパルスは目の前の障壁を消滅させる。

数秒後にはエネルギーを出し切り、その先には機体が通れるだけの大穴が開いた。

 

「ここなのか!?」

 

動力部までたどり着くシンはメサイアを動かす巨大なエンジンを見上げる。

 

「残った武器は……」

 

ビームライフルもエクスカリバーもテレスコピックバレルも破壊されてもう使えない。

フラッシュエッジも失い、トリガーを引いてもチェーンガンはカタカタと音を鳴らすだけ。

最後のパルマフィオキーナを使おうとするも、さっきの最大出力のせいで機体のバッテリーが底を突き、フェイズシフトがダウンして装甲が灰色に変わる。

デスティニーとインパルスを急場しのぎで強引にハイブリットしたせいで、ハイパーデュートリオンエンジンの本来のパワーが出ない。

それでも、目の前の巨大なエンジンを破壊するのに残って居るのは、ハイパーデュートリオンエンジンに使用して居る核エンジン。

時間がない中で覚悟を決めるシン。

最後は機体そのものをぶつけようと考えるが、寸前になって眼前にモビルスーツが立ち塞がった。

 

「何回言わせる気だ? お前が居なくなったら、誰がステラを守るんだ?」

 

「ネオ!?」

 

「コイツを壊せば良いんだろ? だったら俺がやる!!」

 

右腕を破壊されたストライク、ネオがシンの元に現れる。

そしてバックパックからビームサーベルを抜き、有無を言わさずメサイアの動力部にそれを突き立てた。

瞬間、動力部からは爆発が起こり、メサイアは激しい揺れに襲われる。

 

「止めろ、ネオ!! このままじゃアンタまで!!」

 

「ステラの事は……頼んだぞ!!」

 

「ネオォォォッ!!」

 

///

 

「メサイアより爆発を確認。ネオジェネシスの砲門が崩れた!? 艦長!!」

 

「はぁ~~っ、よかった~~」

 

メイリンからの報告を受けミネルバのクルー全員が安堵の息を付く。

その中でもアーサーだけは一際大きな声を上げる。

ソレを見て周囲からクスクスと笑い声が聞こえて来るが、事態はそれだけでは終わらなかった。

動力部を破壊された事でネオジェネシスの発射を未然に防ぐが、巨大な爆発によりメサイアの軌道が大きく変わる。

爆発が推進力となり、メサイアは月の引力に引かれた。

「待って。アーサー、メサイアの動きを調べて」

 

「は、はい……これは!? コレはマズイですよ艦長!! あんなのが月に落ちればどれだけの被害が!?」

 

「被害状況を考えるのは後!! どうやらまだ終われないみたい。全軍に通達!! 本艦もコレより、メサイアの阻止に向かいます。180度反転!!」

 

『ルナマリア・ホーク、インパルスで行きます!!』

 

撤退を初めて居たザフト全軍が、タリアの指示によりメサイアの破壊活動に移る。

 

///

 

自らの拠点でもあったメサイアを破壊する。

全軍は月へ落下するまでにこの巨大な拠点を止めるべく攻撃を開始した。

だが、相当な質量を持つメサイアを壊すのは容易ではない。

戦艦の主砲により攻撃、モビルスーツはメテオブレイカーを設置するべく各自で動く。

 

「おい、イザーク。到底間に合う距離じゃねぇぞ。月までもう目と鼻の先だぜ?」

 

「わかって居る!! 喋ってる暇があるなら少しでも動け!!」

 

イザーク・ジュールとディアッカ・エルスマンはモビルスーツに搭乗して、メテオブレイカーの設置を急がせる。

大型粉砕機をメサイアに運ぶ真っ最中で、メインスラスターを全開にして目標に進む。

その最中、イザークは視界にインパルスの姿を見つけると、コンソールパネルを叩き通信を繋げた。

 

「そこのモビルスーツ。単機で破壊は無理だ。コッチを手伝え!!」

 

『了解です』

 

「間に合うのかねぇ?」

 

「間に合わさせるんだ!! こんなモノが月に落ちれば、地球にだってどんな影響が出るのかわからんのだぞ!!」

 

怒鳴るイザーク。

合流するインパルスはメテオブレイカーを掴みメインスラスターを全開にする。

向かう最中も雨のように降り注ぐビームがメサイアの外壁を攻撃するが、その形状を壊すまでには至らない。

刻一刻とメサイアが月に近づく中で、ふと、視線を反らしたルナマリアはあるモノを目にした。

 

「アレは……」

 

「どうした? 時間がない、急ぐぞ!!」

 

「こんな事してても間に合いませんよ。別行動に移ります」

 

「オイ、待て!!」

 

突如として離れて行くインパルス。

振り向く素振りすら見せず、メインスラスターから青白い炎を吹かしその場から去ってしまう。

理由も言わずに去るインパルスを見て、イザークは苛立ちを抑え切れずコンソールパネルを思い切り叩き付けた。

 

「クソッ!! 何を考えてるんだ、アイツは!!」

 

「それもそうだがもうすぐメサイアに着くぜ。コイツのセットの方が先なんだろ?」

 

「チッ!! 確かミネルバのモビルスーツだったな? 忘れんぞ!!」

 

イザークの指示を無視してルナマリアが向かう先。

そこにはウイングゼロが手放したバスターライフルがある。

素早くバスターライフルを掴み上げると、レーダーで位置を確認して次の場所を目指した。

 

「アイツは……どこに居るの? アレなの?」

 

視線を向けた先に居たのは何をするでもなく立ち尽くすウイングゼロの姿。

コンソールパネルに手を伸ばし、すぐ傍にまで接近すると通信を繋げた。

 

「ヒイロ、受け取って!! 忘れ物よ!!」

 

回収したバスターライフルをウイングゼロに渡すルナマリア。

ヒイロも機体のマニピュレーターでグリップを握り締め、自分の役割を理解した。

 

「任務了解!!」

 

「じゃ、後は頼んだわよ」

 

バッテリーが切れインパルスの装甲の色が変化する。

フライヤーを分離させるルナマリアはコアスプレンダーでミネルバへと帰艦する。

それを見届けるヒイロは操縦桿を押し込み大型バーニアを展開して加速した。

 

「ミネルバへ。艦長、応答願います」

 

『こちらミネルバ。ルナマリア、何かあったの?』

 

「ヒイロにビーム砲を渡しました。これより帰艦します」

 

報告を聞いたアーサーの表情からは驚きと安堵に満ち、目殻は涙が溢れ出しそうだ。

 

『聞こえましたか、艦長!!』

 

『えぇ、全軍に通達。速やかに現領域より撤退します。ここに居たのでは邪魔になる』

 

タリアの指揮により、メサイアの破壊活動をして居た部隊が撤退を始める。

残されたのは、メサイアと月の狭間でバスターライフルを構えるウイングゼロだけ。

 

「ターゲット、ロックオン!! 最大出力で破壊する……」

 

バスターライフルの銃口から放たれる大出力のビーム。

メサイアの外壁に直撃するソレは全てを消滅させ、最後に見えるのは眩い光だけ。

 

///

 

長きに渡る連合とザフトの戦いが終結して1年。

ロゴスが消滅した事で地球連合軍の後ろ盾は失くなり、時間とともに消えて行った。

ザフトもこの戦いで多大な損害と消耗を蒙り、更にはプラント最高評議会議長であるギルバート・デュランダルの消息が途絶え、デスティニープランも時代の中に埋もれて行く。

そして今やプラント市民の運動により、ザフトの存在も失くなろうとして居た。

オーブの代表であるカガリ・ユラ・アスハは、終戦から1年経過しても復旧しない国を早急に立て直す仕事がある。

 

「地球連合も解体された今、各国は独自に軍備を整えて居る。確かに軍備増強も大事だが、少しでも早く戦争の傷跡を治す事の方が、国民への安心と信頼に繋がる筈だ」

 

「ですが、周辺各国で軍備増強が進んで居るのは事実。現に領空侵犯も数度行われた」

 

「それに関しては、私が直接大統領と話を進める。その為に明日、訪問する準備を進めて来たのだろう?」

 

「わかっては居ます。ですが、何かあってからでは遅いのですぞ?」

 

「大丈夫だ。腕利きの護衛も連れて行く。もしもの時でも、アイツが居れば帰って来る事くらいは出来る」

 

「本当に信用出来るのですか? 元ザフトのあの男が?」

 

「あぁ!! 私は信用して居る!!」

 

「婚約者とは言え、過信し過ぎて居るような気もしますがね」

 

議会の中で、カガリは国の為に自分の戦いを続けて居た。

オーブ近海に住居を建てて生活するラクスは、何も言わずに今ある生活を謳歌して居る。

戦争孤児である子ども達を共に、日がな一日をゆっくりと過ごして居た。

 

「もうあの戦いから1年なのですね……」

 

砂浜でビーチパラソルを広げながら、燦々と光る太陽を覗く。

海ではキラと子ども達が一緒になって水上スキーの修理を行って居た。

 

「ねぇ、まだエンジン掛かんないの?」

 

「ちょっと待ってね。フューズが跳んでるみたいだから。新しいのに差し替えれば……」

 

シートに座りながら焼き切れたフューズを交換すると、止まって居た水上スキーのエンジンが掛かる。

エンジン音を聞いて、キラは喜びながら隣の少年に微笑んだ。

 

「エンジン直ったの!?」

 

「うん、これで動かせ――」

 

瞬間、水上スキーは加速してシートの上のキラを振り落とした。

同時に動きも止まり、キラは海水によりビチャビチャにされてしまう。

 

 

「大丈夫なの?」

 

「びっくりしたぁ……なんともないよ。今、戻るから」

 

ラクスは水上スキーを押し歩きながら戻るキラの様子を遠目で眺めながら、変わりつつある時代の流れを肌に感じる。

 

 

///

 

「ルナマリア、早く走って!! もうレース始まってる!!」

 

「アンタが道を間違えたからでしょ!!」

 

「ルナマリアも服選ぶのに時間掛け過ぎ!!」

 

ステラとルナマリアは走って居た。

向かう先はオーブに建設されたサーキットであり、今行われて居るレースを見る事が目的。

公式レースではない為、チケットを買う事もなく観客席へ走る2人。

既に始まって居るレースは既に最終ラップで、甲高いエンジン音を吹き上げながら青いレーシングカーが横切った。

 

「あの車、シンが乗ってるんだよね?」

 

「えぇ、タイムアタックって言ってたから1台だけの筈よ。これに合格出来ればライセンスを貰えるって」

 

「シン、出来るかな?」

 

「大丈夫、信じて上げないでどうするの?」

 

エンジン音とタイヤのスキール音を鳴らしながら走り切った、シンが乗るレーシングカーはピットインする。

その様子を見た2人は、表示されるタイムも気にせずに戻って来た彼の元へまた走った。

 

「帰って来た!! シン!!」

 

「ちょっと待って!! 勝手に行くんじゃない!!」

 

観客席から立ち去るステラとルナマリアは開放されたままのピットへ向かった。

そこに居るのはチームの責任者と、青いレーシングスーツを着るシン。

今回のタイムアタックに付いて話して居る2人の状況など目にも留めず、ステラはシンの体に飛び込んだ。

 

「シン!!」

 

「ステラ!? うわぁっ!!」

 

「アハハッ!! ねぇ、合格出来たの?」

 

彼女の体を抱くシンは何とか態勢を維持しながら、ステラの足を地面に付けさせた。

 

「なんとかな。これでライセンスも発行されるから、後は契約してくれるチームを探さないと」

 

「じゃあお祝いだね!! ルナマリアなんかの家じゃなくて、アタシと――」

 

シンに抱き付いて居たステラの体が強引に引き剥がされ、そしてギュッと力強く片耳を引っ張られた。

痛みに顔を歪めるステラ。

そうするのは、追い付いたルナマリアだった。

 

「痛い痛い!! ルナマリア痛い!!」

 

「聞こえたからね!! ルナマリア`なんか`って言ってたでしょ!!」

 

「ゴメン、謝るから!! 謝るからぁっ!!」

 

「じゃあシンは私と1日デートだから」

 

「そんなのダメ!!」

 

やられっぱなしだったステラは反撃に移り、間近のルナマリアの頬を両手で思い切り引っ張った。

やり返されたルナマリアは増々機嫌を悪くする。

 

「痛いでしょ、何するのよォォォ!!」

 

「そっちだってぇぇぇ!!」

 

戯れ合う2人の様子を見て、シンはかつて家族と一緒に暮らして居た頃の光景を思い出す。

世界の状況は変わらない部分が多い。

そんな中でもシンの周囲の状況、シン自身が少しずつ変わりつつある。

見上げる空はどこまでも続き、どこまでも青い。

太陽の輝きは光り輝く。

 

///

 

撃ち抜かれるリーブラが爆発する。

眩い光に周囲は包まれ、ウイングゼロの姿はレーダーにも映らない。

地球圏統一連合とホワイトファングとの戦いを終えた他のガンダムのパイロットが固唾を呑んで見守る中で、閃光の中から1つの影が映る。

 

「来た!!」

 

そのシルエットはネオバード形態に変形するウイングゼロ。

 

「やったな、ヒイロ!!」

 

「ふんっ、当然だ」

 

「たいした男だ……」

 

「今、わかりました。宇宙の心は彼だったんですね」

 

「任務……完了……」




少し駆け足気味ではありますが以上で完結です。今まで見て頂きありがとうございます。
もっと早くに完結させるつもりだったのですが、半年以上も掛かってしまいました。
次回作は少し休憩させて下さい。
今まではロボットモノばかり書いて居ましたが、次はそうではないモノを書く予定です。

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