はじまり
涼森家の適性保持者は審神者になる。
これは、生まれるまえからの決まりごとだった。
涼森家は代々政府に組みしているため、その時代のニーズにあった人材を派遣していた。わかりやすく言えば、裏方の人間、政府の手足、使い勝手のいい駒。逆らえないほどの理由があったにせよ、子孫にまで蟠りを残さないで欲しいものだと思う。今更何を言えた話ではないけれど。
話を戻すと、生まれるまえから生きる道を決められていたわたしは、決められた道を決められた通りに進むことを強制された。逃げようものなら折檻され、逆らおうものなら服従するまで拷問を受ける。そんな光景を横目に、わたしはつつがなく、レールからはみ出すこともせず、今の今まで生きてきた。にこにこ、にこにこと愛想を振りまき、反感を持つ素振りを微塵も見せず、幼い頃から今日17歳になるまで、生き延びてきた。
とうとう審神者業務に関する全ての教育を終え、今日、審神者になる。昨日までに引越しの準備は全て終えてある。少ない荷物はすでに新しい住まい、本丸に送り届けられたはず。これから先、涼森の本家に帰ることはない。一人で本丸を切り盛りし、一人で生涯を閉じるまで働くのだ。
「お行きなさい、このか。貴方の家はもうここにはない。しっかりやりなさい。ほら、迎えが来ていますよ」
「はい、お母様。もう貴方とお会いすることはないでしょう。いままでお世話になりました。では、お元気で」
母娘の最後の別れにしては淡白な会話が終わると、使用人によって玄関の戸が閉められ、完全にわたしはこの家の部外者となった。
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政府からの迎えの車に揺られる。実は、これから先の指示はまだ受けていない。本丸の場所さえ把握していない。実は本丸なんて存在せず、別で飼い殺しにされる未来が待っている、ということもあり得るかもしれないのだ。
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幸いなことに、飼い殺しにはならずに済むようだった。どこともわからない場所に連れて行かれ、適当な挨拶の後、他の審神者になる者たちと一緒に別室に移動させられた。楕円形の、変な膜の張ってある機械が置かれている。
「これから君らにはその機械を通って次元を超えてもらう。基本的にこちらと本丸を繋ぐ道はこれしかない。連絡手段には文を用いる。指示もそちらで行う。こちらに通う必要のある者は把握しているので、決まった時間に戻ってこれば、車で送迎する。説明は以上、各々、各自のゲートを通り、本丸へ行かれたし。健闘を祈る」
一方的な説明に、異論を唱える者は誰もいなかった。きっとみんなそう教育されているのだろう。わたしも何も言わず、自分の名が記されたゲートをくぐった。
次から本編です。ちゃんと刀剣男士も出てきます。
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