みんないっしょに。   作:matsuri

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さあやっと考えがまとまりました。これからはこのスタンスで行きますよーこのか!


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「おはようございます〜」

 

 

夜が明け、見張りに立っていてくれた鳴狐さまに声をかける。わたしの後ろには今日の近侍にした鯰尾さまが控えていた。

 

 

「紫黒はもう起きてますか?」

 

 

すっと指を示された先、庭の池を囲う一番大きな岩の上に立っていた。日とともに寝入り、日とともに起きる習慣が、今でも続いているのだろう。怪我をしているときくらい寝ていてもいいのに。

 

 

「紫黒!体はどうですかー!」

 

 

少し声を張って呼ぶ。するとこちらに気づいた彼が、怪我人とは思えない身のこなしで近くに寄ってきた。

 

貸した清光さまの浴衣では少し大きかったようだ。

 

 

「問題ない。ありがとう、縹」

 

「いいえ。紫黒こそ、荷物をきちんと届けてくれてありがとうございます。でも、次からは自分の身を優先してくださいね〜」

 

「うん」

 

 

身をかがめる紫黒の頭を撫でる。家族の愛情に飢えているのか、わたしにはよく甘える人だった。

 

後ろから遠慮がちに声がした。

 

 

「主さんの名前って、このかですよね?ハナダって何ですか?」

 

「わたしの呼び名ですよ〜。基本的に刀剣には名を告げないことはいいですよね?話している最中に漏れ聞こえてしまえば意味がないので、普段から呼名は別にあるんです。わたしたちは大体、色の名前ですね。紫黒色、縹色、と」

 

 

縹はわたしの髪色のことを指してつけられた。紫黒はわたしがその目の色を取って授けた。

 

 

「ですがここでは、わたしには必要ありませんから、紫黒もどちらで呼んでもいいですよ〜」

 

「わかった。でも、縹は縹だから。そっちも気に入っている」

 

「わたしもです」

 

 

四人連れ立って広間に行くと、すでにほとんど全員が集まっていた。

 

いないのは夜番だった太郎さまと国俊さまか。

 

 

「おはようございます。朝ごはん食べたら少し話がありますので、すぐに出て行かないでくださいね〜」

 

「わかった。んじゃ、いただきまーす」

 

 

清光さまの声に続いて、みんなが思い思いに復唱した。

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

朝から美味しいご飯を食べた。決して豪華ではないけど、最近清光さまの腕が上がったように見える。平野さまもすごいと言っていたし、青江さまや歌仙さままで教えながらだから相当なものだ。吸収力はさすがというか。

 

 

「では少し注目。昨日行わなかった集会をしますよ〜」

 

 

ある方は食べながら、ある方はお茶を飲みながら、またある方は片付け始めながらこちらを見た。正確には、わたしの隣に座る紫黒に視線が集まる。

 

 

「改めて、昨夜はありがとうございました。おかげで無事、大きな怪我もなく助けることができました。その彼が起きることができましたので、皆さま顔を覚えておいてください」

 

「私は紫黒。この第一三二支部通信役となりました。おかげさまで生き延びることができました。深く御礼を申し上げます。これからよろしくお願いいたします」

 

 

深々と頭を下げ、それからすべてを見据えるように顔を上げる。これでここにいる彼らには認識されただろう。

 

必要なのは彼がこの本丸に顔パスで入れる環境。そうでなければわたしの不在中、ずっと外で待たせることになってしまう。また、今回のようなことがあったとき、刀剣たちの判断で彼を救い出してもらわないといけない。

 

彼自身、一人ならば敵対しても逃げられるだろうけど…。

 

 

「さて、もう一つのことを話しましょう。昨夜、この紫黒を襲ったものですが、歴史修正主義者であることは間違いないようです。式を飛ばしたところ、3カ所に痕跡が見つかりました。この時空にも来れることがわかった以上、霊力の溜まった本丸を襲うことも考えられます。現在は結界を張っていますが、今後どのような事態になるかもわかりません。そこで、一応の手段を決めておこうと思います」

 

 

口に入っていたものを飲み込み、お茶を机に置き、かすかに姿勢を正す。

 

これを自身たちの問題でもあるということを認識してもらいたい。

 

 

「まず第一に、自分の身を守ってください。非情と言われるかもしれませんが、目の前に負傷した仲間がいてもです。速攻で逃げてください。仲間を助けるのは、ある程度の安全が確保されてから。また、けして一人では敵に向かわないように。そして、敵が全ていなくなったのを確認してからこの本丸に戻ってきてください。たとえ…」

 

 

一度場を見回す。ありえないことではない。言葉にするのはわたしの義務だ。

 

 

「本丸がなくとも。わたしが死んでいようとも」

 

 

ピリッと空気が張り詰めた音がした。肌が痛い。これは、どう解釈すればいい反応なのか。

 

緊張か殺気か。ただ殺気ならばわたしに向けられた時点で紫黒が動くはず。ならば、これは…。

 

清光さまが辺りを見回した。数人が頷く。話し手を譲ったようだ。

 

 

「あるじ。悪いけど、その命令には従えない。俺は、故意的に従わない」

 

「何故ですか?これより的確なすべき行動がありますか?」

 

「ないね」

 

 

青江さまが即答する。確かに感情的になればいくらでも別の案が出てくる。もちろん、死ぬ可能性は高くなるだろうけど。

 

しかし、と続けたのは誰だったか。

 

 

「それは主命以前の問題です、主君。我々は、貴方を守ることが第一の使命です。自決して尊厳が守られるのでしたらそれは主君の判断に従います。しかし、主君を守らずして逃げるなど、そんな命令には従えません」

 

 

言い切る平野さまの目に迷いはない。そうであると信じている。

 

けれどそれは違った。感情論だった。何故なら彼らの第一の使命は歴史修正主義者の進軍を阻止し、歴史の改変を防ぐこと。審神者とは彼らにその力を与えるだけの存在。審神者が変わったからといって、その力になんら影響は出ない。

 

それを告げようとすると、待ったがかかった。

 

 

「君はすぐに否定しようとするけど、言い分はこうかな?『感情的になっては誰も助からない。わたしには替えがあるから』違うかい?」

 

 

殆ど思っていたことを言われ、頷く以外の選択肢を捨てさせられる。

 

歌仙さまは続けた。

 

 

「じゃあ、この歌仙兼定という刀は、今何人顕現していると思う」

 

「…わかりません。一つの本丸に一人とも限りませんし」

 

「そうだね。つまり、僕たち刀には全く同じ替えがあるんだよ」

 

「記憶は無くなります。そんなの嫌です」

 

「うん。僕も、一緒の思い出がない審神者なんて嫌だよ」

 

 

言葉に詰まった。

 

ああ、最初からわたしは感情的だったんだ。あの教育機関では、刀は使い捨ての道具だと教えていた。審神者も使い捨てにはすぎないが、絶対数が少ないから刀を盾にしてでも生き伸びろと言われた。

 

わたしはそれが嫌で、刀が生き残る戦略を立てた。

 

共存という選択肢を、最初からなくしていたのはわたしだけだったんだ。

 

刀が主を守るのは、使命というよりも…

 

 

「…本分、でしたね」

 

 

わたしの呟きは誰にも届かなかったらしい。

 

 

「わたしが間違っていました。変えましょう」

 

 

俯いて続ける。みんなの顔が見れない。みんなの気持ちなんて考えずに言っていた自分に腹がたつ。

 

 

「緊急時は、各自、全員が助かる方法を必死で模索し、行動してください。死んだら、わたしが許しません。生きてさえいれば、わたしが何としても助けますから…」

 

 

勢い付けて叫んだ。怖くても、顔はあげなければ…!

 

 

「絶対、わたしの元に帰って来てください!!」

 

 

目を開ける。これが夢でなければ、わたしは笑顔のみんなに囲まれていた。




ここまで閲覧ありがとうございました。みんないっしょに、頑張っていきますよー!
「死んだら許しませんから〜」byこのか

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