平野さまと秋田さまとお出かけ
紫黒は政府の元へ帰った。注文品を運び終えたのだ、報告へ戻る必要がある。ただ、定期的に支給品や注文品を届けに来るから、またすぐに会えるだろう。
とりあえず、食料は確保できた。
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そういえば帰り際、何故殺気に対して動かなかったのかと聞いたら即答された。
「自業自得。あれは、縹が悪い」
「…紫黒、成長しましたね〜」
「さすがに、ね」
嫌味を笑顔で受け流され、わたしはもうなにも言わずに見送ったのだけど。
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あの事件以来、すでに2日が経過している。増えた仲間は三人。三条の今剣さま、左文字の小夜さま、虎徹の蜂須賀さまだ。
短刀が二振りも増えて一気に賑やかになった。実際は、今剣さまだけでも賑やかなのだけど。
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「じゃあ、万屋に行ってきます〜」
両手に刀、なんて物騒だけど、一見すれば仲良く手をつないだ三人が買い物に行くだけだ。
今日の近侍である鳴狐さまに手を振られ、私たちは門の外に出た。
「さ、行きましょう、秋田さま、平野さま」
「はい!」
「楽しみです」
実は給料制にすると決めてから、昨日が初めての支給日だった。
彼らは、前々から最初の使い道を決めていたらしい。
数人はすでに各々で出かけている。
「わたしが一緒でよかったんですか〜?」
にこにこ笑顔の二人に問う。ああ、最初から思っていたけど、この二人はなんて優秀なんだろう。近侍の仕事はきっちりこなし、出陣も内番も手を抜かない。ついでにわたしを癒してもくれる。
そんな二人たってのお願いを、無下にできるはずもなく、今日は出陣を夕方のみとしたのだ。
「だって、主君とお出かけがしたかったんです。平野と前から話してて」
「主君はいつも頑張っていらっしゃるので、たまには休んでいただこうと思いまして」
ぎゅーっと二人の頭を抱え込む。なんていい子。なんて可愛いの。
「く、苦しいですよー」
「主君?」
照れた二人も可愛い。この子たちがいたら休まなくても癒される。確信しました。
「あ、そうでした。ここでは主君と呼ばないようにお願いします〜。街でそんなように呼ばれたら、変に目立っちゃいますからね〜」
「…ではなんとお呼びすればよろしいですか?」
「名前でいいですよ?」
「このか、さま?」
「えへへ。はぁい」
えへへと三人で笑い合い、繋ぐ手を軽く振った。
このかさまだって。呼び名や呼び捨てにされることはあれど、敬称をつけて呼ばれることなどほとんどない。主君や主とはまた別。わたしを敬ってくれるのは彼らくらいだ。
主とは、役得なのかもしれない。
「ところで、どこか行きたいところは決まっているんですか?」
「甘味処と、小物売りと、あと、このかさまが行きたいところがありましたら」
「荷物お持ちします!」
この子たちに持たせるくらいならもっと大きな人たちを連れてくるわ、とは言わずに、大丈夫ですと返しておいた。
「甘味処と言いましても、なにか食べたいのってありますか〜?洋菓子がよければ時空でも飛びますよ〜!」
「実は、よくわかっていないんです。まだ食べたことがないものが多すぎて、何が美味しいのか…」
「だから、このかさまの好きなものがいいです。何が好きですか?」
わたしの好物はあなたがたですっ!とは言えるわけでもなく。出そうになった涎を飲み込んで居住まいを正す。
あっ、顔が緩む。あー歪んじゃう。
「ええっと、じゃあ、あっ、パフェなんてどうですか?」
「ぱぁふぇ?」
「うぐっ、じゅ、重傷です…」
「えっ、このかさま!?」
ちょっと尋常じゃない心臓の動きに体が耐えかねたのか、くらっと来た。暑い夏のせいですと言い訳ができないくらいには、今日は涼しい。
「…いえいえ〜、なんでもないのですよ〜。それよりパフェです。お二人とも甘いものはお好きでしたよね〜?」
「はい…あの、本当に大丈夫ですか?」
心配そうに隣に寄り添ってくれる秋田さまに笑顔を向ける。
この時空、都合のいいことに路地に幾つかの抜け道がある。時空の中で生きるものは決して近寄らないし気づかない、二つの空間をつなぐ道。
一つはここ、古き良き日本を象徴したような茶屋や着物がよく似合いそうな通りのある街。
もう一つのこれから行く場所は、2205年現在に相応しい、ビルの立ち並ぶ近未来型都市とでもいうような街。正直、こちらに来れば、お金さえあればなんだって揃うのだ。
適当な細い道を見つけて入り、抜け道を探す。見つけて大通りの影になるところで札で結界を張る。外へ出る時の必需品として持せていたパーカーを取り出して、内番服の上から着せる。パーカーに短パンならどこだって通じるこの容姿が羨ましい。
わたしは諦めて着物のままだ。まあ、女性の着物は物珍しがられるだけだから、うん。知り合いもいないしいいでしょう。
*** *** ***
現代でチェーン展開している有名な喫茶店に入って、とりあえずメニューを開くと、難しそうな顔をした平野さまが顔を上げた。
「あの…主君。これは食べ物なのですか?キラキラして、まるで作り物のようです」
「ふふ。論より証拠ですね、頼んでみましょ〜。すいません、注文を」
適当に頼んだ三種類のパフェ。ついでに紅茶も頼んで一息つく。
すぐに持ってこられたパフェを見て、二人は顔を見合わせた。
ちなみに、今回頼んだのはチョコと抹茶とフルーツの三種類だ。
「どうです?初めて見て」
「く、崩れそうです。これなんですか?」
「チョコレートと言います。西洋の菓子ですよ〜」
「果実がこんなに…なんだか、食べるのがもったいないです」
パフェに負けないくらいキラキラした目で見つめる二人は、スプーンを手に持ったまましばらく眺めていた。
うーん、こうしておいてあげたいのは山々なのですが。
「食べないと溶けてしまいますよ〜。その方がもったいないでしょう?」
「あっはい!いただきますっ」
「いただきます!」
慌てたように居住まいを正し、両手を合わせる。それから恐る恐るというようにスプーンを突き刺した。
一口すくって口に運ぶ。すぐにすごくいい笑顔になった。
よかった。お気に召したようだ。桜が舞ってる。
この桜は彼らの体の疲労を表しているらしい。わたしにしか見えないようだけど、無理させることがなくなるから正直助かる。
調子のいい時はこのように桜が舞い、悪い時は霊力の波が安定しない。戦場に出してはいけないという警告だ。
「どうですか?」
「とっても美味しいです!」
「今度、本丸で作ってみんなにも食べさせてあげたいです」
これだから、この方々みんな、大好きなんだ。
ここまで閲覧ありがとうございました。短刀は、年相応と言っていいのかわかりませんが、可愛いからなんでも許せる気がします。