刀種変更や名前変更がありましたが、当本丸では同田貫、和泉守、大倶利伽羅の三振りは打刀として扱うことといたします。名前については変更前のまま、どうたぬきまさくに、あつとうしろう、で表記いたしますので、予めご了承ください。
数日間、負け戦が続いていた。正確には、敵の本陣に辿り着けぬまま一週間が過ぎてしまった。しかも、新しい仲間も見つかっていない。
今日こそは、と二重の意味で意気込む。このままでは良い戦績が報告できない。そして、明後日からは現世へ通わなければならないのだ。
夏期休業の始まりから本丸に来て、もう二学期が明後日からだというのだから、早いものだ。
「さ〜あ、気張りますよ〜!」
誰にともなく呟いて、さっさと着替えを済ませてしまう。あら、なんだか少し、いつもよりも服が重いような?
きっと気のせいだと思い直して外に出る。今朝は少し寒いくらいに気温が下がっているなあ。もう9月になるのだし、秋に向けて空模様も変わってきているのかもしれない。
*** *** ***
普段通りに夜番の後半を守っていた方、今日は清光さまに声をかけ、内番の終了を告げる。眠そうに部屋に帰っていったから、多分今日も昼までは起きてこないだろう。
その後厨へ行き、全員分の朝食の用意を手伝う。歌仙さまと平野さまが昨日の夜から仕込んでいた出汁のいい香りがした。
食器を各盆の上に並べ、長机の数カ所にお吸い物の鍋とご飯を均した桶を置き、焼き鮭と箸を配る。そうしている間に、ばらばらと起きてきたみんなが集まり始めた。
「全員揃いましたか〜?」
はーいとどこからかいい返事がくる。
これでいないのは今寝ているであろう夜番だった清光さまと蜂須賀さまだけになった。
「席についてくださいね。ご飯が冷めてしまいますよ〜」
「ボクこのかちゃんのとーなり!」
「あーっ、乱ずるい。俺も主さんの隣取った!」
この一週間ですっかり慣れたみんなが、わたしを取り囲む。とっても嬉しいし光栄なことなのだけど、歌仙さまの早くしろという視線が痛いので早々に着席していただく。
「じゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
号令とともに二通りに分かれる彼ら。
お吸い物やご飯などをみんなに取り分けてくれる数人。その他はすぐに箸を持って食べ始める。その分かれ方が決まってきて、なんだか面白いことになっていた。
そんな微笑ましい光景を見ながら、もぐもぐと口を動かす。いつでも炊きたてのご飯は美味しい。美味しいのだけど。
どうにも動きが悪くて箸が止まってしまった。まだ善の三分の一も食べていない。
「…このかちゃん、食欲ないの?」
「え?あ、いえ…ちょっと、多分寝不足なだけですよ〜」
「寝不足は美容の大敵だよ!女の子なんだから!」
つんつんと頰をつついてくる。しながら、うん?と首をかしげた。
「ちょっと動かないでよ」
「へ?」
わたしの間の抜けた声を無視して手の甲を頰に添える。それから自分の額をわたしのそれにくっつけてきた。
「ちょっと厚!そこで船漕いでるの叩き起こして!」
「あの、乱さま?」
「あー、どうした乱」
「このこ体が熱すぎるよ。病気じゃない?とりあえず寝かせてくるから」
急展開に頭が追いつかない。わたしを寝かせる?なんで。寝不足なんていつもよりほんのちょっと短かっただけ。
急遽寝なければいけないなんてことはない。
「ほら、行くよ〜。このかちゃん立てる?」
「立てますけど、でも、だって、寝ません。今日こそは敵の本陣見つけるんです。寝てる暇なんてないです〜っ」
「だめ。今日はお休みだよ。今日の近侍って秋田だったよね。あとよろしく〜」
「きゃあっ」
ひょいとわたしを持ち上げる。わたしと殆ど変わらない身長なのに、何事もないかよのうに横抱きされてしまった。
そして驚きのあまり反抗するタイミングを逃してしまった。
「えっ、あっ、やだ!下ろしてください乱さま!」
「暴れるとちゅーしちゃうよ?」
「んなっ」
思わぬ反撃に言葉を失う。誰だこんなこと教えたのは。
にこーっと女の子のように笑う乱さまは、有無を言わさずわたしの部屋へと足を向けた。
あっけにとられていたみんなも、考えても仕方がないと思ったのか歌仙さまが声をかけて食事を再開していた。
なんてこと、みんな素晴らしい行動力じゃない。もうわたしがいなくても平気なのね…
「はい、おっじゃまっしまーす」
スパァンと勢いよく障子が開く。手を離したわけではないから、足を使ったのだろう。片足でわたしの全体重を支えてしまうなんて、やっぱり男の子だなぁと思う。
「乱、はしたねぇぞ」
あとから追いついた薬研さまが布団を敷く。
それからはなすがままに、着替えを促され寝転がらされる。ひんやりとしたタオルで頭を冷やされながら、ピピピという無機質な音を聞いていた。
「38.1、完璧に熱。風邪というやつだな。薬はこれ、一応確認してくれ。飯は少し食べていたようだから薬を飲んでも平気だろう。じゃ、俺っちは内番があるから、乱、あとは頼んだ。なんかあったら呼んでくれ」
「はーい」
二人のやりとりに、どうやら自分の体調は思ったよりも悪いのだとやっと自覚する。迷惑をかけてしまった。
掛け布団で顔を隠すようにすると、首の後ろに手を回されて、上半身を起こされた。
「はい、お薬。自分で飲める?」
「…はい。すいません、ご迷惑を」
「迷惑?うん、そうかもね」
率直な返事に正直にうなだれる。わかっていたことだけれど、自分以外に言われるとこう、堪えるものがある。
「ふふっ、ごめんね。でも、看病するのが迷惑って言ってるんじゃないよ?倒れられたら困っちゃうから、体調悪い時はちゃんと休んで欲しいの。ボクたちの大事な主さまなんだから。わかってくれる?」
「は、はい」
「よーし、いいこ。ま、今日は自分で気づいてなかったみたいだし許してあげる」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。結っていないものだから、いつも以上にぐしゃぐしゃになった。
薬を水で飲み込んで、再び寝転ぶ。現世の市販の薬だった。それから上からふんわりと掛布を乗せられた。
「なにかして欲しいことある?」
その質問に、反射的にないと答えそうになった。そろそろ誰かに頼ることを覚えよう。その必要性は、身にしみていた。
それに、友達だからわがままも言って欲しいと清光さまに言われたし…
「あの、じゃあ、寝るまで一緒にいてくれますか?」
しどろもどろ、視線を彷徨わせながら聞く。キョトンとした顔の乱さまがわたしの顔を覗き込んでいた。
「…やっぱり、わがままですよね…」
「…あははっ、こんな可愛いお願い、わがままのうちに入らないよ〜」
また、今度はそっと撫でられて、それから掛布の上に置いていた手を取られた。
ちょっと冷えた、けれど温かい体温を感じる手がわたしのそれを包み、握る。
「大丈夫、今日はずっとここに居てあげるから、安心して眠ってね、お姫様」
なぁに、それ…。口を開く前に、この温かな空間に飲み込まれ、微睡みの中に落ちていった。
ここまで閲覧ありがとうございました!最近夏はどこへやらといった感じで冷えてきてますので、季節の変わり目による風邪なんかはひかないように、みなさまお気をつけください。
次回の更新は9/7を予定しております。