みんないっしょに。   作:matsuri

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日本号…手に入れそこねました…。というか、この話、キャラが一周する前に全員揃うのでしょうか…。


初めまして前田さま

裸足のまま玄関から駆け出して、石畳を掃いている清光さまの元へ駆け寄る。途中転びそうになりながら、ぶつかるようにして飛びついた。

 

 

「あるじ?どしたの」

 

「ああああの清光さま!?お尋ねしますが、あなた方の意識ってどこからあるんですか!」

 

「え?えーっと、俺は確か…あ、あの腹立つ狐に名前を呼ばれたときかな?」

 

「つまり顕現してからですね?」

 

「でも沖田くんに握られてたときの記憶もあるしなぁ…」

 

 

血の気が引くのがわかる。抱えていたそれを落としそうになって、慌てて抱きしめ直した。

 

どうしよう、今焦っても仕方がないけど。でも、だって、

 

 

「…わたし、ちょっと切腹してきます。誰か短刀、あと介錯…あ、いっそ包丁で…」

 

「ちょっとあるじストップ!誰かあるじ止めてー!!」

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

羽交い締めにあいながら取り押さえられ、今は自室に正座させられている。説明はすでに骨喰さまが終えている。

 

 

「つまり、手違いで新しいお仲間さんが保管庫に入っていたと。うん、保管庫なんてのがあったことも俺たちの二振り目以降がそういう風に使われていたこともちょっと言いたいことがあるけど、とりあえず顕現して事情を説明するのがいいんじゃない?」

 

「あやっ、あやまっ」

 

「何これ可愛い」

 

 

ぎゅーっと頭を抱え込まれて息が詰まる。暫くされるがままになって、ハッと胸を押して距離を取った。

 

 

「違います!謝ります、から、清光さま今から歓迎の用意をしてください!出陣は全部無しです!」

 

「あ、そうなの」

 

「もう骨喰さまに通達をお願いしています。だから、夕飯は食材何使ってもいいので豪華にしてください!歌仙さまと青江さまと、それから平野さまを手伝いに向かわせます。今は2時だから…5時半には全ての用意を終えてください。指揮は清光さまと骨喰さまに任せます」

 

「わかったー。じゃあ正国あとお願いね」

 

 

残りの掃除を半ば押し付ける形で清光さまが部屋を出て行く。正国さまに睨まれるのはわたし。ああ、ごめんなさい、今回は全部わたしのミスです〜っ。

 

 

「えっと、正国さまも、今日は適当に袋に詰めていただければいいので、終えてから歓迎の準備を手伝いに行ってください〜」

 

「あー、わかった。お前はどうすんだよ」

 

「道場で顕現して、準備がてきるまで謝って、それから案内してきます…ゆ、許していただければ」

 

「それ、粟田口だろ?兄貴たちがこぇえかもな」

 

 

脅すように凄まれて、一瞬たじろぐ。とりあえず起こしてみますとこの場を任せ、道場へ走った。

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

「前田藤四郎と申します。末長くお仕えします」

 

「初めまして、この本丸を任されております審神者のこのかと申します。そして本当に申し訳ありませんでした!」

 

 

はじめて清光さまに会った時よりも深く深く頭を下げ、相手の、前田さまの様子を伺った。

 

人間の体を得て、器に霊力をなじませるのが最初。それから五感を得て周囲の状況を探る。

 

彼の最初に得た情報は、わたしの謝罪になってしまった。

 

 

「あ、あなたが主君ですよね?」

 

「はい、現在この本丸にて人間は、そしてあなた方を顕現できるのはわたしだけです」

 

「顔をあげてください」

 

 

言われるままに体を起こす。片膝をついた前田さまが、優しく微笑んでいた。

 

 

「主君の謝罪の理由は、なんとなく聞こえていました。ですが、その必要はありません」

 

「……」

 

「あの場所にあった刀は、二振り目以降だったのでしょう。だから意識は活動している一振り目にあったようですが、僕は朧げながらも意識がありましたから覚えています。あなたがどれだけ大切に保管していたか。どれだけ尽力して意識をまとめていたか。どれだけ緻密に計算し回復できる程度にしか霊力を持って行かなかったか。全部わかっています。僕は、この本丸に来て良かった。手違いでも、あの保管庫に入って実態を中からわかることができて良かった。そう思っています」

 

 

立てていた膝を下げ、正座の形をとる。両手を膝に添え、なんとも美しい姿勢をとった。

 

微笑む顔を引き締めて、すっと息を吸うのがわかった。

 

 

「僕は藤四郎の眷属の末席に座するものです。大きな武勲はありませんが、あなたに仕えると決めました。ここで、あなたのための刀となりましょう」

 

「ありがとう、ございます…」

 

 

安心して力が抜ける。実際、座ったまま腰が抜けていた。ほとんど殺される覚悟をしていたから、というのもある。けれどそれ以上に、わたしのしていたことを、認めてくれたことに驚いていた。

 

二振り目以降だったからと、あんな扱いをしていいはずがないけれど、あれ以上の案が思いつかなかったのだ。

 

 

「主君、僕はこれからどうしたら良いでしょうか。ご命令はございますか?」

 

「あ、はい、あの。ちょっと待ってください、腰を抜かしちゃって」

 

「大丈夫ですか?」

 

 

そっと手と腰を支えてくれる。びっくりするほど簡単に座り直せてしまった。

 

きちんと座ってしまえば、あとは回復するのを待てばいい。

 

 

「ありがとうございます。では、命令ではありませんが、約束をしてください」

 

「はい、なんなりと」

 

「決して死なないでください。自分を物だと思わないでください。生に執着し、自分を粗末に扱わず、必ずこの本丸に帰ってきてください」

 

「はい、わかりました。お約束いたします」

 

 

素直な物言いに、他の粟田口兄弟を思い起こす。

 

みんなが素直で、言いたいことはすぐに口にした。みんながそういう性格なのは、誰の影響なのか。

 

 

「それから、お願いがあります」

 

「なんでしょうか」

 

「わたしは基本、命令はしません。自由に過ごしてくださって構いません。出陣などの仕事はしてもらわないといけませんが、それも絶対ではありません。わたしはあなた方と、厚かましいようですが、対等でいたいのです。ですから、わたしと友達になってくれませんか?」

 

 

意表を突かれたかのような顔をして、わたしを見た。この願いには、みんな何かしら言ってくる。とくに正国さまなんかは、意味がわからないと言いながら承諾していた。

 

 

「お友達、ですか?それは、対等を示す関係なのですか?」

 

「わたしはそういう意味で使っています。友達同士なら、気兼ねなく接することもできるでしょう」

 

「…それはいいですね。じゃあ、ここにいる刀とあなたは、みんなお友達なのですか?」

 

「はい。気負うことのない友達で、一緒に食卓を囲む家族です」

 

 

最近はそうなりつつある。嬉しいことだ。もっと言いたいことを言える、変な我慢をしなくて済む本丸にしたいと思っている。

 

 

「そうですか。では、お友達として、家族として、僕をその輪の中に入れてください。これは、僕のお願いです」

 

 

こういう返しは初めてだった。今度はこちらが意表を突かれ、言葉に困る。けれどすぐ微笑って、前田さまの手を取った。

 

 

「よろこんで」

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

このあと前田さまは時間の許す限り、本丸の間取りと規則を覚え、準備の整った広間で歓迎を受けた。初めての盛大な催しに大食らいたちが食いつき、食事は面白おかしい物となった。

 

今回の食費と酒代はわたしが持つこととして、仕方がないから新たに発注をお願いしたのだった。




ここまで閲覧ありがとうございました!なんだか粟田口が続いてしまいましたが、次回も粟田口です。気がついたらそうなってましたー。反省はしてません☆〜(ゝ。∂)

次回は9/21の更新を予定しています。

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