前田さまの歓迎会はつづがなく終わった。
翌日には新たに二振りの仲間を迎え、ちょっとした騒ぎはあったものの、それぞれ一夜明け、すっきりした顔で朝食の席に並んでいる。宗三左文字、並びに大倶利伽羅とは、これからまだ問題が出てきそうな2人がいっぺんに来たものだ。
それから午前で学校から帰宅し、車の中で取った昼食をならしてから召集をかけた。
「出陣しますよ〜」
わたしの本丸では、近侍を含む第一部隊の出陣はない。ローテーションで組んでいるが、第一部隊には審神者不在の本丸を任せている。いざという時には、近侍主導で第一部隊を中心に対処するよう言い含めてある。だから、近侍選びは毎回慎重に行っていた。
「第二部隊の皆さんは準備できていますか〜?出来次第遠征への門を開きますよ〜」
「はーい、準備おっけーですよ!馬糞爆弾も……」
「それは捨てていけ、兄弟」
鯰尾さまを隊長にするときはいつもハラハラする。骨喰さまを同じ部隊に組み込むことが多いのはそのせいか。
ただ成果はきちんと上げてくるから、その点では信用しているのだ。
「ではいってらっしゃい。お気をつけて」
「いってきます!」
虹色の膜の中を通って第二部隊が消えていく。それを見送ってから、後ろに控える第三部隊を見やった。
「準備は整いましたか?」
「もういつ出発しても平気だよー、あるじ」
笑顔で手を振る清光さまに頷いて、門から出る行き先を変更する。これで遠征先ではなく、出陣先に行ける。
先頭を切るのは青江さま。それにみんなが続いていき、わたしは最後に近侍である歌仙さまを振り返った。
「では、行ってきます。よろしくお願いしますね」
「うん、無事を祈っているよ」
自分も虹色の膜に身を投じた。
*** *** ***
今日の出陣予定は三回。第二部隊から第四部隊までが遠征も含め一度ずつ出陣する予定だ。これは、学校に通うようになってからの主なメニュー。休日や長期休みには倍の出陣をしていたのだから、楽になったものだ。
まあわたしは、行き帰りの門を開くのと手入れしか仕事がないので霊力も使わないし、待つばかりなのだけど。
「ーーあるじごめん!すぐに帰還しよう!」
「え、早いお帰り、で……」
息を飲む。それ以上の声が出ない。いつもは中傷になるとすぐに帰っていたから、ここまで酷いのは初めて見たのだ。
傷だらけ、血だらけ。
初めて清光さまが単騎出陣したときよりも、もっと酷い。出陣してからの時間的に考えて、一撃で瀕死状態に追い込まれたのだろう。
厚さまの四肢はぐったりとして、太郎さまに抱えられるままとなっていた。
「……帰還します。みなさんゲートへ」
すぐに門を開いて順に返していく。全員戻ったのと忘れ物がないのを確認してわたしも本丸へ帰還した。
*** *** ***
厚さまは手入れ部屋へ送られ、かなり長い間手入れを受けていた。
わたしは全てを職人に任せ、第四部隊を連れて次の戦場へと向かう。
今日のノルマを達成して戻ったときには一応手入れが終わっていた。
「わたしの監督不行き届きです。同室の薬研さまから聞きました、最近調子が悪そうだと。きちんと体調の把握をできなかったわたしに不備があります。申し訳ありませんでした」
もう土下座が板についてきたような気がする。ここにきてもう何度目か。誠意が薄れてしまいそうだ。
けれど謝らずにはいられない。全員の調子を把握できず無理をさせて、なにが主だ。きちんと全員に確認を取るべきだった。遠征に向かった鯰尾さまたちは大丈夫だろうか。
「……ごめんな、大将。俺がちゃんとしてたら進軍できたのに」
「いいえ。責任者はわたしです。あなたの体調に気づかなかったわたしの責任です。これはまぎれもない事実です。が……」
下唇を噛む。わたしがまだ頼れない小娘だと思われていることに腹が立った。努力不足が目に見えた結果の言葉だ、これは。
「出陣が嫌なら、体調が優れないのなら、言ってください。私に言いにくければだれでも構いません。わたしに伝わるようにしてください。あなた方が折れてしまうくらいなら、政府に逆らったとしても出陣なんてしません」
「大将!」
ぐっと腕を引かれる。厚さまの霊力に直接触れて、また歯噛みしたい思いだった。
「俺、久しぶりの出陣だったから、休むなんて言いたくなかったんだ。でもそのせいでみんなに迷惑かけて、資材も使って、バカなことしたって思ってる。だから、ごめん。もうこんなバカなことしないから、そんな泣きそうな顔しないでくれよ」
頰に添えられた手から感じる霊力に乱れはなく、真摯な思いが伝わってくる。
この大きく波が緩い霊力は、わたしに厚さまの体調を勘違いさせた。
霊力の波は人の鼓動のようなものだ。乱れたり薄くなれば悪い。そう単純に判断して出陣を決めてしまったことが今回の原因。今度からは一人一人口頭でも確認しないと。
「迷惑じゃなくて、心配です。約束ですよ」
「おう、男に二言はねーよ」
ニッと笑って小指を絡ませる。なんと古風なお約束。けれどこれ以上はないような気がした。
「ところで、体調不良の原因ってなにか思い当たりますか?食事が合わなかったとか、無理をしすぎたとか、ありますか?」
「……その、実は寝れなくて」
厚さまが初めてきた日を思い起こす。骨喰さまと乱さまが、先に来ていた鯰尾さまと同室となって先に寝かしつけた。その後、しばらく小夜さまと愛染さまと一緒に寝ていた五虎退さまが戻った部屋に、厚さまと薬研さまが入って、それも問題なく寝てくれた。一度霊力を安定させ眠ってしまえば、それ以降は平気だと思っていたのだけど。
「人間にも、眠るのが苦手な人はいますからね〜」
「眠れないなんて言うの恥ずかしくてさ。でも薬研にはバレてたみてーだし。大将が最初に手を握っててくれた時は、あんなにすんなり寝れたのになぁ」
「そうですね〜。じゃあ、夕食前に一眠りしますか?」
「へ?」
今日の出陣で怪我をしたのは厚さまだけだから、今日もうこの部屋を使うことはない。少しくらい入り浸っても誰の迷惑にもならないはずだ。
髪を解いて床に寝転がった。
「大丈夫ですよ〜。夕餉の時間になれば、歌仙さまか誰かが起こしに来てくれます」
「大将も寝るのか?」
「嫌なら寝かしつけるだけにしますが〜?」
ぽかんとした顔のまま少し考えたようで、数秒経過してから自分も布団に寝転がった。そこから少し左にずれる。
「大将も乗れよ。体痛めるぞ」
「ありがとうございます〜。では、ちょっといじってみますかね〜」
向かい合って寝転がったまま、厚さまの右手を両の手で包み込む。それから、大きすぎる霊力を上手く発散できるようにいじる。ついでに簡単に扱えるよう、細く縒っていけば、その過程ですでに寝息が聞こえてきた。
寝息はわたしの睡眠欲をも掻き立てる。
いつのまにか眠っていたようで、目が覚めた時には夕餉のいい匂いがした。
眠ったせいで夜中まで仕事をすることになったのは、厚さまには内緒なのだ。
ここまで閲覧ありがとうございました!そしてUA1000突破!ありがとうございます!
人の三大欲求の一つの睡眠ですが、きちんと取れているでしょうか。季節の変わり目、体調を崩しやすいので暖かくしてちゃんと寝ようと思います。皆さんも是非!
次回は9/28に更新予定です。