みんないっしょに。   作:matsuri

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やっと刀剣男士が出てきます!我が本丸の初期刀は加州君です。はてさて、これからどうなることやら。※こんのすけの口調が迷子です。ご容赦を


第1章


「初めまして、こんのすけともうします。審神者殿、どうぞこちらへ」

 

 

ゲートの先には、狐が待っていた。どうにもおかしな面をして、懇切丁寧な口調でわたしを促す。

 

 

「こちらはまだ本丸ではありません。政府の一室とでもお思いください。説明は受けているでしょう、今から貴方様には初めの刀を一振受け取っていただきます」

 

 

歩きながら説明が続く。行燈の光だけで照らされた廊下は、思いの他危うかった。ゲートをくぐった障害でもあるのだろうか。

 

 

「選ぶ、ではなく受け取る、なのですね。選ぶものだと思っておりましたが」

 

「貴方方に選択する能力はないでしょう?」

 

 

これは、一本取られたと思った。教育を受けて審神者になるしか道がなかった者たちは、みんな『指示に従う』以外の能力を欠損させるような生活を強いられていた。それも当たり前だ。いうことを聞かない道具なんて、壊れた時計以上に役に立たないのだから。

 

ただ、それは自分の意思を叩き折られたやつに限るんですけどねぇ?

 

 

「なら、本丸に送り届ければよかったのでは?」

 

「政府の人間、またはこちらの世界の人間は、本丸には基本立ち入れないのです。その時空に余所者が入るわけですから、時空そのものを歪ませかねません。ですから、審神者殿と通信役の一名のみの通行許可しか出していないのです」

 

「そうでしたか。なら、ほとんどわたしは一人で過ごすことになるのでしょうね」

 

「ええまあ。ただ、その時空の中にも住まう人間はおります。交流もしようと思えばできるでしょう。ただ、くれぐれも時空を超える瞬間を目視されませんよう」

 

「わかっています」

 

 

会話が途切れ、ただ足音だけが響く。行燈が揺れると、わたしの影だけが揺れた。

 

 

 

「こちらです。貴方には、この加州清光を受け取っていただきます。これは扱いづらい刀ではありますが、まあ貴方ならば問題ないでしょう」

 

 

薄暗い部屋の真ん中に飾られる一振の刀。手で取るように言われ、迷わずに両手で取り上げる。ずっしりとした重みが手に乗る。これからのわたしと、一番長く過ごすであろうヒト。

 

 

「では審神者殿。これより先、政府並びにわたしも直接的な干渉はできません。せいぜい国のお役に立ちますよう、健闘を祈ります」

 

 

その言葉を最後に世界がシャットアウトされる。

 

ああ、最後までいけ好かない言い回しの狐だった。

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

目を開けると、見慣れない天井だった。けれどすぐに何があったか鮮明に記憶から読み取ることができる。まさか、ゲートをくぐるたびに気を失っていてはとんでもない。仕事にも学業にも支障が出てしまう。

 

両手にはしっかりと加州清光が握られていた。いや、抱きしめていたという方が正しいか。ゆっくりと身を起こすと、いままでに味わったことのない空気が肺に送り込まれてきた。ずっと澄んだ味だった。

 

さあこれからが忙しい。なんせ歴史に余計な手を加えさせないため、戦わなければならない。非戦闘員である自分の代わりに戦場に出る刀にヒトの形を与えなければならない。新しい生活を確立しなければならない。

 

最優先は、人型を形成することか。

 

ぐるりと視線で部屋を一周し、縁側に出られる障子を見つける。手をかければ先は案の定、広々とした庭園につながっていた。

 

きっとこの場所は置いてあるものから見てもわたしの部屋。なら、別の部屋がいい。もっと広くて、何も置いていない部屋。たしか手合わせをする道場があったはず。そこならきっと、神棚もある。

 

わたしの本丸暮らしは、どうやら本丸全体の把握から始まるようだった。

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

かれこれ一時間は歩き回っただろうか。厨房、大広間が二つ、トイレ、風呂場、茶室、手入れ部屋、鍛刀部屋兼刀装部屋。それから大小さまざまな広さの個室が二十六。想像以上に広い。あまりにも広い。道場なんて、一番端にあるものだから最後にたどり着いた時には少し疲れてさえいた。きっと、それだけ刀剣の種類が多いということなんだろうけれど、部屋割りは考える必要があると思った。

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

 

「あー。川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね」

 

 

つつがなく具現化を成功させる。扱いづらいって、自分で承知しているのね。

 

 

「はじめまして、加州清光さま。わたしはこの本丸を任されております、審神者でございます。これから先、貴方さまには私の代わりに戦場へ出て敵の討伐をしたり、生活を手伝っていただくことになりますが、どうかよろしくお願いいたします」

 

 

両手を膝の前に着き、深々と頭を下げる。相手は自分が降ろしたとは言え神に違いない。礼を欠くことは許さない。

 

 

「えっ、ちょっと、主?だよね??なんでそんなに頭が低いのさ!」

 

「神様に対して頭が上がるはずもございません。これから先、わたしは貴方方付喪神様のお力無しに生きてゆくことはできません。どうか手をお貸しいただけるようお願いいたします」

 

「いやっ、それはそうなんだけどさ!ちゃんとわかってるよ、自分が付喪神なのも審神者の手足になって敵を潰してくのが仕事だって先に説明もされてる。政府ってとこで説明も受けたけど!だから、あんたが審神者でしょ?ってことは主でしょ?この本丸で一番偉いのって主でしょ!」

 

 

すでに焦りが隠せていない。加州清光はきっと、頭を下げられることに慣れていない。まあ、刀は使われるだけだったのだから、当たり前といえばそうなのだけど。もう少しだろうか。

 

 

「大体!俺たち刀剣は審神者の力がなかったら人の形にもなれないんだから、神様って言ったって審神者のおかげでなれたんだから、だからだから、」

 

「では、わたしを対等に扱っていただけるのですが?」

 

「というか審神者の方が上だと思うんだけど、それじゃ折れてくれなさそうだからそうしよう。対等だよ。だから、もう頭なんて下げないでよ、主」

 

 

……なんてちょろい。こうもあっさり一人目を丸め込むことができてしまうとは。人間ごときが、神様を利用しようというのに。

 

ゆっくりと顔をあげれば、少し離れたところに立つ一人の青年。彼が、加州清光の付喪神か。

 

 

「では、これからよろしくお願いします、清光さま」

 

「ん、よろしく。堅苦しいのは苦手だから、お互い楽にいこーね」

 

「はい」

 

 

微笑んで頷けば、くすぐったそうに笑う清光さま。これから、この方との生活が始まるんだ。

 




ここまで閲覧ありがとうございました。続きはぼちぼち、のんびりとお待ちいただけると嬉しいです。※追記 部屋の数を打ち間違えておりました。二十一→二十六です。失礼いたしました。(7/9)

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