本編に関係するのは最後の方に少しだけ、閑話休題として書いてありますので、おまけなんてどうでもいいや!という方はお手数ですがコロコロと下の方まで飛ばしてください。
おまけの話と閑話休題
いーち、にぃーい、と秋田さまの数を数える声が聞こえる。薬研さま、前田さまを除く短刀たちとかくれんぼだ。いやいや隠蔽の高い短刀たちと混ざってわたしが勝負になるのか。
「ふっふっふ〜。ぼくはてんぐですからね、かくれるのだっておてのものですよ!」
「ええっとぉ〜っ、どっ、どこに隠れれば…」
「うーん、わたしはどうしましょうかね〜」
数がすでに二十を超えたので、慌てて屋敷の中に入る。隠れられる場所はあったかしら。
「あ、太郎さま」
「おや、主殿。あなたもかくれんぼですか」
「も?」
しー、と口元に指を立ててから、それを自分の背中に向ける。少しだけ盛り上がった裾に焦げ茶色が見える。あら、平野さまでしたか。
「内緒ですよ」
「内緒ですね〜」
では、とわたしも隠れる場所を探しに行く。いっそ動き回っちゃいましょうか。もうすぐ百数え終わってしまう。うーん。
ごそごそと何か音が聞こえてきた。この先は厨だ。こんな時間に誰がいるのかしら。
「…倶利伽羅さま?」
「……」
珍しいこともあるものだ。当番以外で料理をしている。今日は清光さまと青江さまのはず。
「お腹減ったんですか〜?」
「……」
ふいと顔を背けられる。あら、慌ててる?うーん、別に怒ってるわけではないのだけど…?
「…何でもない、放っておいてくれ」
「まあ、何してようが構いませんが…」
持っているのは牛乳とパン?倶利伽羅さまはパンよりご飯派だと思っていたのだけど。
それ以上お互いに話さず厨を出る。けれど気になったのでついていくことにした。
「…ついてくるな」
「けちー」
それでも尚付いて行こうとすると、振り返って恨めしそうに睨んできた。
玄関から出てしまう。この先は馬小屋、何の用があるのかしら。
「…静かにしていろ。あと、誰にも言うな」
「え?あ、はい」
唐突な言葉に一応返事をする。秘密に…あら、あのシルエットは小夜さま?
「…あなたも来たの」
「あら子猫。お二人が世話を?」
二人しておし黙る。あらあら?
「その…ごめんなさい」
「何がです?」
しゃがむと子猫が寄ってきて、差し出した手にすり寄ってきた。ぺろぺろと舐めてくる舌がくすぐったい。二匹もなんて、迷い込んできたのか。
「だって、勝手に…飼うみたいなことを…」
「そんなこと。別に屋敷にあげてもいいですよ?きちんとお世話と片付けをするのでしたら。五虎退さまだって虎を五匹もお世話していますし。無断で敷地から出て拾ってきたわけではないのでしょう?」
小さく頷く小夜さまと、座り込んでミルクをあげる倶利伽羅さま。住処にしていたであろうダンボールはだいぶよれているから、暫く二人だけで匿っていたのだろう。
他に関心が少ないように見えていっとう他を思いやっているお二人だ。最後まできちんと世話もできるだろう。
「さあ、そうなれば報告に行かないとですね〜」
「どこへ行く」
「清光さまのところですよ〜。家族が増えましたって。ご飯もちゃんとしたのをあげないと、元気に育ちませんよ〜」
小夜さまの表情がぱあっと明るくなる。倶利伽羅さまは背を向けていてわからないけど。
三人で出て行こうとすると、向こうの方から声がした。そして慌ててかくれる。かくれんぼの最中なのを忘れていた。
「小夜さま、清光さまは多分お部屋だと思います。隠れながらいきましょ〜」
「そうだね」
こそこそかくれる二人と無表情に子猫を抱える一人。なんて構図だ。
建物の陰に隠れるように、声から遠ざかるように歩いた。
「あれ、主さん」
「わあっ、堀川さま!しーっ、ですよ!」
「おや、小夜も。そういえば短刀たちでかくれんぼをすると言っていましたねぇ」
ばさっとシーツを広げる音が響く。そういえば今日の洗濯はこのお二人だったか。
…宗三さまはやっていないようだけど。
「また歌仙さまが怒りそう…」
「あなたが僕にこんなことをさせるからですよ」
「もう!じゃあ何ならやってくれますか?まあ、夜番はまともにやってくれてるみたいですけど…」
「お酒が飲めますからね」
ははは、と堀川さまと苦笑する。この人の酒豪っぷりはこの間見せられたばかりだ。さすがというか何というか。
空気と化して待っていた倶利伽羅さまが動いたので、わたしたちも二人と別れて目的に戻る。
が、清光さまの部屋にいたのは乱さまだった。
「清光さんだったらボクをここに隠してくれた後、このかちゃんを探しに行ったよ?」
「すれ違いましたか…」
仕方なしに部屋から出て行く。ここに大勢いては見つかってしまう。忘れがちだが今はかくれんぼの最中なのだ。
「今日は近侍でしたからね…うーん、どこでしょう?」
「…僕は大浴場の方へ行ってみるよ…。大倶利伽羅は庭を探して」
「では私は色々歩き回ってみますね〜」
では、と三方向に別れる。見つからないように移動しなければ。霊力の元を見つけても、それが誰だかわからないからかくれる方では役に立たないわ。
トコトコとあてもなく歩く。この本丸は無駄に広い。建物を三階建てとか縦に高くすれば、こんなに廊下が長くなることないのに。
「おや、歩いてていいのかい?」
「青江さま。見つからないように、探し中です。清光さまを見かけませんでしたか?」
「加州くん?うーん、見ていないけど。僕はこれから昼食の準備に行くんだ。歌仙も来るだろうから、聞いてみるかい?」
あてもないのでついて行くことにする。
というわけで再び厨に着くと、すでに歌仙さまと、何故か厚さまが私たちを出迎えた。
「清光さん?見てないなー。それより聞いてくれよ!ちょっと余ってたご飯で握り飯を作ろうと思ったら歌仙さんに見つかってすげー怒られたんだよ」
「君が手も洗わずに手を釜に入れようとしたからだろう」
確かにそれはわたしでも注意しますね。お腹壊して欲しくないですし。
とりあえずここにもあてはなかったので、またキョロキョロしながら出て行く。すると門の方で複数の霊力を感じたので、そのままそちらへ向かった。
「主さん!ただいま戻りました!」
「お帰りなさい。でも、しーっ」
口元に指を立てて、それから現状を説明する。部隊長の鳴狐さまが、というよりお狐様が遠征の報告をしてくれて、その間鯰尾さまが秋田さまが来ないか見張っててくれた。
「正国さま、手洗いしたらすぐ手入れ部屋へ行ってくださいね」
「へいへい」
「山伏さまはこの後山籠りでしたっけ。また出る前に声をかけてくださいね〜」
「了解いたした」
一人一人に声をかける。きちんと対話をして体調を見ないと。あのときの二の舞なんて、絶対に嫌だから。
「あっ、こっちくる!」
「わっ、じゃあお疲れ様でした!ゆっくり休んでください、お風呂も沸いてますから!」
タッと駈け出す。いくら遊びとはいえ手は抜かない。全力で楽しまねば楽しくないのだから。
次に向かったのはわたしの部屋。もしかしたらこっちに来ているかもと思ったのだけど、アテが外れたようだ。
「このか。何をしているんだ?」
「ひゃっ、びっくりした。かくれんぼですよ〜」
いきなり声をかけられてビクッとなるのは、相手が骨喰さまだったからだろう。まだ慣れないなぁ。
「清光さまを見ませんでした?」
「いや、見ていない。蜂須賀とならすれ違ったが」
「どちらでしょう」
言われた通りに進むと、蜂須賀さまが前田さまと立ち話をしていた。珍しい組み合わせを見たものだ。
「あっ、主君。ただいま戻りました。薬研兄さんが帰還報告に向かったのですが…」
「あら、またすれ違っちゃいましたか〜。とりあえずお帰りなさい。わたしも探してみます。ところで清光さまは見ませんでした?」
「彼なら向こうでさっき見たよ」
「ありがとうございました、行ってみますね」
先に薬室に向かう。今日は薬の調達に行っていたから、わたしが見つからなかったら先に片付けに行くだろう。清光さまよりは幾分可能性が高いので先にそちらへ向かう。
案の定鍵が開いていた。
「おっ、大将の方から来てくれるとは」
「お帰りなさい。予定のものは買えましたか?」
「おう。釣りと、こっちは土産だ。今日の夕飯にでも使ってもらおうと思ってな」
「すごい、立派な鯛ですね〜。今厨に歌仙さまたちがいますので、渡してください。帰還報告受けましたので、薬研さまも午後の出陣に備えてくださいね」
良い返事を受けて部屋をあとにする。
うーん清光さまはどちらに行ったのかしら。適当に歩いていると、厠から出てきた国俊さまと鉢合わせた。
「清光?うーん…」
これもダメかと諦めかけると、国俊さまがキョロキョロと辺りを見回した。
「多分、こっち」
指差してそのままその方向に進む。その先は鍛刀所。石畳に降りるところまで来ると、清光さまがそこから出てくるところだった。
「すごい、なんでわかったんですか?」
「まあ勘だな。一番付き合い長いし、なんとなくってのもあるけど」
「やっと見つけたよあるじ〜。報告しようと思ったのに」
「わたしも言いたいことが…」
子猫たちのことを口にしようとする。ちょうどその時、とたとたと軽い足音が近づいてきて。
「あっ、主君と国俊くん見つけました!」
…すっかりかくれんぼの最中だったことを忘れてしまっていたわけだ。
*** *** ***
政府付属の監視付きホテルで謹慎一週間。その間に眠る時以外仕事を押し付けられ、本丸にいるみんなのことを思いながら片付けていく。
ようやく謹慎が解かれ本丸に帰る時には、あの胡散臭い狐がゲートまでついてきた。
「検非違使に関するデータは貴方のおかげであらかた取れました。謹慎は命令違反すれすれのことをやってのけたことに対する処罰ですね、これからは慎むように。本丸には通信役を置いてありますので大きく崩れていることはありませんが、まああとは貴方におまかせいたします。どうぞさっさとおかえりください」
お前の長話に付き合ってやったんだから少しくらい黙ればいいのに、なんて思いながら黙ってゲートをくぐる。本丸の門に直結しているこの道は、今日だけ少し長く感じた。
ぎいぃ、と木の擦れる音がする。最初に目に入ったのは、もう馴染んでしまった形と変わらぬ屋敷と、赤い着物だった。
「…あっ、あ、ある、じ…!」
ぼろっと大きな涙を一瞬にして浮かべてこぼす清光さま。ああ、心配をかけてしまった。でも屋敷の中にちゃんとみんなの数だけの霊力を感じる。紫黒もいる。良かった、ちゃんと帰っていた。
いろいろ言いたいことはあったけど、安心してわたしも涙が出そうだったけど、ぐっとこらえる。
そうして一言、言わないと。
「…ただいま帰りました」
「…おっ、おかえりっ!あるじ!」
前回、閑話休題の使い方を間違えましたね。申し訳ありません、直しました。そして終わらせるとか言いながら今回まではみ出てしまったシリアス回。これ以上人数が増えても果たしてきちんと話がまとまるのか。心配ではありますが、精進いたしますのでお付き合いください。
今回で一応第2章は終了です。次回から第3章となりますが、新しいキャラは増えないです←
次回の更新は9/16を予定しております。