わたしが帰ってから手入れも済んで、だいたい普段の生活を取り戻した時にはそこかしこで宴会が行われていた。安堵、緊張の反動、その他理由があったりなかったりだけれど、とりあえず買い置きはとっくに無くなっていた。ちなみに紫黒は昨夜飲まされ潰れてまだ寝ている。
飲みっぱなしなのは、宗三さまと薬研さまだ。ううん、お酒が水のように…。
「大将も飲むかい?」
「いえわたしは…」
「こら薬研、歌仙に怒られます」
「ふふ…自分たちで調達しているようなのでいいですが、ほどほどにしてくださいね〜。お仕事できないようでは、ちょっと困りますから」
とまあ口ではこんなことを言いつつ、一番困るのはこの二人ではない。滅多に酔わないから手もかからないし。
粟田口の短刀はほとんど飲まない。例外がこの薬研さまだ。
歌仙さまと清光さま、蜂須賀さまは、普段は飲まないけれど、飲んで酔うと手がつけられない。説教に始まり泣き上戸と絡み上戸。触らぬ神に祟りなしとは、まさに文字通りこのこと。
そして一番困っているのは、これに絡む方だ。
基本的に短刀たちはその兄たちに言われてここには近づかない。清光さまと付き合いの長い国俊さまはたまに様子を見に来たりもするけれど、それだって見て、ちょっと会話をする程度。他もほとんど近づかない。あの青江さまでさえ。まあ正国さまや山伏さまは誘われたら飲んでいるのだけど。
ではさて、絡むのは?答え、鯰尾さまだ。説教を物ともせず往なし他になすりつけ、泣いてるのは適当に煽って、絡んでくるのは面白半分に勝負に持ち込む。いいようにされた彼らは、酔っているから適切な判断ができず、いいように扱われる。その結果、本丸の壁と障子は穴だらけになった。正確には、大広間と彼らの部屋が。
我に返った彼らのうち、清光さま以外は覚えていないのだからタチが悪い。清光さまは二日酔いが酷い上に覚えているから、本人には大変な罰のような気もするけど。
「と、いうわけで。鯰尾さまは罰当番です。今日は見張りますからね〜?」
「えー。俺、なんにもしてないですよ!ちょっとこの間の青江さんのいたずらチクったり、沖田総司のはなしを振ったり、お酒の度数がほんの少し高いのとすり替えただけですって」
「度数38がほんの少しですがそうですか〜。本丸の被害は甚大ですがね〜?」
「げ、主さん本気で怒ってる?」
ふふふ、と笑うだけにして、黙ってやれと道具を投げる。渋々ながらという体を装って、その口元は笑っていた。
ブルル、と王庭が鳴いた。
「…嬉しそうですね?」
「えー、だって、主さんずっといてくれるんでしょう?へへっ、独り占めじゃないですか」
「罰当番ですよ?」
「主さんが付き合ってくれるなら、罰当番も悪くないかなーって」
やりますよー!と元気よくスコップを頭上に持ち上げ、引っかかっていた土を頭に降り注いでいた。…お風呂沸かしておくよう言っておいてよかった。
とりあえず、とわたしも馬小屋に足を踏み入れる。せっかくジャージを着てきたし、少しくらいは手伝ってもいいだろう。骨喰さまはやらせておけと言ったけど、少し離れるだけで何をするか…。普段が普段なだけにこの場においての信用がない。申し訳ありません、でも、日頃の行いによる自業自得というやつです。
「あ、主さん。汚れちゃいますよ」
「大丈夫ですよ。うんっ、と、これ重い…」
藁の束。すでに括られてて塊になっていて、なかなか掴める引っ掛かりが見つからない。抱えようにも手が回らない。でもこれ、崩しちゃうと運ぶの面倒だし…転がしますかね。
「よっ、と。主さんは三国黒をちょっと出してて。その間にちょちょーっと藁を変えちゃいますからね」
いつの間にか隣に来ていた鯰尾さまが軽々と藁を持ち上げてしまう。ああ、この細腕のどこにこんな力があるのかしら。
言われた通りに三国黒においで、と呼ぶ。すると擦寄るようについてきた。
「あはは、やだ、三国黒、そんなに舐めないでっ」
「あっ、こらバカ!主さんはダメだったら!」
しきりに頬を舐められて、押さえる間もなく鯰尾さまに引き離される。そのまま抱き寄せられて、今度は鯰尾さまに捕まってしまった。その彼は三国黒と睨み合っている。
これでは甘えたい子供の取り合いみたいではないか。
「ほらほら、お掃除終しないといつまでたっても終わりませんよ〜」
「でもー」
「わがまま言わない。ね、離してください」
ちぇー、と手を離して三国黒に牽制すると、再び藁を持ち上げてしきりの中に放り込んだ。いつの間に古いのをかき出していたのか。
手際よく敷き詰めると、「戻れよー」と三国黒の背を叩き敷居の中に戻した。あっという間、わたしはいらなかったようね。
それから着々と片付けが進み、日が天上の方に見える頃にはすっかり綺麗になった。今回ばかりは端から馬糞は捨てさせた。
「よーし、今日はこれで終わりですよね?頑張ったからご褒美下さいよ!」
「これ元々罰なんですけど…」
「気にしない気にしない。一緒にお風呂入りましょうよ。お風呂ーー」
ズドン、と。鯰尾さまが言葉を続けようとしたそのときには、その横を通り過ぎた短刀が後ろの柱にまっすぐ刺さっていた。刀は投げるものではないですよ、もう。
「お兄ちゃーん?ふふっ、僕と一緒に乱れてみる?」
「うっわー弟と乱れちゃったら俺世間的に死ぬね?」
自分たちが刀だということを忘れているのだろうか、危うく馬の前で殴り合いになりそうだったので押しとどめると、掴み合っていたお互いの髪をようやっと放した。乱さまが服についた土を払う間に鯰尾さまが柱に刺さったままの刀を抜き取り手渡す。
まったく、仲が良いのか悪いのか。
くすっ、と小さく笑うと乱さまは「仕方がないなぁ」というように苦笑して、鯰尾さまは「ちぇー」と言いながらもどこか楽しそうだった。
ここまで閲覧ありがとうございました。滑り込みで申し訳ないです。まさかの今日になっても書き上がらないという、久々に焦りを感じました。はてさてこのかは何日学校を休んでいるのでしょうか。シルバーウィークでした!は通用しないんですよね…どうしましょう
次回の投稿は11/30を予定しております。