みんないっしょに。   作:matsuri

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この本丸では料理はみんな一応できます。一人分の軽食とかなら多分勝手に作ってます。みんなの得意料理とか考えるのも楽しそうですね!


歌仙さまとお菓子作り

「じゃあ。縹、何かあったらすぐ呼んで」

 

「わかってます。ほら、他の本丸も待たせているのでしょう?紫黒こそ何かあったら呼んでくださいよ〜」

 

 

片付けまで手伝ってくれた紫黒が政府に呼ばれ帰って行った。彼だってこの本丸だけを担当しているわけではない。聞いた話、あと二つ掛け持っているらしい。通信役も簡単ではないだろうけど、彼が無事に仕事を行えることを祈るばかりだ。

 

そうして今日、また新しい仲間が増えた。次郎さまだ。太郎さまはいつも通り涼しげな顔で「よく来ましたね」と言っていたけど、桜が彼を隠すくらいに舞っていたから、本当はとても嬉しかったのだろう。

 

まあ酒飲みが増えた、という問題は本人に片してもらおう。その分働いて貰えばいいのだ。

 

そうして本日は秋田さまと乱さまのお願いである『わたしの手作りのお菓子』を作るべく、昼食後にわざわざキッチンにいるというわけだ。明日の月曜日から学校にも復帰するし、みんなに一日中構えるのはまた暫くお預けになってしまう。

 

 

「さて、始めようか」

 

「はい」

 

 

お茶請けが欲しいという歌仙さまと一緒に作ることになったのは成り行きだ。

 

さて、今回はクッキーとフルーツタルトを焼こうと思う。

 

 

「君のお手並み拝見といこうか」

 

「包丁使わなければそう時間もかかりませんし、そもそもわたしだってできないわけじゃないです〜っ」

 

 

もう!と笑いながら並んで作業を始める。先にタルト生地を焼くから、まずは小麦粉ですね。

 

このキッチンは色々と器具が充実している。もともとそんなに料理をしないわたしは最低限のものを揃えただけだ。けれどいつの間にかレンジがオーブン付きに変わっていたり、中華鍋があったり。さすがに色々な器具を両手に抱えて帰ってきた時は、清光さまを問い詰めた。

 

 

「俺たちってここにきてから初めてご飯ってのを食べたわけだけど、最初は必要だから、って口に入れたんだ。でもそうじゃなくて、今は必要だけど食べたいから、ってなって。みんなで貯金して買ったの。レパートリーも増やしたかったし」

 

 

爪紅も我慢したんだよ、とちょっと自慢そうに笑う。充実させたこのキッチンは満足のいくものになったようだ。

 

手を動かしつつ互いの手元を観察する。どうやら歌仙さまは白玉を作るようだ。ああパフェにしたい。

 

歌仙さまと小夜さまを筆頭に、数名の方がよくお茶を飲みに集まっている。そういう時は、他のみんなはそう近づかない。何故なら少し騒がしくすれば「万死に値する」からだ。まあそこに清光さまが混じっていた時は少し驚いたのだけど。

 

 

「そういえば君に、ひとつ前から聞いてみたいと思っていたのだけどね」

 

「はーい?」

 

「君は僕たちを家族だといい友人だという。僕はそれで構わないし、他のみんなもそれでいいと思っているようだ。けれど、断られたらどうするつもりだったんだい?」

 

 

むう、それは考えていなかった。だいぶまとまってきた生地を型に広げ、空気を逃がすように押し付ける。それを予熱しておいたオーブンに入れながら答えた。

 

 

「そうですね〜。それならそれで放っておきます。仕事だけはしてもらいますけど、わたしと本当に関わりたくないというのなら近侍にはしませんし、他で関与もしません。それだけですね〜」

 

「ほう?」

 

「あなたがたの生態ってまだ未確認のことが多すぎるので、審神者はその観察の仕事もあるんです。だからブラックと呼ばれるような男士に対してひどいところも、こうして家族のように生活するところもある。そして政府は報告だけさせて他一切に口を出さない。なので、それはそれで報告するだけです〜」

 

 

まあわたしはそれも気にくわないのですが。

 

クッキー生地を作るべく今度は溶かしておいたバターを崩す。その間に歌仙さまは「そうか」とつぶやきながら白玉を均等に丸めていった。

 

 

「そういえば昨日は堀川と一緒にいたようだけど、何かあったのかい?」

 

 

意訳すると『わたしと戻ってから彼の様子がおかしかったが理由を知っているか』かしら。表面上いつも通りでも、わかる人にはわかってしまったのだろう、あの押さえ込んでいる霊力が。

 

これは最近仲間が増えてきて気がついたことだが、この本丸にいる男士のうち、わたしの居た時代まで現存する刀より既に本体失われた口伝や書物にある刀の方が霊力を持っているようだった。例えば加州清光、例えば今剣、例えば薬研藤四郎、例えば堀川国広。霊力を大きく持たないと姿を保っていられないのかもしれないとはわたしの勝手な推測だが、それを用いた戦闘能力には目を見張るものがあり、成長も目覚ましいものだった。閑話休題。

 

 

「ちょっと気が立っていただけですよ〜。現に今朝は元どおりでしたでしょう?」

 

 

小麦粉をさっくり混ぜた生地を絞り出し袋に詰めて、天板に敷いたクッキングペーパーの上に一つずつ可愛らしく絞っていく。ドライフルーツでも飾ろうかしら。

 

 

「どうも彼らは少し怖いところがあるからね。まあ主が平気だというならそうなんだろうね」

 

 

歌仙さまの言う「彼ら」は現存しない彼らだ。まあそう思うのも仕方がない。浮世離れというか、言い方を変えると少し戦狂いをしているふう。死に頓着しなさそうで怖い。自身が折れることをなんとも思わない節がある。けれどキチンと帰ってきてくれている。

 

 

「ふふ。堀川さまは、ちょっと照れますけど実の兄よりお兄ちゃんって感じです」

 

「それは嬉しいなぁ」

 

 

おや、と歌仙さまが振り返る。わたしは振り返る前にぴったりと後ろにつかれ、覗き込んでくる目に見つめられた。

 

 

「クッキー?」

 

「はい。堀川さまは?」

 

「手合わせが白熱してたから水分補給が必要かな、と」

 

「ああ、今日は同田貫と小夜だったか。小夜はあんなに小さな体だけど、太刀にだって負けていないからね」

 

 

昔馴染みだからか自慢げに言う歌仙さまに二人して小さく笑をこぼす。そうして堀川さまは大きめのペットボトルに水を入れて持って行った。よく周りを見ている方だ、本当に頼れる。

 

しばらくはぐつぐつとお湯が沸く音だけが響いた。たまに白玉が落ちる音もする。

 

やっと焼きあがったタルト生地を出し、温度を設定し直してクッキーを入れた。タルトを冷ます間に乗せるフルーツを用意しましょう。

 

 

「僕は作り終えたから手伝うよ。缶を開ければいいのかい?」

 

「はい。あ、手を切りませんよう」

 

 

言う前に手慣れた手つきで開けてしまうから、多分なんどもやったことがあるのだろう。我が本丸のキッチンを任せている彼らは頼もしく、おかげで美味しい食事を毎日食べることができる。もっとみんなが色々とできるようになるよう、わたしがしなければならないことは多そうね。

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

「さあ、できたかな?」

 

「はい。どうですか〜?」

 

 

フルーツをふんだんに使ったタルトとドライフルーツを散らしたクッキー。作りすぎた気もするけど、彼らが喜んでくれたらいいな。




ここまで閲覧ありがとうございました!唐突にケーキが食べたいです。ブッシュドノエルとか。クリスマスチックな。

次回は12/21に更新予定です。

追記:申し訳ございません、諸事情により予定通りの更新はできませんでした。12/23までにはできると思いますのでしばらくお待ちください。

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