あけましておめでとうございます!
おしゃれって必要だとは思うのですが、なかなか手が回らないものです。なんせ趣味に金がかかるもんで…。あ、前回などの話ですが、別に私はかねさんが嫌いなわけではないです。話の都合上ああなっただけで、みんな好きです愛してます。フォローだけはしとこうと思いまして。
急に冷えこんだ金曜日。冬の訪れを告げるかのように冷たい風が縁側を歩くわたしたちの横を通り過ぎていった。
「さ、寒いですね〜っ」
「そろそろコートやら発注しますかね〜」
きゃーとくっつきながら暖かい広間に五虎退さまと入る。珍しいことに静かで、今日は新しく来た陸奥守さまと盛り上がっていたから、そっちに行っているのかもしれない。とはいえ今日はもう仕事も予定もないので、好きにしてくれたらいい。
「おや、寒そうだねぇ。ほらこっちに来てあったまんな」
「次郎さま!」
来い来いと呼ぶ次郎さまさまの前にはストーブ。その上には徳利が置かれているから、一人で熱燗でも楽しんでいたのだろう。
ぱっとわたしから離れた五虎退さまが走ってそちらへ行くと、後ろから次郎さまに捕まってその膝の上に収まってしまった。
「お一人ですか?」
「今はねぇ。さっきみーんな道場に行っちゃったよ。アタシはお酒がまだ残ってたから遠慮したのさ」
「ふふ。お酌いたしましょう」
「ありがたいねぇ」
袖で包んだ徳利を傾ける。五虎退さまは手を温めるように体を小さくして手をこすり合わせていた。
「ここはいいところだね。ちょっと働けば美味い酒が飲める。審神者も可愛いしさぁ」
「あら、有難うございます」
酒飲みの戯言にはつっこまないのが吉。余計に絡まれてはたまらない。
暫く三人で雑談をしていると、この場のお酒が切れてしまった。
「もう少し持ってきましょうか?」
「ん〜今日はいいや。それよりちょいと、付き合ってくれないかい?」
「はい?」
トラちゃんもおいで〜、と五虎退さまも立たされる。手を引かれて連れて行かれる五虎退さまにわたしもついていく。行き先はどこだろうかと考えるまでもなく、次郎さまたちの部屋に着いた。
どーぞ、と通される部屋。中までは関知していないから初めて内装を見るわけだけど、すぐにどちらがどちらを使っているかわかった。笑えるほどに一目瞭然だった。
かたや整理された文机と桐タンス、かたやきらびやかな鏡台に化粧ケースと大きなタンス。まず色から違って面白い。二人を同じ部屋に入れたのはさすがに狭いかとも思ったけれど、この広めの部屋をうまく使っているようだった。
「トラちゃん、主さまは可愛いよねぇ」
「へぅ、は、はい!だって、いつもにこにこしてるし、そのぅ…」
「そうよねぇ。な・の・で、そんなアンタに次郎ちゃんがプレゼントをしちゃいまーす!」
さあ座りなさいと押さえつけられ、座らされる。そうして目の前に出されたのは、色とりどりの着物だった。
「兄貴がねぇ、ぜーんぜん給料使わないで溜めてたから、だったらって買ってみたんだ〜。聞けばアンタ、全然着飾らないんだって?折角素材がいいんだから勿体無いって〜」
なのにね、と続く。
「兄貴ったら自分では渡せないなんていうからさ、アタシが代わり。ついでだから飾ってやろうと思って」
「は、はぁ」
「どの色がいいかねぇ」
そうなったらわたしは置いてきぼり。五虎退さまと次郎さまは目移りするように着物を見ていく。
これは話の通じない、諦めたほうがいい事柄の一つ。おしゃれとか自分を着飾るとか、確かに見栄を張ったり他人に見せるために必要なことなのだとは思うけど、まだ高校生だからと敬遠していた。そのため全然その手の知識がない。たまに友人が髪をいじってくれたけど、可愛いとは思っても正直全然わからない。
やっと決まったのか五虎退さまが淡い亜麻色の着物を両手に持って差し出してきた。裾の方に様々な色の花が散りばめられている。
「主さま、これ、どうですか?」
「五虎退さまも選んでくれたんですか?嬉しいです〜」
受け取れば期待の眼差し。都合のいいことに仕切りまで用意されていて。まあもちろん断ることなんてできないわけで。
「…き、着替えてきます」
そさくさと仕切りの向こうに身を移したわけだ。
*** *** ***
大きすぎず柔らかいそれは、抵抗なくわたしの体を包み込んだ。黄色によく映える黒い帯。帯にも花の模様が施されていて、大きな花束にでもなった気分だった。
きっちりした着物を着るのは久しぶりで、なんだか少し気恥ずかしい。
「あの、一応着たのですが…」
「わあっ」
ぱあっと明るくなる、と言うか少し頬を赤らめる五虎退さまと、うんうん頷く次郎さま。これは、似合っているのか?
「主さまは髪が綺麗な水色だから、この色が合うと思ったんです!」
そんな笑顔で言われたら嫌とは言えない。いや、嫌ではないのですが。
「着付けは完璧じゃないか。おいで、仕上げしたげる」
鏡台の前に座るよう促され、抵抗せず従う。
着付ける時に邪魔で適当に結った髪を解かれ、優しく梳かれた。
「ほんと、綺麗な色だね。自前かい?」
「いえ。髪は神に通じます。黒は他に埋もれてしまいますから、目立って見つけてもらえるように、だそうです。水色なのは、瞳の色に似せたんです。こちらは元々なんですよ〜」
くるくるとまとめられていく髪。この天然パーマは結う時にはやりやすいらしい。いつもと違うやり方で上げられた髪は垂れることなく、簪でお団子に収まっていた。横には編上げがされている。いつの間に。
驚くのもつかの間、今度は鏡台とわたしの間に次郎さまが割って入ってきた。
「さ、目をつむってておくれよ。動かないでね」
「主さま、どんどん綺麗になってきますー!」
白粉は薄く、目元や頬にも薄く、最後に紅を引かれる。次郎さまが小指を離すと、漸く目を開ける許可が下りた。
鏡に映るはわたしであってわたしでない。身綺麗に整えられたお嬢さんがおとなしく座っていた。
「どうだい?見違えただろう」
ひひっ、と悪戯っぽく笑う次郎さまに反応できない。化粧や服装でこんなにも変わるものなのか。
こんな姿を知り合いに見せてもきっと気づかれないだろう。それくらい変わって、もう化けたと言っても過言ではない。
「主さま、みんなに見せに行きましょう?」
「行っといでー。ほら、しゃんとしてみんなのハートを掴んどいで!」
言われるがままに向かった大広間。歓迎会の二次会と称した飲み会に突然入ったわたしを見て、加州さまは驚いて石化した。でもそのあと触れない程度に近寄ってきたみんなに褒められて、絶賛され、たまにはこういうこともしたほうがいいかと思ったけど自分ではできそうにない。
五虎退さまと笑いあう。もし必要な時があったら、また次郎さまに頼もうか。
ここまで閲覧ありがとうございました。
昨年から始めたこの作品、無事に年を越すことができました。これも読者さま、お気に入り登録してくださった方のおかげです。ありがとうございます。そんな皆様方の新しい一年が良い年となるようお祈り申し上げます。今年もよろしくお願いします。
次回の更新は1/11を予定しております。