初レア太刀の鶴丸じーさんは今は特攻隊の一員ですが、どうしてすぐ疲れる。すぐ疲労します。おじいちゃんだから?
あ、鍛刀キャンペーンで日本号来ました!もうそろそろ所持数がやばいっす!いち兄こないっす!
「よっ。鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?」
「わ、わぁ〜…」
驚きすぎて間の抜けた声が出る。午前の出陣をすべて終えた日曜日の昼下がり。いつもの通り朝に頼んでおいた鍛刀の終了を確認すべく来たら見たことのない太刀が出来ていて、顕現したら鶴丸さまだったというわけだ。
「おや、驚きが薄いな」
「いえ、そんなことは。驚きすぎて声が出ないのですよ〜」
とりあえず、と恒例のお願いとルールの確認をして一通りの案内を終える。今日の近侍が薬研さまで助かった。この皇室御物を前にしても物怖じしない方はそう多くないだろう。まあ物怖じしないのと怖いもの知らずは紙一重なところがあるけれど。
それに、どうやら顔見知りであるようだし。
「ほんの一時だったが覚えている。綺麗な顔して黙って座ってるだけの人形だったがな。まさかこんなにも面白い奴だとは」
「そうだったか。俺っちはあんま覚えてねぇからなぁ。ま、仲良くやろうや鶴丸の旦那」
互いの背を叩いて笑いあう。賑やかになりそうだわ。
「ところで審神者殿?いや、君が審神者なんだよな?」
「ええ。なにか不都合がありましたか?」
「いやぁ…うんうん、まあこの方が面白いよな」
はて、と首をかしげる。何を一人で納得しているのかしら。
「では鶴丸さまはとりあえず一人部屋でお願いしますね〜。何かありましたら誰にでも聞いてください。わたしはちょっと約束がありますので…」
「あ、ちょっと待った」
「はい」
むにっ、と。伸ばされた手がわたしの体に。正確には胸に。
「やっぱり女だよなぁ」
ニヤッと面白そうに笑った顔が見えた瞬間。
ドスッと大きな音がして。
鶴丸さまの後ろの柱が小刻みに揺れた。
「…あ、やだ、わたしったら…」
両手で振り下ろした短刀は紛れもなく薬研さまの本体で。つまりはわたしが刃を抜いたというわけで。
「ご、ごめんなさい薬研さま。貴方を勝手に…ああ、怪我とか、傷とかできていませんか?無意識で、こんな、」
「落ち着け大将。大丈夫だ。かすり傷一つ負ってない」
ぽんぽんと背中を叩かれあやされる。ああ涙が出そうだ。びっくりした。
まあ、と薬研さまがわたしを庇うように続ける。
「大将がやらなきゃ俺がやってたがな」
「そうやって抱擁するのがよくて俺は怒られるのか」
柱から引き抜いた本体を鞘に戻しながら薬研さまがニヤリと笑う。余裕の笑み。
「この審神者殿は俺たちの姉でもあり妹でもあり、友人でもある。家族だからと言ってやっていいこととやっちゃいけないことくらいあんだよ」
分かったら解散だ、と薬研さまがわたしの背を押す。その背中にかかった声は、とても楽しそうな色を含んでいて、つまり。
「…こりゃあ、驚いたなぁ」
*** *** ***
それからの数日、鶴丸さまのサプライズはひっきりなしに行われた。いくつ引き出しがあるのかというくらい。それから質問が多く、日常のいろんなことに驚き、また感動していた。
蛇口をひねれば水が出て、陽の光は暖かく、中でも一番気に入ったのは食事という行為だったようだ。初日にはしゃぎまわった鶴丸さまが、動けないと訴えてきたのは半日後。疲れることや休憩が必要なこと、食事が必要なことは自身で学んでもらおうと思っていたのだが、こんなにギリギリまで遊ぶとは思いもしなかった。そうして差し出したお団子はまた新しい驚きだったようだ。その日の夜も
「眠るとは!人間は大層面倒で面白いな!」
と子供のように目を輝かせながら床に就き、目を瞑るよう言えばわたしがどうするまでもなく寝息が聞こえてきた。どれだけ消耗していたのか。隣にいてくれた薬研さまと苦笑したものだ。
そうして今日まで、ありとあらゆる驚きを本丸にもたらした鶴丸さまは、毎日楽しそうに笑っていた。怒られるのも、ふざけるのも、話をするのもみんな楽しいらしい。歌仙さまも最初は控えていたが、今ではすっかり説教役だ。鯰尾さまと鶴丸さまが並んで怒られている図はすでに何度見たことか。
「今日はどんな驚きを届けようかな?」
「もう、また怒られますよ〜」
「君は初日以来怒らないな?」
「怒られたいんですか〜?」
いやいや、と首を振る。できればわたしもあんなことはもう遠慮したいものだ。まさか神様に傷をつけるなんてこと、したくはないもの。
「今日の俺は馬の世話だったな。行ってくるぜ!」
「はい。乱さまが一緒ですから、わからないことは聞いてくださいね〜」
と、送り出した朝。ぷりぷりと怒りながらわたしの元へ乱さまが抗議に来たのはその数時間後だ。なんと鶴丸さまが馬小屋へ現れなかったらしい。
あらあらこれはお説教案件ですねぇ。
「鶴丸さま〜、今ならお説教とおやつ抜きでおさめますから出てきてくださ〜い」
「鶴丸さんのおやつボクが貰うからねー!」
二人で探し回るも見つからず。実は馬小屋に隠れているのではないかと一人で向かったものの、誰かが隠れている様子はなかった。ううん、本丸内では霊力が充満しててどこにいるかまではわからないし。一人で外れにいればまだしも…。
そうこうして蜂須賀さまから昼の支度ができたと呼ばれた。これで席についていなければ本気で探しにかからなければならない。念のために結界も調べてみたが、やはり誰かが触れた形跡はなかった。
「もう、鶴丸さまったら!ごはん食べないんですか〜?」
人間の体には食事と睡眠が不可欠だと言ったのに!
しかし昼ごはん、これはいい機会かもしれない。みんなそろそろ大広間に集まる頃だろう。なら、霊力が分かるかもしれない。
そうして待つこと数分。うーん、ここはさっき通ったのだけど。それに、なんでこんな道の真ん中に…?
畑に向かうその途中。隠れる場所なんてない。けれど一つだけある霊力はここらから感じるのだけど…。
「っ…?!」
落ちた。物の見事に落ちた。暗闇に真っ逆さま。
どうしてこんなところに穴が、とか、落ちて怪我したら、とかそんなことを思う前に、鶴丸さま見つけたら説教だけじゃ済まさないって誓ったから、わたしもたいした度胸だと思う。
どこまで穴が続いているのかわからなかった。どれくらいの時間落ちていたのか。衝撃に備えて頭をかばっていたけれど、来るはずの痛みはほとんどなかった。
「…っとと、ふぅ」
砂利を踏みしめる音と人の温もり。まさかまさかとぎゅっと瞑っていた目を開くと、薄暗い中、わたしを見下ろす鶴丸さまが見えた。
「おっと、とりあえず君、怪我はないかい?痛いところは」
「…ありません」
そりゃよかったと降ろされる。狭くてほとんど密着しているが、彼から触れてくることはなかった。
「よく受け止められましたね」
「そりゃあ待ち構えていたからな」
「はあ?」
両手を顔の横にあげて苦笑い。なにをしていたんだこのレア太刀は。
「落とし穴を掘ったことなんてすっかり忘れていてなぁ」
「なにやってんですか、まったく」
「いやしかしな、深く掘り過ぎたせいでこれは誰かが落ちたら大変だと思ってな。助けを呼ぶ前に落ちてきても平気なよう、待ち構えていたというわけさ」
「まず落とし穴なんて掘らないでください」
睨みあげれば竦める肩。これは反省しているのかしていないのか。
しかしお腹が減ってきた。探し回って疲れたのかもしれない。
仕方がなしに、鶴丸さまの外気に晒された両腕を弄った。
「お?こんな狭い場所でいやに積極的だな」
「顕現したばかりで何を言いますか。こんなことを神様にお願いするのは申し訳ありませんが、ここから出るために手を貸していただけますか〜?」
「原因は俺だからな、やれることはやろう」
それでは、と両手を組ませる。その平を上に向けて、少ししゃがむように促した。
「すいませんが足を掛けますね〜。合図したら上に思い切り投げてください」
「おいおいそんなことが出来るのか?」
「まあ、余程のことがなければ壁にしがみつくくらいはできますよ。幸い今日は洋装ですしね〜」
鶴丸さまはそれ以上の言及を避け、足を掛けやすいように手を下げてくれた。もしかして、見付け出される前に自首しようというのかしら。わたしが居なくなったらみんな探してくれるだろうし…。自首の方が罪が軽くなるかはさて置くが。
「じゃ、せーので行きますよ…せー、のっ」
「とうっ」
力を入れた瞬間、タイミングよく押し上げられ、文字通り放り投げられたわたしは空中でバランスを崩し尻餅をついてしまった。まあ、地上に出られたからよしとしよう。
それにしても、よくあの細腕でこんなに投げられたものだ。さすが太刀というべきか?
「おーい、怪我はないかー?」
「ってて…はーい。ロープ持ってきますのでちょっと待っててくださいね〜」
その後無事地上に出てきた鶴丸さまは、食事をしながら歌仙さまの説教を受け乱さまの文句を聞き、二度と落とし穴は掘らないと誓わされていた。わたしももう落ちたくないので口を出さず見守る。
「なあ審神者殿」
「はい」
振り返るとそこには反省のかけらもない無邪気な笑顔。
「落とし穴、まだまだあるって言ったら、怒るか?」
「〜っ!?全部埋めてくださーい!!」
こうしてイタズラが過ぎる鶴丸さまには、昔馴染みの薬研さまにお願いして同室になってもらい、ストッパーを引き受けてもらった。現在では持ちつ持たれつ、仲良くやっているようだ。
ここまで閲覧ありがとうございました!
黙ってればあんなに儚げなのに…とわたしが勝手に思ってるペアです。あの同室ネタはどうしても入れたかった。そんなに入ってませんけどね。
諸事情につき、来週の更新はお休みします。なんせ忙しい!
次回の更新は1/25を予定しております。
追記:すいません、やはり忙しくて書ききることができませんでした。本日中には更新しますのでしばしおまちください。1/26