二週間ぶりの更新な上1日遅れてしまいました。すいません。また来週からは通常通り週一更新する予定ですので宜しくお願いします。
燭台切さまが来て二日目。食卓が変わった。
来て早々、真っ先に興味を持ったのが料理だったらしく、今まで厨を任せていた加州さまや堀川さま、青江さまたちについて料理を練習していた。二時間で箸をマスターしたのはこの本丸での最短記録を塗り替える速さだ。
「ただいま。今から昼の準備するからね」
「お疲れでは?ご希望ですから出陣してもらってますが…」
「粟田口の子はスパルタだね。負けていられないよ」
ははっ、と笑う。まあいいならいいんですけど…。
その日の夕食も、贅沢しすぎない豪華な食事だった。満足して部屋に戻ろうとした頃、門の方から式神が飛んでくる。訪問者がわたしを訪ねて来た時のみ呼びに来てくれるできた子だ。
まあわたしを訪ねてくるのなんて一人しかいないのだけど。
紫黒が一通の封書を持ってきた。用件はそれだけのようで、まだ他にも行かなければならないらしく、門の前で少し言葉を交わしただけで次へ行ってしまった。
部屋に戻って封を開ける。明らかに政府からの通知であったが、いつもの定時連絡とは違って号外のような扱いであった。
ざっと一読して立ち上がる。居ても立っても居られず、上に羽織るものも忘れて走り出し、一つの部屋を目指した。
「蜂須賀さま!」
小声で、でも届くように。ただ一回の声で蜂須賀さまは障子を開けてくれた。
「どうしたんだこんな夜に。ああまたそんな格好で。寒いだろうから早くお入り」
「すいません、失礼します」
まだ布団は敷かれておらず、文机に本が置かれ蝋燭の灯りがついていたから、きっとまた勉強でもしていたのだろう。最近本を借りることが多かったし。
そんなことは置いといて、と差し出された座布団に座る。それから封書が届いたことを最初に伝えた。
「先に貴方には話しておいたほうがいいと思いまして〜」
部屋につけておいた電子ケトルを蜂須賀さまがいじる。この間コートとや防寒具と一緒に発注したものだ。やはり部屋に一つ置いてよかった。差し出されたお茶は温かく、梅の香りがした。
「話すことはまとまったかな?」
「はい。蜂須賀さま、わたしが謹慎になったときのこと、覚えていますか?」
「まあ、本丸中がひどい有様だったからね。それがどうかしたのか?」
「そのとき出現した検非違使から、虎徹が入手できることが確認されました」
息を飲む音が聞こえる。わたしは続ける。
「報告書によれば一週間前、ある本丸の部隊が行き慣れた戦場にて検非違使と遭遇。戦闘へとなだれ込みぎりぎりで敵部隊全てを破壊したそうです。敵部隊を倒した時に稀に刀剣を入手できることはすでに周知の事実ですが、検非違使からも普段は出会いやすい短刀が多かったようですね。しかしこの件では明らかに短刀ではなく、記録にもなかったので持ち帰って顕現したところ、それは浦島虎徹だったそうです」
浦島虎徹。虎徹の真作にして脇差。名称は刀身に浦島太郎が掘られていることに由来する。
正真正銘、蜂須賀さまの兄弟刀である。
「検非違使、は、あの時押すのが精一杯だったあの部隊のことかな?あれを倒せば…」
「もう一つ、これは三日前のことです。同じような状況で入手した刀。こちらは打刀だったそうです。長曽祢…」
バンッと文机が大きな音を立て、湯呑みがカタカタと揺れた。
「その名は聞きたくない」
「…すいません」
沈黙。けれど黙っているわけにも行かない。いただいたお茶を飲み干して、もう一度面と向かいあった。
「わたしは、多くの種類の刀剣を集めるという仕事があります。ですから、どれはいらないなどということは言えません。いつかは彼もここに来るでしょう。そのとき貴方は、この本丸に彼が来たとき、」
「俺は刀だ。主人がどのような他の道具を持っていようが、使ってさえくれるのならば文句はないよ。ただあいつと俺とは違うんだ、一緒にしないでくれ」
「はい。みんな違います。わたしは特に流派だからと括ったり差別することはしませんよ〜。部屋割りはご希望と利便性、相性ですからなるべく意に沿うようにしましょう」
ありがとう、と聞こえた気がした。俯いて手を下ろした蜂須賀さまの表情は読み取れない。喜びとともになにか別の感情もあるのだろう。贋作の多い虎徹では、本人にしかわからない感情もあるのだろう。これはわたしが容易に聞き出そうとしてはいけないことなのだ。
二杯目のお茶を、今度はわたしが注ぐ。梅の香りがまたたった。
「そしてその検非違使ですが…」
言うか言うまいか悩んだ。けれど、早く兄弟に会いたいだろう蜂須賀さまには、酷かもしれないけど言わなければならない。
「同じ時代に繰り返し何度も行き、敵の本陣を何度も倒すと出てくるようです。そしてその部隊は、こちらの部隊の最高練度に匹敵します。わたしたち審神者にはあなた方の練度が数値として見えますが、敵が合わせてきているようですね。これは全589戦全戦で同じ結果が出ています。つまり、こちらは練度の差を少なくした部隊で行かないと厳しいというわけです」
つまり、と先を続けたのは蜂須賀さまだった。
「いま他と練度の差がどちらにも大きい僕は、しばらく検非違使対策として出陣できないというわけだね」
「…はい。検非違使が一度現れた時代では、ずっと検非違使の巡回が続くようです。そうなれば暫く練度の差をなくした部隊でしか出陣できません。遠征先で出たという話はありませんので、基本遠征で練度を上げることになるでしょう。わたしの力が足りず、思うように動けず、申し訳ありません」
どうしても早く来た方の方が練度は高い。慣れている方々に新参の方を混ぜて今まで出陣していたのだ、経験はやはり多く積むことになる。幸い敵の本陣を倒した後に次回から検非違使が出る可能性がある場合、政府のシステムによってアラームが鳴るようになったようだ。それを目安にすればいい。まあどこまで当てになるかわからないが。
でも、逆を言えば敵の本陣まで踏み込まなければ検非違使にも察知されないということだ。
「あなたを贔屓するわけにはいきません。ですが努力次第で誰かと並ぶこともできるでしょう。きょうはこれだけを伝えに来ました〜」
「…そうか。ありがとう。弟は誰とでも仲良くなれる可愛いやつだよ。だから、早く君にも会わせたい」
「ええ、わたしも早く会いたいです〜」
借りたブランケットを羽織って部屋に帰る。やはり贋作である長曽祢虎徹のことについてはほとんど口にしなかった。部屋を一緒にするのは得策でないかもしれないけど、まあ取らぬ狸の皮算用という。来てから考えることにしよう。
しかし検非違使。厄介なものが出てきてしまった。本当はあまりあの場には行きたくないのだけど、そろそろそうも言ってられないかしら。
ここまで閲覧ありがとうございました。延々と検非違使の説明になってしまいましたね、すいません。でもこの本丸のある世界ではこういう設定で行きますので宜しくお願いします。
次回の更新は2/1を予定しております。