みんないっしょに。   作:matsuri

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まずは何もお伝えすることなく二週もお休みしてしまいすいませんでした。スケジュールを調整できず、ゆっくり書くこともできず、やっとかけてもアップする暇がありませんでした。これからはしばらく忙しい予定もないのできちんと更新できると思います。
こんなやつですが、これからもちらっと覗いてくれると嬉しいです。


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検非違使対策も含め、今日は練度の高い方がうまくバラけるように、五つの部隊を組んだ。

 

 

「昨日言いました通り、今日の出陣はお休みします。そのかわり全員別の場所へわたしについてきてもらいます。近侍は清光さま、各部隊長は国俊さま、歌仙さま、薬研さま、蜂須賀さまです。各部隊2名ずつ経験の浅い方を配属しています。三人一組でフォローしあってください。指示は部隊長に任せます」

 

 

全員の顔を見回すと、硬い顔をした数名と首をかしげる数名、あとは普段通り。ここまではっきり分かれるのだから面白いものだ。

 

わたしは「大丈夫ですよ〜」と笑いかけ続ける。

 

 

「今日は政府が運営する施設に行きます。往復にはゲートが使えますので、部隊は一つずつ連れて行きます〜。残りは内番をこなしながら待機です。演練ですよ〜」

 

「あるじ、演練って?」

 

「演習ですね。簡単に言ったら対刀剣男士で行う模擬戦です〜。どこかの本丸の部隊と試合を行い、経験を積む場として政府が作りました。これを利用しない手はないですからね〜」

 

 

ここまで言うときちんと理解したのか、硬い表情もほぐれてくる。

 

 

「ちなみに、演練ではいくら怪我をしても直ぐに治りますので、刀装なんかも気にせず思いっきりやっちゃってくださいね〜。ただし、模擬戦闘であることを忘れませんように。歴史修正主義者、あるいは検非違使を想定した陣形を組み、かつ挑むように」

 

 

この本丸に来てはや四ヶ月。総勢30の刀を集めたのはわたしとあと数名。一つは例外だけれど、新人としてはいい方だ。

 

正直全員を一度に連れて歩いてやりたいくらいだけれど、悪目立ちはしたくないしはぐれたら困る。第一、わたしたちは演練に行くことが目的であって、他はどうでもいいのだ。…と、言い聞かせておく。

 

 

「じゃあ第一部隊の皆さま、準備が出来次第行きます。30分後に門の前に集合ですよ〜」

 

 

各々戦の準備に取り掛かる。腹ごしらえに向かう方や、準備運動をしに道場へ走る方、内番に向かう方。その中で清光さまだけがわたしの元に残り、歩くわたしについてきた。

 

これは、何かを言いたそうな顔。主を疑えば謀反になるという洗脳はどうやらまだ解けないらしい。わたしがそう簡単に刀解するはずがないことをどうしたら伝えられるのだろう。

 

部屋の前まで来てしまって障子に手をかける。それを引く前に肩越しに振り返ると、清光さまは慌てて顔をそらしてしまった。

 

 

「清光さま、わたしはあなたが大好きでとても大事です。みんな大好きで大事なんです。神さまに嘘をつけないことは知っていますでしょ〜?」

 

「…うん。知ってる」

 

「だからね、清光さま。そんなあなたが悲しそうにしていたら、困っていたら、わたしも悲しくなっちゃうんですよ〜」

 

 

ね?と彼の両手を取る。朝の片付けをしてくれたからか冷えているそれは、きゅっと握り返してきた。

 

 

「聞きたいことがあるならどうぞ。知りたいことがあるなら、わたしが知っていることなら教えましょう。疑問と疑いとでは全く違うのですよ〜」

 

 

どうぞ、と部屋に引き入れる。暖房を切っていたから冷え切っていたが、それでも風の通る廊下よりは幾分ましだった。

 

 

「あの…その施設って、いつからあるの?」

 

「作られて百年は経っていますね」

 

「…なんで今まで、使わなかったの?」

 

 

恐る恐る、震える声を抑えるように。予想通りの質問に、わたしは端的に結論だけを笑顔で答えた。

 

 

「行きたくなかったからです」

 

 

理由は幾つかある。けれどそれは行かない理由にはならない。

 

清光さまは唇を噛み締め、少しだけ俯いた。ああ、それでは表情が見えない。そう隠さないで。

 

身を乗り出して顔を覗き込もうとすると、ぎゅっと頭を抱え込まれた。まるで、駄々をこねる子供が人形を抱きしめるように。

 

 

「えっ、ちょっ」

 

「行きたくないなら、行かなくていいよ。練度の低いやつが折れるのが怖いなら、いくらでも弱い敵に向かっていくし俺が守る。嫌なことを俺たちのために我慢しないでよ」

 

「…あの、」

 

 

そっと身じろぐと抱える手が緩んだ。やっとの事で顔を上げると、辛そうに唇を噛む清光さまと目があった。

 

 

「大丈夫です。わたしは我慢も無理もしていませんよ〜。ただ、皆さまに嫌な思いをさせてしまうかもしれなくて。でもごめんなさい、そうも言っていられないんです。だから、ね。わたしは平気です」

 

 

ぽんぽんと背中を優しくさする。ぐすっと鼻を鳴らすとようやく体を離した。

 

目元を袖口で拭う。せっかく綺麗なお顔なのに、赤くなってしまった。

 

 

「じゃあ清光さま。わたし今から着替えますから、そうしたら髪を結ってもらえますか〜?」

 

「…俺が?」

 

「はい。演練の施設では他の審神者が多くいます。ですから、みんながすぐにわたしを見つけられるよう、うんと可愛く結ってください」

 

 

ふふっと微笑むと清光さまもやっと笑ってくれた。よかった。悲しい顔は似合わない。そうさせたのは、わたしなのだけど。

 

 

 

 

*** *** ***

 

 

 

 

準備が整ったと光忠さまが清光さまとわたしを呼びに来た。

 

門の前まで行くとすでに第一部隊の全員と各部隊の隊長が揃っていて、今か今かと待ちわびていた。

 

 

「では行きますが、その前に約束してください。何があっても、模擬合戦場以外で抜刀しないこと。他の本丸の審神者や刀剣と揉め事を起こさないこと。何を言われても、我慢してください。こちらが大人しくしていれば何ともありません。各部隊長は隊員に伝えてから内番に行ってください」

 

 

応、と良い返事。それから、と続ける。

 

 

「国俊さま。最初だけ近侍としてついてきてもらえますか〜?清光さまが試合中、一応誰かについていて欲しいので」

 

「わかった。薬研、第二部隊の連中も任せていいか?」

 

「問題ない。ほとんど兄弟だしな」

 

 

さあ準備は整った。彼らを信じ、強くなるために前に進もう。わたし自身も進まなければならないのだ。

 

順繰りに門を通り、最後に挨拶をして国俊さまと膜の中に入る。

 

皆さまに嫌な思いを?そんなの、わたしがさせなければいい話だったんだから。




いままでまったく触れてこなかった演練です。こっからモブがいっぱい出てくるし、同じ刀剣が会話したりするし、読みにくくなるとは思いますが、どうぞお付き合いください。
次回の更新は2/22を予定しております。

24日追記:もうしわけありません、更新を2週に一度に変更させていただきます。次回の更新は2/29とさせていただきます。

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