夕食終わりの集会は、明日の予定を確認する恒例行事となっていた。
「今日もお疲れ様でした〜。二つも敵の本拠地を倒せるなんて、凄いです。新しく加わった太郎さまも歌仙さまも頑張ってくださったので、えらく進みが良かったですね〜」
「自分で刀が振るえるというのも、そう悪くはありませんね」
「そう言っていただけると助かります〜。では、明日の予定ですが…」
そう言って少しだけ体をどかし、後ろの壁を晒す。部隊編成を一切していない、内番だけの掛札を。
「明日の出陣はお休みとします。わたしが必要なものを買いに出ますので、内番のみとします」
「異議を申し立てる」
「はい、歌仙さま」
「どうして僕が畑なんだ!土仕事なんて雅じゃない!」
「騒ぐ方がみっともないですよ〜。それに、ここに来た方々には一度、すべての内番をこなしていただきます。それからわたしが見て得意であろう仕事を中心に内番を決めていきます。何か異論は?」
うぐっと立てた足を元に戻した。まだこの本丸には馬がいないから、馬当番はない。一番嫌がりそうな馬当番を先にやらせたかったのだけど仕方がない。まあ、これも仕事のうちということで。給料をきちんと支払うしね。
「あ、料理番は暫く平野さまと清光さまで固定です。そのうち誰かを見ていただきますから、それまではわたしの手伝いだけで頑張ってくださいね〜」
「ま、他の奴らは秋田と青江を除いてまだ箸ちゃんと使えないしね」
「お役に立てるのでしたら出来る限りの事をいたします」
「まあ気負いすぎないでいいですからね〜」
そんなわけで近侍も清光さまにお願いして、全員の了承を得て内番を確定する。今晩の夜番の鳴狐さまと青江さまはすでに任についているし、明日はなんの職にも付かせていないのでいい。
「最後に、国俊さま」
「おう」
「明日のわたしの買い物、付き合ってくれませんか〜?」
「俺でいいのか?」
「国俊さまがいいんですよ〜」
「わかった!」
元気の良い返事に少しだけ安心する。国俊さまを誘ったのには、理由があったからだ。
全員を見回して、渋々ながらも了承した顔も見て、解散を告げる。
今日も無事、誰も失わずに終えることができた。
*** *** ***
昼食の片付けを終え、清光さまに後のことを任せ、わたしは服を着替えに部屋へ戻った。
審神者だからと格好をつけた巫女服も、これから行く街では浮いてしまう。簡素な着物に着替えるも、やっぱりわたしはこれを好きになれないらしい。袴と違って足が擦れるので、どうしたって歩幅が狭くなる。歩きづらいことこの上ない。けれど、この本丸のある時空の街に行くならば、学校の制服を着るにしても逆に目立ってしまう。はあ、参った。現世のデパートならこんなの気にしなくていいのに。
「おーい、準備できたか?」
障子の向こうから呼びかけるのは国俊さまだ。急かされる声に慌てて巾着を掴み取り障子を開けると、縁側に腰掛けた国俊さまがこちらを見上げていた。
「お待たせしました。行きましょ〜」
「おう!」
装備を一番軽くして、刀も懐に隠してくれている。どの時代でも、刀や防具は注目の的になってしまう。特に、一般市民の中では。
「ああ鳴狐さま。今からお休みですか〜?」
コクリと頷きのみが返ってくる。夜番の帰りだから普段肩に乗っているお狐さまもいない。ううむ、あの方は声を聞くのも一苦労だ。
「わたしたちこれから買い物に行きますので、なにかあったら清光さまのところへお願いしますね〜」
再び頷きが返ってくる。これ以上引き留めるのも悪いと思って、「行ってきます」と告げて別れた。
*** *** ***
はじめはよい包丁を買いに刃物屋へ。次に今いる彼らとこれから来る彼らのための食器を揃えるため焼き物屋と箸屋へ。それから裁縫道具を買いに呉服屋へ。国俊さまは目移りさせながらもわたしの後ろを常に同じ距離でついてきていた。
「お嬢さん、針と糸だけでいいのかい?もしよかったら着物も新調したらどうかしら」
「ありがとうございます〜。でも、連れを待たせるわけには…」
「ん?オレは待ってるぜ?どうせだから、一着ぐらい洒落たの持っててもいいんじゃねーか」
粧して見せる相手もいないんですけどね〜。
自分で選んだ道を外れないという道なのに、自分で考えていて笑えてくる。人間として一人で暮らす代わりに刀の彼らと生涯を終えると決めたのに。少しだけ惜しいことをしたなんて思うのは彼らに失礼だ。
「ま、そうですね〜。では、これくらい簡素な普段用と、よそ行き用を見繕っていただけますか?国俊さまも一緒にですよ〜」
*** *** ***
必要なもののついでにわたしの服まで買って、とりあえずひと段落した。
「お疲れじゃないですか?」
「まだまだ行けるぜ!」
「んー、じゃあ、わたしが疲れたので、お茶屋さんに入ってもいいですか〜?」
「あ、そか。そうだよな、わりぃ」
率先して茶屋に入っていく。戸を開けて待っていてくれるのだから、わたし彼氏なんて作らないでも全然平気じゃない。
「ありがとうございます。国俊さまはなにを食べますか?」
「団子!」
「は〜い。では、席を取っておいてください」
国俊さまが店の奥に行き、わたしは店番のお姉さんに注文を伝える。帰りに持って帰るお土産分も忘れずに。
二人分のお茶を団子を受け取り、二人席で足をぶらつかせている国俊さまを見つける。その国俊さまもわたしを見つけると、小走りに寄ってきて、盆を取ってわたしを席まで誘導してくれた。
ふふっ、彼氏なんていらないわ。わたしには十分すぎる現状だもの。
「いただきまーす」
「いただきます」
パクッと一番上の団子を口に入れる。前々からこの店にはお世話になってはいたけど、できたてを食べる機会なんてそうそうない。ほんのりとした甘みが口に広がって、思わず気が抜けた。
国俊さまも気に入ってくれたようで、残りの2つをパクパクと食べていく。一口お茶をすすってからもう一本に手を伸ばした。
「国俊さま」
「んー?」
もぐもぐと口を動かしながら返事をする。そのまま聞いてくださいねと前置きをしてわたしもお茶で一息ついた。
「審神者というのは、刀がどこでどのようにどの順番で来るか、なんて操作はできないんです。こればかりは鍛刀の職人の腕と資材の量と、あとは出陣した時に出会えるかの運だけ。そして、出会える可能性というのも、その刀が強ければ強いほど低いのです」
「ふーん」
「国俊さまと同じ来派の刀である蛍丸と明石国行は、そのなかなか出会えない方に属します。ですから、多分、しばらくは一人部屋になってしまうと思います」
ごっくん、と、最後の団子を飲み込む。そしてお茶も飲み干してしまう。
「ま、そりゃ仕方ねーな。そのうちひょいと出てくるまで待つっきゃねーし。それに部屋はまだ一人だけど、オレは一人じゃねーからさ、大丈夫だぜ?なんたってオレらは大家族だからな!さみしいなんて言ってる暇ないくらい楽しいし、そんな心配すんなよ」
な?なんてわたしの頭を撫でてくる。これじゃあわたしが慰められてるみたいじゃない。
くすくすと笑ってわたしもお茶を飲み干す。包んだお土産が届けられ、店をあとにする。
ああ、わたしはこの方々には敵わないなぁ。審神者になって、本当に良かった。
「国俊さま、荷物ありがとうございます」
「皿は届けてもらうし、着物とちっせーのだけだからそんな重くないし。土産も持つぜ?」
「いえ、わたしも持てますから〜」
てこてこ帰りを待つみんなの元へと歩き出す。今度は肩を並べて。夕日を背負って、我が家へ急ぐ。
ここまで閲覧ありがとうございました!
次回は創作審神者以外の創作キャラが出てきます。このお話に出てくる創作キャラはこの二人のみですが、そしてここまで読んでいただいてて「創作?ふざけんな!」という方はいらっしゃらないとは思いますが、あらかじめご理解いただけますようお願いいたします。(追記8/21:題名を差し替えました)