多くの書類と、デスクが並ぶ執務室で、神宮寺ケイは上機嫌に、先日に起きた災害の後始末を行っていた。
持てる情報網から、情報を逆流しに知ることで、ラステイションにおける犯罪組織へと向いていた
本来、火災を起こしたことになっている工場が、賠償金を支払うはずなのだが、元締めである犯罪組織がラステイションから撤退したことにより、その資金繰りが不透明になっている中、協会が先導したことも大きい。
一時的に見れば大きな出費だが、元から返す算段が明確な出費なのだから、躊躇う必要もない、
悠理という切り札の首輪は、実用性もあれば金銭的価値も大きい。
神宮寺は、悠理が他派閥に情報を横流しすることなど計算の内、この手のやり取りは教祖であり経営者でもある神宮司が一歩先を行く。
確かに、それで悠理の首輪は手放すことになるだろうが、そうなれば、犯罪組織との戦闘で出た被害を四国で平等に支払う義務が発生する。
どちらに転ぼうとも、悠理が齎した戦果に比べれば、この程度必要経費の内だ。
「ただいま……」
執務室へと入ってくる黒髪の少女は、幼いながらも可憐な容姿を持っているが、仏頂面でその美点を台無しにしながら、辺りを見渡した。
「やぁ、御苦労だったね、ユニ。
君の働きもあって、信仰心はここ三年では驚異的とも呼べる数値だ」
「ふん、当然よ、あんな奴がいなくたって、ラステイションは私が守るんだから」
棘のある言い回し、苦笑する神宮寺。
ラステイションの守護女神であるノワールと言い、女神候補生であるユニと言い、高すぎるプライドは神宮寺には理解できなものであれど、上司にあたる二人の意見は無視できないのが困り種だ。
「―――――――あいつは、何処に行ったの?」
「彼なら、プラネテューヌに戻ったよ。
どうやら、女神を一人救出することが来たらしい。
「それって、お姉ちゃん!?」
会いたいと焦がれる姉、その期待を込めた叫びを、静かに首を振った否定した。
「残念ながら、今回救出されたのは、プラネテューヌの女神候補生とのことだ。
やはりというべきか、現状で作られる《シェアクリスタル》では、守護女神を呼び覚ますには足りなかったらしい」
分かりやすく落ち込むユニだが、状況は確実にいい方向へ進んでいるのだ。
正直、神宮寺は女神候補生には期待していない。
幼いゆえに、情緒不安定なユニはもちろんの事、ルウィーの女神候補生など期待する方がどうかしているというレベルだ。
事実、この三年間、攻めに転じることが出来ているのはプラネテューヌだけ、ラステイションも機会を待つために力を溜めてはいるが、その貴重なリソースをユニに背負わせることが出来るかと言われれば、首を横に振るしかない。
それは、今回、救出された、プラネテューヌの女神候補生も同じ。
神宮寺が期待を寄せているのは、見事、救出作戦を成功させた、プラネテューヌの部隊と悠理だ。
神宮寺が四国の指揮を任されるならば、悠理を軸に部隊を編成し、そのサポートとして、女神候補生を着かせるだろう。
「今は、彼らに任せて、ボクたちは、来る時の為に牙を研ぎ澄ませておくべき時だ。
なに、彼なら悪い結果にはならないはずだ」
無意識に付け加えられた、悠理への信頼の言葉は、酷くユニのプライドを傷つけた。
「あんな奴に頼らなくたって、私がお姉ちゃんを助けてみせるわよ!」
激情を露わにして、逃げるように執務室を出ていくユニを、目を丸くして見送る神宮寺は、静まり返った執務してで、バツの悪そうな顔で頭をかいた。
「まったく、難しい年頃だね……」
「すれ違いか……」
プラネテューヌの教会、その奥地であり、プラネテューヌのシェアクリスタルが安置されている場所で、悠理は待ちぼうけを食らっていた。
「すみません、報告では、酷い怪我を負ったということだったので、もう少し時間が掛かると思ったのですが」
申し訳なさそうに謝罪するのは、浮遊する本の上に載った、全長1m程の妖精のような少女。
その正体は、プラネテューヌの教祖であり、初代女神が作りだしたという人工生命体。
悠理が初めてその姿を見たときは、幻想種が当たり前にいる世界なのかと、目を見開いた。
もっとも、この世界には、地球では幻想種として、神秘を宿していた生物も、モンスターとして、その神秘性を奪われ、その存在を大きく劣化させていたことを知ると、士郎と共に死ぬ気で戦った記憶を遠い目で思い出した。
「ネプギアと言ったな、女神とやらがどんな存在なのか知らないが、三年も囚われの身で、いきなり戦えるものなのか?」
「その確認の為です、アイエフさんコンパさんも同行されてますし、バーチャフォレストに出現するモンスターなら危険も少ないでしょう」
「ならばいいが……俺を呼び戻したのは、女神の護衛として、同行しろということか?」
「はい、ネプギアさんには、今後、四国を回ってもらい、各国のゲイムキャラと呼ばれている、大陸を守護する存在に協力を取り付けてもらう予定です。
優先すべきは、女神の救出、彼女らの力がなければ、このゲイム業界の危機を乗り越えることはできません」
イストワールの女神に対する過信とも呼べる、絶大な信頼に、悠理は口を挟まなかった。
実際、悠理一人では四天王を打倒することはできても、この世界を治めることはできな「いのだ。
だからこそ、イストワールの計画に異論はない。
異論はないが、ラステイションで少しだけ見た女神候補生の姿に一抹の不安がよぎる。
「――――――――すまないが、女神が戻ってくるまで、休ませてくれ。
傷こそ、治ったが、体力までは戻ってないんだ」
神宮寺から渡された、《ネプビタミンEX》という、薬は、後遺症の不安すら出るほどに効き目が強く、
体力も、少しは回復したものの前回には程遠く、強行軍でプラネテューヌまで戻ってきた悠理の疲労は濃い。
「わかりました、後ほどお呼びいたします」
疲れを癒すため、与えられた個室へと移動している時、紫色の髪をした少女とすれ違う。
顔色は暗く、肩を落し落ち込んでいるその姿に、一度足を止め振り返るが、特に気に留めることもなく、自室の扉を開く。
そのすれ違いが、プラネテューヌの女神候補生、パープルシスターであるネプギアとの初めての出会いだった。
初めての会合は、お互い全く気付くことなく終わりました。
次回はようやく、対話に持ち込めます(長かった……)
冒頭でユニも登場しましたが、女神候補生と悠理の相性は、それはもう悪いです。
女神信仰が当たりまえのゲイム業界で、女神そっちのけで戦果を挙げ、教祖である神宮寺からもユニ、そっちのけで絶大な信頼をよせられていたら、嫉妬の一つもあるでしょう。
特に、序盤のユニは劣等感に悩まされてますから、嫉妬も一押しです。
ネプギアはともかくとして、ロムとラムに至っては、精神年齢が幼すぎて、どう考えても悠理と仲良くなれる展開が思いつかない。
どうして、この世界に決めてしまったのか……後悔は募るばかりですが、何とかハッピーエンドに持っていきたい所ですね。
では、また次回、さようなら