自室へと戻ってから数時間後、再び、悠理は協会の奥地に通された。
そこには、イストワールとアイエフ、そして、数時間前にすれ違った少女が待っていた。
ラステイションで見た、黒髪の少女と同じ、見た目は人間と変わらない。
だが、悠理の生きてきた世界で、見た目が少女だろうと、それがか弱い存在と定義されていない。
なにせ、少女の形をした、
それを踏まえて尚、悠理は、目の前の少女に失望に似た感情を抱いていた。
表情から伝わる感情は、不安・恐怖・絶望。
これでは、普通のか弱い少女と何ら変わりはしない。
「お待たせしました、こちらが、プラネテューヌの女神候補生のネプギアさんです」
「ネプギアです、よろしくお願いします」
頭を下げるネプギアを見て、アイエフへと視線を向ける。
視線を受けたアイエフの表情は固く、険しいものであり、何処か諦観を思わせる。
「頭を上げてくれ、俺はここに居候させてもらってる身だ」
顔を上げたネプギアの瞳は、やはり不安に揺れ、心ここにあらずという感じだった。
「では、改め今後の計画についてお話しさせてもらいます。
まず、ネプギアさんには、アイエフさん、悠理さんに同行してもらい、各地のゲイムキャラに協力を取り付けてもらいます。
そして、そこからシェアクリスタルを作り出し、残る女神の救出後、その勢いのまま犯罪組織に攻勢を仕掛けます」
「―――――――ッ、はい、頑張ります!」
今にも不安に押しつぶされそうな顔で、ゲイム業界を救う使命はあまりにも重すぎる。
今にも泣きそうな表情をひた隠しに、優等生の顔を張り続けるネプギア。
「イストール、悪いが、俺はここで降りさせてもらう」
驚愕の表情を浮かべる三人を前に、悠理は堂々と宣言した後、静かに踵を返し立ち去った。
「ちょっと、あんた、どういうつもりなのよ!?」
ネプギアとイストワールを置いて、追い駆けてきたアイエフは、乱暴に肩を掴み、強引に立ち止まらせる。
立ち止まりこそしたものの、振り返ることなく、無言を貫く悠理に、裏切られた怒りが込み上げてくる。
短い付き合いだが、その仕事ぶりは聞いており、信用に値する人物だと思っていたこともあり、尚の事、不安に揺れるネプギアの前で、あんなことを言った悠理が許せない。
「それは俺の台詞だ。
あんな少女に、何が出来る?」
「そりゃ、外見は普通の女の子だけど、あの子は女神よ。
私たちじゃ、およびもしない力を持ってる。
あんたが強いのは知ってるけど、それでも、あの子の力は必要不可欠のはずよ!」
そう強く言い切ると、ようやく、悠理は、アイエフに向き合った。
「――――――――――――ッ!」
振り返った悠理の瞳は、思わず後ずさるほどに怒りに満ちていた。
しかし、その理由が分からない。
確かに、今のネプギアは、三年も囚われの身であり、女神化すらできない程に弱っている。
だが、犯罪組織に立ち向かうためには、女神の力を必要不可欠であることは間違いない。
ならば、目の前の男は、いったい何に対して怒りを覚えているのか。
「君は、
怒りの理由は失望、それが言葉にして伝えると、悠理は再び、シェアクリスタルの間の反対方向へと歩き去っていく。
それを、止めることはできない、否、止めることが出来なかったのだ。
悠理に言われるまで、気付かなかった自身の罪が、アイエフに二の足を踏ませる。
女神が敗北した理由、それは敵が単純に強いという点もあるが、それとは別に、
女神が不在の三年間、治安は大きく悪化し、《マジェコン》という犯罪ツールが子供ですら手に入る時代になっている。
アイエフは、その楽をしたいという、人間の弱い心が、犯罪組織を増強させ、女神を弱体化させた事実を、他人事のように考えていた。
客観的に見ても、アイエフ個人は間違ってはいない。
プラネテューヌの諜報員として犯罪組織と戦い続け、その命を懸けて、
だが、自分は悪くないというだけで、人間が作りだした負債を、女神に押し付けることは、果たして正しいのか?
都合のいい時だけ、女神を頼る、民衆。
世界の危機は、女神がどうにかしてくれるという、無責任な信頼。
それは、人間の裏切りから始まったものだというのに、どうして、女神が助けてくれるなどと思うことが出来ようか。
ネプギアは優しく、真面目だからこそ、今の現状は女神が不甲斐ないからだと思っているだろう。
だが、違うのだ、不甲斐ないのは弱い心に負けた人間であり、悪いのは、その裏切りすらも受け入れてもらえると思っている傲慢な信頼だ。
それが、自身に降りかかったものならば、間違いなく知ったことかと、人間を見捨てるだろう。
それが、人間が選んだ道なのだろうと
それこそが、人間の末路なのだろうと
だからこそ、悠理を連れ戻すことが出来ず、戻ってきたアイエフは、落ち込んでいるネプギアを見て酷く心が痛んだ。
裏切った人間を未だに助けようとしてくれる優しい少女に、どうしてこんな顔をさせているのか。
ここにきて、悠理の気持ちが痛い程に理解できた。
きっと許せなかったのだろう、優しい少女に降りかかる理不尽な災悪が、それを当然と見捨てる、
おのれの罪は理解した、ならば、やる事は決まっている。
犯した罪に、課される罰を履行し禊払わなければ、この少女に合わせる顔なんて、あるわけがない。
「イストワール様、私は、彼に同行します」
その言葉に驚きふためく、イストワールとネプギアだが、決意は変わらない。
今こそ、女神に頼りきりだった、弱い自分を抜け出すために。
「ネプギア、必ず、私たちがこの世界を救って見せる。
そのとき、改めて、謝らせてちょうだい。
それで、やっと、
女神化すらできなくなった、自分に失望したのだろうと、勘違いしている少女に優しく語りかける。
弱い
必ず、その弱さを克服し、護られる存在ではなく支えることが出来る存在になって帰ってくる、その決意を胸に、悠理の後を追う。
この世界の人間ではない部外者に、これ以上格好つけさせて堪るものかと、その足は自然と駆け出していた。
話が! 全然! 進まない!
そして、相変わらずヒロイン(候補筆頭)なのに空気なネプギアです
今回はアイエフ視点が主でしたが、次はネプギア視点。
ちなみに、悠理が出会った究極生命体は黒のお姫様です。
士郎亡き後、北の大地で偶然出会い、悠理の正体を一目で見抜き、面白いからと見逃されました。
原作では、その力量は明記されていませんが、吸血鬼の王である以上、生半可なものではないでしょうし、そもそも死徒27祖に組する死徒は、悠理では如何なる手を用いても勝つことは不可能。
この作品のラスボスである犯罪神より強い、裏ボス。
まぁ、今後登場する予定はないので、この辺で。
ではまた次回、さようなら