「ネプギア、必ず、私たちがこの世界を救って見せる。
そのとき、改めて、謝らせてちょうだい。
それで、やっと、
そう言い残し、立ち去っていくアイエフを、ネプギアは困惑した目で見送った。
世界を救う役目を負っているのは女神である自分、謝らなければいけないのは、女神化すらできず、怖がっている自分なのだ。
どうして、助けられたのが姉ではなく自分なのか、姉であるネプテューヌなら、一度負けたくらいで怯えることなく立ち向かえるのに、どうして。
底のない自己嫌悪のループに立ち尽くすネプギアは、アイエフの言葉の意味を理解することが出来ず、とぼとぼと自室に引き返すことしかできなかった。
その途中で、遠目に、悠理の姿を見た。
女神四人がかりですら、手も足も出なかった
死神の強さを直接目の当たりにしたネプギアは、正直、信じられないという感情が強い。
三年前ですら、あれほどの強い死神が、この三年の間、
そんな相手に、女神でもない人間が勝てる道理がない。
しかし、もしも、それが本当ならば、戦わなくていいのかもしれない。
ふとした瞬間に湧いて出た感情を、首を振って否定する。
戦わなければ、不安でも怖くても、絶望的とすら言えるこの状況でも、ゲイムギョウ界を護る為に。
その強迫観念に突き動かされ、気付けば、悠理の元へと駆けだしていた。
「あの、ユーリさん……?」
「―――――ん、あぁ、君か」
「えっと、何をしているんですか?」
プラネテューヌを端まで見渡せる高所で、鷹のように鋭い目つきをしながら、遠くを見つめていた悠理。
周りを見渡しても、悠理を追いかけていったはずのアイエフもいない。
「なに、イストワールからの情報を待っている間、街を見渡していたんだ。
これでも目には自信があるからな、悪さをしようとしている輩がいたら捕まえるつもりだったが、やはり、プラネテューヌは、まだ大丈夫のようだな」
それは、数㎞離れた標的でさえ正確無比に射抜くことが出来るという自信の表れ。
事実、5㎞圏内であれば、赤き猟犬は、何処に逃げようとも必ず捕まえることが出来るのだ。
――――――――――――本当に、この人なら……
再び湧いてくる弱音を、必死にふり払う。
―――――――――――戦わなければ、戦わなければ、戦わなければ……!
自己暗示をかけるように、課せられた使命を繰り返す。
怯える心を隠すように、見たくないものを見ないで済むように。
「―――――――――私も、連れて行ってくれませんか!
絶対に、足手まといにはなりません! いまは、女神にもなれませんけど、すぐに戦えるようになりますから、お願いします!」
頭を下げ、必死に懇願する。
荷物持ちでもいい、盾替わりに使われても構わない。
この命ひとつで、世界が救われるのならば――――――――――――――――――この恐怖から逃げだせるのならば。
しかし、帰ってきたのは冷たい言葉でも、拒絶でもなく、温かな手が下げた頭に添えられただけだった。
「すまないな、どうやら言い方が悪かったようだな。
俺は、君が弱いから、イストワールの提案を降りたわけじゃない。
君が無理をする必要はない、戦えないのなら戦わなくてもいい。
君の感じている恐怖は、誰もが持ち合わせている感情だ、決して恥じるものではない」
その言葉に、空意地を張っていた心が、折れそうになる。
ぽたぽたと、コンクリートに染みを作る涙は、弱い自分を現していて、止めなければと思っていても、止まることはなかった。
「でも、私は、女神で……! 強くならなくちゃ、いけないのに! 私が弱いばっかりに、この世界は滅茶苦茶になって、アイエフさんも、離れていって……! 私は、私は……!」
嗚咽を交えながら、吐き出される感情は、押し込めていた弱音。
助けて欲しいのに、その立場故に、助けを求めることが出来ず、空元気を通してきた。
何かの間違いで、一人だけ救われてしまったが故に、命を懸けたアイエフの偉業を無駄にしないように、前を向くしかなかった。
「私は、どうすればいいんですか! 私が負けちゃったら、諦めちゃったら、この世界は終わっちゃうんですよ!だったら、戦うしかないじゃないですか! 不安でも怖くても、勝てないって分かってても! 私が、女神の私が戦えなかったら、私の居場所はどこにあるんですか……」
悠理に掴みかかり、泣きながら、どうしようもない理不尽を嘆く。
本当は、戦いたくなんてない。
世界の危機なんて、重過ぎる。
最初に裏切ったのは
だけど、その為に存在する女神が、戦えなかったら、誰が、必要としてくれるというのか。
頼りになる姉はもういない、こんな絶望的な状況に一人で戦えるほど強くはない。
だったら、世界を救う可能性のある悠理に、この命を使って欲しい。
もう、何も考えたくはない。
欲しい言葉は、ただ一言。
「大丈夫だ、その為に俺やアイエフがいるんだから」
違う、欲しい言葉はそんな優しい言葉じゃない。
ただ一言、戦えと命じて欲しかった。
責任なんて負いたくない、ただ命じられるがまま、人形のように使い捨てて欲しかったのに
「―――――――不安なんです……また、何もできなくて、アイエフさんたちの頑張りを無駄にしちゃうことが……
―――――――怖いんです……戦えなくて、役に立たないから、見捨てられることが……」
それでも、許して欲しかったのだ。
弱さを、不安を、恐怖を、絶望を、嘆きを。
都合の良いことを言っている自覚はある。
戦うことのできない女神に存在意義なんてない。
だから、無理を通してきた、弱い心を押し隠し、必要とされる女神を演じてきた。
だが、いたのだ、女神としてではない、ネプギアという少女を見てくれる人達が。
「――――――――お願い、助けて……」
「あぁ、任せておけ」
その言葉に、心を占めていた重苦しい闇に光がさした。
決壊した感情を抑えることなく、悠理の胸に抱かれ、涙を流し続ける。
あらゆるしがらみを忘れた、年相応の少女の慟哭は、静かなプラネテューヌに響き渡るのだった。
んー、書きたいことを書いているだけなのに、重過ぎる……
これがあのキャラ萌えでプレイできる、ネプテューヌの二次創作でいいものなのか。
しかし、場面が場面だけにしばらくシリアスが続くと思われます。
ネプギアの可愛いところが見たい、とか、女の子がわいわいやってるところが見たいとかいう人は、今のうちに切った方がいいかもしれませんね。
どうやら、萌えより燃えの比率が高いようです。
ではまた次回、さようなら