剣の丘を目指す者   作:未来

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訪れた試練

「―――――――――それで、どうしてここにネプギアがいるのかしら?」

 

ギロリ、と擬音が付きそうなほど、きつい目つきで悠理を睨むアイエフ。

 

「それはこちらの台詞だ、これから戦いに行くというのに、戦闘員ですらない彼女をどうして連れてきている」

 

そんな視線を意にもせず、反撃されたアイエフは、言葉を詰まらせる。

 

アイエフの幼馴染である、ぽわぽわと緩い雰囲気の少女は、話の焦点に上がってもマイペースに、悠理の背中に隠れているネプギアに話しかけている。

 

「コンパはいいのよ、私の幼馴染だし、それに一応看護婦だから、いざっていう時には治療を任せられるんだから」

 

「一応じゃなくて、現職の看護婦ですよ~、ユーリさん、よろしくお願いするです~」

 

「コンパさんは、お料理も上手ですよ」

 

「どうして君まで、フォローに回ってるんだ」

 

皮肉も嫌味も論理も通用しない、コンパは、悠理にとってやりづらいことこの上ない相手だ。

 

なにより、持っている巨大な注射器には、本能が危機を感じて止まない。

 

あの注射器に刺されたモンスターは、全身から出血し、もがき苦しんだ末に死ぬという、あの笑顔で行うにしてはえぐすぎる殺し方に、悠理でさえも引いている。

 

もっとも、弱いモンスターに後れを取らない程度には、立ち回りが出来るということは悪い話ではない。

 

悠理も応急処置の心得くらいはあるが、知識にも限界がある。

 

護身が出来る衛生兵の有用性は言うまでもないだろう。

 

「それで、あんたは、その子に戦わせないんじゃなかったのかしら?」

 

話の焦点がネプギアに移ると、ビクリと反応し、再び悠理の背中に隠れてしまう。

 

当然、アイエフの言うとおり、ネプギアを連れてくるつもりなど毛頭なかったのだが、不安定なネプギアを教会で一人残していくには、あまりにも危険すぎた。

 

「そのつもりだったんだがな……

君が、フォローすると踏んだが、まさか言葉も足りないまま、彼女を置いていき、あそこまで追い詰めるとは予想外だったんだ」

 

「――――――――――はい?」

 

悠理の背中から、少しだけ顔だしているネプギアに顔を向けた途端、隠れるように引っ込んでしまうネプギアに、血の気が引いていくアイエフ。

 

彼女にしてみれば、それはもう、格好いい台詞を言い残し、ネプギアを安心させるつもりだったのだ。

 

「ち、違うのよ、ネプギア! あれは、あんたを責めるつもりなんてなかったの!

ただ、こんな状況を、無責任にあんたに押し付けたくなかったからで!」

 

それが、まさか、言葉の意味が伝わらず、おいて行かれたと思われているだなんて、予想外にもほどがある。

 

「ほ、ほんとですか……? 私、いらない子じゃ、ありませんか……?」

 

アイエフの様子を窺うように、少しだけ顔を出して、尋ねる。

 

悠理から、ネプギアの勘違いだということは聞かされているものの、ネプギアの不安定な精神状況では、ほんの少しの不確定要素でも、不安にさせてしまう。

 

「なにいってんのよ、私たち人間が作りだしたこの状況を、一方的にあんたに押し付けようとした自分が許せなかっただけよ。

だから、私たちだけで、この問題を解決して、あんたたちに謝りたかったの。

ごめんね、まさか、勘違いされるだなんて思わなかったわ」

 

「――――――――うぅ、アイエフさん……!」

 

悠理の背中を飛び出し、アイエフに抱きつくネプギアを、優しく抱きとめる。

 

泣きながら、謝り続けるネプギアの頭を撫でながら、悠理へと視線を向けた。

 

――――――――――今の、彼女を一人で居させるのは危険だ。

 

声を出さず、口だけを動かし、ネプギアに気付かれないように読唇術を利用し会話をする。

 

弊害になりそうなコンパも、ネプギアに抱きついて、二人の顔を見ることはできない。

 

――――――――――どうやら、そのようね……

 

弱音を吐き出し、張りつめていた状況こそ改善されたものの、その性格故に、一人で居れば、あれこれと悩み再び不安に押しつぶされるだろう。

 

ならば、多少の危険はあるだろうが、旅に同行させ、余計なことを考えさせないようにした方が、よりベターだ。

 

―――――――――少なくとも、護身程度ならできるだろう、君がフォローしてくれれば敵は俺が片づける。

 

―――――――――分った、ネプギアの事、頼んだわよ、ユーリ。

 

ネプギアが泣き止むと、一行は、バーチャフォレストの奥地へと進んでいく。

 

目的は、イストワールから齎された情報の基、プラネテューヌのゲイムキャラの捜索。

 

そのかたわら、深い森の中に潜む、怪植物や、凶暴な魔物、襲い来るモンスターたちを、次々に蹴散らしていく。

 

前衛にアイエフ、中衛に悠理とコンパ、殿をネプギアが勤めているが、一番モンスターとの接触が多いはずのアイエフでさえ、刃を交えることは少なかった。

 

「す、すごいです……」

 

「強いって聞いてたけど、ここまでとはね」

 

「女神さんたちみたいです~」

 

上から、ネプギア、アイエフ、コンパの順に、その圧倒的力に感嘆を漏らす。

 

モンスターがその姿を見せた瞬間、眉間を貫く矢。

 

悠理からは見えないはずの、死角から襲いかかるモンスターでさえ、隠せてはいない殺気を感知し、寸分無く射抜いていく。

 

それは、バーチャフォレストの危険種、フェンリスヴォルフと呼ばれる、巨大な狼でさえ例外ではない。

 

一射目こそ、俊敏な動きで躱したものの、二射目は、脚を貫き動きを止めると、間髪入れずの三射目は眉間を貫き絶命させる。

 

悠理の本気は、直接戦ったことのある死神(マジック・ザ・ハード)しか知らないが、その死神でさえ、悠理の引き出し全てを知っているわけではないのだ。

 

それでも、今の悠理が、力の半分すら使っていないことはネプギア達にも見て取れる。

 

そこでようやく理解した。

 

悠理は、女神に匹敵あるいは、超える存在なのだということを。

 

その事実に、アイエフとコンパは希望を見出すが、ネプギアの心には希望と同時に陰りもあった。

 

今のネプギアが、依存とすら言えるレベルで信頼しているのは悠理だ。

 

だが、それとは別に、悠理の強すぎる力に不安もある。

 

ネプギアとて、候補生とはいえ女神の端くれ、アイエフやコンパよりも、その力の底しれなさは理解できている。

 

だからこそ思うのだ、女神さえ超える程に強くなれる人間がいるのなら、女神は必要ないのではないかと。

 

思い悩むネプギアを見て、悠理はため息を漏らす。

 

こうなるだろうと予想していたからこそ、ネプギアを連れてきたくなかったのだ。

 

今はいい、誰にでも弱気なる時期はある。

 

だが、いつまでも悠理がネプギアの傍にいるわけではない。

 

そして、人間の果てなき欲は、今のゲイムギョウ界の様に身を滅ぼすこともあれば、世界の危機さえ跳ね除けてしまう進化を遂げることもある。

 

事実、現在ですら、ラステイションの最先端技術を集めれば、女神を抑えることすら可能だ。

 

このまま進化を続ければ、女神を凌ぐ物さえ作りだせるだろう。

 

いつか、必ず直面する問題。

 

個人でこそ女神は人間を超える存在ではあるが、いずれ、人間という集団は女神を超えるだろう。

 

その時、女神は人間を治めることが出来るのか。

 

今の、悠理とネプギアは、その縮図だ。

 

このまま悠理(にんげん)頼る(まける)のか、それとも、敗北を糧に立ちあがり、更なる高みへと登るのか。

 

その決断を下すのはネプギアだ、悠理もアイエフも誰の助けもなく、一人で決断しなければならないこと。

 

その為に、悠理になにが出来るのか、何を成すべきなのか。

 

深まる思案の中、開けた場所に辿り着いた。

 

「あそこじゃない? なんかそれっぽいものがあるわ!」

 

「はい! あれ? だれかいるです?」

 

ついに見つけたゲイムキャラだが、既に犯罪組織の手が及んでおり、今すぐにでも破壊されようとしていた。

 

この世界に残された希望、その破壊を止めようと、ネプギアが声を上げるより早く、矢は放たれていた。

 

「何か、壊そうとしているような……

ダ、ダメ、やめて……あれ?」

 

「あぁ、邪魔するんじゃ、うぎゃあぁぁああああああッ!」

 

振り向いた瞬間に迫る矢に、悲鳴をあげる女。

 

手に持った武器は弾き飛ばされ、残りの矢は、対象を一切傷つけることなく、服だけを貫き、木に縫い付けた。

 

「な、なななななななな、なんだ、てめぇら!

いきなりぶっぱなしてくるなんて、どういう了見だ、あぁ!?」

 

振り向いた瞬間に木に縫い付けられた女は、突然の事態に混乱し、取り乱す。

 

矢に縫いとめられた服を破けば、拘束も解けるだろうが、次に縫い付けられるのは手足だ。

 

黒塗りの弓を持った悠理は、視線で、混乱のまま突っかかってくる女を黙らせた。

 

「どうやら、無事のようだな」

 

「ホント、危なかったわ……

あんた、犯罪組織の一味ね?」

 

ゲイムキャラが無事だということが分かると、壊そうとしていた犯罪組織の一味であろう女へと向きあう。

 

「へ、ばれちゃぁ、しょうがねぇ!

犯罪組織マジェコンヌが誇るマジパネェ構成員、リンダ様だぁ!

分かったら、さっさとこの矢抜きやがれ!」

 

頭の悪そうなチンピラ発言で、名乗りを上げるリンダは、それはもう、三下のやられ役にしか見えず、、木に縫い付けられた状態で啖呵を切る様は、一周回って哀れですらある。

 

「構成員? てことは下っ端?」

 

「下っ端ですね」

 

「下っ端さんです」

 

「ふむ、下っ端が向けられるということは、さほど重要視はされていないということか」

 

「下っ端、下っ端、うるせぇンだよ!」

 

完全に見下されたリンダは、生与奪権を握らっていることすら忘れ、縫い付けられている服を力づくで破き、拳を振り上げた。

 

その動きは、ただの下っ端とは思えない俊敏さ。

 

信仰(シェア)を独占している犯罪組織はその恩恵を受け、大きく力を伸ばしている。

 

「うらぁぁあああッ! まずは、てめぇからだ!」

 

その暴力は、無防備なネプギアへと向けられるが、その暴力は届くことはない。

 

勢いのまま突貫した体の動きを、そのまま利用し、一本背負いで地面に叩きつけ、肺の空気をすべて吐き出させた。

 

全身を強く打ちつけられたリンダは、酸素を求め喘ぎ、投げ飛ばした悠理を見た。

 

「な、なんだ、てめぇは……!」

 

「エミヤ、犯罪組織の者ならば知っている名だろう」

 

その名を聞いた途端、リンダの目は見開かれた。

 

最近になって、犯罪組織が上げるブラックリストのトップに掲げられた名。

 

最強の幹部である、死神を打倒した、忌むべき英雄の名。

 

「てめぇ、が、《エミヤ》だと……!」

 

込み上げていた怒りは喪失し、恐怖がわき出る。

 

「殺しはしない、だが、覚えておくといい。

二度はない、次に、俺の前に出てくるときは、死を覚悟しておけ」

 

その冷え切った瞳は、恐怖を抑えきれず、痛む体に鞭を打ち、敗走を強制する。

 

最早、興味もないとばかりに、目的のものへと視線を切り替えた。

 

「どうして、逃がしちゃうのよ。

いくら、下っ端でも、情報源になるでしょうに」

 

「しったぱが持っている情報などたかが知れいている。

それに、ただ逃がしたわけではない」

 

アイエフの追及に対し、懐から取り出した受信機は、少しずつこの場から離れていく反応を示していた。

 

「あんただけは、敵に回したくないわ……」

 

あまりのそつのなさに、半笑いになる。

 

味方に付ければこれ以上、頼もしい男はいないだろう。

 

『助かりました、異世界の戦士よ』

 

リンダが、壊そうとしていた石碑が薄く発光し声を発した。

 

「言葉が通じるなら話は早い、その力、俺たちに貸してくれないか?」

 

『―――――――――――お断りします』

 

「どうしてですか!?」

 

にべもなく断られるが、当然のことながら、ここで引くわけにもいかない。

 

最後の希望に食い下がる、ネプギアに、残酷な言葉を告げた。

 

『女神候補生よ、今のあなたに、力を託す気にはなれません。

覚悟を決めたとき、もう一度、訪れなさい』

 

その言葉を言い放つと、発光が収まり、再び眠りに就くゲイムキャラ。

 

静まり返る広間に、泣き崩れるネプギアの声だけが響く。

 

アイエフもコンパも、絶望に膝をつく、ネプギアに掛けられること言葉を選べない。

 

先送りにしていた試練、それがこんなにも早く訪れた以上、悠理がやるべきことは決まっていた。

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)、彼の騎士王が抜いたとされる、選定の剣が、失意に沈むネプギアの前に突き刺さる。

 

「選べ、ネプギア。

このまま、敗北を認め、女神ではなく少女へとなり下がるもいい。

その時は、全て俺が終わらせてやろう。

だが、敗北を悔やみ、未だ立ち上がる勇気があるのならば、剣を抜け。

俺にその覚悟を見せてみろ」

 

 

 




この小説を書くにあたって、いろいろ調べていましたが、あの下っ端の名前がリンダだということに初めて気が付きました。

それは、まぁ、さておき、少しだけ原作と乖離しました今回。

原作では、下っ端にやられて、ネプギアが覚醒するシーンなのですが、悠理がいる以上負けませんし、ゲイムキャラの破壊なんて無理です。

それでも、今後、下っ端を登場させ続けるための展開。

基本的に原作沿いの為、ちょくちょくオリジナル展開を挟みますが、大きくかい離することはないと思われます(たぶん)

次回は、ネプギア覚醒の回。

それでは、また次回、さようなら
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