『女神候補生よ、今のあなたに、力を託す気にはなれません。
覚悟を決めたとき、もう一度、訪れなさい』
その言葉を聞いた瞬間、ネプギアは膝から崩れ落ちた。
女神候補生、その肩書が何処までもネプギアを苦しめる。
女神としては戦えないけれど、少しでも悠理の助けになればと思い同行したというのに、その肩書のせいで、悠理の足を引っ張ってしまった。
その事実は、不安定なネプギアを絶望に突き落とすには十分すぎる。
多くを求めてはいなかった、悠理が傍にいて、ほんの少しでも必要としてくれるのならばそれでよかった。
だが、現実は、必要とされるどころか、逆に足を引っ張ってしまう。
―――――――――――
泣き止まなければ、また、悠理を困らせてしまう。
今度こそ、捨てられてしまう。
そう、思っていても立ち上がることのできないネプギアの前に、黄金の剣が突き刺さった。
「選べ、ネプギア。
このまま、敗北を認め、女神ではなく少女へとなり下がるもいい。
その時は、全て俺が終わらせてやろう。
だが、敗北を悔やみ、未だ立ち上がる勇気があるのならば、剣を抜け。
俺にその覚悟を見せてみろ」
厳しくも優しい瞳が、ネプギアに選択を迫った。
ただ必要とされたいが故に、優等生を演じる為に周囲に優しさを振りまいていた、ネプギアとは違う、本当にその人の事を想って、例え嫌われることになっても、叱りつける、強くて本当に優しい人。
その人が言うのだ、例え、ネプギアがこのまま立ち上がることが出来なかったとしても、必ず、世界を救い、ネプギアを苦しめる肩書から解放してくれるだろう。
ならば、もういいじゃないかと、心が告げる。
全てを捨て、女神ではなく普通の女の子として生きる。
こんなに苦しくて、悲しくて、辛いのに、女神として生きるのならば、この先何度も訪れる苦難の一つでしかない。
そんな苦難に満ちた人生を、どうして好き好んで生きなければならないのか。
だから、このまま助けを求めればいい、きっと、その先には、苦しみから解放された世界が待っているのだから。
もう、戦いたくなんてないのだから。
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――――――――――――――――――ホントウに?
声が聞こえた。
何処から聞こえたのか分からない、内に語りかける声。
それは、目の前の剣から発せられたものなのだと、何の理屈もなく、そう思った。
光り輝く黄金に引き寄せられるように、手を伸ばす。
その剣に触れた瞬間、炎に囲まれた、剣が墓標のように突き刺さっている丘を見た。
――――――――――――なんて、悲しい景色
その場所にどんな意味があるのか分からない。
しかし、その景色を見ていると、心が締め付けられるように悲しみが溢れてくる。
不意に、確信めいたものがあった。
何気のない直感、じゃんけんで、相手が次にグーを出すだろうと思って、それが本当だった時、それが当たり前のように思う時があった。
それと同じ感覚、この場所は、悠理が目指している場所なのだと、そう確信した。
論理的なモノなんて何もない、そう結論付ける、理屈も理由も何一つない。
そもそも、そんなものを持てる程、悠理の事を知っているわけではない。
だが、それでも、この場所は悠理の理想なのだと、確信できる。
―――――――――――どうして、こんな、孤独で何もない場所を目指すの?
そう思うと、悲しさがこみ上げてきた。
次に、悔しさがこみ上げてくる。
そして、それは怒りに変わった。
―――――――――――――悠理があれほど強いのは、こんな場所を目指しているから。
この場所に辿り着くには、幾つの修羅場と地獄を巡るのだろうか、想像しただけで心が折れる。
―――――――――――――悠理が辿る道のりは、多くの苦難が待ち受けている道だろう。
だとしたら、たった一度の敗北で、こんな惨めな姿を晒している自分が、彼の役に立つなんて、どうして、そんな傲慢なことを想えたのか恥ずかしくてたまらない。
―――――――――――――悠理が辿り着く場所は、孤独と無だけある自己満足の場所でしかない。
そんな場所に行こうとしている彼へ、そんな場所に行こうとしている彼を止めることが出来ない自分へ、意味もなく怒りが込み上げてくる。
これはただの癇癪、助けられたから、好きになったからとかそんな綺麗な感情じゃない。
あまりにも愚かな彼を見て、そんな力を持ちながら、間違った方向へと進む彼に一言言ってやりたい、それだけの事。
視界が元に戻る、目の前には黄金の剣、見上げると、静かな瞳で見下ろす悠理。
さっきの光景がなんだったのか分からない。
だが、諦めるなら諦めてしまえばいいと、それをただ受け入れるつもりでいる悠理の瞳に、ほんの少し残ったプライドに火が付いた。
黄金に輝く剣の柄持ち、立ち上がる。
不安は消えない、恐怖は今もある、絶望なんてこれから先何度もすることになる。
それでも、
「君がこの上なく絶望を感じているこの状況は、君が女神である限り、この先何度も訪れるだろう。
それを理解したうえで、その選択に後悔はないか?」
「――――――――――はい!」
嘘だと、啖呵を切ったすぐにそう思う。
今立ち上がれたのは、一時の感情の暴走だ。
きっとこの選択を、将来、何度も後悔することになるだろう。
女神ではなく、普通の女の子として、戦いを忘れ、生を謳歌できれば、どれだけ楽しいだろうと後悔する日は必ずやってくる。
―――――――――――――――――――――それでも
「では、来るがいい。
君の覚悟を、見せてみろ」
「やぁぁぁああああああッ!」
手に持った剣で、悠理へと斬りかかる。
火花を散らす剣戟、黄金の剣を受け止めるのは、武骨な黒白の夫婦剣。
その剣を見て、また怒りがこみ上げる。
「ミラージュダンス―――――ッ!」
今、持てる、全力の剣技。
全力の踏込で肉薄すると同時に、左右への切り払い、その勢いを殺さぬままの回転切り。
手に持った剣は、
ネプギアはこの剣に如何なる由来があるのか知らないが、この剣に秘めた力は、並々ならぬものではないということはわかる。
その剣で振るう、必殺の剣技は、ネプギアが本気である証。
だが、その剣技は、容易く受け流され、締めの回転切りを凌がれ、隙だらけのネプギアは、悠理の当身に吹き飛ばされた。
「どうした、その程度の力と覚悟で、この先待ち受ける苦難を打ち破れると思っているのか!」
―――――――――――悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!
どうして、あんな場所に好き好んで行きたがる愚者に、そんなことを言われなければならないのか。
その力があればもっと沢山の事が出来る。
それだけの力があれば、この世界を救うことが出来るのに。
―――――――――――私が望んだすべてを手に入れることが出来るのに!
「貴方に、何が分かるんですか!
分かってますよ、このままじゃダメだってことくらい!」
立ち上がり、再び斬りかかるが容易くあしらわれてしまう。
息は絶え絶え、足はもつれ、歩くことさえままならない。
だが、それでも、挑み続けることは止めない。
「私だって、護れるものなら護りたいですよ!
貴方のように強くなれるのなら強くなりたいですよ!
でも、しょうがないじゃないですか!
私は弱くて、臆病で、今だって、もう、負けたいって思っちゃうくらい情けないのに!
そんな、私になにが出来るっていうんですか!」
鍔迫り合いになったネプギアは、胸に抱いた怒りをぶちまける。
それは、護りたいものを護ることが出来る、悠理への嫉妬。
「君は泣き言を言うために、剣を執ったのか?」
しかし、それを知ったことかと、押し返す。
立てぬのならば、座っていろと、弱者の言い分など知ったことかと一蹴する。
目から涙が溢れる。
こんなに強く想っているのに、立ち上がることが出来ない弱さに、悔しさと情けなさから涙が止まらない。
「俺は覚悟を見せろと言ったんだ。
それが出来ないのであれば、大人しく待っていろ。
この世界は俺が救ってやる」
なんて頼もしい言葉なのだろう、彼に任せれば間違いなくこの世界は救われる。
立てば、この先幾つもの苦しみの末、後悔するだろう。
不安は消えない、恐怖は今もある、絶望なんてこれから先何度もすることになる。
―――――――――――――――――――それでも、この人にだけは、負けたくない!
今、負けを認めてしまったら絶対に後悔する。
その想いの強さは、赤き死神への恐怖に打ち勝った。
「プロセッサユニット装着!」
ネプギアの体が光に包まれる。
白いレオタードに衣装を変え、重力から解放された
手に持った黄金の剣は白き
瞳には強き意志と、
「これが、私の覚悟です!」
変身前とは違う、爆発的な推進力のまま、悠理へと斬りかかった。
女神の武器は、その元になった武器によってその性能が変わる。
元となった武器は、Bランクの宝具である、勝利すべき黄金の剣。
その膨大な神秘が込められた剣を基にしたM.P.B.Lの一撃は、悠理が持っていた夫婦剣を弾き飛ばした。
「――――――――ック!」
「まだです!」
重力から解放されたネプギアは、三次元の動きで悠理を攪乱し、上空から、光弾を放つ。
三次元の動きに加え、近距離と中距離での戦闘をこなすネプギアは、確かに戦いづらい相手だが、それも相性があった。
「――――きゃぁ!」
光弾を打消し、迫る矢は、ネプギアの優勢を簡単に覆す。
「相手が悪かったな、俺を相手にその距離は狙ってくれと言っているようなものだ」
縦横無尽に飛び回るネプギアだが、まるで動きを読んでいるかのように、放たれる矢は回避が難しい。
弾いたはずの夫婦剣は既に、悠理の手元にあり、三次元の動きに順応した悠理を接近戦で打ち負かすには、技術の差がありすぎる。
ならば、出来ることは一つだけ。
出し惜しみはしない、持てる力の全てを持って、この覚悟の強さを示す。
「M.P.B.L最大出力――――――――!」
爆発的に増幅していく光は、元となった勝利すべき約束の剣の力も相乗し、飽和した光はネプギアをも包み込むほどに輝きを増していく。
躱す事なんて許さない、持てるすべての力を収束した光は、広場ごと悠理を吹き飛ばすには十分すぎる威力。
「ま、まって、スットプ! そんなもんぶっ放したら私たちまで死んじゃうでしょうが!」
その輝きに恐怖を感じたアイエフは、静止するように声を掛けるが、極限まで集中しているネプギアには届かない。
「これが私の覚悟の証です!」
そして、引き金は引かれた。
極大の光線は、神話に登場する神罰そのもの。
女神に不届きを働いた罪人に、天の裁きを下す。
「その覚悟、確かに見届けた」
しかし、迎え撃つは神をも恐れない最強の神秘殺し。
二本目の、勝利すべき黄金の剣を投影した悠理は、その剣を構え光を収束させる。
「―――勝利すべき黄金の剣」
ぶつかり合う光と光、その衝撃の余波は、まるで嵐のように森を荒らす。
その勢いは完全に拮抗し、完全なまでに相殺された。
全力を振り絞った、ネプギアはもう飛ぶだけの力もなく、重力に引かれ墜ちていく。
「頑張ったな、ネプギア」
「―――――ユー、リ、さん……」
悠理に受け止められたネプギアは、最後に悠理の名を呟くと、女神化が解除され、そのまま眠りに就く。
その雄姿を見届けた、ゲイムキャラは再び発行し口を開いた。
『女神候補生よ、見事でしたよ。
その覚悟を忘れることがなければ、どんな苦行でも乗り越えられるでしょう。
貴女に、私の力を託します』
紫色の光がネプギアに宿り、石碑は沈黙する。
恐怖に怯えていた少女は、この日、間違いなく一歩を踏み出した。
強い覚悟を胸に、少女を中心とした物語は動き始めたのだった。
女神の武器が元の武器によって変わるとかは、オリジナル設定ですが、ゲームとかでは、武器のステータスが上がれば、女神化しても、そのステータスは引き継いでるのであながち間違いではないかと。
無印でも伝説の武器云々のイベントがありましたが、女神化した時には変化してませんでしたし。
次回で、原作の第一章が終わりです。
第二章も、オリジナル混ぜながら、原作沿いに進めていきます。
では、また次回、さようなら