剣の丘を目指す者   作:未来

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残してきた未練

「成程、そんなことがあったのか」

 

リビートリゾートで起きた、一連の流れを、悠理は、ラステイションの郊外で聞いていた。

 

その原因は、言わずもがな、この国の女神候補生であるユニである。

 

ネプギアと喧嘩別れをしたユニが逃げ込むのは当然、自宅がある教会であり、その教会に、いまや、犯罪組織よりも憎いと言っていい悠理がいれば、どうなるか言うまでもないだろう。

 

「それで、そっちの首尾は?」

 

「《宝玉》と《血晶》を要求された」

 

「はぁ!? どっちも希少価値が高すぎて市場にすら出回らない超レアものじゃない!?

思いっきり、足元みられてるわよ、それ!」

 

情報に対価を要求されるのは予想していたが、その内容の酷さに憤慨するアイエフは、今にも教会に乗り込みそうな勢い。

 

この話を聞かずに、早とちりする様も、遠坂凛を思わせ、懐かしい気分にさせられる。

 

「落ち着け、俺も価値が分からず、こんな要求を受けてきたりはしない」

 

「あッたり前でしょう! こんな要求、何の妥協もなしに受けてこようものなら、一生、馬車馬のように働かせるわよ!」

 

優雅の欠片もなく、地団太を踏むアイエフに、倫敦で過ごした日々を思い出し、苦笑した。

 

世界を超えても未練を残せるほどに、強い想いは、一つではなかったのだと。

 

「両方ともに手に入る場所は聞きだしてきた。

プラネテューヌとラステイション、二手に分かれるのがベストだが、先の一件もある。

今の彼女ならば、下っ端が何人集まろうと問題ないだろうが、幹部クラスが来るとなると話は別だ」

 

ネプギアを含めると女神五人を打ち破った死神(マジック・ザ・ハード)こそ、復帰はしていないだろうが、本拠地であるギョウカイ墓場の番人である狂刃(ジャッチ・ザ・ハード)を抜いても、残り二人。

 

信仰(シェア)も回復しきってない内に、戦闘になるには危険すぎる相手だ。

 

「でも、時間がないことも確かよ。

多少の危険は承知でも、二手に分かれるべき、私はそう思うわ」

 

「――――――――了解した、なら、俺がラステイションの方を片付けよう。

君たちは、プラネテューヌの方へ向かってくれ」

 

少なくとも、ラステイションに悠理たちがいる事は割れている。

 

さらに、女神候補生が二人もいるとなれば、何かしらの手を打ってくる可能性が高い。

 

ならば、意識が薄いプラネテューヌなら、イストワールの手もあり、安牌である可能性は高い。

 

「分かった、でも、あんたも気を付けなさいよ。

今の犯罪組織が、一番目を付けてるのはあんたなんだから」

 

「心配するな、倒すならともかく、逃げるだけならば、四天王が二人相手でも可能だ」

 

悠理の能力である観測者の書(アーカイブ)、その最も恐ろしいところは、燃料である魔力を必要としないところだ。

 

だが、それと同等の脅威となる点は、反射ではなく再現という点だ。

 

相手が仕掛けた攻撃を反射するだけという単発ではなく、一度見てしまえば、何度でも使える。

 

それは、追い詰められた死神が放った全力の攻撃も例外ではない。

 

地形すら変えうる攻撃を、際限なく放つことが出来る悠理に、単純な火力押しはもはや通用しない。

 

もっとも、純然たる身体能力の差は、未だに脅威と言わざるを得ない。

 

少なくとも、死神と勇者(ブレイブ・ザ・ハード)の両名から、接近戦を挑まれれば、敗北は必須だ。

 

「―――――ホント、強いわね、あんたは……」

 

不意打ちとはいえ、下っ端の一撃で沈んでしまったことを、負い目に感じているアイエフの表情に影が差す。

 

悠理ならば、不意打ちにすら対応して、逆に投げ飛ばすくらいは容易に出来ていただろう。

 

悔しい想いはある、無力感も感じている、だが、アイエフはネプギアやユニように、落ち込んでやるほど可愛い性格はしていない。

 

やるべきことが見えているのなら、行動に移すのみ。

 

「――――――――だから、私を鍛えて欲しい。

人間だからって、女神に甘える理由は、あんたが否定してくれた。

でも、今の私じゃ、あの子を助けるどころか、足手纏いにしかならない。

だから、お願い、私を、四天王だってぶっ飛ばせるくらい強くして」

 

覚悟なんて今更問うまでもない。

 

そんなもの、プラネテューヌで悠理に同行すると決めたときに決まっている。

 

女神に劣る人間が、女神を超えようとするのなら、地獄を見ることになると知って尚、決めているのなら、悠理が言うことは何もない。

 

「悪いが、俺は人に教えを授けられるほど、器用じゃない。

だが、その心意気には応えよう。

構えろ、アイエフ、実践に勝る訓練はない、これから徹底的にお前を打ちのめす。

修羅場の中で、掴み取って見せろ」

 

「―――――上等!」

 

叩きつけられる殺気をものともせず、悠理へと飛び掛かるアイエフ。

 

それから数時間、夜の郊外に剣戟が響き渡り、飛び散る火花が刹那の灯となる。

 

悠理が手にする武器は、訓練を始めてから数時間で十回は変わっている。

 

双剣に始まり、片手剣、槍、弓、戦斧、鎌、ナイフ、銃に至るまで、ありとあらゆる武器を使いこなす悠理に、アイエフはただの一度も傷をつけることは敵わず、体力切れで地面に突っ伏す。

 

致命傷こそ無いように加減はされているものの、切り傷や痣は数えたらきりがない。

 

左腕は、装備していたカタールごとへし折られ、痛みの余り気を失うこともできない。

 

女、相手だからと言って、情け容赦のない傷に、いっそ笑えてくる始末だ。

 

だが、それは、悠理がアイエフを認めている証拠であり、女だからと言って加減しようものなら、怒鳴り散らしていただろう。

 

―――――――――――これでいい、簡単に強くなれるなんて思ってない。

 

女神よりも強い悠理でさえ、その体にはいくつもの傷が刻まれている。

 

きっと、アイエフでは想像もできない修羅場をくぐってきたのだ。

 

泣き言は言わない、少なくとも、明日の行動に支障が無いように、悠理に治療はしてもらっているのだ。

 

―――――――――――待ってなさい、ネプ子、必ず、私が助けて見せるから……

 

治療が終わり痛みが引くと同時に疲れが押し寄せ、意識を落すアイエフ。

 

「本当に、あの人そっくりだよ、君は」

 

眠りに就いた小さな体を背負い、寝静まった街を歩く悠理。

 

その表情は、とても穏やかなものだった。

 

少なくとも、影から見ていたネプギアが、勘違いを起こしてしまう程度には。




男女平等を掲げる悠理ですが、流石に女の子の腕をへし折るのはやり過ぎだと思います。

ちなみに治癒術は、ネプギアが使っていたのを見ていたりします。

アイエフ強化フラグが立ちましたが、急に強くなったりはしません。

出来たとしても、宝具装備くらいです。

さて、ラステイション編も次回でクライマックス……になったらいいですね。

ではまた次回、さようなら。
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