「――――――こっちが、当たりだったか……?」
手に持った《血晶》に目をやり、ぽつりとつぶやく。
これと言った妨害もなく、モンスター自体の脅威も低い。
宝具であり、愛用の武器でもある、干将・莫耶こそ投影したものの、その他の武器は矢の一本さえ投影することなく、あまりにもあっさりと任務を完遂してしまった。
これならば、ネプギア達に任せるべきだったかと思いはするが、それも後の祭り。
プラネテューヌにて《宝玉》を無事手に入れていることを願い、ラステイションへと続く帰路を歩く。
だが、その先に見えた影に、足を止めた。
「――――――なんで、あんたがここにいるのよ……!」
怒りを孕んだ視線を向けるのは、ラステイションの女神候補生である、ユニ。
怒気を超えて殺意にすら昇華した敵意を、隠すことなく悠理へと叩きつける様は、疑問形ではあれこそ、話し合う気は一切ないと言外に語っていた。
―――――――――やはり、俺がこっちで正解だったな……恨むぞ、神宮寺……
このタイミングで、この場所を訪れたということは目的は同じ。
そこに、ユニを誘導したということは、《血晶》以外にも目的があるのだろう。
そして、その目的も、今のユニを見れば簡単に推測できてしまう。
「単純な話だ、君がここを訪れる理由があったように、俺にも理由があった。
そして、おそらく、その目的は同じだろう」
懐から取り出した《血晶》をユニに見え付けると、分かりやすい程に、殺意が増す。
「―――――――どうして……私が、私がいるのに……!」
その怒りも尤もだろう。
神宮寺から頼まれてこの場所へ来たというのに、その場所には既に悠理が目的の物を手に入れていたのだ。
ユニから見れば、ユニの実力が信じられず、悠理へと依頼したと解釈しても不思議ではない。
それも、悠理に対して劣等感を感じていることを鑑みれば、この状況は故意的に作ったと推測される。
実際、その推測は間違ってはおらず、全てはこの状況を仕組んだ、神宮寺の思惑通りに進んでいた。
「それを渡しなさい、渡さないって言うなら、力づくで奪わせてもらうわ!」
プロセッサーユニットを装着し女神の姿になったユニは、銃口を悠理へと向ける。
その的外れな敵意に溜息をついた。
「君こそ、怪我をしたくなければ、そこをどけ」
交渉は決裂、その言葉を待っていたとばかりに、引き金を引く。
迫る魔弾は、悠理の頭と心臓への二連射。
手加減など一切ない、純粋な殺意の塊が悠理へと迫る。
「忠告はしたぞ」
その魔弾を最低限の動きで回避すると、銃口へと向かって駆ける。
逃げも隠れもすることが出来ない広場で、銃口へ向かい走る悠理の行動は愚かとしか言いようがない。
距離が縮まれば、当然、着弾までの時間も縮まり、威力を残したまま着弾すれば、人間の体など簡単に吹き飛ばす。
そして、その魔弾は、ユニの力が尽きるまで連射可能であり、三秒の間に、引き金は裕に十は引かれいてる。
「――――――くっ、どうして、当たらないのよ!」
だが、距離を縮めようと、何度撃とうと、その魔弾は一発たりとも悠理に当たることはない。
ネプギアが見せたように、回避不可能な
悠理は無手のまま、確実に、ユニとの距離を詰めていく。
行く手を阻む魔弾をものともせず、ただ真直ぐに標的を捕えるその瞳は、ユニに大きな恐怖を与える。
その恐怖に従うがまま、とにかく距離を取るために、威力重視のライフル弾から、手数重視の散弾へと変化させるが、目を離した一瞬の間、瞬きよりも短い刹那に、悠理はユニの視界から消えていた。
「――――――――ッ、どこに……」
悠理を探すために首を動かした途端、ユニの視点は宙を舞っていた。
遅れて訪れる、腹部からの鈍痛に、ようやく、蹴り上げられたのだと理解した途端、次は、地面に叩きつけられ、肺の酸素を全て失い、激痛と酸欠に喘ぐ。
「何もかも中途半端だな」
腕を組み、静かに見下ろす悠理は、ユニをそう評した。
「精度は及第点だが、固定砲台にしては、威力も、連射性も足りん。
狙撃手に必要な、相手を追い詰める手管もなければ、追い詰められた時の判断などお粗末すぎる。
何より、感情で引き金を引くなどもってのほかだ」
狙撃手としての一面も持つ悠理にしてみれば、ユニの技術などお遊び程度にしか映らない。
ただ動く的を追って引き金を引いているだけなら、銃口の向きにさえ気を付けていれば、躱すのは容易い。
ぐうの音も出ない、正しすぎる指摘に、何一つ言い訳すら出てこない。
そもそも、思いついたとしても、酸欠で咳き込む、ユニに言葉を発することなど不可能であり、ここまで明確な力の差を見せつけられ、碌に思考すらできていない。
「その程度の力と意志で、戦いに臨むなど、殺してくれと言っているようなものだ。
女神だからと自惚れるな、お前が抱いている劣等感など、誰もが抱く心の弱さだ。
お前は、生まれこそ特別だろうが、それ以外はただの小娘でしかない」
優秀な姉と比べられる、それは確かに居心地の悪い想いを強いるだろう。
だが、それは決して特別なわけではないのだ。
同じような窮屈な思いをしている人間なんて、世には五万といるだろう。
そして、悠理の言うとおり、ユニは生まれこそ女神という立場で特別だろうが、始点が人間より上にあるだけで、時間がたてば、周囲に埋没してしまう程度の実力でしかない。
「ましてや、その劣等感に支配され、俺に銃口を定めることもできないなど論外。
己が強くなくては我慢ならないというのなら、一生、殻に閉じこもって座っていろ」
的外れの殺意とは、結局、悠理に向けている筈の銃口は、悠理ではなく、自分より優れた相手に対する嫉妬で固められた偶像に向けられていたのだ。
だからこそ、悠理は剣すら抜かなかった。
ユニが戦っているのは悠理ではなく、自分が生み出した影。
悠理に向かってくるのは、ただの流れ弾。
直接向かってくる銃弾ならまだしも、流れ弾が偶然頬をかすめたところで、一々戦意を持って相手にする程、悠理も暇ではない。
相手にもされず、一方的に無力化されたユニは、悠理の言葉に立ち上がる気力もなくし、倒れ込んだまま。
そんなユニを、見限り、立ち去っていく悠理。
言い止めることもできないその背中を、ユニは、滲んだ視界で見送ることしかできなかった。
ユニちゃん、フルボッコの巻でした。
色々展開を考えてみましたが、根強い劣等感に苛まれるユニを立ち直らせるには、一度、特別であるという認識を打ち砕く必要があると思い、悠理に出あってもらいました。
ラステイション編も残り3話くらい。
速いところ女神救出編に行きたい所ですね。
ではまた次回、さようなら。