戦場の跡地である草の根も生えない荒野で、遠坂凛は、過去の戦友である衛宮士郎の跡継ぎと対峙していた。
魔術教会から齎された、神秘の秘匿を護らない魔術師を始末する為に送られた刺客。
しかし、遠坂凛は魔術師ではあれど戦士ではない。
そんな彼女がなぜ、執行者として選ばれたか、それは、代々継がれる「エミヤ」という名に起因したいた。
魔術師殺しの忌み名で呼ばれる、その一族は、元来、根源という極点を目指すために練磨する魔術を、道具のように使い、魔術師には鬼門である現代兵器を併用して戦う殺戮者。
過去三代に渡り、多くの魔術師が「エミヤ」によって命を落し、多くの執行者が返り討ちにあってきた。
そこで招聘されたのが、二代目と三代目「エミヤ」と親交があり手の内を知っている遠坂凛が選ばれた。
無論、遠坂凛は、その命令を突っぱねることもできたのだ。
繰り返すが遠坂凛は、魔術師であり戦士ではない。
過去、聖杯戦争という英雄たちの殺し合いという極限の修羅場を潜り抜けてきた彼女であれど、くぐってきた修羅場の数が違い過ぎる。
何より、彼女も例にもれず、現代の兵器を使われ、影から狙われればいとも簡単に命を落すだろう。
しかし、それでも、彼女はその命令に従った。
日に焼けた浅黒い肌、鷹のような鋭い目に白く染まった髪。
紅い外套を纏ったその姿は、聖杯戦争で従えた紅き弓兵の生き写しだ。
だからこそ、彼女は、衛宮悠理を見ておきたかったのだ。
――――――――――――見なさいアーチャー、士郎はあんたを超えたわよ
理想に裏切られ絶望した英雄がいた。
炎に包まれた剣の丘、正義という秩序を守る守護者という機械を現していた歯車。
その生涯を謳った、剣の丘を顕現させる呪文
I am the bone of my sword.
――― 体は剣で出来ている
Steel is my body, and fire is my blood.
血潮は鉄で、心は硝子
I have created over a thousand blades.
幾たびの戦場を越えて不敗
Unknown to Death.
ただの一度も敗走はなく
Nor known to Life.
ただの一度も理解されない
Have withstood pain to create many weapons.
彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う
Yet, those hands will never hold anything.
故に、その生涯に意味はなく
So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.
その体は、きっと剣で出来ていた
顕現した剣の丘で、そんな英雄を認めないと、真っ向から対峙した大馬鹿者がいた。
己の理想が決して叶うはずのないものだと知って、それでも、その理想は間違いではないと、言い張った。
そして、その結末は紅き弓兵と同じ、裏切りの末の死だ。
しかし、その生涯の結末は同じであれ、違うものもあった。
――――――――――見なさいアーチャー、あれが士郎が残したものよ
最後の最後まで理想を貫き通したその背中は、たった一人の少年の心に火を灯したのだ。
誰もが救われる世界なんて存在しない、多くを救うために小数を切り捨てる世界と知って尚、挑み続けた、その理想は、たった一人の少年であれど、憧憬を抱き、理解を示したのだ。
衛宮士郎は、誰にも理解されず、孤独で戦い続けた英雄とは違う、その理想を分かち合い導いた先駆者となった。
ならば、衛宮士郎が後悔することなんてない。
今はたった一人であれど、その理想を分かち合う人間は増えるかもしれない。
その輪が広がれば理想は果たされるかもしれない。
無論、そんなことはないのだろう。
しかし、その切っ掛けを、可能性の一端を示した衛宮士郎は、英雄エミヤを確かに超えた。
だからこそ、衛宮士郎を最後まで救うことが出来なかった彼女は、その灯を消させない。
その為に、この場所へ来たのだから。