剣の丘を目指す者   作:未来

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変わらぬ想い

ラステイションから大きく離れた廃工場。

 

そこに、悠理、ネプギア、ユニの三人が各々武器を構え対峙していた。

 

「怪我をする前に、手を引くことをお勧めするが?」

 

決死の覚悟を持ち、悠理の前に立つ二人だが、悠理にとってはこの戦いに何の意味もないのだ。

 

既に覚悟を示したネプギアと、既に見限ったユニ。

 

そもそも、悠理が《エミヤ》として戦うには、覚悟を示したネプギアでさえ未熟すぎる。

 

「例え、ユーリさんに意味がないことでも、私たちには大切なことなんです」

 

静かに闘志を燃やし、女神の姿になり、悠理に武器を向ける。

 

ネプギアにとって、超える壁である悠理に、護られる存在ではなく、対等に並び立つ存在だと示すため、この戦いは避けて通れないもの。

 

「成程な……さて、君は、昨日手酷くやられたことを、もう忘れたか?」

 

強い覚悟を秘めた言葉に、説得は無理だと悟るが、対峙するもう一人の女神に視線を向ける。

 

確かに心を折ったはずのユニが、この場に参戦した事は称賛に値する。

 

だが、ネプギアとは違い、どんな試練でさえ乗り越えて見せるという気概が見えない。

 

「―――――――忘れてなんかないわよ。

アンタの言ったことは全部正しい、今のアタシじゃ、アンタには勝てない。

でも、アタシが強くなるために、逃げるわけにはいかないのよ!」

 

強く啖呵を切り、女神の姿へと変化する。

 

巨大な銃を構え、その銃口を、自らが作りだした偶像ではなく、悠理へと向けた。

 

「―――――――いいだろう、その覚悟、俺が試してやる」

 

向けられる覚悟を、受け止めるのは揺るぎのない意志。

 

正義の味方になる、その理想を貫き通した、人類の一つの極点である衛宮士郎。

 

あの背中に追いつくまで、剣の丘へと立つまで、悠理は負けるわけにはいかない。

 

―――――――――――I am the bone of my sword(体は剣で出来ている).

 

「―――――――来い」

 

その言葉と共に打ち出される、全力の魔弾。

 

全力を賭して尚敵わない相手に、様子見なんて力の無駄遣いだ。

 

最初から、全力全開、後の事を一切考えず、持てる力の全てを魔弾に込める。

 

だが、一息で五つ引いた引き金は、その悉くは当たらない。

 

それを織り込んだ上での、魔弾に追従したネプギアが、悠理へと斬りかかる。

 

「やぁぁぁああああああッ!」

 

技術で敵わないのは分かりきっている。

 

ならば、初撃必殺を念頭に、ユニの援護を受け、先の戦いでは、双剣を吹き飛ばした、推進力を載せた全力の一閃。

 

この一撃を基点に、悠理を追い詰める手はず――――――――――――――だった

 

「随分、甘く見られたものだな。

俺に、その程度の奇襲が二度も通じると思っているのか?」

 

右手に持った干将が、横凪に振るわれるM.P.B.L(マルチプルビームランチャー)の腹を打った。

 

完全に一致した力の方向(ベクトル)は、確かに悠理の膂力を超えるものだろう。

 

だが、それ故に、下から加えられた力は、いとも容易く剣閃の方向を変え、悠理の頭上へとずらされる。

 

空を切る必殺の一閃、それが一歩動くことなく処理され、全力で振るったネプギアは返しの太刀を振るうことが出来ない。

 

そして、逆手に持った莫耶が、隙だらけのネプギアの腹部を打った。

 

「――――――――――――ぁぐっ!?」

 

ゴキリと、強靭であるはずの女神の体を容易く砕き、痛みに停止した体は、続く一蹴に対応できず、抵抗することもできず、吹き飛ばされる。

 

酸欠に苦しむ肺を、呼吸を止めることで強引にねじ伏せ、空中で体勢を立て直し、追撃に備えるネプギアだが、待ち構えていた追撃はなかった。

 

無言で佇む悠理は、これは戦いではなく、ただの試練だと、言外に語る。

 

その事実に、ネプギアは、歯を食いしばり、呼吸を整えた。

 

「――――――ネプギア、大丈夫!?」

 

「――――――っ、うん、まだ、戦えるよ……!」

 

苦しげに武器を構えるネプギアは、未だ戦意を失ってはいないが、ユニは、そう簡単に割り切ることが出来ない。

 

悠理が強いことは知っていたし、身に染みて思い知らされたこともあった。

 

勝てないことも承知の上で、それでも、強くなるために戦うと、ネプギアの手を取った。

 

だが、自身が作りだした偶像ではなく、悠理に銃口を向ける恐怖に心が折れそうになる。

 

昨日までは、嫉妬に駆られたかこそ、悠理の強さなんて関係なく、銃口を向けることが出来た。

 

だが今は、明確に敵対しているのだ。

 

未だ底を見せるどころか、一歩も動くことなく、女神二人を圧倒した悠理に。

 

―――――――――――負ける、また何もできずに負ける……

 

「―――――――ッ、あああああああああッ!」

 

「―――――――ユニちゃん!?」

 

「―――――――ほぅ……」

 

突然叫び声を上げ取った行動に、驚きと感嘆の声が上がる。

 

当人であるユニの太ももから足に向かって、血が溢れ、走る激痛に顔をしかめる。

 

力の入らない脚は、体を支えることが出来ず、膝をついた。

 

「どうしたの、ユニちゃん!?」

 

「いいの、ネプギア。

これは、アタシなりのけじめだから」

 

ネプギアの手を借りることなく、自ら撃ち抜いた、痛む脚で無理矢理立ち上がる。

 

それは、何もできずに、怯えている自分への決別。

 

姉が優れているから、悠理が強いから、そんな理由で、殻に引き籠っている自分から抜け出すために。

 

負けたくないじゃない、そんな気弱な心なんていらない。

 

―――――――――――勝ちたい、ネプギアにもあいつにも、お姉ちゃんにだって!

 

「まだまだ、これからよ!

たった一回防いだだけで、勝った気になってるんじゃないでしょうね!」

 

「―――――――いいだろう、口先だけでないことを証明して見せろ」

 

「行くわよ、ネプギア!」

 

「―――――――うん!」

 

二人とも軽くはない怪我を折っている。

 

ネプギアは、肋骨の数本を折られ、ユニは、片足を打ち抜いて立つことがやっと。

 

しかし、その動きは、遥かに向上していた。

 

「負けません! 私たちが勝つんです!」

 

三次元の動きを可能とするネプギアに、悠理の背後を取ることは容易い。

 

悠理の頭上を飛び越え、ユニと挟撃を仕掛ける。

 

舞い散る火花と、響き渡る金属音。

 

圧倒的な技術の差に押されそうになったところを、フォローするように魔弾が悠理の背後から迫り、一進一退の攻防が続く。

 

―――――――やっぱり、ユニちゃんは凄いな

 

勝てるはずがない、せめて一矢報いる、そう思って、戦いに臨んだことがそもそもの間違い。

 

そんな弱い気持ちで、強固な意志で佇む悠理に太刀打ちできるはずがないのだ。

 

―――――――負けたくないじゃない、勝ちたい!

 

ネプギアが抱く想い、その原初風景である剣の丘。

 

そこへ向かう悠理を連れ戻すには、悠理に勝ち、越えなければならないのだから。

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)―――――――――――!」

 

凝縮する光は、受けることすら許さない光熱剣(プラズマブレード)

 

全てを焼き切る滅光は、宝具である夫婦剣すらも融解する。

 

「――――同調(トレース)開始(オン)

 

―――――――――だが、それすらも、悠理には届かない。

 

百戦錬磨の悠理が、防御不可能の攻撃に対峙したことがないはずがないのだ。

 

防御不可能の光熱剣は、耐熱性を大幅に強化された干将によって受け止める。

 

それでも対抗できるのは一瞬、しかし、その一瞬さえ、受けきれば空いた莫耶が、M.P.B.Lの柄を打ち抜き、その勢いのまま回し蹴りが、ネプギアを吹き飛ばした。

 

「―――――ユニちゃん!」

 

しかし、ネプギアとて、光熱剣で悠理を倒せるとは思っていない。

 

防がれる前提だからこそ、蹴られる瞬間に後ろへ跳び、衝撃を殺すと同時に、その効果範囲から離脱した。

 

「吹き飛びなさい! エクスマルチブラスター!」

 

その攻防の間に充填(チャージ)していた魔力(エネルギー)が極大の光線として打ち出された。

 

前方からは極大の光線、後方には既に体制を整えたネプギアが構えている。

 

「――――――――――――――ッ!」

 

三段構えの策略は、死神ですら間接的にしかダメージを与えられなかった悠理へと届いた。

 

最大出力の光線が、悠理を呑み込み、廃坑は再起不能になるまで瓦解していく。

 

幾つもの柱を粉砕された廃工場は、天井が崩れ、土埃が舞上がり、瓦礫となった廃工場を宙から見下ろすネプギアとユニは――――――――――――――――――――――これまでにない緊張感に体を強張らせていた。

 

「―――――――――前言を撤回しよう。

試すなどと言って悪かったな、ここからは、《エミヤ》として相手をしよう」

 

人の身で、女神の全力の攻撃を受けた悠理の体は、防御したとはいえネプギアとユニ以上のダメージを負っている。

 

来ている服は焼き千切れ、瓦礫に巻き込まれた頭部からは血も流れている。

 

だが、その鋭い眼光は以前にもまして強く、叩きつけられる殺気は、空気を凍らせる。

 

「―――――――征くぞ」

 

その閃光に反応できたのは奇跡と言ってもいい程だった。

 

一拍、その一拍に於いて射出された(つるぎ)の数は二十。

 

奇跡的に反応できたネプギアは、ユニを庇いながらも、矢を叩き落とすが、圧倒的に手数が足りず、致命傷に至るものだけを叩き落とす。

 

「―――――――ネプギア!」

 

「―――――――っう……大丈夫……ユニちゃん、もう一度行くよ」

 

致命傷こそ避けたものの、追った傷は多く、長くは戦えない。

 

ならば、持てる力の全てを掛け、短期決戦しかない。

 

―――――――――なにより、この距離(レンジ)はまずい!

 

速度・威力・連射性、その全てにおいてネプギアとユニを上回っており、恐ろしいことに、ネプギアが持つ、勝利すべき黄金の剣のような、宝具を一切使用していない。

 

ネプギアとユニは命がけで挑んでいるが、殺し合いをしているわけではないのだから当然と言えば当然。

 

だが、悠理の本領は中距離(ミドルレンジ)から長距離(ロングレンジ)における、宝具の掃射と言える。

 

魔法の一端に手が届いた遠坂凛でさえ、異端中の異端と言わしめる、衛宮士郎の固有結界。

 

その唯一の欠点が、燃費の悪さと言えるだろう。

 

剣に分類されるものなら、低コストで投影できる衛宮士郎でさえ、愛用していた、干将・莫耶以外の宝具の投影は何度もできず、固有結界も長時間展開することはできない。

 

しかし、悠理が持つ観測者の書(アーカイブ)はその欠点を克服する。

 

再現だからこそ、衛宮士郎が不可能だった神造兵器に分類される宝具こそ投影できないが、それ以外の宝具ならば無制限に投影し放つことが出来るのだ。

 

宝具の一つである、勝利すべき黄金の剣を持つネプギアだからこそ、その脅威が如何に強大なものか分かるが故に、少なくともネプギアは悠理に短距離(ショートレンジ)で挑まざるを得ない。

 

飛来する剣群を、ユニのフォローを受け、突き進む。

 

かつて戦った、犯罪組織が持ち出した兵器であるイプシロン、その時と同じ状況ともいえるが、撃墜されていないこの状況が如何に奇跡的で、犯罪組織の評価が如何に的外れか身に染みる。

 

「やぁぁぁああああああッ!」

 

幾つもの傷を負い、迫りくる剣群を切り抜け、推進力と重力の全てを剣に乗せ、悠理へと叩き込む。

 

その一撃は、悠理の足場が陥没するほどの威力――――――――――だが、その一撃を悠理は片腕で受け止めていた。

 

「身体能力の拡張、それが女神(きみたち)だけの特権だと思ったか?」

 

第一級封印指定執行者、バゼット・フラガ・マクレミッツから盗んだ、ルーン魔術による身体強化。

 

大地すら砕くその強靭な身体能力は、女神にすら並び、未熟なネプギア達であれば優に凌駕する。

 

唯一の優位点(アドバンテージ)、それすらなくなったネプギアに、悠理の剣戟を防ぐ術はない。

 

苛烈を極める攻撃的な剣戟に、撤退を余儀なくされるネプギアを狙い定める黒塗りの弓。

 

「やらせない―――――――!」

 

ネプギアをフォローする為、悠理の攻撃を妨害しようと、銃を構えるユニだが、悠理は視線一つ動かさず呟いた。

 

「狙撃手なら視点を広く取っておけと、習わなかったか?」

 

「―――――――――いつの間に……!」

 

弓に持ち替えた瞬間に投擲した、夫婦剣が、ユニを挟撃するように迫る。

 

ならば、撃ち落とすと、銃口の向きを変えるが、気付くのが遅すぎた。

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 

自己崩壊する夫婦剣の爆発に巻き込まれ、撃墜されるユニ。

 

「ユニちゃん!」

 

「余所見をしている暇はないぞ」

 

目を取られていた一瞬の隙に、眼前に迫った矢。

 

―――――――――これが、ユーリさんの本当の力……!

 

ユニと同じく、自己崩壊する神秘の爆発に巻き込まれ撃墜する傍らに、死神を打倒した英雄、自らが定めたその壁の高さを、本当の意味を初めて理解した。

 

これまでが如何に手を抜かれていたのか、今でさえ殺さないように手加減されているような有様で、本当に超えること出来るのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しやり過ぎたか……」

 

廃墟に一人立つ悠理はポツリ呟いた。

 

殺さないように手加減したとはいえ、大怪我は避けられないだろう。

 

女神の回復能力ならば、数日のうちに回復するだろうが、それは数日間の足止めを意味する。

 

時間が無い中、数日の足止めは痛い。

 

だが、少なくとも、神宮寺の思惑である、ユニの成長には一役買ったことは間違いない。

 

ならば、少なくともマイナスではないと一人納得し、気を失っているであろう二人の回収に向かおうとした、その時、紫色の影が迫った。

 

「―――――――――なっ!?」

 

飛び散る火花、響き渡る剣戟、その相手は黄金の剣を手にしたネプギア。

 

息は絶え絶え、体は傷だらけ、意識を保っていることでさえ奇跡であり、当然女神の姿など、とうに解けている。

 

だというのに、ルーン魔術によって強化された悠理が、押し返せないでいる。

 

「―――――――ってる……!」

 

「なに……?」

 

「――――――――貴方は、間違ってる!」

 

悠理が強いことは分かった。

 

その背中がどれだけ遠いものなのか、今のネプギアには測ることさえできない。

 

だが、最後の最後まで自分にだけは負けることはなく、悠理へ挑むことだけは止めなかった。

 

悠理にさえ劣らない強い意志を秘めた瞳で、宣戦布告の言葉を告げた。

 

悠理が抱くその理想を叩き潰し、連れ戻して見せると。

 

最後の力を使い果たしたネプギアは、気を失い悠理へと倒れ込む。

 

その小さな体を抱き留めた悠理は、変わらない赤銅の瞳で遠くを見据えた。

 

「間違ってるか……それがどうした。

そんなこと、最初から分かっているさ」

 

ネプギアの決死の想いも、悠理には届かない。

 

悠理の原初の想い、その強固な想いが、出会って数日しか経っていないネプギアの言葉如きで、揺るがせるはずがないのだから。

 

 




ゲイムギョウ界に魔術師はいないんだから、魔術基盤の独占で投影魔術も地球より強化されるんじゃないのかと、そんな深い突っ込みをする人はいないと思いますが、あくまで再現の為、環境には依存されません。

その為、神造兵器で無双するなんてことはできないわけですが、絶世の名剣(デュランダル)とか偽・螺旋剣(カラドボルグ)の無制限投影でも十分反則な悠理さん。

とりあえず決闘も終わったことなので、次回で、ラステイション編も終了。

閑話をちょっと挟んでから、ルウィー編です。

あの双子をどうやって絡ませるか、悩みの種は尽きませんね……
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